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第11回アヒルと鴨のコインロッカー

伊坂幸太郎という作家を私は知らなかった。

私の手に入る小説といえば、日本にいる相方が読み厭きた本、
たとえば前回の東野圭吾や嵌っていたらしい横山秀夫、ややマニアックな桐野夏生など。
最近、本を読まなくなったのか、私のことを忘れてしまったのか、何も送って来なくなった。
その代わり第9回「還暦」に登場した、後輩の山内譲治君から毎月10枚ほどDVDが送られてくる。それがもう一年以上も前から…、だから私の部屋は日本の映画がいっぱい…なのだ。

その伊坂幸太郎の原作の映画化「アヒルと鴨のコインロッカー」「フィッシュ・ストーリー」「陽気なギャングが地球を回す」「重力ピエロ」の4本が手元にある。原作を読んだことがないから本に対する批評は書けないが、映画の内容はそれぞれ個性があって面白い。


中村義洋監督とのコンビ一作目「アヒルと鴨のコインロッカー」(瑛太、浜田岳、松田龍平)。
「アヒルと鴨。どこが違うの?」ブータン人の留学生にそう聞かれる。
「うーん、見た目は同じだけど鴨は前からここにいて、アヒルは後からやってきた。」
「ふーん、だったら、僕達と一緒だね。」
ボブ・ディランの「風に吹かれて」が全編に流れて…切ない映画でもある。
コンビ二作目「フィッシュ・ストーリー」1970年代に作られた一枚のレコード「逆鱗」。
その中の「フィッシュ・ストーリー」という曲が2012年、地球を救う…という壮大な話だから、説明が面倒。
さて、この映画の主役は?「逆鱗」のリーダー(伊藤淳史)かボーカル(高良健吾)か?それとも、気の弱い大学生(浜田岳)。

それから20数年後、シージャックに遭う船のシェフ(森山未来)か居眠りして取り残された修学旅行中の高校生(多部未華子)?そして2012年地球最後の日なのに店を開けているレコード店の店長(大森南朋)…主役は分からないけど、見ればわかる!的な映画。
お勧めの2作品「アヒル」と「フィッシュ」。

甲乙付けがたいが私的には「ほら話(フィッシュ・ストーリ)」のほうが好き。


「陽気なギャングが地球を回す」は大沢たかお、佐藤浩市、鈴木京香、松田翔太と豪華な出演者たち。
監督は前田哲(「ブタがいた教室」)。
どちらかというと「フィッシュ系」でテンポのよい話の展開になっている。
「重力ピエロ」加瀬亮、岡田将生。監督は森淳一(「Laundry」)。
こちらは切ない「アヒル系」と、適当に分類してしまった。

で、伊坂幸太郎に興味を持ったので、帰国した時に彼の本を何冊か買ってこようと思ったのだが、すっかり忘れてしまった。
いや、忘れたんじゃない。
帰る3日前くらいから風邪をひいてそれどころじゃなかったんだ。
メルボルンに帰ってきても2週間ほど寝込んで店を休んだくらいだから。

あー、思い出した。
そうだ、そうだ。
それで、ずーっと映画を観てたんだ。

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第10回「秘密」

酒を飲んでいる時など、みんなに「秘密」と「内緒」の違いを聞く。
当然、答えは出なくても良い。
むしろ、出ない方が面白い。人それぞれ「秘密」と「内緒」の境目を考える。ある出来事が起きた。
それはその人にとって「秘密」にしなければならないことか、「内緒」で済むことなのか…。

東野圭吾という作家がいる。
彼の本を読むたびに驚かされる。
いろんなパターンの本を書いていて、それがみんな読み応えがあり、感心させられる内容で、しかも面白い。
この人は天才だと思う。
彼の本の一冊に「秘密」というのがある。
読み終わって「えーっ、何これ?こんなことって…」と叫ばずにはいられない焦燥感をもった。
そこで周りの人に、この本の感想を聞いてみた。
不思議なことに、感想が人それぞれなのである。
老若男女によって差があるのである。
同じ内容の本を読んでいて読後感が異なると言う不思議な本である。
「秘密」とは人それぞれが持つイメージが違うと言うことなのだろう。

さて、本のあらすじである…。
妻と娘が帰省バスに乗っていて事故に遭う。娘は一命を取りとめるが妻は死んでしまう。
ところが娘の身体に妻の魂が棲んでしまう、という話である。
父親と娘の身体を持った妻との生活がはじまる…。
ここでどちらに感情移入をするかで本の読み方が変わってくるのだと思う。
当然、私は同じ立場として父親の主観で本を読み進めていく。
娘の身体を持った妻は2度目の青春を謳歌している。
父親であれば青春を謳歌する娘を喜んで見守ってあげなければならい。

が、しかし、娘は妻である。みんなには「秘密」だが娘は自分の妻なのである。
そこで男としての嫉妬、若さへの嫉妬心が起きても仕方ないじゃないか、という話の展開になっていく。
この父親と娘の身体をもった妻の生活だけでも充分「秘密」っぽい。
これで話が終われば「ああ、なるほどな」ですんで、読後感に激しい焦燥感には襲われない。
当然、これ以上の「秘密」が結末に向かって明らかにされていくのである…。



映画版の「秘密」は本に比べるとサラリとした感触。しかし、あまりに本が強烈だったので、冷静な批評はできないでいる。監督は「おくりびと」の滝田洋二郎。出演は父親を小林薫、母親を岸本加世子、娘を広末涼子が演じている。原作では娘は中学生からだが映画では高校生から始まっている。この年数の違いも微妙に本の密度を失くしている気がする。父親への再婚話などが持ち込まれるのだが、当然、娘(妻)の反対にあう。こういった伏線が大事なんだがなぁと一人つぶやく私である。映画を見てから本を読んだ方がいいかな、多分。私は本を読んで映画を見たから、映画は面白くなかった…勿体無かったな。



東野圭吾原作の映画はあとは「手紙」がある。
玉山鉄二、山田孝之、沢尻えりか。
これはほぼ原作通り。
重いテーマだがよく出来ている。

それと「容疑者Xの献身」
福山雅治、堤真一、松雪泰子。
ガリレオ・シリーズの長編物だが原作は読んでいない。
短編物は原作の方がドラマより数倍面白かった。この映画はそれなりに面白かった。

ガリレオ(福山雅治)より堤真一の存在感の方がはるかに勝っている。

そして、最近、日本から送られてきたのが「レイクサイド・マーダーケース」青山真治監督。
役所広司、豊川悦司、薬師丸ひろ子。これから見る予定。

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第9回「還暦」

2010年。新年早々、私は還暦を迎えた。…60歳ですよ、60。5回目の年男。3回目の成人式…。
私は1950年1月3日生まれ。正月3が日生まれは、誕生日というものを疎かにされる。実際、私は今まで誕生日の1月3日に誕生祝をしてもらったことがない。 
ところが今年は還暦だということで前日の2日の夜8時から、昔の音楽仲間が50人ほど集まって、飲めや歌えの「還暦カウントダウン・ライブパーティ」。今回はこのために日本に帰ったようなものなのだ。

♪明日で僕は60才 いつものように歌っています 

長く伸ばした髪は 雪をかぶったよう

明日で僕は60才 歯のない口で歌っています

あいつは猫など抱いて 隣で居眠り    

日向ぼっこに ギターを弾いて 昔の思い出 歌います

子供達よ 歌ってあげよう 遠い昔の僕の夢物語…

明日で僕は60才 パイプ煙草に薄いコーヒー

日よけの帽子を被り 揺り椅子ゆらゆら

日向ぼっこに ギターを弾いて 昔の思い出 歌います

子供達よ 歌ってあげよう 遠い昔の僕の夢物語…

私が20代の頃に書いた詞である。曲を書いたのは「隣で居眠り」してるはずのあいつ。60になったらバンドを再結成しようと、誓い合ったのに、5年前にさっさと三途の川を渡ってしまった。3日の午前0時、「ハッピー・バースディ」の代わりにこの歌をみんなで大合唱。生涯忘れえぬ誕生日となったのである。

で、「なんで、今頃正月の話をするんだ?」とお思いの方。そうなんです、あれから4ヶ月経過。

その夜、5時間のパーティを2台のカメラに収めて、のべ10時間。おまけに特別編集のインタビューとやらを付け加えて、およそ20時間の映像をPCに取り込んで、編集作業の開始。苦節120日余り、孤軍奮闘の結果、2時間弱に纏められたDVDが届けられた。5年前の「追悼ライブ」に比べると映像も音も鮮明である。そんなことよりも、そこまでこのDVDの編集に打ち込んでくれた彼に感謝の念でいっぱいである。

彼の名前は山内譲治。1970年代の初め、長い人生の中で2年ほど大学時代を一緒に過ごした仲間の一人である。私たちにとってその2年間がいかに価値ある青春時代であったか…プレハブの部室、一軒家の合宿所、そして「照和」。「いい思い出があれば いつでもそこに行ける。いい思い出があれば いつでも会うことができる…。」

その彼のブログとホームページ「老いぼれミュージシャンの呟き2」です。
http://oiboremusician2.cocolog-nifty.com/blog/
http://homepage3.nifty.com/oiboremusician/


<どんたく レストラン>
住所:526 City Road, South Melbourne VIC 3205
TEL: (03) 9696 6794

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第8回 ザ・バトル ラウンド2

 ちょっと前の話になる。いや、ちょっとじゃないな。結構、前の話である…そんなことはどうでもいいか。「あなたのVISAカードは取り消されました。今後使用することが出来ません。これはあなたが支払いをしなかったことが原因です。同封した封筒にあなたのカードを半分に切って返送して下さい。訴訟を避けるためにあなたは上記の金額を速やかにお支払い下さい。云々…」VISAカードを使って半年、はじめて届けられた手紙がこれである。

 「カンタス・テレストラのVISAカードを作りませんか?」と申込書が電話料の請求書と共に送られてきた。この申込書にはご丁寧に私の名前が印字してあって、毎月5000ドルまで使用可能とある。マスターカードだけじゃ淋しかろう、あなたがそこまで言ってくれるならと、その気になった。そうだ!どうせなら、ちょっと成り金っぽく、見栄えがいいゴールドカードにしよう。

「これがゴールドカードだぞ」と見せびらかしたくて11月と12月にこのカードを使った。今回はこれが限度、次は支払いを済ましてから。調子に乗って使うと後が恐いのがカードである。請求書が来るまでは使わないと心に決めた。ところが最後に使った日から一ヶ月経っても請求書が来なかった。まぁオーストラリアではよくある事とほっておいた。ところが二ヶ月経っても、三ヶ月経っても請求書は来ない。内心「これはラッキーかもしれない。」と心密かに喜んでいた。

 4月になってANZから電話がかかってきた。
「ねぇ、なんで払らわんとね?」
「払らわんとじゃなかよ。あんたが請求書ば送ってこんけんやろうが。」
「何んば言いよとね、こっちはちゃんと毎月請求書は送っとうばい」
「うんにゃ、こっちは受け取っとらん!」
と、まぁ博多弁だったらこういう会話になる、判る? 判らんやったらゴメン。

 それでもって結局は住所の記載ミスが判明した。
「でも住所が違っていたら送り返されるはずで、あなたのは返送されていない。」
「そんなことは私の知った事じゃない。ましてこのストリートにはそんな番号はない。(…実際にはあった。)」
送った、受取ってないの水掛け論から「郵便局のせい」だ、と話は展開する。

「それでいつ払う?」
「請求書が来たら、いつでも払う。」
「FAXでもいい?」
「何でもいいから早く送りなさい。」
…うーん、やっぱし、標準語じゃ感情が入らんな。FAXで請求書を送るといいながら、やっぱり、その日は何も送られて来なかった。

 電話から一ヶ月が過ぎた頃、冒頭の手紙が正確な住所に書き換えられて届いた。
「あんたくさ、何ね、この手紙は?」
「金を払わんから、そうなったと。あんたはブラックリストに載るばい。」
「ちょっと待ちよ。一ヶ月前に請求書を送ったら払うと言うたろうが。それに、あんたはすぐにFAXで送ると言うたやないね。」
「請求書が見つからんやったったい。それに銀行に行ってカード番号を言えば支払いは出来るとよ。」
「バカタレ!誰がそこまでして払うね?とにかく請求書がなけりゃ払わんし、まして利息やら絶対払わんもんね、使った分だけやけんね。」
「そりゃ、いかん。請求書が届かんでも利息は払うように規約に書いてあるし…」
「ふーん、そりゃあんた達に都合の良か規約やね。請求書が来んやったら払らわんで良か、と言う規約はないとね?そげな物、見てないし読んでもないけんワシャ知らん。あると言うなら請求書と一緒に送りんしゃい!」
…とまぁ、英語が出来ればこういう感情的な話の展開になったはずである。

 珍しく、その日のうちに請求書が四か月分、まとめてFAXで送られてきた。そのうち最初に使った分の請求書の全額をANZの窓口に行きたくなかったのでチェックで支払った。当然「規約」とやらは送ってこなかったので、加算された利息分は無視することにした。それ以降ANZから正確な私の住所に利息分だけの請求書が毎月送られてくるようになった。私は頑として支払いを拒否し、無視し続けた。そうすると①取立人が来て支払った。②また電話でバトル勃発。③何も言って来なくなり自然消滅した。…好きな結末を選んで想像してください。

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第7回「石を投げればタカに当たる」

 あれ、もしかしたら「ザ・バトル ラウンド2」を期待してました?してませんよね。実は書き始めていたんですけど、書いているうちに当時のことを思い出し、ムカついてくるし…。

 「もしもし、タカです。あのですね…」受話器を取るとタカはいきなり話しを始める。うーん、タカ、タカ、タカ…と、電話の声を聞きながら私は知っているタカの顔を思い浮かべる。タカノ、タカダ、タカハシ、タカヤマ…これは苗字だ。

 考えてみれば彼らは自己紹介のときに「タカです。」としか言わない。だからこちらも「タカ」と言う名前しか知らない。それでいつの間にか、私の周りに「タカ」が溢れ始めた。本人は「タカ」だからいいのだろうけど、いきなり「タカです。」って言われてもなぁ…。どこのどのタカかわからんじゃないか。フルネームなんて聞いてないし、混乱するばかりである。電話の時は「どこそこのタカです。」と身分を証明するものを告知しなさい。

 オージーと付き合うとファースト・ネームで呼び合う。そしてファースト・ネームは彼らによって3文字以内に短縮される。それを日本人社会に持ち込むから、こういうややこしい状況が生まれる。私の場合「イチロウ」だが「イチロー」と3文字に変化してもフルネームのままである。オージーからは「イチロー」と呼ばれても、日本人から「イチロー」と呼び捨てにされることはない。ツトムを「トム」、オサムを「サム」など自然すぎてなんの違和感もない、便利な名前である。ユキトシを「トシ」と呼ばせる奴がいる。無理がある。ユキトシはやはり「ユキ」だろう。

 レストランに居ると日本人の客から「マスター」と呼ばれる。レストラン、マスター…ときたら「失恋レストラン」である。♪ねぇ、マスター。ねぇ、マスター…また古い歌を思い出してしまった。それで「ねぇ、マスター」なんて呼ばれると柄じゃないから返事に困る。困るから返事をしない…わけにはいかない。バイトに来ていた“ラクロスのタカ”から「なんて呼んだらいいんですか?」と聞かれ、咄嗟に「大将と呼べ」と言ってしまった。それ以来、私は店では「大将」である。博多では洒落た喫茶店やレストラン以外の飲食店では「大将」と呼ぶ。「はいはい、あんたが大将、大将ね」と「海援隊」が歌っているように、人を小馬鹿にするような時にも使うことが出来る便利な呼び方なのである。

 「…と言うわけで、…と思ってるんですけど。…あれ?もしもし、聞いてますか?」聞いているんだけど未だにどのタカなのか判明しないので返事に困っている。素直に「どこのタカだ?」と聞けばいいのに考えているうちに結構しゃべらせてしまった。今更「お前は誰だ?」と聞きづらくなった。話の内容からあのタカだと思うのだけれど確証がない…。

「あれ?もしかしたら…。すみません、そちらは…」
あまりの私の反応のなさに不安になったのか、タカはそう尋ねてきた。

「俺?俺はタカだけど。」
「なんだ、よかった。違うタカさんかと思いましたよ。」
「違うタカさんって?どのタカと話してるつもりだった?」
「どのタカって…?“タカユキのタカ”さん、ですよね?」
「いいや、俺は“タカテルのタカ”だよ。それより君はどのタカなんだ?」
「すみません、タカさん違いでした。僕は“タカヒデのタカ”です。」
「“タカヒデのタカ”?知らないよなぁ、会った事あるか?」
「ええ、一度だけお会いしたことがあります。“タカノリのタカ”さんと一緒に“タカヒロのタカ”さんの所で…」
「そうだった?ゴメンな、憶えてないよ。そう言えばタカとは随分逢ってないなぁ」
「どのタカさんですか?」

勝手にしろ!


「お知らせ」
シティに近いのに不便な場所にあるという「どんたく」ではスタッフを急募!!!!
電話を頂いたら、即、採用。一か八かです。

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第6回「ザ・バトル ラウンド1」

 メルボルンに移り住んでおよそ20年。はっきり言って、未だに英語を話せない…困ったもんだ。しかし、まぁ、話せないから平穏無事にこれたのかな、とも思う。雨にも負けず風にも負けず、人に迷惑をかけないように、ただただ黙々と日々精進をしながら生活している、はずの私である。

 だが、しかし、それでも災いは突然降りかかってくるのだ。身に降る火の粉は払わにゃならぬ。黙っていれば悪者扱いにされる。世の中、正直者が馬鹿を見る、ことがあってはいけないのだ。

 ある日、突然TELSTRAから身に覚えがない請求書が届けられた。「?」電話をOPTUSに換えて5~6年になる。それなの60ドルの請求書が届いた。「これは何なんだ?」当然、身に覚えがないので無視することにした。翌月、いきなり700ドル以上になった請求書が来た。

 ははーん、思い当たることと言えば電話帳に掲載する料金である。そういえば、最近までOPTUSが電話料に上乗せして請求して来ていた。年間700ドル以上の掲載料などとんでもないと苦々しく思っていたのだった。

 しばらくして、SENSISという会社から掲載の確認の手紙が来た。…遅すぎるやろう!どうやら、この会社にTELSTRAが勝手に掲載料を立替し、その金額をこちらに請求するという仕組みのようである。即、抗議と解約の手紙を書いて送った。…もちろん、私が書いたのではない。

 その間、TELSTRAから毎月請求書が届く。そのうち請求書は来なくなり、代わりに「早く払わないとアカウントを取り消す」とか、「もう2度と電話を使えなくしてやる」みたいな内容の手紙が届く。こっちも金輪際TELSTRAは使わないと決めているから、そんな脅しはちっとも怖くない。それでも支払いをしない理由を書いて、TELSTRAに何度も手紙を送った。当然ながら、こちらの意見など完全無視。馬耳東風、馬の耳に念仏なのだ。

 ジョン・グリシャム原作の「レイン・メーカー」という映画化された翻訳本がある。この中に大手保険会社が保険金の支払いを逃れようとする実態が描かれている。保険金の請求やクレームに関しては7回無視するというマニュアルがあるという。大きな会社はそういうことを平気でするのだ。カスタマー・サービスに電話するとよくわかる。平気で30分は待たされる。どこがカスタマー・サービスだ!と誰でも怒る。要は諦めさせるという手段をとっているのだ。

 そのうちTELSTRAに代わってTELSTRA専属の取立て屋からの請求書になった。これが2~3ヶ月続いたかなぁ。そして、ついには弁護士事務所からの督促状になった。「コートで話をつけよう」という脅しの極め付きである。こっちも意地になった。来るなら来い、どこにでも行ってやる、と結構、強気。でも強気の理由は簡単。じつはこの時すでに、掲載する会社から解約の通知と、TELSTRAに返金したという手紙を貰っていたのだった。 

 そして、しばらくしてから届けられたTELATRAの請求書。「まだ、何かあるのか?」封を開けると20ドル弱の請求金額。「何、これ?」どうやら最初の請求金額の700ドルに対する利息と手数料なのである。厚顔無恥とはこういうことを言うんだろうな。あいた口がふさがらない。

 後日談である。携帯電話を買い換えた。TELSTRAを解約した。契約はとっくに切れていたのでいつでも解約できた。最後の使用料の請求書が来たから支払った。翌月、またTELSTRAから請求書がきた。「え~、また。今度は何?」封を開ける。前回の支払いはする必要がなかったらしい。以後、毎月払いすぎた13ドルの明細書が来る。払いすぎたものを返す気持ちはTELSTRAには微塵もないようだ。

「お知らせ」
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電話を頂いたら、即、採用。一か八かです。

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第5回「義歯」

第3回、第4回と、どうも話が短すぎたようだ。でも、これはHIBIKIの時からの癖。HIBIKI は小冊子だったから文字数が600字とか?800字以内と決められていた。それで簡単明瞭に話を纏める癖がついた。これはこれでいい癖なんだろうと思う。しかも3ヶ月に一度の季刊誌だったから一年に4回。つまりHIBIKIなら前回で一年分書き終わったことになる。今回からは2年目…なんてことを書いて字数を稼いでいる。…バレタ?みえみえ?うーん、ワシもまだ修行が足りんわい。

3ヶ月に一度の季刊誌だったら、続き物は書けなかっただろうな…と、思いつつ今回もハナシの話である。

「義歯」。入れ歯の意味で書いた。書いた後、不安になった。こんな言葉、あったっけ?愛用の国語辞典をみる。思ったとおり…なかった。義眼、義手、義足はあっても「義歯」はない。歯を失うことは一般的に見れば、同情に値しないということなのだろう。確かに、入れ歯になるのは自業自得かな。それに老いの所為ね。でもねぇ…(哀)。

抜歯の後、止血するために麻酔で感覚がない歯茎に脱脂綿を当てられて「強く噛んで」なんて言われてもなぁ。努力はしたけど噛んでいるのか咥えているのか?それより歯茎がどこだか解らない。口から脱脂綿がポロポロ落ちる。とにかく口の中に脱脂綿を詰め込んだ。

家に帰って、麻酔が切れる前に痛み止めの薬を2時間おきに服用した。箱に書いてある処方箋の倍のペースである。おかげで翌朝はやや朦朧状態。これが薬の所為か熱の所為か判らないが、熱の所為ということで店は臨時休業に…まぁ半分はそのつもりだったからね。

歯茎は痛むが腹は減る。歯を抜く前に自前の歯で最後の食事を…うーん、日本人ならやっぱりカツ丼だろうと根拠もなくそう思った。抜かれる歯もそうだそうだとガチガチなった。それから、飲まず食わずで丸一日が過ぎていた。…腹も減るわけだ。さて、何を食べよう…と、考えても歯のない口である。噛まずに食べれる流動食以外になかろうもんと、雑炊を作って食べた。

それから歯茎の腫れがひく数週間、雑炊、スープに浸したパン、食べ慣れないヨーグルト。そして固形物を噛まずに飲み込むという技も体得した。もちろん食後は胃薬と整腸剤を常用。おかげでお腹を壊すこともなくダイエットに成功!…という話じゃない。

歯のない口で人前に出るのは抵抗があった。そのための仮の入れ歯である。ところが歯茎の腫れと痛みで装着どころではない。抜歯の後、3箇所ほど縫っている。舌を回すと釣り糸みたいな糸が感じられる。釣り針はないけどこの糸の所為で、釣られる魚の気持ちがわかる…わけがない。一週間後の検診。軽い感染症…。抗生物質を飲んだ。私はこう見えても結構、感染症になりやすい病弱な…ゴホン、ゴホン。…なのだ。

開き直れば羞恥心なんぞ邪魔になる。歯のない口で笑う、しゃべる、唄う。油断するとしわくちゃの顔になる。笑顔を作ると愛嬌のある爺の顔になる。ふぁふぁふぁ、こうなったら。ワシには怖いもんなぞありゃせんわい。

ちなみに、この原稿は先週、書き上げて送ったのだが、TRYBERのメールアドレスとはどうも相性が良くないのだ。過去も数回、届かなかったことがある。うーん、困ったもんだ。なんとかしなさいね。

昔のバンド仲間が新しくHPを立ち上げました。「老いぼれミュージシャンの呟き2」です。
URL: http://homepage3.nifty.com/oiboremusician/
ここに「どんたく夜話」と「シナリオ・ウイング」の連載を始めました。興味のある方はぜひお越しください。

「妙安寺ファミリーバンド」 http://www.myoanji.com/

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第4回「抜歯」

...その2週間後。3時の予約だったが、しばらく待たされた。まぁ、こんなことはどうってことはない。どうってことがあったのは抜歯する歯が増えたことである。X写真を入念にチェックした所、上の歯が4本増えたそうな、…そんなの有りか?と言っても仕方なか。上の歯、しめて13本…そんなに沢山、歯があったの?下の歯、2本は変わらず。でもって合計15本、抜歯することになった。これって、すごいことだよね?一度に、こんなに抜いて大丈夫なのかなぁ...心配である。が、何を心配していいのか判らない。例えば、出血多量で生死をさまよう?口の中だから、その血を飲めば身体に戻る。…なんてことを考えたりしても時間の無駄か。

「痛かったら言ってね」なんて言いながら麻酔の注射を景気良く打ち始めるドクター…それが、もう痛いんやけど。2時間近く、口を開けっ放し。あごが疲れた。唯一の救いはアシスタントの女の子がオージーにしてはスタイルも良く、モデルみたいでとても可愛かったこと。私の手を握り「頑張ってね」と微笑んでくれたりしたら、もっと嬉しかったのだが...。
所変われば品変わる。日本では抜けた歯を屋根の上や縁の下に捨てるというシキタリがある。こちらでは枕元に置いておくと「歯の妖精」が来て、コインに変えてくれるという…。ドクターから見せられた悲惨な15本の歯。「フェアリーが来るから持って帰る」と言うと「こちらで処分する」と却下された。フェアリーはコインに変えてくれなかったけれど、ドクターが50%ディスカウントの大判振る舞い。「君がフェアリーだったのか?私は悪魔だと思っていたのに...」それでも1500ドル強の出費。「歯の悪魔」は痛いおもいをさせて、歯とお金を持っていくのだ。

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第3回「入れ歯を作ろう」

 ♪明日でボクは60才、歯のない口で唄っています~♪これは20代中頃に書いた歌詞の一節。予言が的中!来年、その60歳になる私の歯に限界が来た。14、5年前、大金をはたいて歯の矯正をした。うーん、矯正かな?すきッ歯だった前歯にプレートをつけたのだ。本当の歯は残っている。その歯を削り、プレートをつけた。歯並びがよくなった。笑顔が美しい、と誰も言わなかった…。当時、一枚1000ドル。見かけを良くするために上の前歯6本。合計6000ドル。6000ドルの笑顔だった。一年前、その一本が抜けた…すると、いきなり野卑な笑顔に変わった。これはまずい。人前で笑えなくなった。しゃべる言葉はその抜けた歯の隙間から逃げていく。うーん、大いにまずい。笑わない無口な私は私ではない。なんとかしなければ…。
と、思っているうちに2本の歯がグラグラ。1本は虫食い状態。そして、やっと心を決めた。「入れ歯を作ろう」。言わなければ入れ歯とは気づかれまい…と、言いながらこれに書いてしまえば誰にでも知るところとなる。まぁこれも前回同様、羞恥心が薄れてきた証し。

 通訳に一平(註・親に似ず真面目な性格に育った不思議な奴)を伴い医者に行った。仕事柄、通院できる時間が限られる。親の権限、一平に仕事を休んでもらった。レントゲンを撮って、歯を見てもらって、今後の方針。「2週間後に上の歯9本と下の歯2本を抜歯しましょう。」とにこやかにのたまうドクター。…へっ、いっぺんに?殺す気?「抜歯は1本につき200ドル。」…げっ、11本だから2200ドル?今、ぐらついている歯3本を自力で抜くという手もある…怖いけど。これで600ドルは浮く。この案は真面目な一平に却下された。「この奥の4本は根っこだけだから半額になるかなぁ」私の心を読むドクターでもあった。抜歯する2週間後に仮の入れ歯(1400ドル)を装着。その3ヵ月後に本入れ歯となる…。私は歯によって全財産を失うことになる。

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第2回「おっぱい」

「Take Awayを注文したいけど、どうしたらいい?」「どうしたらって…?食べたい物を注文してくれれば、良いんだけれど」「そうだね。何がありますか?」「何があるって…沢山あるけど…」
流暢とは言えないが日本語を話す若い娘からの電話。「来てもらって、注文してくれる?」「うーん、そうだね。じゃぁ、行くよ。」最近、また視力が衰えてきた私。店に入ってきた小柄な客が男か女かわからなかった。キャップを被って、弛めのランニングシャツにGパン。先程の電話の娘だった。

「さっきの電話の?」「そう、です。」「はい、これメニューね。」「ありがとう」メニューを渡す時、彼女の胸元に目が行く。多少の膨らみにポッチがぽつん。「…私、日本人じゃないから。」「えっ?ああ、そうだよね。でも日本語上手だよ。」「「そう?よかった。」そういうとメニューを見始めた。前かがみになった胸元からおっぱいが丸見え!…わぁ、良いのかなぁ。不安と感動が入り混じる。

以前なら、こういう状態になったら、見たいのを我慢して視線を逸らしていたのだが…もう、釘付け状態。彼女はメニューを見ている、私はおっぱいを見ている。この時間が永遠に続くことを…。ふと、思った。この子は自分が女だと気づいていないのではないか?顔はスッピンだし素振りも男の子っぽい。きっと、そうだ。だから自分の胸を見られても気にしないのだ。私はそう勝手に解釈した。注文の品を作って手渡す。「あっ、飲み物、買っていい?」「ああ、いいよ。」冷蔵庫からドリンクを取り出し、小銭を出そうとする。「ああ、いいよ。それ、サービスね。」「え、いいの?どうして?」「いっぱいおっぱいを見せてくれたから。」以前なら、こういう言葉を思っていても口に出すことはなかったのだが…今は思ったことがぽろりと口に出る。「ふふふ。ありがとう。」意味深な笑顔を浮かべて彼女は帰っていった。

歳を経て羞恥心が薄れてきた、気がする。元来、むっつり助平タイプ。人前では理性と羞恥心でそれを出さないようにしていた。理性は残っているが羞恥心が…。これで理性まで失うと完璧に変態の助平親父になる…可能性は大。見るだけで済まなくなる。手を伸ばす…ああ、犯罪だ。

知人の結婚パーティで若く、理知的で美しく、しかもスタイルの良い娘を見かけた。「うわぁ、完璧。」それから私は彼女の姿を目で追っていた。そして、彼女に近づいていった。「君みたいなきれいな娘がメルボルンにいるなんて信じられない!」別に彼女を口説こうと言ったわけではない。思ったことが素直に口から出た。若いころ、女の子を目の前にして、こんな風に言えてたなら人生変わっていた、かなぁ…。

前回が「はだか」で、今回は「おっぱい」。こういうテーマで書けるのも薄れていく羞恥心のおかげ?思ったことを口に出す。人によっては反感を買う。そんな時は理性とユーモアでオブラート。時々そのオブラートを忘れる…。本当の「言いたか放題」が出来る年齢になったということかな。

「妙安寺ファミリーバンド」 http://www.myoanji.com/

<どんたく レストラン>
住所:526 City Road, South Melbourne VIC 3205
TEL: (03) 9696 6794

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