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六度の隔たり(14)

~~ベッティのカフェは込んではいたが、昼食時のように外まで空きを待っている人の行列はできてはいなかった。
窓際のテーブルにウエイトレスに案内されると、ジェーンもクリスもグルメサンドイッチを注文した。ウエイトレスが去るとすぐに、クリスは好奇心に目を輝かせながら聞いた。
「ジェーンさんはどうしてベンを探すことになったのですか?」
「ベンさんの恋人だったジーナさんという人がいるのですが、その人の息子さんのお嫁さんの知り合いの姪に頼まれたのです。その姪って言うのが娘の友達の母親だった関係で知り合ったのですが」
「へえ。それじゃあ、あなたとジーナさんの関係は、義理の娘の知り合いの姪の友達ということになるんですね。つまり、結局はジーナは赤の他人といってもいい人ですよね、あなたにとっては?」
「ええ、そうですが、クリスさん、6度の隔たりという言葉を聞いたことがありますか?」
「何ですか、それは?」
「知人の知人の知人の知人の知人の知人、つまり6度離れた人全員が知っている人全部を数えると、世界中の人はつながっているっていう理論があるんですよ。ジーナの息子さんのお嫁さんは、その6度の隔たりを信じて、知り合いを辿っていけば、いつかベンを探し出せるのではないかと思ったらしいのです」
「なかなか面白い発想ですな」
クリスは水の入ったコップを手にとってがぶりと一口飲んで、言った。
「それで、ベンさんについて知っていることを全部教えてもらいたいのですが…」
ジェーンも水を飲んで、言った。
「なにしろベンに会ったのは、あいつが世界旅行から帰った時だから、1966年だったな。その時は、世界旅行の話ばかりを興奮して話してくれるものだから、その時何をしていたのか、聞かなかったんですよ」
「ベンさんと一緒に旅行に出かけた人の消息は知りませんか?」
「ショーンのこと?」
「名前は知らないんですが…」
「それはショーンだよ。ショーンならベンの居所を知っているかもしれないな」
「で、クリスさんは、ショーンさんの居所はご存じないのですか?」
「知ってるよ」
「えっ?ご存知なんですか?」
ジェーンは興奮を禁じえず、一オクターブあがった声で、聞いた。
「ショーンさんは、じゃあ、どこにいらっしゃるんですか?」
「ヨークの町の郊外でガソリンスタンドを奥さんと一緒に経営しているよ」
ジェーンの興奮した声とは対照的に、クリスは落ち着いた声で答えた。ショーンとはよく会っているようだった。
「そのガソリンスタンド、どこにあるんですか?」
「住所は知らないよ。なんなら今から連れて行ってあげようか?」
「本当ですか?お願いします」
これでベンの行方が分かると思うと、ジェーンは嬉しくなった。こんなに簡単に手がかりがつかめるとは思っていなかったので、少し拍子抜けした気分にもなったが、ウエイトレスが持ってきたグルメサンドイッチを急いで食べ、クリスが食べ終わるのをイライラしながら待った。こうなれば一刻でも早くショーンに会って、ベンの居所を聞きたかった。
 

著作権所有者:久保田満里子

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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