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第十回 不倫で ?


永住権を求めてある日本食レストランで働いていた。1985年のことだ。ある日、寿司シェフの菅原さんが私に言った。

「タコさんね、木村さんに気があるでしょう。」
先祖に材木屋がいたのではと思えるほど気の多い時期があった。周りからも見透かされていたのだろうか。そのなかでも、ショートカットの似合う切れ長な目の木村さんには確かに思いを寄せてはいた。

「ダメだよあの娘は。ワーホリだけど実は日本から好きな人を追っかけてきているんだよ。でもその人は結婚してるだ。不倫だな。その人が海外出張になったんで、会社を辞めて追っかけてきたんだってさ。その相手はね、タコさんもよく知っているあの商社の丸岡さんなんだよ。」

すごい話を聞いてしまった。聞かない方が良かったとさえ思った。木村さんがそんな思い切ったことをする人には全くみえなかったからだろうか。丸岡さんは奥さんと子供とメルボルンで生活していて、実のところ木村さんの入り込む隙はなかったようだ。時より木村さんが見せる、切なそうな横顔にそんな訳があったのかと分かったような気がした。

木村さんはワーホリのビザが切れる直前に日本に1人で帰っていった。私も、ビザの関係などでその店をやめることになったが、丸岡さんはそれから2年ほどして他の任地に向かったと後できいた。その時、もしかしたら木村さんは、その新しい丸岡さんの任地にも出向いたのだろうか、などと余計なことさえ想像させるほど切なく強い絆を感じてしまった。

まだタコ社長の会社にもタコ社長にも勢いがあったとき、北のブリスベンに支店を持っていて毎月のように出向いていた。片道1,800キロで車でもモノ好きにも二回行ったことがある。居眠りしたこともあり、無事で何よりだった。

その事務所のチャキチャキ幹部女性社員が、ある時皆で飲んでいるときに言った。
「うちの会社って、日本の会社としてまったく不倫もセクハラもない会社で珍しいですね。」
うっ、と二の句が継げなかった。喜ぶべきなのだろう。逆に、なんだか「危ない魅力を醸し出す男がいない生ダコなのにスルメのような男の会社」とがっかりすべきなのか。

苦節10年、わき目も振らず後ろを向いて会社をやってきた。いくつか褒められることがあってもいいとは思うが、やはり日本の会社ではなくオーストラリアの会社なのだろう。これからも珍しい会社を極めようと願っている。

* 文中名前はすべて仮名。実名はタコだけです。

タコ社長のブログ        http://plaza.rakuten.co.jp/takoshacho/

オーストラリア留学    http://www.mtsc.com.au/
(タコ社長の本業)

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