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Vintage 2: Yarra Yeringと楽しむ思い出のディナー



少し温かくなってきたなと思っていた矢先、先週末からの真冬のような寒さ。これがメルボルンならではの気まぐれ気候。一日のうちでも、天候は目まぐるしく変わる。

一方、私のメインの職場である日本料理店では、暫く振りに体制が変わったのを機に、ムードメーカーの皆さんがお店全体の向上心を引き出してくれており、その才能と気遣いには頭が下がる。熟練シェフは、皆を励ます為か、時折美しい歌声も披露してくれるので、皆、ジャイアンのコンサートと同じくらい楽しみにしていて嬉しそう。

こうして良い人々に支えられ、親方達の心のこもった料理と、和気藹々なスタッフとで毎日が温かい当店。しかし勿論、晴天のような出来事ばかりではなく、時には困った出来事にも出会う。


多くの方がEmailでの予約や問い合わせを好む時代、毎日結構な数の返信が必要になる。そんな次々に押し寄せるEmailの中に、クレジットカード詐欺のメールが紛れている事が珍しくないのである。

最近のクレジットカード詐欺の例では、大人数の食事代のデポジットと共にレンタカー代もチャージして、そこから現金を担当者に支払って欲しいと言うものがあった。第三者への代金をチャージした時点で、私たちがクレジットカードマーチャントとしての規約を違反したことになり、損害額は一切保障されない。騙されれば、1万ドル近くの損害。海外の電話番号もしっかり偽造されていて、当店のネイティブスタッフが全く疑わないほどのフレンドリーな問い合わせ電話も掛けてきた。
巧妙な詐欺も多い。慎重にならなければ。


今回、イタリアからの問い合わせを受け取った。彼の名は”ルパ”(仮)。友人が新婚旅行で当店を訪れるので、彼らの食事代金を全てルパ指定のクレジットカードから引き落として欲しいと言うものだった。
問い合わせに使われたEmailの送信元はフリーメール。その上、本人は当店に来たことがない様子。半信半疑で戸惑う中、ルパはイタリアから何度も問い合わせの電話を掛けてきた。残念なことに、その様子は以前あったクレジットカード詐欺未遂にそっくり。アクセントのある英語が怪しさを増す。
とにかく、ルパの一生懸命な姿は、逆に疑わざるを得なかった。金額ではない。店に問題を背負わせたくないという責任。人に騙されれば、誰もが気分落ち込む。
銀行やクレジットカード会社に連絡を取り、イタリアの電話番号が本物か裏付けし、、、信じて良しと判断するまでには時間がかかった。


ルパの友人が当店を訪れたのは、陽気が久々にメルボルンを訪れたのと同じある日。ラブリーなイタリア人新婚カップルを目にして、やっとそれまでの不安が吹き飛んだ。
ルパに言われたように最善を尽くし、当店のシグネチャー料理を組み合わせたコースを紹介し、持て成した。コースメニュー最後のデザートを前に、カップルは涙を浮かべ、「人生で最高の日本料理」と感激してくれた。

ルパの努力は特筆に値する。
時差計算違いで、イタリアの午前3時に掛けてしまった電話にも腹を立てず。
要請した面倒な書類も、全て用意し。
素直に信じてもらえない取引にも、痺れを切らさず。。。。

良い友達を持ったねとカップルに言うと、二人は楽しそうに、ここに来るまでの経緯を語った。

イタリア語で”Caccia al tesoro (Treasure Hunt)"と言うゲームで、まずは、開封してはいけない4通の手紙をルパから受け取ったそうだ。同時に、一通目の手紙を飛行機に乗る前に開けろというのが、ルパからの指示。

1通目にはこう書いてある。 「明日メルボルンにて、ある人物に会ってもらう。彼は宝の鍵を握る人物。次の手紙を飛行機で開けろ。」
2通目、「飛行機を降りたら、直ぐにSouthern Cross駅へ向かえ。空港からの所要時間は30分。その場所で、次の手紙を開けろ。」
3通目、「ある人物と落ち合え。彼は私の友人だ。待ち合わせのレストランを地図に示す。時間は8時。彼は待つのが嫌い。絶対に遅れるな。次の手紙を、レストランで開けろ。」
4通目、「私の友人が現れるはずだ。彼が、あなたふたりを最高に持て成す。この取引は支払い済み。」

こうして、彼らは私に出会った。


カップルが、Yarra Yeringの2003年サンジオベーゼ(Sangiovese)を心地よく飲み終えテーブルを立つ頃、ちょうど店の電話が鳴った。ルパが全てうまく行ったか心配になって、またイタリアから掛けてきたのだった。電話を保留にし、席を立ち上がったカップルに私は言った。

「5つ目のメッセージを預かっていますよ。」

その後のカップルとルパとの会話は、イタリア語が解らなくたって友情と感激に溢れていることが容易に理解できた。


ルパの正体はイタリアのあるミュージシャンであることを知った。
彼の音楽をYoutubeで聴かせてもらったが、温かい音楽である。

彼から、お礼の手紙も戴いた。
"I'll never finish to thank you for the wonderfull courtesy and professional cooperation. My friends had a unforgettable evening in Melbourne."


先日迄、雹まで降って凍えたメルボルン。
でも、大丈夫。こうして、お客さんが心を温めてくれる。

2009 年9月30日





Yarra Yering Sangiovese 2003
サンジオベーゼは、イタリアを代表するワイン、キアンティ(Chianti)を構成する主な葡萄品種。イタリアからのカップルがこのワインを選んだのは、日本人が海外に来てもやはり日本食で落ち着くのと同じ思いでしょうか。祖国への親しみを感じます。
トマトソースに合うスパイシーなキアンティもある一方、Yarra Yeringのサンジオベーゼはクリーミーに纏まっていて、飽きのこない心地良さ。食事を通して一本のワインを選びたい方にも、特にお勧めです。深みあるおいしいワインだなと感激しました。

Yarra Yeringで長年ワインを醸してきた故Dr Bailey Carrodusの奇才はあまりにも有名で、人生をワイン作りに捧げた巨匠の一人です。2008年9月に永眠されましたが、親友であるワイン業界第一人者James Hallidayが、Baileyの眠りについた表情を「安らかな笑顔だった」と語っています。

私にとってこのYarra Yeringは、どのワインも絶品という点でYarra Valleyで一番のワイナリー。Bailyの遺品達が熟成を経て、彼が旅立った今もリリースされていきます。
「Yarra Valley No.1 だね。」現在のYarra Yeringワインメーカー、ポール(Paul Bridgeman)にそう呟くと、彼も大きくうなづきました。

勿論その分値段は高いのかもしれませんが、とにかく素晴らしく出来上がったワインたち。
ポールには多くの話を聞かせてもらっているので、次の機会に掲載できたらと思います。


Yarra Yering
4 Briarty Road, Gruyere, VIC, 3770 Australia
Phone: +61(3) 5964 9267
Web site: www.yarrayering.com

Opening Hours:
10am - 5pm Saturday
12pm - 5pm Sunday
(但し、その年にリリースしたワインが売切れるまでの間のみ。)


コラム一覧
全てのコラム
Vintage 1: Leeuwin Estate で過ごす、歴史的野外コンサート
Vintage 2: Yarra Yeringと楽しむ思い出のディナー
Vintage 3: Mandalaで学ぶ、ワインメーカーの情熱


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