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Q and A -洋書レビュー5/5

アカデミー賞受賞作品『Slumdog Millionaire』の

 
 
◇作品概要
クイズ番組「ミリオネア」でみごと全問正解し、史上最高額の賞金10億ルピーを勝ちとった18歳のラム。孤児で教養のないラムが難問に答えられるはずがないと、インチキの容疑で逮捕される。しかしその奇蹟には理由があった―。
殺人、強奪、幼児虐待…ずっと孤独に生きてきた少年が、インドの貧しい生活の中で死と隣あわせになって目にしてきたもの。それは、偶然にもクイズの答えでもあり、他に選びようのなかった、たった一つの人生の答え。幸運を呼ぶと言われて占い師からもらった1枚のコインだけを頼りにしてきた孤児の、残酷だけれど優しさに満ちた物語。
作品は2008年Danny Boyle(『Trainspotting』)監督、Simon Beaufoy(『The Full Monty』)脚本で、『Slumdog Millionaire』のタイトルで映画化され、アカデミー賞はじめ数多くの賞を獲得している。
 
◇作者
Vikas Swarup
1963年インド、アラハバード出身。インドの外交官として現在は南アフリカのプレトリアで高等弁務官事務所に勤務。これまでにトルコ、アメリカ、エチオピア、イギリスに赴任。外交官としてイギリス滞在中に家族が先に帰国し、空いた自由な時間を利用して書いてみようかと思って書いたのが『Q and A』。イギリスで出版され、たちまちミリオンセラーになり37ヶ国語に翻訳されている。邦題は『ぼくと1ルピーの神様』(ランダムハウス講談社)。

◇Review
孤児として日々を生き抜く中で、自分を見事に客観視し、さまざまな困難に立ち向かいながら生きるラム。彼にとっての幸せとは何なのか…? 彼を取り巻く世界は現代のインドを反映しており、想像を絶するインド社会に驚かされる。

孤児として生まれたラムの名前はラム・ムハンマド・トーマス。ヒンズー教徒ではよくある名前のラム、同様にイスラム教徒のムハンマド、そしてキリスト教を象徴するかのようなトーマスという名前を巧みに利用していく。この名前はインド社会がヒンズー教とイスラム教の間に大きな問題を抱えていることをも反映している。
 
 
 
そしてラムは自分の知恵を存分に生かしながら、小さな身体一つだけで自分の人生を切り開いていく。占い師にもらった幸運を呼ぶ1ルピーを手に、また英語が話せることを武器に若干10数歳で著名人の家の使用人などの職に就きながら生活を送る。ときどきその1ルピーでコイントスをして未来の人生を切り開いていく。

逆境をばねに生きていく彼の夢は何だったのか。クイズ番組『ミリオネア』に出演する目的のためだけに日々を生きてきたのかもしれないと思うと、この本を読んでいる自分が情けなく感じる。それほどの苦労もせずに生きて、甘えているだけに映る。同情をしてしまうことも彼らが住む世界の人々にとっては有難迷惑かもしれない。
 
 
厳しい環境を生き抜く中で、自分の運命は自分で切り開くものだと悟るラムにとって、『ミリオネア』に出演し、目的を果たした後のことは何も考えていなかったのだと思う。タフに生きるその姿はとても痛々しい。そんなラムに前向きに生きることを教えてくれた1ルピーの秘密とは?

本書はあくまでもフィクションだが、現職外交官でもある著者が描くインド社会はあながちウソではない気がする。カースト制とまではいかなくとも、私が実際に出会ったグジャラート出身の女の子2人の話を聞いているだけでも驚きの連続だった。異宗派間での結婚はあり得ないこと、パートナーは親同士が決めるため結婚前まで見たことも話したこともない人と結婚すること、家事は女性だけの仕事であり、服装などにも細かい制限がある。また自分たちが住む地域の道路は舗装もされていないとも言っていた。
 
 
ストーリーは『ミリオネア』でラムが答えたクイズの順番に、なぜその答えを知っていたのかを回想する形で語られる。そのためラムの年齢が行ったり来たりするが、その展開が面白いと感じた。そして最後に手にした幸運は、今までラムが築いてきた人生にほんの少しでも報いるものであったことが嬉しい。

『Slumdog Millionaire』というタイトルで映画化されているが、原作のストーリーや設定と異なり、恋愛の要素も大きくなっている。またボリウッド映画の特徴であるダンスも最後に盛り込まれていて、まったく違った形で楽しませてくれるので原作も映画も好きだ。

Q and A
Published By Transworld Publishers Limited, 2005
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URL: http://www.slumdogmillionairemovie.co.uk/ (film)

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