Jazz Festival 2009 -JOSHUA REDMAN TRIO-
感性に囁く音の妙技を味わえ…"Let's Jazz"
JOSHUA REDMAN TRIO
2009.4.30
@MELBOURNE RECITAL CENTRE
Photographer: Richard Dodson
「人間の声が最高の楽器である」
昔、インタビューしたアーティストが放った言葉である。
その当時は、妙に納得したのを覚えている。
しかし彼等の演奏を生で聴いた今、
「楽器は、時に人よりも言葉を放つ」
と言いたい。
登場人物はたったの3人。サックス、ウッドベース、そしてドラム。まずサックスが小声で話し始める…すると次はそれに乗っかりウッドベースが話し始める。そこに、二人の会話に耐えかねたドラムが突然大声で割って入ってくる。その後3人の会話は止まることを知らず、各々が各々の声で、スピードで、自由気ままに言葉を放つのだ。時に優しく囁くように、時には声を荒げ興奮したかのように、筋書きのないディスカッションは続く…そして誰が合図したわけでもなく、同じタイミングで息つくのだ。まるで、立て続けに話し疲れてしまい「ふぅ~っ」と息を吐くのと同じように。
そのタイミングが寸分狂わず同じなのである。
その瞬間、今までの喧騒が嘘のように、会場内は一気に“無音”の状態となる。
そして唾を飲み込んだ瞬間に生まれる拍手の嵐。
自分の全身に鳥肌が立っているのを感じながら拍手を送った。
気づいた方も多いかと思うが、この“トリオ”には、メロディ・ラインを作るピアノも居なければ、ギターも存在しない。ということは必然的に、サックスがメロディ・ラインを作り他の者を導いていかなくてはならない、ということである。これはサックス奏者にとってかなり難度の高い技なのだが、これは彼の得意技でもあるのだ。
その状況を楽しむかのように、次から次へと生み出されていくメロディ。そんな天才奏者と肩を並べメロディを生み出しているベーシスト・Reuben Rogersとドラムス・Greg Hutchinson。このサックス・トリオのメンバーは幾度となくステージを共にしている。互いが強烈な個性を持ち、そして高度な技術を持ち合わせている故に、喧嘩しあい潰しあうのではないかという不安さえ過ぎる。しかしそれは逆であった。こんなにも音色も個性もスタイルも違う3人が、ここまで信頼しあった仲になれるとは…。
この“Joshua Redman”という人物、父はサックス奏者、そして自身はハーバード大学を主席で卒業という経歴を持つ。その頭脳明晰な彼が作り出す音というのが、実に変形的。きっと彼の頭の中では最初から最後までイメージされ尽くしているのだろうが、私達の耳に届く音は‘斬新’という印象が強い。そんな、オリジナル・スタイルを彼なりにカスタマイズした‘現代ジャズ’は、同世代ジャズ・アーティストの中でも群を抜いてカリスマ性を放っている。
そして今回オープニング・アクトを務めた“ZAC HURREN TRIO”も要注目トリオである。こちらは同じトリオでも少々趣の違うJAZZを聴かせてくれた。彼等の演奏は映像を浮かび上がらせる。“Joshua Redman”が生み出すものが‘言葉’であるならば、彼等が生み出すのは‘画’である。まるで映画を観ているかのような錯覚に陥り、彼等の世界にのめり込んでいる自分が居た。
“JAZZ”
簡単には言い表せないルーツを持つ音楽
いまでは無数に枝分かれ、様々なスタイルの音が存在する音楽
社交場に欠かせない音楽
ワインとよく合う音楽
自分の感性を高めてくれる音楽
この音楽に対する探究心が更に強まった夜であった。
イベントの詳細は
www.melbournejazz.com
Joshua Redman HP