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「すごいやろ日本人!」って思ってもらえるものを

日・蘭ハーフの大工さん、デカイザー兄弟インタビュー

2012年4月26日掲載

 


自分たちで手がけたSakura Lounge前にて

 

【プロフィール】
大工兄弟デカイザーズ 

兄: Shaun de Keyzer (写真左)
弟: Neil de Keyzer (写真右)
メルボルン生まれ、京都育ち。日本で大工として経験を積んだ後、生まれ故郷であるメルボルンに移住。兄弟で大工のデカイザーズを立ち上げ、内装などの建築関係を含め、さまざまなことを手掛けるアーティストとして活動中。手がけたお店にはSakura Lounge、Chanoyu Natural Beauty and Spa、Wabi Sabi、前田屋、EN Izakayaなどがある。

 

 

―大工さんになったきっかけは何だったのでしょう?
Shaun: 京都の亀岡に引っ越した時に家が半分しかできていなかったんですよ。それで父親が中心になって自分たちで作り始めて。そのときからですね、大工が面白いな、と思い始めたのは。

 

―お2人の仕事について、反響はどうですか?
Shaun: 施主の方からの反響はもちろん良いのですが、それを見てくれた周りの人の反響も凄く大きいですね。

 

―オーストラリアの人からの要望はどんなものが多いですか? やはり「和」のテイストを求められることが多い?
Neil: 要望っていう要望は、今までこっちの人に頼まれてやる限り、ほとんどないです。
ここにドアがほしいとか、大前提はもちろんあるんですが、それ以外の見た目に関しては好きにやって良いと言っていただけるので、こちらからいろいろ提案したりします。

 

 
Sakura Lounge が運営するDaylesfordのゲストハウスの数奇屋門。数年後、屋根にコケが生えれば完成 (写真提供:デカイザーズ)

 

―オーストラリアの材料は日本のものとは違うと思うのですが、その点はどうしているのでしょう?
Shaun: ないものはもちろん日本から取り寄せる時もあるのですが、木に関してはオーストラリアで育った木をオーストラリアで使うのが一番理にかなっているし、長持ちもすると思いますので、それを上手に使えば良いと思っています。

Neil: ただ、手に入る木のサイズや種類はオーストラリアのほうが圧倒的に少ないですね。
行くところに行けばあるんですが、欲しい時に近くにぱっと買いに行ったりすると、だいたい2~3種類しかない。
サイズも決まった種類しかないので、大きい木になると注文、細かいサイズの木になると作業場で切って製材しますね。

Shaun: それから買ってきたものをそのまま使うことはほぼないです。
そのまま使うと、どことなく安っぽく見えたりするので。
あとこっちの人はよくハードウッドは良い木で、ソフトウッドは悪い木だと言うんですが、そう言われれば言われるほどソフトウッドを使いたくなります。
どの木も、生えて育って大きな木になるまで何十年も立っていた。
それを、人間の勝手な都合で切って「これは良い木」「これはダメな木」というのはおかしいと思うんです。
だから、木の種類そのものにはこだわってないですね。


Neil: 木の種類よりも、見せ方、使い方、使う場所、きちっと作っているかが大事だと思います。
ただ、10本選ぶのに多い時は100本くらいの中から選ぶから、材木屋さんには煙たがられているかもしれませんけど(笑)

 

 
服飾デザイナーの家。デザインが懲りすぎかと思い、少しトーンダウンさせたデザインで持って行ったところ、『これじゃ、つまらない』という事で、元々のデザインで作ったのだそう (写真提供:デカイザーズ)
 

―大工とカーペンターの違いは何だと思いますか?
Shaun: 大工もカーペンターもハンディマンも、僕はみんないっしょだと思っています。
丁寧にするかしないか、こだわるかこだわらないかだけで、ジャンルは大工だろうとカーペンターだろうといっしょじゃないかな。

 

―お2人は、家も作れるんですよね?
Shaun: 要望があれば作ります。

 

―「頼まれてもできない」ことは、どんなことでしょう?
Shaun: できないことを作りたくないんです。
ロボットとか機械でやることに関しては、人間には無理なものもあると思うんですけど、職人さんがしている仕事は全部、自分たちにもできると思っています。
だからどんなことでも挑戦したいですね。

 

 
Wabi Sabi Salon用に作った椅子とテーブル。写真だと分かりにくいが、テーブルトップは、何十年も雨風にさらされ、役目を果たしきった板を樹脂で閉じ込めている。人間には出せない、古びた板の質感がまさにWabi Sabi (写真提供:デカイザーズ)
 

―自分たちの仕事の、ここを見てほしいというところはありますか?
Shaun: 見てほしいと言うより、「なんか違うなぁ」って感じてもらいたいですね。

Neil: 僕は大前提として、良い物をとにかく作ろうと思っています。
バブルの後に育って、あれだけ大量にいろいろなものが作られてきたのを見てきているんですけど、あれって結局何だったんだろうと思うんです。
特に日本人は今それを、ひしひしと感じてるんじゃないですかね。
世界一お金持ちになったけど、その代わりになくしたものもとてつもなく大きい。
僕たちも何が良いかって、正直まだよくは分かっていないんですが、とりあえず自分たちの納得いくものを作ろうと思っています。

 

ー大量にどんどん作るもの作りではなく、1つひとつを大事に作るということですよね。
Shaun: 誰かが日本人は世界一飽き性だと言っていたんです。
どんどん新しいものを作って。
でも、飽き性っていうより、気に入るものを作っていないだけじゃないかなと思うんです。

Neil: そういうシステムの下でみんな生きていますからね、特に日本は。
ただ今回の震災のあと、そのことはみんな痛感してると思う。
それで、自分たちはもっと後に残るようないいものを作りたいと、力が入りましたね。
メルボルンにいる自分たちにできるのは、「すごいやろ日本人!」って思ってもらえるようなものを作っていくことだな、と。
続けられる限りこの路線でいきたいと思っています。

Shaun: あとは飽きのこないものを作りたい。見るたびにどんどん良くなっていって、味が出てきたり、気に入ってくるものを。
買った時がピークっていうものは、一番つまらないと思う。

Neil: 一生懸命頑張って作ったら、少々見た目とかに欠点があってもだんだん良い味になってくる。
デザインなどまだまだ勉強中の部分もありますが、根本的な部分、例えば一生懸命作るとか、きちっとしているとか、そういうことを大事にしていきたいです。

 

 
Wabi Sabi Gardenで開催された東日本大震災チャリティーオークションに出品した作品。左がMaximum、右がMinimum (写真提供:デカイザーズ)
 

―オーストラリアで、日本のテイストとか自分たちの持っているものを取り入れてものを作る。新しい建築文化を担っているわけでもありますね。
Neil: 日本のものをそのまま作ってあげるとか、ちょっとクラシックにしてあげたら、オーストラリア人に喜ばれるのは分かっているんです。
ただ僕は日本に対してもっと胸を張りたい。
日本のものをそのまま一生懸命作っても胸は張れると思うんですけど、何かもう1つ次のレベルを求めたいんです。

 

―ところで兄弟でいっしょにお仕事をしていて、ぶつかることなどありませんか?
Shaun: 弟はね、自分の都合でイライラするんですよ。花粉症の時期とか。
Neil: それは兄もですよ。最近でこそちょっと落ち着きましたけど、イライラしてましたよ。
Shaun: (弟は)僕に当たるんですよ。人に当たるなよ!って(笑)思います。
Neil: それは兄もですよ。でも最近は、人の振り見て我がふり直せ、じゃないですけど、僕を見て自分はやめておこうと思っているんだと思います。むしろ僕に感謝してほしいですね(笑)

 

―兄弟喧嘩になってしまうので、この質問はこれぐらいにして(笑)お互い、認めている部分はどんな部分でしょう?
Shaun: あまり本人の前では言わないですけど、発想力がすごいなって思います。
Neil: 物を作る時の集中力がすごいですね、敵わないです。


(写真提供:デカイザーズ)

Shaunさん、Neilさんありがとうございました!
 

インタビュアー: 長谷川潤、甲斐千香子
写真(クレジットのないもの): sHue :)

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