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写真的木版画像制作 湯浅 克俊さん インタビュー

写真のような表情を手で彫り続ける

[ 15 May 2013 ]

 

 去る53日、QVにあるアパレルブランドSAXONYにて現代美術家・湯浅 克俊さんの木版画作品展のオープニングイベントに参加し、湯浅さんにお会いしお話しを伺いしました。

 指の感覚を頼りに小さくて細い線を根気よく彫りあげて刷られた作品が並びます。遠目には写真のように見え、近づいて見ると線を11本彫り出した跡が判ります。画像のように精緻でリアル、その中から溢れる美しさに目を見張ります。

 

湯浅 克俊 Katsutoshi Yuasa

東京都出身。武蔵野美術大学卒業後に渡英、Royal College of Artにて修士課程版画科修了。アムステルダム、バークレー(アメリカ)、パリ、
ホフサス(アイスランド)、コペンハーゲンにて滞在製作プログラムに参加。現在は東京を拠点にし、母校で非常勤講師も務める。

 

 

-- まずは簡単な自己紹介をお願いします。

 木版画を主に制作しています。展覧会は主にヨーロッパが多いですが、ニューヨークや香港でも展示しています。オーストラリアは今回が初めてです。

 

-- 今回のオーストラリアでの展示をするきっかけは何でしたか?

 前回香港で個展を開催した際に、SAXONYのアートディレクターの方が見に来てくださったのがきっかけで、今回の展示に至りました。こちらから作品の候補を提出して、最終的にSAXONYのスタイルと合う白黒の作品を選んでいただきました。

 

Listen, nature is full of songs and truth (right)
©Katutoshi Yuasa

 

-- 木版画を始めるきっかけは何でしたか?

 日本の大学時代は油絵を勉強していたのですが、自分には合わないなと感じていました。そんな時に木版画のワークショップが開催されることを知って参加したのがきっかけです。木版画は実際には技法的な制約が多く“やりにくい”のですが、そこがおもしろいなと感じました。

 また木版画は海外では珍しく、日本の浮世絵と結びつけて考えやすいので、それが武器でもありアピールポイントですね。

 

-- 木版画特有の手跡や木目の痕跡がなく、画像がプリントアウトされたような作品が特徴的なのですが、この技法で制作するようになったのはなぜですか?

 元々写真もやりたいと思っていたので、写真にプラス違ったものを取り入れて、木版画らしくない作品にしたかったんですね。写真は銅版画やスクリーンプリントとは相性が良いのですが、木版画ではイメージの再現性が低いので、そういう意味で“やりにくい”こともあります。

 制作するときは、写真に近いけれど違う感じも出すようにはしていて、けれど技術的にやりすぎないようにはしています。

 彫るときには木目の方向にも気を使います。木目があると彫り方に工夫が必要で、表には見えないけれど、摺った時に出てくる木目もありますね。

 

 

 

-- ロンドンでも木版画を勉強されていらっしゃいますね?

 ロンドンの学生時代には、木版画のテクニシャンはいなかったのですが、アイデアやコンセプトの出し方や、またプロのアーティストとしての心構えなどといったことを中心に勉強しました。

 

-- 作品によって横線や縦線、斜線もありますが、これはどのように決められていますか?

 イメージの光の方向を意識して決めています。線は彫る前にパソコン上でデジタル処理して造っています。その線をなぞるように彫刻刀で一線一線手で彫って行きます。

 


ilmatar
©Katsutoshi Yuasa

 

--一つの作品にどれくらいの時間がかかりますか?

 作品にもよりますが、だいたい2週間から1カ月かかります。あまりに大きいと、例えば4枚の木版をつなげて一つの作品にする場合は、半年くらいかかりますね。

 

--一つの作品を彫りあげているときに、別の作品の制作に取り掛かることはありますか?

 基本的には1枚に集中して掘っていますが、先ほど言ったような大きな作品を手掛けている場合は、その間に小さい作品を彫ることはあります。

 

 

--彫るのは緻密な作業ですが、時々息詰まったりしませんか?

 そうですね、どんなに大きな作品でも彫るのはたいして苦ではありません。彫るのはいわば長距離マラソンに似ていて、ゆっくりであれば長時間彫ることはできます。

 逆に摺るのは短距離走のようで、瞬発力が必要となります。前日から「明日は摺るぞ!」と心構えを整えておかないと摺れないですね。

 行き詰った時は、そうですね…子供と遊んだりして気晴らししています。

 

--刷るときにインクの滲みなど、うまくいかないこともあると思うのですが、短距離走なので、一度フライングしてしまうと次が大変ですね。

  そうですね、いろいろうまくいかないこともあるのですが、納得いくまでは何度も摺りますね。何枚も摺ったあとは本当にへとへとです。

 


A place where there is no redemption and no apocalypse #1
©Katsutoshi Yuasa

 

--樹木や庭といった自然や日常的風景をモチーフにしているのはなぜですか?またどこで撮影をしますか?

 自然をテーマにはしているのですが、“自然だけれど人の手が加わっている自然”をテーマにしています。例えば公園のベンチ、人の家の庭、森や神社、それに神話-神話も人が創ったものですし―。

 撮影は自分の住んでいる周辺の景色や、滞在先で撮影した風景なども多いですね。滞在中に写真を撮って、その地で作品制作をすることもありますが、日本へ戻ってきてから彫ることもあります。

 あとは、最近は作品によってインターネットからダウンロードした写真も使用しています。ほとんどが自分では撮影できないものが多く、宇宙や台風の衛星写真、自然災害などですね。制作を通してどれだけ個人的な経験を共有できるか、というのも一つのテーマです。

 

-- ロンドンの学校を卒業後は、アメリカを含めてヨーロッパを中心に短期滞在(※)を繰り返されていますが、それは何か理由があるのでしょうか?

 当初はイギリスでアーティスト・ビザを取得しようとしたのですが、大学院卒業後すぐであったことなどから取得できなかったんですね。そこでアーティスト向けの滞在制作プログラムに参加するようになり、毎年のように数ヶ月は海外で制作するようになりました。今年の夏はドイツに行く予定です。

滞在歴
2002-2007 イングランド、ロンドン
2006 オランダ、アムステルダム
2008 アメリカ、バークレー
2008-2009 フランス、パリ
2009 アイスランド、ホフサス
2011 デンマーク、コペンハーゲン
2013 タミサーリ、フィンランド

 

-- それぞれの国での生活はいかがでしたか?

 いろいろありましたが、アムステルダムはとても住みやすい街でした。街のサイズもちょうど生活に合っていました。その時に滞在していたのはライクスアカデミーという世界でも屈指のレジデンスで、世界中からアーティストが滞在して制作をおこなっています。各アーティストに大きなスタジオが与えられ、ワークショップ設備も充実しています。1年に1度オープンスタジオがあり、他国からも多くの方が見学に来ます。そこでドイツのギャラリーに声をかけてもらい、現在も2年に1回のペースでそのギャラリーで個展を開いています。

 アイスランドは自然がすごかったですね。着いた初日に「自分は火星に来たのか!?」と思ったくらいです。

 逆にパリは大変でした。フランス語ができないので、英語を話すと嫌がられたりしましたし。

 各地に滞在することで、さまざまなレスポンスが得られますし、またコネクション作りにもなります。現在も毎年のようにどこかの国のレジデンスプログラムに応募し、受かったら行くようにしていますね。

 

 

-- 現在は母校で後輩を教えていらっしゃいますが、教えることで何か変わったことはありましたか?

 そうですね…、確かにいろいろ刺激はあります。自分が学生の頃を思い出したりもしますし、どうすれば学生の作品が良くなるかということもよく考えます。

 あるいは、「日本でのアート環境を良くするためには?」といったことをよく考えます。そういったことは一人で考えるよりは多くの人と話す方がアイデアが沢山出てきますし、これからの若い世代と考えることが重要です。

 自分の作品にはあまり直接的には影響はないですかね…?

 時々作品展の準備などは手伝ってもらうことはありますね(笑)。学生には作品を発表する機会がなかなか無くても、作品をつねに作っておくように言っています。いつ何時声がかかるかわかりませんし、その時に作品が無いのでは貴重なチャンスを逃すことになりますので。

 自分自身もアーティストとして活動し始めて8年になりますが、最近ようやく陽の目を見るようになりましたしね。

 


Light garden #1
©Katsutoshi Yuasa

 

-- 今回は白黒の作品が展示されていますが、普段は他の色は使用しますか? 今後彫ってみたいテーマや挑戦したいことはありますか?

 色は時々使用していますが、今回選んでいただいたのは白黒の作品だけでしたね。

 そうですね、色はもっと使っていきたいです。あとは人や動物など、生きているものも彫ってみたいですね。

 

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 イベントに参加した招待客からの高評価を得、直接質問をする方も多く見かけられ、丁寧に答える湯浅さんの姿がありました。シャンパンや恵みビールのほろ酔いも相まって、和やかなムードのイベントでした。

 イベントへはキリン恵みがスポンサーとして提供されました。興味深くボトルを眺める人もあり、関心を集めていたようです。

  作品展は714日まで行われ、SAXONYQVChadstoneDoncaster店に原画が展示されています。ぜひ一度足をお運びください。

 

 

Katsutoshi Yuasa
www.katsutoshiyuasa.com

 

KATSUTOSHI YUASA “Listen, Nature is Full Of Songs And Truth

56- 714

SAXONY - QV, Chadstone & Doncaster
www.saxony.com.au

※店舗により営業時間が異なります。SAXONYウェブサイトを参照ください。

 

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