日本人弁護士・占部英高さんインタビュー
「メルボルンでがんばる日本人の皆さんを応援したい」
2011年12月29日掲載
2012年2月22日更新
【占部英高弁護士】プロフィール
シドニーで出生、シドニー英国国教会共学学院レッドランズ校(Sydney Church of England Co-Educational Grammar School, Redlands)を卒業後、立教大学法学部学士課程を修了ののち商社に勤務、オランダ駐在を経て2001年に同商社現地法人の代表取締役社長として帰豪。
その後、在メルボルン日系企業で法務を担当し、大手法律事務所ノートン・ローズ勤務を経て、2010年にモナッシュ大学法科大学院法務博士課程(Juris Doctor)、及びヴィクトリア州司法修習課程を修了し、今年2月に弁護士として登録。
現在メルボルンCBDクイーン・ストリートにあるリンカーンズ法律事務所で弁護士業務に携わっている。
―占部さんはこの2月に、弁護士としてスタートされたということですが、それまでの経緯をお教えください。
大学で法学部を卒業したあと、法律関係ではなく、地方商社に経理として勤務したのですが、いずれは法律に戻ってくると考えていました。
ただ、いわゆる「専門バカ」見たいな(笑)弁護士にはなりたくなかった。
もともとビジネスそのもの、また海外で働くということにパッションがあったんですね。
常に顧客の目線でものを見るため、そのニーズを自らの経験を通してしっかりと理解するために、企業経営がよく見え、また海外勤務が経験できる商社での経理という仕事は、キャリアのスタートとして良いと思ったんですね。
そのあとモナシュ大学の法科大学院法務博士課程と、ヴィクトリア州の司法修習過程を経て弁護士になったんです。
―日本で一般的な弁護士さんのイメージというと、近寄りがたい、できたら「縁がないにこしたことはない」ような存在に感じてしまうんですが。
それはそうかもしれませんね。
ただ、どちらかというと、弁護士は問題が起こってしまったときに使わなければならない、というより、問題がおこる前にそれを回避するための存在、と思っていただければいいなと思います。
弁護士といっても仕事の枠は意外と広いんですよ。
例えばビザ申請・申請が却下されてしまった場合の再申請の手続きや、それぞれのビジネスのニーズに合致した、個人事業設立
のお手伝い、また人を雇用する・雇用される場合に「契約書にこんなことが書いてあるけど大丈夫?」といったような相談などもお受けしています。
―ほかにはどんなケースを扱われることが多いのですか?
ご家庭の問題ー特に国際結婚で離婚されるケースがありますね。
例えば「親権」と聞けば、親が子供を養育する「親の権利」と思われがちですが、オーストラリアの家族法では子供が両親の養育と保護を受ける「子供の権利」と考えられています。
これはペアレンティングと呼ばれ、離婚された後も、お子様が成人するまではお父さんとお母さん両方に子供を育てる「共同責任」があるという意味です。
具体的な例としましては、お父さんがオーストラリア人、お母さんが日本人のご両親が離婚するとなった場合、お母さんがお父さんの許可なく連れて行ってしまった場合、これは「誘拐」とみなされてしまいます。
自分で判断のつかない小さい子供だからこそ、両方の親からの保護を受け、その成長過程において福祉を保証しなければいけない、という考えなんですね。
ただ、離婚を考えている、ということでいらした方には、すぐに手続きや訴訟を、となるまえに、
「こういうことは考えられましたか?」
と、情報をご提供したりして、
離婚というよりも
「そのお二人、そのご家族にとって何がベストなのか」
をお話を通して、いっしょに考えさせていただきます。
―知人に聞いたのですが、ある人がビザの問題で強制送還になりそうだったところを、弁護士さんを通したことによって送還が取り消しになったケースがある、と。そんなこともあるのですか?
それは、ありうることですね。
ご経験のある方はご存知かと思いますが、ビザは申請するときに、フォームに記入をしていくだけで、申請する方のバックグラウンドなどについて、詳しく付け加えての説明ができないですね。
強制送還のWarning、またビザ申請が却下になった場合など、
フォームには書ききれない
「この人はこういった事情があって、こういうバックグラウンドがある。
だから、『ダメ(強制送還や申請却下)』な理由にあてはまらないんだ」
ということを、証明する。
移民法はかなり幅広く、ケースオフィサーの裁量にかかっているところがかなりあるんです。申請者の条件を、ケースオフィサー、つまるところは「人」が判断する。
弁護士としては、法律を解釈したり過去の判例(事例)を用いて、いかにケース・オフィサーを説得するかが、腕の見せ所でもあります。
法律というのは意外と柔軟な側面があるんです。
やはり「人と人との関係」なんです。
―占部さんのお話を聞いていると、弁護士さんや法律へのイメージがずいぶん変わってきますね。ただ弁護士さんにお願いするにあたって、もう一つ思うのが「高いんだろうなあ」ということなんですよね。
当事務所では、個人の方の場合、初回1時間のご相談は無料なんですよ。
なので、悩んだり、困ったなっていうことがあったら、今お話ししたご家族やビザの問題以外でも、とにかく気軽に来ていただけたらと思います。
もしこの1時間の間で解決できるものであるなら、それでも私どももまったく問題はないんですよ。
ケースを不必要に長引かせて、高い金額にするのは不本意ですし、やはりお客様との信頼関係というところが一番ですから。
実際、初回にお会いしてお話させていただくことによって、
「どういう道があるかわかった」
といって喜んで帰られた、というケースもあります。
それは私にとってもやはりうれしいことなんです。
特に個人の方の場合には、ビジネス、というよりも、サービスをさせていただくことによって社会貢献ができれば、と考えています。
先ほどもお伝えしたのですが、お客様にとって何がベストなのか、ということを常に考えて、情報のご提供やサービスをさせていただきたいです。
ぜひ、この初回を有効に使っていただきたいと思います。
―それは心強いですね(笑) いつか困ったことがあったら、必ず相談にお伺い致します。
ところで、占部さんは日本でも法律を学んでいらっしゃいますが、日豪間の法律の違いは大きいのでしょうか?
日本とは大きく異なると考えます。特に法律の“成り立ち”に違いがありますね。
例えば、オーストラリアでは裁判所が作る「判例法」、英語でCommon Law(コモン・ロー)というのがあって、これは時代や社会に応じて変動することを想定した法律なんです。
まさに、その法律の変動をいかに随時掌握して、それを利用した「説得ができるか」というのが、こちらの弁護士の力量です。
それからユニークなのが「衡平法(こうへいほう)」、英語でEquity と言って、判例法でも解決されない分野に適用される法準則があります。
例えば、ある不動産の所有者は旦那さんの名前だけになっているが、長年彼とともに暮らしてきた奥さんにも、権利があるはずだ、といったようなことを主張できるのがこの法律です。
オーストラリアの司法は、フェアネス、公平感覚が強いですね。
これがオーストラリアの、フェアな社会風土を作る土台になっていると思います。
最高裁判所の前で。占部さんが勤務しているリンカーンズ法律事務所の近くにある
―オーストラリアのお話になりましたが、占部さんはシドニーに長く住んでいらしたんですね。メルボルンとシドニーは、どちらがお好きですか?
もちろんシドニーは私にとっては故郷でもありますし愛着がありますが、個人的には、メルボルンも住みやすくて、大変気に入っています。
たくさんの民族文化が混在していてうまく調和している。コンパクトだけどスマートで洗練された街、という感じがします。
シドニーは港が美しく、昔から開放的な街ですね。ただ最近は人口の増加に伴って都市化が進み、人と人との触れ合いが少しずづ減ってきているような。
20年前のシドニーの人間的な温かさが、今のメルボルンにはまだある。そんなメルボルンが好きですね。
―最後に、占部さんの座右の銘をお聞かせいただけますか?
1996年から2009年まで、オーストラリア連邦最高裁判所の裁判官を務め、またAustralian Law Reform Commissionの初代会頭も歴任した、マイケル・カービー元最高裁判事から、直接いただいた言葉をご紹介させて頂きたいと思います。
彼の伝記『Michael Kirby – Paradoxes & Principles(A J Brown著)』に、直筆で頂戴した言葉です。
“Make a difference and always stand up for equality and justice.”
Make a differenceとは、
批判を恐れず、信念を貫き、時代の変革の先頭に立つことで社会に貢献すること。
そして
”always stand up for equality and justice”
とは、文字通り、
常に平等と正義のために立ち上がれ!
というメッセージですね。
マイケル・カービー元最高裁判事直筆の、占部さんへのメッセージ。冒頭の「ジョン」と言うのは、占部さんの英語名。
60-70年代の白豪社会から、今の多民族多文化国家オーストラリアへと移り変わった背景には、少なからずマイケル・カービー元最高裁判事の多大な貢献がありました。
マイケル・カービー元最高裁判事のように、不公正を取り除き、人権が守られ、より住み良い社会作りの一旦を担うことができれば、法律家としてこれに勝る喜びはありません。
そのためにも、オーストラリアで夢を実現しようとがんばっている邦人の方々を応援します!
―興味深いお話、ありがとうございました。
聞き手:田部井紀子、高阪竜馬 文・写真(最後のメッセージ以外):田部井紀子
※編集部注記:
プロフィール欄内、オーストラリア・モナッシュ大学の学位名の翻訳につきまして、
編集部では以下のウェブサイトを参考にしております。
http://www.law.monash.edu.au/future-students/jd/
※編集部追記:
プロフィール欄内、モナッシュ大学の学位の英語名を併記。
モナッシュ大学法科大学院法務博士課程(Juris Doctor)