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スカッシュ・プレイヤー Sarah Fitz-Geraldさん & 大宮 有貴さん インタビュー

スカッシュを愛してやまないスカッシュ・プレイヤーたち

2009年5月16日掲載



【プロフィール】
サラ Sarah Fitz-Gerald (写真:右)
出身地:メルボルン
スカッシュ暦:6歳から現在
スカッシュとの出会い:母親がスカッシュの選手であり、その影響で幼少のころからスカッシュと触れ合っていた。
主な戦績:
世界チャンピオン 3回
コモウェルスゲーム 金メダリスト

大宮 有貴 (写真:左)
出身地:東京都
スカッシュ暦:19歳から現在
スカッシュとの出会い:アルバイト先の元エグザス笹塚(現A-1スポーツクラブ)にコートがあり、営業時間終了後、他のスタッフ達と一緒に遊びでやったのがきっかけ。
主な戦績:
'06 全日本選手権 4位
'08 アジア選手権日本代表
'08 全日本選手権 3位
'08 世界選手権日本代表

インタビュアー:武吉 恵理
 

 

--スカッシュに出会ったきっかけは何ですか?

大宮さん:東京の笹塚って知っていますか?そこに住んでいたので、その近くにあるスポーツクラブ(現・NAスポーツクラブAー1)でアルバイトをしていたのですが、そこにスカッシュコートがあって、「あぁ。こういうスポーツがあるんだ」ってことを知りました。それが出会いですね。


--それは何歳のときですか?

大宮さん:19歳ぐらいの時です。


--え!?では、子供の時からスカッシュをやっていたという訳ではないのですね?小さな時からスカッシュをされていて、今に至るのかと思っていました。それで、今は日本3位なんて凄いですね!

大宮さん:日本ではジュニアのときからスカッシュが出来るという環境が整っていないので、大体の方が大学に入ってサークルで始めるというのが多いですね。大学から始めても早い方なんですよ。一般の方は、もう少し大人になってから始める方が多いです。


--では、20代になってから始められる方が多いということですね。

大宮さん:そうですね。でも現在トップにきている男子選手はジュニアの時からスカッシュを始めた人たちが多くなってきました。だいぶ低年齢化してきてますね。
2008年の全日本チャンピオンは福井裕太選手、21歳です。  


--現在の日本のスカッシュ事情について教えていただけますか?以前と比べると普及してきましたか?

大宮さん:そうですね。以前と比べるとスカッシュをする人が多くなったとは思うのですが、人が多く集まる都会にスカッシュコートが少ないのが現状です。その割には増えてきてる方だと思いますが、コート自体の絶対数が少ないので爆発的に増えるということにはならないですね。それでも、スカッシュを始めてみたいといって始められる方が最近多い気はします。


--この限られた空間(スカッシュコート)でスポーツをするというのは、他のスポーツと比べて難しいですか?

大宮さん:対戦相手と同じコートの中にいるので、難しいと言うよりは特殊ですね。あとは横と後ろの壁がつかえるので、前から来るボール以外にも、横に当たって来るボール、後ろから来るボールも取るところが、テニスとは違う特徴です。テニスだと前だけですが、スカッシュは左右、後ろにも神経を集中しなければいけないですね。そして、ボールもゴルフボールぐらいでものすごく小さいんですよ。


--スカッシュの練習はどのくらいの頻度でされていますか?

大宮さん:私の場合は自分の仕事があるので、練習は週に二日しか出来ていないです。だから、今回のように長期休暇をもらってスカッシュに集中できるというのは凄く特別なんですよ。仕事がスカッシュのコーチなので融通が利くほうではあると思いますが。

日本ではまだプロフェッショナルなスカッシュのシステムは確立されていないということなんですか?

大宮さん:一応チャンピオンの選手などにはスポンサーが付いているので、働かなくても、こんな風に海外でトレーニングをしている方もいます。でも、まだすごく限られているというか…スポンサーがついてもらえる選手はなかなかいないですね。


--今後の展望などはありますか?

大宮さん:私は今後もこのスタイルでスカッシュをやっていきたいなと思っています。自分の時間を持ちつつ、ライフスタイルの中にスカッシュを取り入れていくという感じです。その中で時々このように遠征に来るといった形ですね。

 

--そもそもサラさんと大宮さんはどこで知り合われたのですか?

大宮さん:今回メルボルンで始めて会ったんですよ。サラさんは世界チャンピオンなのに、すごく気さくな方で、私が英語が分からないのを理解してくれて、とても簡単な英語をゆっくり、わかりやすく話してくれます。トップの選手から初心者、誰にでも丁寧に、その人に合ったレッスンをしてくれる方ですね。


--サラさんは大宮さんのことをどう思いますか?

サラさん:とても素晴らしいスカッシュ選手ですし、とてもいい人です。月曜日、火曜日、水曜日と3日間、同じコートで有貴のプレイを見てきているけれど、有貴のプレイ・スタイルは素晴らしいと思います。なので、私はただ試合でのテクニックを向上させる手助けをするだけですね。できれば、トレーニングをしてもう少し体を鍛えて、試合中の考察力や洞察力の鍛え方についても話し合いたいと思っています。


--大宮さんのプレイ・スタイルについてどう思いますか?

サラさん:有貴のプレイ・スタイルは本当に素晴らしいですよ。私ももっと色んなことを学べると思うので、有貴が実際に試合で戦っている姿を見てみたいですね。来週は休みなので試合もペナントもありませんが、再来週には実際に試合に参加させてあげることができると思います。なので、上手くいけば有貴の試合を見ることができるかもしれないです。あとは有貴がオーストラリアにいる間に、トレーニングの一貫として私との試合を考えています。ここにいるメンバーとの練習試合も計画しています。


--今回のような経験は大宮さんにとって本当にいい機会ですよね。

大宮さん:本当にそうですね。日本にはサラさんのような元チャンピオンのコーチはいないので。「こういうショットの種類があるんだ」とか、日本ではなかなか教えてもらえないようなことも教えてもらえますし、引き出しが多いですね。そのうえ、基礎も大切だということも教えてくれます。本当にまた来たいです。


--今回のトレーニングはどれぐらいの期間なんですか?

大宮さん:2週間ぐらいです。仕事があるので、それが最大です。今回はここの施設に問い合わせをして、どういう環境が整っているのかを聞いたのですが、ここのスタッフの方が親切にしてくれて、ここにサラさんが来ているということを教えてくれたんです。それで、絶対ここに来ようという気持ちになりましたね。やっぱり行動力が大切です。まだレッスンは3回しか受けていないんですけど、本当に毎日発見があるので、すごく良かったなと思います。

 

--サラさんはどうしてスカッシュを始めたんですか?

サラさん:私の母がスカッシュ選手だったのがきっかけです。母は4回オーストラリア・スカッシュチャンピオン、3回ビクトリア州チャンピオンを受賞しました。そして、メルボルンでスカッシュ・センターを経営したり、スカッシュのコーチもしたりしていました。6歳の時から始めたので、もう本当に長い間していますね。


--初めてトロフィーを獲得したのはいつですか?

サラさん:最初のトロフィーは私が8歳のときにいただきました。そして、10歳の時にビクトリアの代表選手に選ばれました。14歳の時にはオーストラリアの代表として選ばれ、今に至るという感じですね。


--凄いですね!その中でも、どの試合が一番思い出深いですか?

サラさん:うーん…あり過ぎますね。世界チャンピオン・シップ、コモン・ウェルスゲーム、ブリティッシュ・オープン、オーストラリアン・オープンなど、大きいトーナメントでの試合も思い出深いですが、たった一試合だけの小さな戦いも思い出として残っていますね。なので、どれかひとつだけ選ぶというのは本当に難しいです。私にとって全ての試合がとても大切なもので、思い出深いですから。


--スカッシュをするにあたって、パワーとテクニックどちらの方が大切だと思いますか?

サラさん:両方です。でもやはりテクニックの方が基本的には大切になってくると思います。もしテクニックを持っていたら、力は自然と伸びてきますからね。なのでテクニックはとても大切です。特にバックコーナーからくるボールは難しいので、高度なテクニックが必要となってきます。そのテクニックを伸ばしたいなら、毎日たくさんの練習をしなければなりません。プロのスカッシュ選手、テニス選手、バドミントン選手はおそらく毎日厳しい練習をしていると思います。私が現役の時は、毎日4時間ぐらい練習していました。でも4時間ずっとスカッシュをしていたわけではありませんよ。1時間はスカッシュ、1時間はジム。また午後には1時間スカッシュ、1時間はもっと細かいテクニックの練習をしていました。ボールなしで行うシャドウィングを行ったりして、俊敏な足をつくったりしていました。


--やはりスカッシュ選手にとって敏速に動くのは大事ですか?大宮さんはスカッシュ選手にとって技術とパワー、どちらが大切だと思いますか?

大宮さん:テクニックを磨いてもパワーで押されちゃうとボールを返せないので、ある程度自分でもプレッシャーをかけていって、チャンスが来た時にテクニックを使っていかないといけないとは思います。そうですねぇ…どっちもあればいいですね(笑)。その点、サラさんはここにボールをパスしてと言えば必ずそこにパスしてくれますから、凄いなと思います。そのぐらいサラさんは体で覚え込んでいますし、頭にも入っています。見なくても、ここに打てばここにというのができるぐらい完璧だと思います。サラさんは想像以上にスカッシュを練習しているんだなということが分かりますね。

--サラさんはスタミナを維持するために何をされていますか?

サラさん:フィットネス、スカッシュ、ランニング、そして筋力トレーニングなどをしています。


--どのようなエクササイズが美しくきれいな体をつくるのにオススメできますか?

サラさん:筋力トレーニングです!右手ばかりを使ってスカッシュをしていると右腕と右足だけがとても鍛えられてしまうんですよ。なので、左腕と左足も同じように鍛えないといけません。左右の体のバランスが均等ではなくなってしまうと、見た目もおかしくなりますからね。


--スポーツ選手は試合の前などにたくさんのストレスを感じたり、緊張したりすると思うのですが、サラさんはリラックスするために何かしていますか?

サラさん:私は基本的にあまり緊張しませんでした。コントロール力に優れていたんだと思います。例えば、私は大切な試合が今日あるとしても、その試合はまた別の日にあるんだと思うようにして過ごすという術を学んでいました。なので、世界チャンピオンの決勝戦で戦わなければいけないとしても、いつも通り、朝起きて、朝ごはんを食べて、練習をして、昼ごはんを買いに行って、洗濯をして…そして「よし!試合をしよう。」という感じで試合をする事ができると思います。「あぁ。決勝戦だ…。座ってなくちゃ。リラックスしなくちゃ。しっかりした服着なくっちゃ。」と考えないようにしますね。これではダメです、とてもストレスが溜まってしまいます。自然体であろうとすればうまく試合もできるし、リラックスもできます。もちろん試合に集中して、考えなくてはいけないけれど、あまりにも考えすぎて集中してしまうと、試合が始まる前の段階で疲れ果ててしまいます。なので、自然体でいることが一番ですよ。スカッシュのことを考えないようにして、気を紛らわせることをするんです。友達と話したり、散歩したり、メールの返信をしたり、本を読んだり、本当にただいつもと同じように過ごせばいいんです。こういう風に過ごすことができない人もいますが、人それぞれ違いますからね。これは私の試合前の習慣であり過ごし方でした。ある人は試合前に、部屋の中にずっと閉じこもって集中している人もいましたけど。


--大宮さんはどうされていますか?試合前は緊張とプレッシャーがあると思いますけれど。

大宮さん:コーチ業をしていることもあって、試合に知り合いの方や生徒さんが見に来てくれることがあるんですよ。緊張するというよりかは、試合を見に来ていただいたことに感謝して試合させてもらうという感じですね。試合前は皆さんとお話したり、音楽を聞いたりして過ごして、いざ試合が始まるぞって時になって初めてスカッシュに集中するという形ですね。でも、さすがに初めて日本代表がかかった試合の時には「もしかしたらこれが最初で最後のチャンスかもしれない」と思ってしまい、とても緊張しましたね。もう二度とこんなチャンスは与えられないかもしれないとか、色々と考えてしまいました。2人で戦ったのですが、負けた方は日本代表になれないというプレッシャーは相当のものでした。どうにか普段どおりの試合が出来るように努力しましたが、今思い返しても、あの時はかなり堅かったと思います。でも、強い気持ちをもって頑張りました。2回目の選考会の方が1回目の時よりリラックスして挑めました。なので、経験も大切になってくるのかなとは思いますね。

 

--オーストラリアのスカッシュ事情について教えてください。

サラさん:昔はオーストラリアのスカッシュはとても強かったと言われています。現在でも、オーストラリアの代表として世界4位のRachael Grinham、世界5位のDavid Pelmerなどの強豪選手がいます。RachaelもDavidも数々の賞を獲得しています。でも、オーストラリアの若手選手やジュニア部門はあまり強くないので、これから私たちがトレーニングをして強くしていかなければならないなと思っています。再びオーストラリアを強くしたいですね。今後も若手女性選手を何人かトレーニングする予定で、Melody Francisというオーストラリアで5位の選手がここにきてレッスンを受けます。彼女はだんだん上手になってきて強くなってきているので、将来有望だと思いますよ。

 

--日本のスカッシュ事情はどうですか?注目している選手などがいますか?

大宮さん:やはりコートの数が少ないので、ジュニア育成ができる環境が整っていないというのが現実ですね。なので、発掘される機会が極めて少ないです。日本にももう少しスカッシュのコートができてくれれば、スカッシュを始められる方も増えますしチャンスも増えると思うのですが…。世界を見てそう思いましたね。やっぱりスカッシュには経験も必要ですからね。ジュニアからスカッシュをやっていたほうが、若くて体力のあるうちにテクニックも培えるのでいいと思います。その為にはやはりスカッシュコートがもっとあるといいですね。でも、19歳の小林海咲選手がスコティッシュ・ジュニアオープンで優勝したりと海外での活躍も増えています。もしアジア・チャンピオンになってくれたら、日本でもスカッシュが注目されることになるのではないかなと期待しています。


--大宮さんは今後の試合の予定はいかがですか?

大宮さん:12月に東アジア選手権というのがあるのですが、その代表選考会が7月にあります。まずはそれに向けての取り組みがメインになってきます。また仕事と練習の日々を繰り返していくと思います。オーストラリアは今回で3回目になりますが、ちゃんとこのように練習しに来たのは初めてなんですね。やはり日本と違ってコートがたくさんあるのでいつでもどこでもスカッシュが出来るのでいいですね。とりあえず場所とは関係なく、スカッシュをするにあたって大切となってくるのは、コーチと自分のレベルに合った練習相手です。次回もそういった点を確認して、またオーストラリアに来たいですね。今回は素晴らしいコーチサラさんに出会えて本当によかったと思っています。あとはここで学んだものを自分のものに出来るかにかかっていますが、きっかけは充分すぎるほどいただけました。


--これからスカッシュを始めたい方にとって、どういう始め口が一番いいのでしょうか?

大宮さん:だいたい社会人の方が多いと思うのですが、ダイエットとか、ちょっと太りすぎちゃってメタボだからどうしようとか、そういう感じで入ってくると思うんですね。その解消法として、ランニングとかフィットネス・トレーニングをして鍛えるのもいいのですが、その一貫としてスカッシュをとりいれてもらえると効率がいいと思います。スカッシュは走るよりも何倍もの消費カロリーもありますし、ゲーム性もありますし、楽しみながら汗をかいて痩せることができるので。そんな入り方でいいと思いますよ。それで、もしスカッシュのゲーム性に惹かれたなら、どんどん入り込んでいけると思うので。ダイエットにも効果的だと思います。一応、テニスの3倍の消費カロリーで、10分間に150キロカロリーを消費できるんですよ。なので、あまりにも飛ばしすぎてスカッシュをすると、すぐにばててしまいますので気をつけてくださいね。でも、体力も付きますし、ラリーが続いていくと有酸素運動にもなっていくのでいいと思います。そういうきっかけで大人の方にはスカッシュを始めていただけるといいかなと思います。


--サラさんはメルボルンについてどう思いますか?

サラさん:大好きです。ここは私にとっては生まれ育った故郷でもありますし。メルボルンには素晴らしい文化、レストラン、スポーツ、そしてファッションがあります。これは私がメルボルン出身だからかもしれませんが、メルボルンの人には独特のユーモアというか気質があるように思います。これはシドニーにはないのではないでしょうか。メルボルンの人々はよりフレンドリーで、「誰かを助けたい」「一緒に楽しみたい」という気持ちが強いように思いますね。もちろんシドニーも好きですが、メルボルンとは違うなということが分かってきました。あまり笑わなかったり、フレンドリーじゃなかったりという印象がありますね。なんていうか、少しお高くとまった感じがしてしまうのが正直なところです。メルボルンには四季もあるので、夏を楽しんだり、冬を楽しんだりすることができるのも魅力です。冬のとある一日、20度前後の気温で、透き通るような青い空、もう最高です!とにかく、メルボルンは私の故郷でもあり大切な家族が住む土地でもあり、大好きな街ですね。


--サラさんの今後の予定について聞かせてください。

サラさん:今後もスカッシュと共に生きていくつもりです。コーチ業を続けていきますし、もしできることなら永遠にスカッシュをしていきたいですね。現在オーストラリア・スカッシュ運営協会の副代表をしているのですが、将来的にはそこでの仕事をしていくことになるかもしれません。また、コメンテーターとしての仕事もしています。香港オープン、コモン・ウェルスゲーム、ブリティッシュ・オープンなどでもコメンテーターをしました。今までもスカッシュに関することならどんなことでも取り組んできたので、これから先もそうしていくと思います。

 

--最後に日本のみなさんにメッセージをお願いします。

サラさん:ぜひスカッシュをしにメルボルンに来てください。スカッシュは楽しいですよ!そしてきっとスカッシュの虜になることと思います!

大宮さん:「ぜひメルボルンに来て、サラさんのレッスンを受けてください」と言いたいですね(笑)。

サラさん:ありがとう有貴!さっき本当は「スカッシュをしにメルボルンに来てください。スカッシュは楽しいですよ!メルボルンで私に会えるかもしれませんよ!ぜひ私のレッスンを受けにきてください。」と言おうと思っていたのよ(笑)。

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