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私のソウルメイト(20)

 その晩、私は、なかなか寝付けなかった。あの人は彼の奥さんなのだろうか。そうだと、全然勝ち目はなさそうだった。それに、彼の妻でもない私には嫉妬する資格なんてない。そう自分に言い聞かせていた。
 翌日は日曜日で、ダイアナはうちにいた。私は、ダイアナにレスビアンかどうか聞かなければいけないと言う思いにとらわれ、朝ごはんを食べているときに、思い切って聞いてみた。
「ねえ、ダイアナ。あんたボーイフレンドいないの?いたら、紹介してよ」
「そんなのいるわけないじゃない」
「あら、だって、あなたの友達みんないるじゃない」
「皆って誰のこと? 皆いるわけじゃないわよ」
「じゃあ、エミリーは?」
「いないわよ」
「エミリーとあんた、もしかして、レスビアンなの?」
ダイアナの顔が見る見る固くなると、投げつけるようにスプーンをおくと、席を立って、自分の部屋にかけこんでしまった。
「何も、朝ごはんのとき、そんなことをきくことないじゃないか」とアーロンは非難めいた口調で言ったが、あのダイアなの態度から、レスビアンなことが確定したように思えた。
私はすぐに京子に電話した。私の話を聞いた京子は、いつものようにおおらかだった。
「まあ、親の私たちが、どうこう言って、何もできるわけじゃないわよね。今はイギリスみたいにゲイの人たちも大手を振って結婚できる国もでてきたわけだから、そのうちオーストラリアもゲイ同士で結婚できるようになるわよ。現に最近オーストラリア政府だって、遺産相続なんていう面でゲイのカップルを認めたじゃない。今じゃゲイの人たちでもパートナーが死んだら、自動的に遺産相続ができるようになったじゃない」
「でも、そうなると、うちなんか、孫を抱ける望みがないってことになるわ。お宅にはフランクがいるからいいけど」
「何言ってんのよ。最近レスビアンの人でも優秀な精子を提供してもらって人工授精で子供作っている人だっているわよ。まあ、ビクトリア州では法的に認められていないけど、ニューサウスウェールズ州では合法化されているからね。変な男と結婚して、変な子供を作るよりよっぽどいいわよ」
「でも、まだゲイに対する偏見は強いわよ。私ダイアナには人から後ろ指さされるような人生を送ってほしくないわ」
「まあ、平凡に暮らしていければいいとは思うけど、今社会はどんどん変わってきているからね。10年たったら、また偏見だってなくなっているわよ。考えて御覧なさいよ。あなたと私がオーストラリアに来たころはアジア人に対する偏見って強くって、私たち色々腹立たしいことにであったじゃない」
そう言われてみると、京子はオーストラリアに来て間もない頃、白人のオーストラリア人の少年に道を歩いていて後ろから頭を殴られたことがあったっけ。その理由が京子がアジア人だからだってことだった。その少年は結局少年院に1ヶ月送られたと京子から聞いたことがある。
「今は、アジア人も皆大手を振って、歩けるけど」
そうだ。私が来て20年の間オーストラリアは随分変わった。だからゲイに対する偏見はもっと少なくなって、ゲイの人たちにとって住みやすい世の中になっているかもしれない。確か、ミッシェル・フーコーと言う有名な哲学者が言っていたっけ。核家族が理想になったのは、それが産業社会にもっとも適した家族形態だからだ。昔大家族が普通だったのは人手を要する農耕社会だったからだ。時代または社会機構によって、理想的な家族形態は変わってくるって。だから、将来の家族形態にはお父さん二人の家庭とか、お母さん二人の家庭とかもあったって、不思議ではないのかもしれない。私たちがただ今の家族制度が理想だと洗脳されているだけのことかもしれない。
「それじゃあ、あなたもエミリーとダイアナがカップルになっても、反対はしないのね」
「反対するもしないも、エミリーもダイアナも自分の人生を自分で選択すればいいと思っているわ」
京子も、アーロンと同じようなことをいう。私は自分は結構物分りのいい人間だと思っていたけれど、アーロンや京子と話していると、頭がコチコチの保守的な人間のように思えてきた。
「そういえば、ちょっと聞いてほしいことがあるの。火曜日に行ってもいい?」ときくと、
「勿論よ。じゃあ、待ってるわ」と電話が切れた。
その日はダイアナは私と顔を合わせても目線をそらせて私を避けるようにして、一言も私と口をきかなかった。きのうから落ち込むことばかりだった。ロビンが妻帯者だと分かったこと、そしてダイアナがレスビアンだと分かったこと。何だか将来夢見ていたことが、全て崩れ去っていくようなさびしい気持ちに襲われた。

著作権所有者:久保田満里子

マイカテゴリー: 一般

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