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木曜島の潜水夫(40)

1978年、トミーのもとに日本大使館から思わぬ知らせが届いた。天皇陛下から勲六等瑞宝単光章を授与されることになったと言うのである。オーストラリアと日本の梯になって貢献していることに対する褒章だと聞き、嬉しい気持ちよりも戸惑いが強かった。困惑しているトミーを見て、ジョゼフィーンたちのほうが、「すごいじゃない!」と喜び、その後じわじわとトミーにも受勲の喜びが湧き起こった。どうやら、司馬遼太郎の書いた「木曜島の夜会」でトミーが紹介されたことで、日本でのトミーの知名度が一挙に上がったためらしい。最初司馬遼太郎の前ではトミーは無口で、司馬遼太郎もどう話を引き出したらいいものかと苦労したらしいが、「藤井さんは、有田の出身だそうですね」と、有田の話を持ち出したら、とたんにトミーがいろんなことを話し始めたという。きっと、えらい作家が日本から来たというので、珍しくトミーは緊張していたのかもしれない。その後も、オーストラリアの新聞にインタビュー記事が大きく載せられたりして、オーストラリアでも藤井富太郎の名前は知られるようになっていた。
1966年の日本旅行の時、もう2度と日本に帰ることはないだろうと思っていたのに、勲章授与式に参加するため、2度目の日本旅行をすることになった。1966年の日本旅行から12年の月日がたっていた。


参考文献
「オーストラリア・木曜島に渡った日本人の足跡を追う―藤井富太郎氏の生涯から考える」 
伊井義人、青木麻衣子 (藤女子大学貴陽第49号第Ⅱブ:1-9,平成24年
「トーレスの海に生きた日々」 (オーストラリアの日本人:一世紀をこえる日本人の足跡)1998年18-19ページ 城谷勇 
「日本人潜水夫の採貝技術」(オーストラリアの日本人:一世紀をこえる日本人の足跡)1998年20-21ページ 城谷勇
「最後の潜水夫 藤井富太郎さんと日本墓地」(オーストラリアの日本人:一世紀をこえる日本人の足跡)1998年 茂木 ふみか 22-23ページ
「捕らわれの記」  城谷勇 (オーストラリアの日本人:一世紀をこえる日本人の足跡)1998年66-67ページ
“Tomitaro Fujii: Pearl Diver of the Torres Strait” by Linda Miley,  Keeaira Press: Published in 2013 
「オーストラリア日系人強制収容所の記録」  永田由利子  2002年
「カウラの突撃ラッパ」  中野不二夫 1991年
「語られ始めた日本人抑留体験―オーストラリアとニューカレドニアを比較してー」
 永田由利子

ウエブ検索
The pearling industry in Australia: https://tanken.com/moku2.html   
「オーストラリア木曜島へ行く:真珠貝採取の日本人」
jstor.org/stable/pdf/j.ctt1q1crmh.8.pdf   
 “The Japanese in the Australian Pearling Industry “ by D.C.S. Sissons   jsto.org/stable/pdf/j.ctt1.1crmh.8.pdf
「南半球便り(その86):遥かなる木曜島」山上信吾、在オーストラリア日本大使館ウエブサイト」
https://www.i-repository.net/contents/outemon/ir/102/102050904.pdf
「第二次大戦前のオーストラリアへの日本人移民の諸問題」 遠山嘉博
https://www.youtube.com/watch?v=enedGUI6pF8
 「木曜島の旅 オーストラリアで司馬遼太郎の軌跡をたどる」

ちょさ

 

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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