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木曜島の潜水夫(38)

日本大使一行が木曜島を訪れ、レインボー・モーテルに泊まった時のことである。前日珠代が「明日は、日本大使が大使館の職員を連れていらして、パパと話がしたいとおっしゃっているから、明日の朝はどこにも行かないでね」とトミーに念を押しておいた。その朝7時半に珠代がお客さん達の朝食を持って食堂に行くと、6人いるはずの客が一人しかいない。珠代が驚いて、「ほかのお客さんは、どこに行っちゃったんですか?」と聞くと、「皆トミーさんに付いて、マンゴー狩りに行ったよ」と言う。マンゴー狩りは、トミーの趣味の一つだった。「僕たちが、ここで座っていると、トミーさんがバケツと棒を持って通りかかったんだ。どこにいくのか聞いたら、マンゴーを採りに行くって言うので、皆面白そうだと言うので、トミーさんについて行ったんですよ」。珠代は、運んで来た朝ご飯を見て、ため息をついた。「あんなに、服も着替えて、出かけないように言っておいたのに」と、珠代は心のうちで、ぼやいた。しかし、レインボー・モーテルに泊まった日本人客の多くが、そんなトミーの気さくで飾らない人柄に魅せられた。

参考文献
「オーストラリア・木曜島に渡った日本人の足跡を追う―藤井富太郎氏の生涯から考える」 
伊井義人、青木麻衣子 (藤女子大学貴陽第49号第Ⅱブ:1-9,平成24年
「トーレスの海に生きた日々」 (オーストラリアの日本人:一世紀をこえる日本人の足跡)1998年18-19ページ 城谷勇 
「日本人潜水夫の採貝技術」(オーストラリアの日本人:一世紀をこえる日本人の足跡)1998年20-21ページ 城谷勇
「最後の潜水夫 藤井富太郎さんと日本墓地」(オーストラリアの日本人:一世紀をこえる日本人の足跡)1998年 茂木 ふみか 22-23ページ
「捕らわれの記」  城谷勇 (オーストラリアの日本人:一世紀をこえる日本人の足跡)1998年66-67ページ
“Tomitaro Fujii: Pearl Diver of the Torres Strait” by Linda Miley,  Keeaira Press: Published in 2013 
「オーストラリア日系人強制収容所の記録」  永田由利子  2002年
「カウラの突撃ラッパ」  中野不二夫 1991年
「語られ始めた日本人抑留体験―オーストラリアとニューカレドニアを比較してー」
 永田由利子

ウエブ検索
The pearling industry in Australia: https://tanken.com/moku2.html   
「オーストラリア木曜島へ行く:真珠貝採取の日本人」
jstor.org/stable/pdf/j.ctt1q1crmh.8.pdf   
 “The Japanese in the Australian Pearling Industry “ by D.C.S. Sissons   jsto.org/stable/pdf/j.ctt1.1crmh.8.pdf
「南半球便り(その86):遥かなる木曜島」山上信吾、在オーストラリア日本大使館ウエブサイト」
https://www.i-repository.net/contents/outemon/ir/102/102050904.pdf
「第二次大戦前のオーストラリアへの日本人移民の諸問題」 遠山嘉博

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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