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木曜島の潜水夫(31)

1955年、48歳になったトミーに三番目の子供ができた。木曜島病院で生まれたその子は、ロザリン・テレサ・ちおみと名付けらた。皆からチチと呼ばれる可愛い女の子だった。
 トミーは、チチが生まれた翌年、1956年にもう一度、潜水夫の免許を申請した。この度は、警察も、トミーは品行方正で、人柄も良いと報告してくれ、免許を取ることに成功した。免許を取ったトミーは、オーストラリア国籍も申請した。木曜島に家族と一緒に住み、生活の基盤をオーストラリアに築いた今、もう日本に帰って住むことはないと思ったからだ。トミーの家のパーティーの常連だった警備船の船長メロー氏は、次のような推薦状を書いてくれた。
「私は、トミタロウ・フジイを5年前から知っています。よく彼の家を訪れて、トミーの家族もよく知っています。富太郎は25年前、クリスチャンの洗礼を受けています。彼の家は典型的なオーストラリア・スタイルの生活をしています。オーストラリア人の女性と結婚し、小さい子供達を育てて、オーストラリア風の生活をしています。私は彼を立派なオーストラリア市民だと思っています。彼のオーストラリア国籍申請を好意的に検討していただくよう、お願いします」
メロー氏の推薦状も効果はなく、この申請は拒否された。その理由は、今までの政府の方針と合わないと言うものだった。まだまだ白豪主義が続いていたのである。

 

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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