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オリンピック柔道メダリスト・田辺陽子さんインタビュー

柔道が世界で愛される理由

2011年5月31日掲載

 
 
【プロフィール】
田辺 陽子 Yoko Tanabe
1966年生まれ、東京都出身。柔道六段。
全日本女子柔道選手権6連覇、並びにソウルオリンピック銅メダル、アトランタ、バルセロナ両オリンピック銀メダル獲得というオリンピック3大会連続メダル獲得者。現在は日本大学柔道部コーチ及び同大学で准教授として教鞭を執る他、日本オリンピアンズ協会、公益財団法人日本アンチ・ドーピング機構の理事としても世界で活躍中。
 
 
 
-先ずメルボルン滞在の目的を教えてください。
柔道を通し、オーストラリアのスポーツ環境を見るのが滞在の目的です。シドニーオリンピックの際に来豪しただけなので、(どこに滞在すべきか)状況がよく分からなかったのですが、知り合いの大学の先生に相談した所、Caulfield柔道クラブを紹介され、メルボルンに決めました。
 
 
-オーストラリアの柔道の現状についてお聞きしたいのですが、オーストラリアで柔道はどのぐらい浸透していますか?
日本や韓国、ヨーロッパと比べ、オーストラリアの柔道はまだ世界のトップ水準に及びませんが、身体能力やアンチ・ドーピングを中心としたスポーツ教育の環境が非常に整っているので、そういった土壌の中で今後高いレベルになる感じはしますね。水泳にしても世界のトップを走っていますし。
日本はオーストラリアのシステムを色々見習っているんです。ジュニアのタレント発掘や、選手の練習環境、体のケア、トレーニングやメンタルにしても、手本にしている点はたくさんあります。選手生活を終えた後のアフターキャリアの面でも進んでいるし、これからが非常に楽しみです。
 
     
 
 
-オージーは体格の大きな人が多いですが、柔道向きと言えますか?
身体能力は日本人より高いものを持っていると言えるでしょう。筋力も瞬発力も。また色々な人種が混ざっているという点もあるので、そういう面では高いレベルにありますね。
 
 
-オーストラリアはよくスポーツ大国と言われますが、田辺さんからみてアスリートの環境等、日本との違いは感じますか?
スポーツ大国ですよね。オリンピックのメダル数も日本より上ですし。国として上手くスポーツをサポートしていますね。日本はこれからスタートと言った感じです。オリンピックにしても、今は国の技術的なサポートがあって初めてメダルが取れると言う様にレベルも上がっています。前回のオリンピックと来年のロンドンとでは、もう技術的にかなりの違いがあるでしょう。ただメダルを取るという事ではなく、国のサポートによって国民が活気付いたり、子供たちも健康であったりという風な広がりが出るのではないでしょうか。
 
     
 
-国際大会において国によってチーム作りに違いはありますか?
オリンピックに行くための体制作りが済むと、次に「チームジャパン」としてどう闘うのかという雰囲気作りをします。大会二ヶ月前には国立スポーツ科学センターに集まり、普段話す機会の無い違う競技の人たちとゲームをしたり、色んなコミュニケーションを取ってチームビルディングをした上で試合に臨む。一つのチームとして闘う事で、プラスになる所があるのです。雰囲気作りは国によって様々で、例えばフランスでは皆でヨットに乗ってチームビルディングをしてオリンピックに臨んでいます。オーストラリアはそういう面でも進んでいて、シドニー五輪から凄いスピードで国を上げて対策を練っている。そういったものが結果に繋がっているのだと思います。
 
 
-現在、日大女子柔道部の監督として後進の指導に当たり、ここメルボルンでも道場にて柔道レッスンをされていますが、選手への指導や育成の中でモットーとされていることはありますか。
努力しても、なかなかすぐに結果には結びつかないですよね。最終的に結果が出る選手もいれば出ない選手もいます。一生懸命やった事が、次のステップに活かされるようにしたいです。もちろんオリンピックで金メダルを取れればそれは素晴らしい事ですが、4年に一度、7階級しかない柔道ではたった7人しか取れません。そういう結果だけでなく、努力した過程を大切にして欲しい。どういう風に努力し工夫したのかという事が、次の仕事やスポーツに取り組んだ際に活かされると思います。中途半端にやったら、次のステップも中途半端になってしまう。限られた時間の中で目標に向かい自分はこうやって努力・工夫したとか。その辺りを感覚的に教えていければ、と思います。
 
 
 
-高校時代に陸上から柔道に転向されたそうですが、スタートが遅かった分のハンディキャップを埋めるための工夫などはありましたか?
トレーニングの方法や調整の仕方など、陸上競技をやっていた過程で色々な事を学びました。それを活かし、柔道に必要なものは柔道をやる上で作っていきました。早く始めたからいい、遅く始めたから悪い、という事ではないと思います。今は情報もかなりある。どちらかと言うと私達の世代は必要な情報を自分から取りに行くという時代だったんですけど、今の選手は要らない情報を出来るだけカットしていくという感覚的な違いがあるんですよね。いずれにせよ自分にとって今何が必要なのか、情報を取り分けられる様になると良いでしょうね。後は努力する楽しさ。基本的には楽しさが無いと続かないと思うんです。努力した結果は次のステップに繋がるし、自分で何かを見つけて行動して、それが実る楽しさは必要ではないかと思います。
 
 
-柔道での経験は生活の中でどのように生かされていますか?
柔道の中には色んなヒントがあります。例えば人間関係や仕事が上手く進まないといった状況は、柔道の中でもたくさんあるシチュエーションです。相手に上手く組まれてしまい身動きが取れない、そういう時どうするのか、というような。もちろん礼法や、相手をいたわり尊敬する気持ちも、普段の生活や仕事の場面に活かされるでしょう。元々武道としてスタートしているので、教育と言う部分でもとても重視されるのではないでしょうか。
 
   
 
-柔道をスポーツとしてだけでなく、その精神的なものに興味があるオーストラリア人が多いと聞きましたが、そういったことは感じられますか?
寒稽古や暑中稽古、過酷な環境の中で稽古して精神を鍛えるというのも、柔道の中にあります。気持ち的、精神的な成長がなければ技術的にも成長しない。相手に技をかける時の怖さも、自分はこれだけ練習したから大丈夫といった心の支えで乗り越えられる。精神的に鍛えられるというのが、柔道の一番の魅力ではないでしょうか。あとはやはり日本の文化ですから、(オージーにとって)神秘的なのでは。私も高校3年で初めて柔道衣を着、裸足で畳みの上に立った時はすごく神秘的に感じました。
 
 
 
 メルボルンでの生活について 
 
-メルボルンの印象についてお聞かせください。
春に向かって暖かくなっていた日本を発ち、メルボルン到着は4月2日でした。こちらはまた秋から冬に向かうので、体の感覚からすれば、ああ、夏が欲しいなと思いました(笑)。メルボルンの街はトラムが便利ですよね。街の雰囲気も良く、紅葉も綺麗で。皆非常に人柄も良いですし、落ち着いて生活するにはいい所ですよね。
 
 
-メルボルン滞在中にしてみたいこと、行きたい場所等ありますか?
今度Footy観戦に行く予定です。日本では正直見たことがなくて、これはラグビーにしてはシャツが違うな?と言うところから始まって(笑)。今まで観た事の無いスポーツを観戦したいですね。もう一つはこちらの自然。グレートオーシャンロードや、ペンギンツアーにも行きたいです。
 
 
 
-どこかお気に入りのカフェ・レストランはみつかりましたか?
街の中を歩くと、お洒落なレストランが多いですね。シティでランチに行ったイタリアン・レストランのパスタがとても美味しかった。メルボルンは色々な国の食べ物が美味しく食べられますよね。ビックリしたのが、寿司を街中で見ること。ヘルシーなのが売りなんでしょうけれど、なんで酢飯じゃないんだろうって思います(笑)。食事はすごく美味しいです。
 
 
-最後に今後のご予定や目標についてお聞かせください。
オーストラリアに於いて、トップ・アスリートがアンチ・ドーピングに関する教育啓発の部分にどう関わっているのか、それによって子供たちに対する教育啓発がどうやって行われているのかを観ていきます。6月はパースに柔道の全豪選手権を見に行き、6月下旬にはキャンベラのオーストラリア国立スポーツ研究所(AIS)を訪れます。7月中旬よりサンフランシスコに渡り9ヶ月程滞在。来年の3月中旬にはオリンピックに向けてロンドンに入ります。3カ国を周り、それぞれの国のサポートシステムやスタイル、スポーツ環境を柔道を通して見てこようと思います。
 
 
田辺さん、ありがとうございました!
 
インタビュアー:高阪 竜馬、武内 奈苗

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