上原ひろみがジャズ・フェスで弾いた、ピアノの最高峰
フル・コンサート・グランドピアノ、ヤマハCFX
2012年6月10日掲載
一瞬として留まることのない、激流のような音とリズム。
目眩く嵐のような、感情の表出。
小さな体に封じ込められていた無尽蔵のエネルギーが、指と手、表情、腕と足を通して爆発し、ホールを埋め尽くす。
これが、たった一台のピアノから出される音なのかと、聞きながら時折目と耳を疑うほどに、層が厚く、奥行きが深い。
本日10日閉幕する、今年のMelbourne International Jazz Festivalで、そんな強烈なイメージを残した上原ひろみのパフォーマンス。
演奏者へのインタビュー、そしてコンサート・レポートに続き、今度は舞台上での彼女のパートナーのピアノに迫ってみた。
ヤマハのフル・コンサート・グランドピアノ、CFXだ。
世界中でその名が広く知れ渡る、「音楽」の総合メーカー・ヤマハ。
日本では「ピアノ」すなわち「ヤマハ」と認識されるほど、ピアノは、ヤマハの楽器作りの原点。
そのヤマハが「まぎれもなく1世紀以上にわたる私たちのピアノ作りの集大成」と言って憚らない。
それが、このCFXなのだ。
ヤマハは1950年に最初のコンサート・グランドピアノ「FC」を世に出して以来、歴史の深い欧米のピアノ作りに追い付くべく、開発に開発を重ね、91年の「CFⅢ」で、世界における評価を不動のものとした。
そして19年ぶりのモデル・チェンジとして2010年、「CFX」が誕生した。
目指したのは「空間の隅々まで行き渡る深く力強い響き」。
ヤマハのピアノは音色の美しさに定評があるが、特に大ホールでの演奏において、パワー不足が指摘されていた。
CFXでは、豊かな表現力に磨きをかけながら、空間を十分に鳴らし切るだけの力強さを兼ね備えた ピアノを目指した。
まず、土台となる「支柱」の構造を基本から見直し、剛性を大幅に強化した。
音を増幅し、広がりを与える役割を果たす、「ピアノの心臓部」とも言える響板も、木目の方向や湾曲構造の形成方法について再考し、音響特性に優れた木材をさらに厳選。
製造方法や工程を徹底的に見直すなど、妥協のないプロセスを経て、ピアニストが望む音の実現に尽力した。
CFXのもう1つの特徴は、デザインだ。
「今回はたとえ賛否両論あっても、CFXにふさわしいデザインを創出し、世に問いたい」。
開発者たちのこの思いが、外観に色濃く現れた。
最も際立つのはボディサイドの「腕木」の形状。絶妙にカーブし、ユニークでありながら奏者を飽きさせず、演奏を妨げないデザインだ。
ピアノは、生きている。
約8,000もの部品から成るグランドピアノは、人間の身体のようにそれぞれが無限とも思える関係性を持ち、その連携が音の個性となってあらわれる。
今、世界で最も注目を集めるジャズ・ピアニストの1人である上原ひろみ。
彼女の溢れんばかりのエネルギー、目の眩むようなテクニック、情熱、情感、そして遊び心さえをしっかりと受け止め、そのアーティストとしての実力を十二分に発揮させる懐の深さを持つ、CFX。
この2者によるパートナーシップの見事さは、Melbourne International Jazz Festivalで各会場を埋め尽くした観客たちが見せた、熱烈なスタンディング・オベーションと興奮が証明した。
「美が響く力」。
ピアノという伝統的な楽器が新たな進化を遂げた、「歴史的」インストゥルメント。
世界の「ヤマハ」が誇る、フル・コンサート・グランドピアノの最高峰だ。