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おもとさん世界を駆け巡る(15)

9月にやっと帰って来たフレデリックを待ち受けていたのは、おもとさんと三人の子供達だけではなかった。次女のネリーと会って、感慨にふける間もなく、フレデリックはフランス公使館の通訳兼書記官を解雇するという通知を受け取った。フレデリックを目にかけていたデュシェーヌ・ド・ベルクールは、すでに離任して日本にはいなくなっていた。後任のレオン・ロシュによって解雇されたのだ。フレデリックから解雇のことを聞き、おもとさんは不安に陥った。
「またほかの公使館の勤め口を探されるんですか?」と聞くおもとさんにフレデリックは
「それも考えたが、知り合いから自分の会社に入らないかと誘われたんだ。だから、会社勤めをしようかと思うんだ。幸いなことに資金もあるから、会社勤めと言っても共同出資をするということになるだろう。心配するな」と、フレデリックは、おもとさんの不安を吹き飛ばしてくれた。でも、資金があるなんて、おもとさんは初めて聞いた。どこで大金を手に入れたのか、おもとさんは不思議に思った。でも、一家路頭に迷うこともないようなので、夫の仕事に口出しせず、見守ることにした。
フレデリックの新しい雇い主はオランダ人のカステールと言う人物だった。フレデリックは野心家だったが、カステールもフレデリック以上の野心家だった。外国人居留地の住民は主に外国の政府関係者か一獲千金を夢見てヨーロッパから集まって来た商人だったが、フレデリックもカステールも商人たちがぼろもうけをしているのを目の当たりに見て、自分たちも一旗揚げようということになったのだ。二人が目を付けたのは小銃だった。小銃をヨーロッパから輸入して幕府に売る。この計画を外国人の居住者に説明をして資金を集めた。事業が成功したら、多額の利子をつけて返すからといって出資者には約束をした。しかしフレデリックたちの思惑ははずれた。幕府にはすでに小銃を売る商人が渡りをつけており、フレデリックたちの割り込むすきがなかったのだ。思うように幕府との交渉がはかどらず、知人たちから借りたお金を返せなくなってしまった。

ちょさく

 

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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