Vintage 2: Yarra Yeringと楽しむ思い出のディナー
更新日: 2009/10/31


少し温かくなってきたなと思っていた矢先、先週末からの真冬のような寒さ。これがメルボルンならではの気まぐれ気候。一日のうちでも、天候は目まぐるしく変わる。
一方、私のメインの職場である日本料理店では、暫く振りに体制が変わったのを機に、ムードメーカーの皆さんがお店全体の向上心を引き出してくれており、その才能と気遣いには頭が下がる。熟練シェフは、皆を励ます為か、時折美しい歌声も披露してくれるので、皆、ジャイアンのコンサートと同じくらい楽しみにしていて嬉しそう。
こうして良い人々に支えられ、親方達の心のこもった料理と、和気藹々なスタッフとで毎日が温かい当店。しかし勿論、晴天のような出来事ばかりではなく、時には困った出来事にも出会う。
多くの方がEmailでの予約や問い合わせを好む時代、毎日結構な数の返信が必要になる。そんな次々に押し寄せるEmailの中に、クレジットカード詐欺のメールが紛れている事が珍しくないのである。
最近のクレジットカード詐欺の例では、大人数の食事代のデポジットと共にレンタカー代もチャージして、そこから現金を担当者に支払って欲しいと言うものがあった。第三者への代金をチャージした時点で、私たちがクレジットカードマーチャントとしての規約を違反したことになり、損害額は一切保障されない。騙されれば、1万ドル近くの損害。海外の電話番号もしっかり偽造されていて、当店のネイティブスタッフが全く疑わないほどのフレンドリーな問い合わせ電話も掛けてきた。
巧妙な詐欺も多い。慎重にならなければ。
今回、イタリアからの問い合わせを受け取った。彼の名は”ルパ”(仮)。友人が新婚旅行で当店を訪れるので、彼らの食事代金を全てルパ指定のクレジットカードから引き落として欲しいと言うものだった。
問い合わせに使われたEmailの送信元はフリーメール。その上、本人は当店に来たことがない様子。半信半疑で戸惑う中、ルパはイタリアから何度も問い合わせの電話を掛けてきた。残念なことに、その様子は以前あったクレジットカード詐欺未遂にそっくり。アクセントのある英語が怪しさを増す。
とにかく、ルパの一生懸命な姿は、逆に疑わざるを得なかった。金額ではない。店に問題を背負わせたくないという責任。人に騙されれば、誰もが気分落ち込む。
銀行やクレジットカード会社に連絡を取り、イタリアの電話番号が本物か裏付けし、、、信じて良しと判断するまでには時間がかかった。
ルパの友人が当店を訪れたのは、陽気が久々にメルボルンを訪れたのと同じある日。ラブリーなイタリア人新婚カップルを目にして、やっとそれまでの不安が吹き飛んだ。
ルパに言われたように最善を尽くし、当店のシグネチャー料理を組み合わせたコースを紹介し、持て成した。コースメニュー最後のデザートを前に、カップルは涙を浮かべ、「人生で最高の日本料理」と感激してくれた。
ルパの努力は特筆に値する。
時差計算違いで、イタリアの午前3時に掛けてしまった電話にも腹を立てず。
要請した面倒な書類も、全て用意し。
素直に信じてもらえない取引にも、痺れを切らさず。。。。
良い友達を持ったねとカップルに言うと、二人は楽しそうに、ここに来るまでの経緯を語った。
イタリア語で”Caccia al tesoro (Treasure Hunt)"と言うゲームで、まずは、開封してはいけない4通の手紙をルパから受け取ったそうだ。同時に、一通目の手紙を飛行機に乗る前に開けろというのが、ルパからの指示。
1通目にはこう書いてある。 「明日メルボルンにて、ある人物に会ってもらう。彼は宝の鍵を握る人物。次の手紙を飛行機で開けろ。」
2通目、「飛行機を降りたら、直ぐにSouthern Cross駅へ向かえ。空港からの所要時間は30分。その場所で、次の手紙を開けろ。」
3通目、「ある人物と落ち合え。彼は私の友人だ。待ち合わせのレストランを地図に示す。時間は8時。彼は待つのが嫌い。絶対に遅れるな。次の手紙を、レストランで開けろ。」
4通目、「私の友人が現れるはずだ。彼が、あなたふたりを最高に持て成す。この取引は支払い済み。」
こうして、彼らは私に出会った。
カップルが、Yarra Yeringの2003年サンジオベーゼ(Sangiovese)を心地よく飲み終えテーブルを立つ頃、ちょうど店の電話が鳴った。ルパが全てうまく行ったか心配になって、またイタリアから掛けてきたのだった。電話を保留にし、席を立ち上がったカップルに私は言った。
「5つ目のメッセージを預かっていますよ。」
その後のカップルとルパとの会話は、イタリア語が解らなくたって友情と感激に溢れていることが容易に理解できた。
ルパの正体はイタリアのあるミュージシャンであることを知った。
彼の音楽をYoutubeで聴かせてもらったが、温かい音楽である。
彼から、お礼の手紙も戴いた。
"I'll never finish to thank you for the wonderfull courtesy and professional cooperation. My friends had a unforgettable evening in Melbourne."
先日迄、雹まで降って凍えたメルボルン。
でも、大丈夫。こうして、お客さんが心を温めてくれる。
2009 年9月30日


サンジオベーゼは、イタリアを代表するワイン、キアンティ(Chianti)を構成する主な葡萄品種。イタリアからのカップルがこのワインを選んだのは、日本人が海外に来てもやはり日本食で落ち着くのと同じ思いでしょうか。祖国への親しみを感じます。
トマトソースに合うスパイシーなキアンティもある一方、Yarra Yeringのサンジオベーゼはクリーミーに纏まっていて、飽きのこない心地良さ。食事を通して一本のワインを選びたい方にも、特にお勧めです。深みあるおいしいワインだなと感激しました。
Yarra Yeringで長年ワインを醸してきた故Dr Bailey Carrodusの奇才はあまりにも有名で、人生をワイン作りに捧げた巨匠の一人です。2008年9月に永眠されましたが、親友であるワイン業界第一人者James Hallidayが、Baileyの眠りについた表情を「安らかな笑顔だった」と語っています。
私にとってこのYarra Yeringは、どのワインも絶品という点でYarra Valleyで一番のワイナリー。Bailyの遺品達が熟成を経て、彼が旅立った今もリリースされていきます。
「Yarra Valley No.1 だね。」現在のYarra Yeringワインメーカー、ポール(Paul Bridgeman)にそう呟くと、彼も大きくうなづきました。
勿論その分値段は高いのかもしれませんが、とにかく素晴らしく出来上がったワインたち。
ポールには多くの話を聞かせてもらっているので、次の機会に掲載できたらと思います。
Yarra Yering
4 Briarty Road, Gruyere, VIC, 3770 Australia
Phone: +61(3) 5964 9267
Web site: www.yarrayering.com
Opening Hours:
10am - 5pm Saturday
12pm - 5pm Sunday
(但し、その年にリリースしたワインが売切れるまでの間のみ。)
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Vintage 1: Leeuwin Estate で過ごす、歴史的野外コンサート
Vintage 2: Yarra Yeringと楽しむ思い出のディナー
Vintage 3: Mandalaで学ぶ、ワインメーカーの情熱
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Vintage 1: Leeuwin Estate で過ごす、歴史的野外コンサート
更新日: 2009/10/23


Leeuwin Estateのコンサートの事を始めて知ったのは、苦労が多い20歳そこそこの頃だった。
海外で、何も無いところからスタートした貧しい生活。長時間労働で時間はないけれど、勿論お金も無い。外国人労働者には国民保険も無いから、昔は病気がちだった娘の事でも、苦労がいっぱいだった。言葉の不自由ではいつも悔しい思いをして、子供を守らなければならない僕が、子供のように何もできない時は情けなくて涙を飲んだ。
それでも、夢いっぱいで生きていた。西オーストラリア州パースの町はいつも素敵だった。やりたいことが多かったから、睡眠時間を削っていろんな事に挑戦した。
私が料理人として働いていたのは、Perthでは有名店。この世界の常識、プレッシャーの強い厳しい職場であった。正しいと思うことは実行にできず、修行中にありがちな「職場が理不尽に思えて仕方がない時期」がやってきた。
勿論、やりたいことが実現できなかったのは人や職場のせいではなくて、自分の力の無さだったと解っている。けれど、「このままでいいのだろうか?」と、その頃は誰もと同じように悩んだ。
その頃、戦後のパースで最初の日本人移住者と言われる方と知り合うことができ、相談に行った。「もっと色々な事を身に付けたい。僕はこのままでいいのだろうか?」
その時彼女が貸してくれた本が、日本で出版中のオーストラリアワインについての本だった。ワインの文化の中で育っていない自分に、ワインの良さなんてなかなか解らない。猛勉強するしかないって思っていたわた私に、それは面白すぎる本だった。
その中でも感銘を受けたのが、Leeuwinの歴史的コンサートの話だった。
流行り廃りではなく、本物のArt を見抜き、毎年様々な音楽家を招いた野外コンサートを"Leeuwin Estate"にて開催してきたDenis Horgan。昨年で25回目を迎えた偉大なるコンサートの主催者。
本物だと感じた。
何の前触れもなく、突然彼を自分の目の前にしたのは、その頃から10年近くも後のメルボルンでのこと。親身に付き合っているワイン業者が、彼と私を引き合わせてくれた。
ワイン創りに必要なのは、良い技術と良い素材、そして良いArtと語ってくれた彼。彼のワイナリーにある研究施設は最先鋭の技術を磨いていて、葡萄たちも吟味されているはず。その上でさらに必要なのは、ワインメイカーの芸術的創造力。彼がそれを深く悟っているからこそ、LeeuwinのArt Seriesは、いつまでも高く評価され続けることができるのだろう。
”Food+Wine+Art”….Leeuwin Estateはその調和を実現している。
「成功したらLeeuwinのコンサートに毎年行く。」という、古くからの私の夢。
それには深い意味があって、いつか成長して、芸術を深く理解できる心や、深く楽しめるゆとり、マーガレットリバーに赴く十分な時間を手にする余裕、参加するに値する身分、その費用をまかなう力など、様々な面を総合して手にしたい目標だった。
あの頃の、いつも汚れた格好でお店に篭りっきりで仕事をして、ぎりぎりの睡眠でまた仕事に戻る毎日。労働に身も心も支配された頃。いつかこの何百ドルもするコンサートへ行けるようになってやるって夢見た。そんな話をしたら、Denisは面白いと言ってくれた。
始めてそのコンサートに参加できたのが、まさにDenis Horgan自身からの招待だったなんて、あの頃の私は想像もしなかった。


いよいよコンサートへ。
色々な種類の入場チケットがあるようだけれど、もっとも一般な席は芝生の上にピクニックのように場所をとる。
グルメハンパーと言って、ワインや食事が入っている小洒落たバスケットを手に入れ、7時半にコンサートが始まるまでの間を楽しむ。大勢の人と素晴らしいワインと食事。広大な自然の真ん中の木漏れ日の中で、オーストラリアらしい午後のゆったりとした時間が流れる。
私達は立食パーティーに招待された。
ワインや食べ物が絶え間なくサービスされていたけれど、それどころではない。Denisに御礼を言わなきゃいけない緊張でいっぱいだった。タキシードとドレスで身を包んだセレブリティーのなかに、Denisを見かけた。ちょうどそのタキシードの中でも一番のエレガントに挨拶をしていた。若輩の私とは、位が違いすぎる。結局僕は怖気づいて話しかける事もできず、御礼も言えなかった。心からの御礼を伝えたのは、メルボルンに帰ってからのことだった。
誰もが幸せいっぱいにリラックスした頃を見計らったかのように、音楽はそっと始まり、誰もがぐっと引き込まれた。
堅苦しさの無い、自然に溶け込んだ楽しいコンサート。人間らしい心で奏で、歌い、ユーモアのあるエンターテイメント。
オーケストラと歌声に酔い、グラスに注がれたワインに酔い、野外コンサートはそのまま宵へ。森がライトアップされ、星空の下に幻想的な舞台が浮かび上がる。時にはただ音楽に聞き入り、時には会場が一緒になって歌い、また時には息の合ったリズムで手拍子を合わせる。
舞台では主演のソプラノ歌手”イボン・ケニー”が「オーストラリアで最高の野外コンサート。」と言った。そのとおりと思う。
テナー歌手”デイビッド・ホブソン”もこの場をとても楽しんでいた。そこに居る誰もがそうだった。そして、WASOを指揮する”ガイ・ノーブル”が「Denis Horgan」を讃えた。
芸術家の素晴らしかった音楽に全員が総立ちで拍手喝采の中、私はもう一人、舞台にはいない偉大な芸術家に拍手を送った。この大勢の人達が集い心を動かしたこの場所。音楽と言う芸術と、さらにFood&Wineと言う芸術と、多くの心が一体となれたこの場所を作ったDenis。この歴史こそが最も偉大な本物のARTだと僕は思う。
Denis Horganに大きな拍手と感謝を送りたい。


ルーウィンコンサートの豪華歴代アーティスト
1985 ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
1986 シュターツカペレ・ベルリン(ベルリン国立歌劇場管弦楽団)
1987 デンマーク王立管弦楽団
1988 レイ・チャールズ & ウェスタンオーストラリア交響楽団(WASO)
1989 ディオンヌ・ワーウィック & WASO
1990 デイム・キリ・テ・カナワ、ジェームズ・ゴールウェイ & WASO
1991 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
1992 ダイアナ・ロス
1993 トム・ジョーンズ
1994 ジュリア・ミゲネス、ペラン・アレン & WASO
1995 ジョージ・ベンソン
1996 デイム・キリ・テ・カナワ & WASO
1997 シャーリー・バッシー & アデレード交響楽団
1998 フリオ・イグレシアス
1999 ブリン・ターフェル、イヴォンヌ・ケニー & WASO
2000 マイケル・クロフォード & WASO
2001 ロバータ・フラック
2002 ジョン・ファーナム
2003 k.d.ラング、ジェイムス・テイラー
2004 レスリー・ギャレット、アンソニー・ワーロウ & WASO
2005 スティング、ジャック・ジョンソン
2006 アミーチ・フォーエバー、ジェーン・ラター
2007 シンプリー・レッド
2008 イヴォンヌ・ケニー、デイヴィッド・ホブソン & WASO
2009 クリス・アイザック

さて、今回ご紹介したいワインは"Leeuwin Estate Art Series Chardonnay"。
オーストラリア最高の白ワインと言われるのを、大袈裟には思いません。2006年のボトルは、思い出も伴って個人的に特に感動のワインです。スートーンフルーツが、、、などと始めずにシンプルに説明してみます。「深みある樽の香ばしい薫りと味が、それだけで浮いてしまうことなく、主人公の葡萄Chardonnayのふっくらした存在感に旨く溶け込んでいる。素材の素晴らしさと、芸術的仕上がりに感動しながら飲める、威厳のあるワイン。」
第25回Leeuwinコンサート”クリス・アイザック”の回にこの2006年をいただきました。クリス・アイザックと話した時に驚いたのは、彼が結構日本語を話せたことです。そして、実際に目の前にした大スターからは、人間味ある温かい一人の男を感じました。このChardonnayもそうです。大スター的プレミアムワイン、けれど実際飲んでみると心地の良い親しみやすいワイン。
Leeuwin Estate Winery
Stevens Rd, Margaret River, WA 6285 Australia
Telephone (61 8) 9759 0000, Facsimile (61 8) 9759 0001
Email winery@leeuwinestate.com.au
Web site: http://www.leeuwinestate.com.au
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Vintage Cellar: 全てのコラム
Vintage 1: Leeuwin Estate で過ごす、歴史的野外コンサート
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Vintage 3: Mandalaで学ぶ、ワインメーカーの情熱
Vintage 4: 旅の途中で飲むワイン
No Vintage: 空白のビンテージ
Vintage 5: オーストラリアが香るワイン、Granite Hills
Vintage 6: 山奥の小さな酒蔵「獺祭」
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