コーヒーメーカー 石渡 俊行さん インタビュー
メルボルンで夢に向かい大突進中のコーヒーメーカーを発見!
【プロフィール】
石渡 俊行 Toshiyuki Ishiwata
神奈川県出身の31歳。2005年2月にオーストラリア(メルボルン)に来る。その後数々の大会に出場等、精力的な活動を行っている。現在、サウス・メルボルンにあるカフェ『ST.ALi』にて、コーヒーメーカーとして忙しい日々を送っている。
大会経歴
2006 オーストラリアPura milk latte art 大会で3位。(このときの1位が2008年ラテアート世界チャンピオン)
2006 ヴィクトリア州バリスタ選手権ファイナリスト。(このとき優勝した人が2008年度バリスタ選手権世界2位)
2008 コフェックス、フェアトレードラテアート大会準優勝。(このときの優勝者が2008年ラテアートの世界チャンピオン)
2008 ヴィクトリア州カップテイスティング(コーヒーテイスティング)大会優勝。
2008 オーストラリアカップテイスティング準優勝。
2008 カフェナテックス、ラテアート大会優勝。
2009 ヴィクトリア州カップテイスティング準優勝。
インタビュアー:武吉恵理
--まず、オーストラリアに来たきっかけを教えてもらえますか?
きっかけは…コーヒーメーカーになりたくて来ました。
--え?最初からそのつもりで来られたのですか?
はい、そうです。それだけの目的で。
--それで、あえてメルボルンを選んだ理由は?
メルボルンの前にニュージーランドにワーキング・ホリデー・ビザで居まして、そこでキッチンハンドのバイトをしていました。その時は英語の勉強っていうのが目的だったんですね。そのバイト先で知り合ったバリスタにコーヒーの作り方を教えてもらったんです。そこでバリスタに興味を持って。向こうでもバリスタの仕事を探したんだけど、なんせ経験もないから仕事が見つからなくて…。そのうえビザも切れそうだったから、もう日本に帰らなくてはいけないって話をその友達に話したら、彼が「じゃあ、メルボルンに行ってきたら?」という言葉が返ってきて。そういう経緯でメルボルンに来るようになったんです。ニュージーランドから日本に帰ったらすぐに手続きをして、そのままメルボルンに来ました。
--実際にメルボルンのカフェ事情は凄いですか?
やはり、カフェの件数は多いですよ。エスプレッソの文化が長いので。なので、これだけカフェがあればすぐに仕事も見つかるだろうって思いました…けれど、最初の4ヶ月間くらい全く仕事が見つからなくて。その当時でレジュメ(履歴書)を100枚以上は書きましたよ。この前、レジュメを持って行ったカフェの名刺を数えたら150枚近くありました。
--凄い数ですよねぇ…。
はい。それからバリスタのショートコースに行ったのですが、その先生が「トシはやる気があるから」と言って色々と仕事を紹介してくれて。そこからトントントンと…。
--トシさんの肩書きって何になるんですか?
名刺には“コーヒーメーカー”って書いています。日本語で表現すると、コーヒーの品質管理ですね。
--いわゆる“バリスタ”とは違うってことですか?
なぜ“バリスタ”っていう言い方をしなかったかというと、日本の場合“バリスタ”って言い方をすると凄く範囲が広くなっちゃうんですよ。元々“バリスタ”っていうのはイタリア語で“バーテンダー”という意味なんですけど。なので、バーテンダーをやっていないと“バリスタ”って呼んじゃダメっていう人もいるし、焙煎をやっている人を“バリスタ”って言う人もいるし、コーヒーを作るだけの人を“バリスタ”って呼ぶ人もいるし。なので、あえて“バリスタ”って言わないほうがいいなと思って。実際に、ロースティング(焙煎)もテイスティング(味の管理)もコーヒー作るのも全部やってるから、“コーヒーメーカー”っていうのが一番近い表現なのかなと思います。
--今、メルボルンで日本の方で同じようなことをやっている人っていますか…?
周りには居ないですね。でも、これからどんどん増えてくると思いますよ。学校もあるし、流行ってるし。それを目的でココに来る人も増えているし。
--トシさんも参加されている、バリスタの大会っていうのはどんな感じですか?
大会は何種類かあって、バリスタ選手権とラテ・アート選手権とカッピィング選手権。年に一回開催されています。その他にもいろいろな大会か行われています。
--次の大会はいつですか?
今度は…年末だと思います。まだ、出るか分からないのですが、この間出場した大会の時は、練習していなかったから結果的に納得できるものじゃなかったですね。
--それは全オーストラリアから何人くらい参加しているのですか?
バリスタ選手権は、全国だとだいたい60~80人くらいだと思います。日本だと150~180人。
--え?!日本でも行われているんですか?
開催されてますよ!この間は日本で世界大会が行われたし、日本人で大会で世界2位を取った人もいるし。今は日本も凄い人気ですよ!
--そうなんですね、知りませんでした…。そういえば、こちらでよくある『バリスタ1日コース』などの修了書って実際役に立ちますか?
僕の時はあまり役に立ちませんでした。面接の時に修了書を見せても、「カフェで働いたことあるの?」って言われて。やはり、経験を重視されますね。あと、それより強いのは“コネ”ですかね。あとは…日本のカフェで働いていた経験があれば有利ですね。
--あと、個人的にも凄く聞きたいのですが、良いカフェの見分け方を教えてください!
普通に歩いていて「コーヒー飲みたいな」と思い飛び込みで入るとして…まず、エスプレッソ・マシンが目につきますよね?それで、ミルクをスチームするスチームワンド(※1)にミルクのかすが付いてたらダメ。あとは、グラインダー(※2)の上に豆が入っている容器があるのですが、そこがきれいにされているかどうか。オイルがぎとぎとにくっついてぼやけているようだったら絶対にダメですね。あとは、ドージング・チャンバーっていう小さい小部屋があるんですよ、グラインドした豆が溜まっていく所なんですけどね。そこに、削った豆を溜めていたら、そこはやめたほうがいい。気にして見てますと、削った状態で溜ているカフェは結構あります。そのコーヒーはもう新鮮じゃなくなっちゃうんです、豆はグラインドして2分で味が変わります。
--日本とオーストラリアでのカフェ文化の違いとかはありますか?
オーストラリアとニュージーランドだけが、“フラット・ホワイト”というメニューがあります。(最近ではヨーロッパでも見かけるようになりました)カフェ・ラテと同じような感じなんだけど、カップに入っていてフォーム(一番上の泡のこと)の量が少ないんです。通常、ラテで1cmくらい、フラット・ホワイトが0.5cmです。
--あと、家にエスプレッソ・マシンが無くても美味しくコーヒーを入れる方法を教えてください。
どんな手段でも、美味しいコーヒーは飲めますよ。フィルターでもフレンチプレスでも。
--例えばフィルターで飲むとして、どんなやり方をすれば美味しくなるんですか?
ペーパーフィルターは、紙は漂白してあるほうがいいです。漂白してないと、紙の味もコーヒーと混ざって抽出されてしまうので避けたほうがいいです。それから、杯数に対してちゃんとした分量の水と、削った豆も粗さも調整して。基本的に細かく削ると味が強くなるし、荒く削れば味が薄くなる。これはまた色々と違ってはくるんだけど、基本としてはそう言えます。そして、新鮮な豆を使うこと。だいたい、焙煎してから2日から3日、遅くても10日以内には使いきるようにしてほしいですね。グラインドしてあれば3日以内が理想です。
--エスプレッソ・マシンはどれくらいの価格の物を購入したらいいですか?
$400くらいからそこそこのマシンが買えます。あと、グラインダーも忘れずに。$700でエスプレッソ・マシンを買うのなら、$400はマシンで残りの$300はグラインダーを購入したほうがいいですよ、コーヒーは鮮度が大事なので。
--そうなんですね、参考になりました。ところで、メルボルンの魅力は何だと思いますか?
メルボルンに居るとよく思うのですが、仕事と休みのバランスが取れているってところですね。皆ちゃんと休んでますよね。土日なんてシティの中は静かだし。あとは…やっぱり日本と比べると気楽です。それから、何もかもすぐ近くにある。例えば日本だったら免許の更新とかでも、どこか遠い場所に行かなくてはいけなかったりするでしょ?でも、こっちは何でも近くにあるから便利ですよね。治安もいいし。 あと、カフェの時間帯も違いますね。日本は朝10時から夜遅くまでという感じだけど、こっちは大体7時から夕方4時とか5時までだし。それから、日本だとまだタバコを吸いながらコーヒーというイメージが今もありますよね?こちらはその感覚があまりないけど。
--将来の夢は何ですか?
たくさんあります!今やりだしたのは“サイフォン(※3)”なんだけど、サイフォンをこっちで広めたい。こういう美味しい飲み方もあるんだよっていうのを、オーストラリアの人に教えてあげたいんですよ。こっちで色々と学んだから、それを何かで返したいっていうか…。なので、日本のコーヒーの文化をこっちにも広げたい。あとは、コーヒー農園が欲しい。それから、メルボルンにカフェをオープンしたい。そして余裕があったら日本にもオープンさせたい。これは当分先の話だけど。まだまだたくさんありますね。世界的に通用するカッピィング(※4)のジャッジにもなりたいし、大会に良い成績残したいのもあるし…。
--全て叶うように応援していますね!では最後に、一言お願いします!
コーヒーはとても奥が深く、楽しい飲み物。今では、朝のスタートで飲まれていたりブレイクで活躍していますが、これからは、前にも増して“味わう”ことに楽しみを見つける人が増えると思います。で、コーヒー豆屋さんでもただ単に「ブラジル産」「コロンビア産」ではなく「ブラジル産のカショエイラ農園と農園者、収穫年、イエローブルボン品種」というように、もっと多い情報を店で見かけるようになると思います。
※1 スチームワンド:エスプレッソマシンに付いている、蒸気を吹き出すパイプのこと。フォームドミルクを作る際に使われる。
※2 グラインダー:グラインダーとは焙煎したあとのコーヒー豆を粉状にする為の器具のこと。「ミル」ともいう。
※3 サイフォン:サイフォンとはロート、フィルター、フラスコなどからなる気圧の差によって湯を移動させる仕組みを持った浸透ろ過式のコーヒー抽出器具。抽出時にコーヒーの香りが強く出るという特徴がある。
※4 カッピィング:抽出液体について風味の特徴を評価する方法
実際に目の前で実演してもらいました。
熟れた手さばきは、さすがです!
ST.ALi
住所:12-18 Yarra Place, South Melbourne, VIC 3205
TEL:03 9686 2990
営業時間:月ー土 7:00-17:00 (kitchen close 16:00)
日 8:00-16:30 (kitchen close 16:00)