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第二回  カツラの似合ったYさんのこと

こちらに24年、実のところ会いたい人ばかりに出会ってきたわけではない。会わなくて済むなら会わなかった方がいいと思える人もいる。しかし、それも一期一会、今は思い出となっている。昔、メルボルンの街中を歩いていると20メートルくらい先で私を見とめて逃げる女性がいた。追いかけようかと思ったが、それもなんなので止めにした。タコに絡まれるのが怖かったのだろうか。
 メルボルンの街中で、主に日本人の方々を対象にした「日本語情報センター」を運営している。主な仕事は留学生のお世話だ。タコ社長の名前もここから出ている。この場所を通して非常の多くの方々とお会いしてきた。

カツラの似合ったYさんのこと
 「今日、裁判が終わった帰りに寄りました。」ある日、そういいながら日本人弁護士Yさんが事務所にやってきた。手には、カツラを持っている。アデランスとかじゃない。どっから見てもカツラと分るカツラだ。こちらの裁判所では判事も弁護士もみな白髪のような平べったいカツラをつける。街を歩いていて黒いガウンに白髪のカツラ姿で颯爽と歩く人に出会うことがある。こういう人を見て、大工の棟梁とかと見間違う人はまずいない。裸で歩いている人をストリッパーと思い込むように、こういう方々は法曹界の方々だと相場が決まっている。
 Yさん、夜は家族が経営していた隣に女の子が座る日本式のバーを手伝ったりしていて、昼間は弁護士として働いているスーパーマンのような人で、本当に頼もしく見えた。私の会社のスタッフのビジネスビザもYさんに頼んでいた。心強かった。
 「タコさん、私は今まで裁判でも負けたことがないんです。仕事、安心して任せてください。」日本語で相談できる弁護士は有難いと思った。
 ところがである。そんなある日、このYさん弁護士なんかじゃ全くなかったことが判明したのだ。青天の霹靂、怒髪天を衝く大事件。務めていた法律事務所から忽然と姿を消してしまったのだ。事務所では個室も与えられていてやっていたので、ほとんどの人は彼を弁護士と思い込んでいた。実は、こちら育ちのバイリンガルだったので、日本人のクライアントと弁護士との間の通訳として雇われていた、というのだ。その弁護士事務所の説明を失踪後聞いたとき、冗談もいい加減にして欲しいと思った。私は、今でもこの弁護士事務所が知りながら一枚絡んでいたと思っている。案の定、何年か経ってこの事務所も別件で摘発され閉じた。そして、日本に逃げ帰ったYも昨年の1月その日本で詐欺容疑で逮捕されたのだ。当然だ、と思うとともに詐欺でしか生きられない人の性が悲しかった。
 通訳Yが突然姿を消した後、頼んでいたビジネスビザが手付かず置かれていたことを知り、この弁護士事務所に談判に及んだ。幸い、取得することができたが涙を飲んだ人も可也いた。弁護士登録をチェックするとかいろいろな方法はあったのだろうけど、弁護士事務所内に部屋を持っていて自分が弁護士だ、という人を疑うことはなかった。今、思い起こせば自分のナイーブさ加減に呆れてしまうが、そのときは信じてしまっていた。Yは日本では、東大、九州大学卒とか、ケンブリッジ大学、メルボルン大学卒といろいろ言っていたらしい。どこも卒業していない。
 この件あってから、カツラなんかで簡単に騙されてはいけないと肝に銘じている。人は見かけで判断してはいけない。更には、偉そうにしている人は必ず疑ってみる癖がしっかりとついた。そういう意味では災い転じて何とかだろうが、今でもあのときの事を思い出すと、下半身が硬直するくらいの衝撃が戻る。この他にも、私の顔を見ると「お前は日本でヤクザだった。」などと威勢のいいことをいう、やや頭が正常じゃないオージー男もいたりするが切がないのでこの辺にする。


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(タコ社長の本業)

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プロフィール

東京は東村山からオーストラリアに移住して24年目を迎えている。その間、人種を超えてさまざまな方々と出会ってきた。そんな方々との出会いをもとにして、定住者、旅行者、中長期滞在者、学生、ワーホリなどの方々との一期一会を綴ってみることにした。また、番外編としてオーストラリア以前の一期一会も記していきたい。

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