愛しのリオン(1)
更新日: 2025-11-16
バーバリーの店の前を通った時、昔リオンと言う友達がいたなと突然思い出した。リオンは航空会社の機上乗務員。彼がバーバリーのコートの話をしてくれたんだっけ。「僕のバーバリーのコートとお揃いのバーバリーのコートを僕の犬に買ってやりたくってね、ロンドンに行ったことがあるんだ」と言う。バーバリーのコートを飼い主とお揃いで着て散歩をするプードル犬を想像して、思わず笑みが浮かんだ。
「僕たち、安い料金で飛行機に乗れるからね、突然犬のコートを買うことを思い立って、ロンドンに行ったんだ。結局ロンドンには一泊しただけだけれどね」
「ふうん。そんなに気軽にロンドンに行けるんだ。航空会社に勤めると気軽に旅行できるって、いいなあ」と、うらやましかったのを思い出す。
リオンと初めて会ったのは友人の家のパーティーだった。あの頃は毎週のように誰かがパーティーをしていた。よく飲み、しゃべり、踊った。私はリオンに会った時から彼のとりこになった。何しろハンサムなのである。太い眉に長いまつ毛に大きな瞳。肌の色は小麦色で、金髪。体ががっちりしていて背が高く、いかにもスポーツマンという感じだった。元サッカー選手のデイビッド・ベッカムに似ていた。話してみると、優しい声で、思慮深げに話してくれる。ユーモアもある。
それからの私は何かにかこつけて彼に会った。
「今度、ロンドンに行きたいんだけれど、アドバイスしてくれないかな」とか、
「安い航空券、手に入らないかな」とか。
口実はいくらでも作れた。
その度に彼はちゃんと会ってくれ、私たちはコーヒーを飲みながらデートを楽しんだ。
3か月もすると、私は彼の声を聴かなくては眠れなくなって、自分でもストーカーまがいのことをしかねないと危惧するようになった。そこで、勇気を振り絞って、
「付き合ってもらえないかしら」と、聞いた。恥ずかしがり屋の私が生まれて初めて口にした言葉だ。
すると、リオンは困ったような顔をした。
それを見て、私の胸には失望が広がっていった。
「もう、付き合っている人、いるの?」
と聞くと、
「うん。まあ」と煮え切れない態度だ。
突然、私の目から涙がこぼれ始めた。自分でも、それにはびっくりした。私以上にびっくりしたのはリオンだった。
「ごめん。ちゃんと最初から説明すべきだったよね」とうろたえて言った。
「僕がハリーと一緒に住んでいるのを知っているだろ?」
何度か彼の家に行ったとき、ひげを生やした学者風の30代の男がいて、リオンは「ハリーっていうんだ」と紹介してくれたことがあったのを思い出し、私はこっくりうなずいた。
「実はさ、ハリーは僕の恋人なんだ」
「えっ!」彼がゲイなんて思いもしなかった私は、驚きのあまり椅子からひっくり転げそうになった。
「なんで、なんで、なんで?こんないい男がゲイなのよ」と、私は驚きとともに腹立たしくなった。
「驚かせてごめん」と恐縮する彼に、
「そうだったの」と言った時は、ショックで涙も止まっていた。
彼と別れた後、私は大きくため息をついて、
「もう、完全に望みはないな。忘れるしかない」と思いながら、帰り路をとぼとぼと歩いた。
著作権所有者:久保田満里子







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