Logo for novels

愛しのリオン(1)

バーバリーの店の前を通った時、昔リオンと言う友達がいたなと突然思い出した。リオンは航空会社の機上乗務員。彼がバーバリーのコートの話をしてくれたんだっけ。
「僕のバーバリーのコートとお揃いのバーバリーのコートを僕の犬に買ってやりたくってね、ロンドンに行ったことがあるんだ」と言う。バーバリーのコートを飼い主とお揃いで着て散歩をするプードル犬を想像して、思わず笑みが浮かんだ。
「僕たち、安い料金で飛行機に乗れるからね、突然犬のコートを買うことを思い立って、ロンドンに行ったんだ。結局ロンドンには一泊しただけだけれどね」
「ふうん。そんなに気軽にロンドンに行けるんだ。航空会社に勤めると気軽に旅行できるって、いいなあ」と、うらやましかったのを思い出す。
 リオンと初めて会ったのは友人の家のパーティーだった。あの頃は毎週のように誰かがパーティーをしていた。よく飲み、しゃべり、踊った。私はリオンに会った時から彼のとりこになった。何しろハンサムなのである。太い眉に長いまつ毛に大きな瞳。肌の色は小麦色で、金髪。体ががっちりしていて背が高く、いかにもスポーツマンという感じだった。元サッカー選手のデイビッド・ベッカムに似ていた。話してみると、優しい声で、思慮深げに話してくれる。ユーモアもある。
 それからの私は何かにかこつけて彼に会った。
「今度、ロンドンに行きたいんだけれど、アドバイスしてくれないかな」とか、
「安い航空券、手に入らないかな」とか。
口実はいくらでも作れた。
その度に彼はちゃんと会ってくれ、私たちはコーヒーを飲みながらデートを楽しんだ。
3か月もすると、私は彼の声を聴かなくては眠れなくなって、自分でもストーカーまがいのことをしかねないと危惧するようになった。そこで、勇気を振り絞って、
「付き合ってもらえないかしら」と、聞いた。恥ずかしがり屋の私が生まれて初めて口にした言葉だ。
すると、リオンは困ったような顔をした。
それを見て、私の胸には失望が広がっていった。
「もう、付き合っている人、いるの?」
と聞くと、
「うん。まあ」と煮え切れない態度だ。
突然、私の目から涙がこぼれ始めた。自分でも、それにはびっくりした。私以上にびっくりしたのはリオンだった。
「ごめん。ちゃんと最初から説明すべきだったよね」とうろたえて言った。
「僕がハリーと一緒に住んでいるのを知っているだろ?」
何度か彼の家に行ったとき、ひげを生やした学者風の30代の男がいて、リオンは「ハリーっていうんだ」と紹介してくれたことがあったのを思い出し、私はこっくりうなずいた。
「実はさ、ハリーは僕の恋人なんだ」
「えっ!」彼がゲイなんて思いもしなかった私は、驚きのあまり椅子からひっくり転げそうになった。
「なんで、なんで、なんで?こんないい男がゲイなのよ」と、私は驚きとともに腹立たしくなった。
「驚かせてごめん」と恐縮する彼に、
「そうだったの」と言った時は、ショックで涙も止まっていた。
彼と別れた後、私は大きくため息をついて、
「もう、完全に望みはないな。忘れるしかない」と思いながら、帰り路をとぼとぼと歩いた。


著作権所有者:久保田満里子

コメント

関連記事

最新記事

カレンダー

<  2026-10  >
日月火水木金土
        01 02 03
04 05 06 07 08 09 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31

プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

記事一覧

マイカテゴリー