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私のソウルメイト(34)

「そう。貴方には、夢があっていいわね。私、くじに当たって、これから何でもできるって喜んでいたんだけれど、実際には、毎日退屈で仕方なくなったの。お金でできることって、本当に限られているんだなと思い始めたわ」
「そうね。お金がなければ、不幸せだと思うのは、錯覚だよね。少ない食べ物を皆で分け合って食べた時代って、結構幸せだったんじゃないかな。名前は忘れちゃったけど、オナシスの娘の話を読んだことあるわ」
「オナシスって、ギリシャの造船王のこと?」
「そうそう。ケネディ大統領の未亡人、ジャッキーとも結婚したので有名だわよね」
「そのオナシスの娘がどうしたって?」
「その娘さん、お父さんが残してくれた財産で、大金持ちになって、好きになった男と結婚したんだけれど、その男って金目当てで彼女と結婚したものだから、他に好きな女を作って、うちを出てしまったんだって。それでも、彼女、その男を手放したくないものだから、お金で何とか男をつなぎとめようと思って、その男が愛人と一緒に住むことも認めて、離婚だけはしなかったそうよ。そして結局彼女自殺をしてしまうんだけれど、愛する男に愛されない女って惨めだよね。ダイアナ后だって、チャールズ皇太子との結婚が破綻してからいろんな男を愛人にしたけれど、さびしい人だと思ったわ」
「世の中、うまくいかないものよね。ダイアナ后、あんなにいろんな人から愛されたのに、肝心の愛してほしいと思っている男から愛してもらえなかったなんて、気の毒だよね。まあ、ロベルトには色々腹が立つことがあるけれど、まあ、家庭を大切にしてくれることだけは、感謝しなくちゃいけないのかもね。なんで、こんなしみったれた話になっちゃったのよ」と京子は、腹立たしそうに言った。
「京子は中年の危機になっているんだと思うわ。何か趣味にうちこんだら、どう?退屈だから、つまらないことを考えたりやったりしてしまうのよ。たとえば、あなたはお金を持っているんだから、慈善事業なんかやったら、どう?」
「慈善事業って、たとえばどんなことがある?」
「アフリカとかアジアの貧しい国に、学校でも建てて、創設者になるとか」
京子はそれを聞いて笑い始めた。
「そうか、それも楽しいかもね。何か考えてみるわ」
「でもね、慈善事業の団体に、連絡しないほうがいいわよ。いつだったか、くじですごい大金を手に入れた人が、あちらこちらの団体から寄付を頼まれて、結局当たったお金全部なくしてしまったっていうこともあるらしいから」
「そうね。くじで大金を手に入れて、人生が狂った人って、多いみたいね」
「そうよ。くじで当たったお金で高級スポーツカーを買って、事故死した人とかもいるからね」
私たちは、京子のお金をどう使えば、一番有効だろうかと言う話で盛り上がった。私はその後、京子のアパートを後にして、この調子なら京子は大丈夫だろうと安心した。
 金曜日が来て、またマクナマラ先生のクリニックに行った。4回ともなれば受付のおばさんとも顔見知りになり、名前を言わなくても、顔を見て「ハロー、ミセス・ヒッキー」と挨拶してくれるようになった。
 その日はまたマクナマラ先生のささやくような声を聞きながら、私は催眠の世界に入っていった。
「あなたは、今江戸時代にいます。そして、いなごの災害のため年貢免除の直訴を願い出ようとしています。それから、どうなりましたか?」
「私が、身の回りの整理をするために、子供たちに言い残したいことなどをしたためていると、勇助がやってきました。勇助というのは、京子さんです。勇助は、庄屋さん一人に責任を押し付けるのは忍びないので、自分も直訴の仲間に加えてほしいと申し出てくれました。でも、勇助のうちには、小さな子供が3人もおり、その上女房も今おなかに子供を孕んでいます。気持ちはありがたいが、自分の家庭を守ることが今の勇助に課せられた仕事だと、私は勇助を諭し、家に返しました。とぼとぼ家から遠ざかっていく勇助の後姿を見て、私は心の中で、勇助の気持ちに手を合わせていました。
 家の整理もつき、直訴状も書き上げた2日後、私は村の衆に見送られて、直訴するために村を出て行きました。妻のお久は私が直訴する決心を伝えたときから涙に暮れていましたが、私が出発する日、もうどうにもならないと覚悟を決めたためか、もう涙を流しませんでした。その代わり、こわばった表情をして、「いってらっしゃいませ。子供たちは立派に育てて見せます」と言ってくれました。父親の善兵衛も、「立派にお役目を果たしてくれよ」と言って見送ってくれました。

著作権所有者:久保田満里子


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私のソウルメイト(33)

 京子の家の100メートル手前で、私は京子を下ろした。京子の家の玄関には明かりがついていた。京子の家族が彼女の帰りを不安な気持ちで待ちわびているのだ。フラフラしながら家に帰っていく京子が、自分の家のドアを開けて中に入るのを見届けて、私は暗い車の中に5分きっかりいた。そして、車を京子の家の前につけた。
 京子の家の呼び鈴を鳴らすと、しばらくして、ドアが開いた。ドアを開けたのは、ダイアナだった。
「あ、ママ、どうしたの?」とダイアナは驚いた顔をした。
「京子さんのことが心配で、色々心当たりを探してみたけれど見当たらなかったので、もしかしたらもう家に帰っているかもしれないと思って来たんだけど、帰ってきた?」と、言うと、
「うん。今さっき帰ってきたけれど、今取り込み中よ。おじさんはカンカンになって怒っているし、おばさんは泣きながらごめんなさいを繰り返すだけだし」
 私はみんなのいる居間に行くと、京子はソファーにうなだれて座っており、その前にロベルトが立ちはだかって、怒りをぶちまけている。
私は事情は何も知らないふりをして、
「京子さん、一体、どこにいたの?皆で心配していたのよ。私も心当たりを探して回ったんだけど」
京子の代わりに、ロベルトが答えた。
「今まで、時間も忘れて、昔の友達と飲んでいたんだってさ。あきれてものも言えないよ」
京子は蚊の鳴くような声で
「長くいるつもりはなかったんだけど、昔話につい夢中になって、時間を忘れていたの。ごめんなさい」と言った。
「でも、無事でよかったわ。まあ、もう夜が遅いから寝たほうがいいわ。話は明日聞くことにしましょうよ」と私が取り繕うように言うと、ロベルトは
「そうだ。もう真夜中過ぎているんだ。子供がナイトクラブで夜更かしするのは、まあ仕方がないにしても、いい年をして、はめをはずすのもいい加減にしろ!」と、まだ怒りが静まらない様子で怒鳴ると、寝室のほうに消えてしまった。
そして、フランクも「ママ、お休み」と言って、京子にお休みのキスをして部屋に引っ込んだ。
エミリーも「ママ、私ももう寝るわ。これから、どっか行くときは連絡してよね」と言った。いつも京子がエミリーやフランクに言っている言葉なのだが、今度は立場がまるで逆になっていた。
そして、私に向かって
「おばさん、お騒がせしてすみませんでした」と子供のいたずらを親が代わって謝るように私に言った。
「いいのよ。無事だったことさえ分かれば。私ももうこれで失礼するわ」
と言い、
「じゃあ、京子さん、また明日ね。ダイアナもお休み」とダイアナの肩を抱いてお休みのキスをして、京子の家を出た。
どうやら、これ以上の騒ぎにはならないようで、ほっとした気持ちで家に帰った。家ではアーロンが、もう床についていたが、まだ寝てはいなかったようで、私がベッドに身を横たえると、
「京子はみつかったのか?」と聞いた。
「ええ、昔の友達に会って、ナイトクラブで飲んでいたんですって」と答えると
「ふーん。京子は少しワイルドなところがあるからなあ」と言うと、またすぐに眠りにおちいった。
私は今日起こった色々なことを考えながら、京子はどうするつもりだろうと思いながら、眠りについた。
 翌朝、京子から電話がかかってきた。
「夕べは、ありがとう。ロベルト、怒っていたけれど、何も気がついていないみたいで安心したわ。電話じゃ余り話せないからまた、火曜日に来てね」と言うことだった。
 火曜日に京子のアパートに行くと、京子は一人でDVDを見ていた。
「私、どうなるかと心配したわよ。あれから、ケビンに会ったの?」と聞くと
「いいえ」
「じゃあ、浮気だったわけね」
「そういうこと。だって、ロベルトといたって、ちっとも面白くもおかしくもないけど、ケビンといると、心が高揚するのよ」
「分かるわ。余りにも長く一緒に暮らしていると、空気みたいな存在になるのよね。私もアーロンと二人でいるとき、日常生活の延長で、もうこのまま何の心のときめきもなく、人生終わってしまうのかなあと思っていたとき、ロビンに会って、また昔のように胸のときめきを感じることができたのよ」
「そう言えば、この間喧嘩になってしまって、退行催眠の結果を聞かなかったけれど、今度はどんなことが分かったの?」
「この間見た人生は、江戸時代の百姓だったわ」
「お百姓さん?あなたの人生って、皆さえないのね」
「だって、考えて御覧なさいよ。江戸時代の人口のほとんどは百姓だったんだから、確率から言えば、百姓だった可能性が一番高いんだから、当たり前よ」
「はいはい、分かりました。それで、その人生で、またロビンに会えたの?」
「そう。その人生では、私は男で、ロビンは私の妻だったのよ。アーロンも出てきたわ」
「それで、アーロンとはその人生ではどんな関係だったの?」
「私の父親」
「そう。そう言われてみれば、あなた随分アーロンに頼っているから、あなたの父親だったって言うのは、納得できるな。で、私は出てこなかったの?」
「出てきたわよ。あなたも百姓で、男だったわよ」
「ええっ、また貴方と一緒にさえない人生を送っていたの?」
「そうみたい」と私たちは顔を見合わせて、くすくす笑った。
「でも、この人生、随分厳しいもので、年貢が納められなくて、私が直訴する役目をしなければいけなくて、随分悩んでいたわ」
「へえ」
「だって、その頃は、直訴した人間は死刑って決まっていたんだから」
「それで、あなた、死刑になったの?」
「それが途中でいつものように時間切れになって、直訴する決心をするところまでは、見たんだけど、その後どうなったかは、分からないの。また今週の金曜日に分かるわ」


著作権所有者:久保田満里子

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私のソウルメイト(32)

 今日は夕食を作る気分にもなれなくて、うちに帰る途中でフィッシュ・アンド・チップスを買って帰った。うちに帰ると珍しくアーロンが先に帰っていた。
「今日は早いのね」と言うと、「うん。今日は会議があったんだが、それが早く終わったからね」と答えた。そして「そういえば今さっきダイアナから電話があって、今晩はエミリーの所に泊まるから夕飯はいらないと言っていたよ」と付け加えた。私は「フィッシュ・アンド・チップスを三人分かってきたのに」とぶつぶつ言った。結局その晩はアーロンと二人だけでテレビを見て過ごした。アーロンはイギリスのコメディーを見てはげらげら笑っていたが、その横顔を見ながら、私は、アーロンの代わりにロビンが一緒なら、もっとロマンチックで胸がときめくだろうにと想像すると落ち着かなかった。
その晩寝ようとしたとき、ダイアナから電話がかかってきた。
「ママ、今日、京子おばさんと会ったの?」
一瞬イエスと答えるべきかノーと答えるべきか迷ったが、
「いいえ、会っていないけど、どうしたの?」と聞くと
「京子おばさんが連絡もなく、まだ帰ってこないから皆で心配し始めているところなの」
「京子おばさんの携帯に電話してみたの?」
「勿論、してみたんだけど、電池が切れているみたいでつながらないのよ」
「それは心配ね。ママも心当たり探してみるわ」と言って電話を切って、アーロンに「京子さんが家に帰らなくて、エミリーの家では心配しているということだわ。私も心配だから、京子さんのうちに行ってみるわ」と言うと、アーロンも「僕も一緒に行こうか?」と言い出した。今から京子のアパートに行ってみようと思っていた私は、それでは困ると思い、あわてて「大丈夫よ、私一人で。あなたは寝ていて。何か状況が進展したら、電話でしらせるから」と言った。アーロンは、「それじゃあ、気をつけろよ。何かあったらすぐ知らせてくれ」と言ってくれたので、ほっとして、車に飛び乗った。まさか、ケビンとベッドインしてしまって、家庭を忘れたのじゃないかと言う思いが頭を横切った。それしか、今のところ考えられない。
 京子のアパートに着くと、ドアのチャイムを鳴らした。誰も出てこない。もう一度鳴らした。そうすると、やっと人の気配がして、ドアが開けられた。ドアの向こうの京子は、明らかに酔っていた。
「ああ、もとこさん。今頃どうしたの?」
「今頃どうしたのじゃないわよ。あんたのうちで皆あんたが連絡もなく帰ってこないからって心配しているわよ」
「今、何時?」
「11時よ。夜の」
「えっ、もうそんな時間なの」
「そうよ」
私はドアのところに立っている京子を押しのけて、アパートの中に入った。中に入ると、案の定、ケビンがいた。ケビンはシャワーを浴びて出てきたところのようで、白いドレッシングガウンを着ていた。
私は黙って京子とケビンの顔をかわるがわる見た。その沈黙を京子が破った。
「もとこさん。変な想像をしないでね」と、いつもとは違ってびくびくする様子で京子が言った。
「ともかく、早く家に帰りましょう」と京子をせかすとケビンは驚いた様子で
「家に帰るって、どう言う意味なんだ?」と聞く。
私はこれ以上ケビンに何かを言うのはためらわれた。ケビンのことをほとんど知らないし、もしケビンが悪いやつなら、京子を脅してお金をせびり取っていくということも考えられるからだ。
「今日は、うちに来ることになっていたのに、来ないから心配して迎えに来たのよ」と言った。そして、
「悪いけど、今日は、もう帰ってくれない?」と言うと、ケビンは慌てて「いや、それじゃあ僕も引き上げるよ」と言って、服を着替えるために寝室に消えた。
「京子さん、あの人のこと、どれだけ知っているの?」と聞くと、京子は
「それじゃあ、もとこさんはロビンのことどれだけ知っているの?」と聞き返してきた。私は自分のロビンに対する気持ちを汚されたような気持ちになった。
「私は、ロビンとセックスしたいなんて思わないわ」と言うと、京子は呆れ顔で、
「えっ、そんなの嘘よ。あなたは自分の本当の気持ちを認めたくないのよ。私はあなたよりは自分の気持ちに正直なだけ」と言った。私は、京子に平手打ちをくわせたい気持ちを抑えるために、ぶるぶる震えている右手の拳を左手で押さえた。。
にらみ合いをしているときに、ケビンが着替えて、寝室から現れ、「それじゃあ、僕はこれで失礼するよ。京子、またね」と、京子の頬にキスをして、アパートを出て行った。
京子は、部屋を出て行く私の後から黙ってついてきた。そして私の車の助手席に黙って乗った。私も黙って車を発車させると、京子は「ごめんね」と、ぽつんと言った。
「ロベルトになんていえばいいのかしら」
私はまだ腹の虫が納まっていなかった。「そんなの自分で考えなさいよ」といいかけたが、その言葉を呑んだ。
通りに出て信号待ちになり、前を見ると、どこからか人が大勢出てくるのが見えた。
「何があったのかしら?」といぶかる私に、京子は「ナイトクラブの閉店時間になったんじゃないの」と横を向いて言った。
「それ、なんていうナイトクラブ?」
「ソルト・シティーって書いてあるわ」
「じゃあ、昔の友達に会って、ナイトクラブに誘われて、今まで飲んでいて、時間に気づかなかったって言うのは、どう?」私はない知恵を絞って言った。
「でも、それじゃあ、どうしてあなたが私の居場所を知っていたか、説明できないわよ」
そう言われてみれば、そうだった。
どうして、私は京子の居場所を知っていたかを、説明できなければいけない。
「じゃあ、私は、あなたをお宅の前で下ろして、時間を置いてお宅へ行くわ。そうすれば、私があなたを送り届けたことを知られずにすむわ。私は心当たりを探したが、見つからなかったので、ともかくあなたのうちに来てみたと言えば、辻褄が合うし、どうしてあなたの居場所を知っていたか、説明しなくてもすむわ」
余り、いい作戦とは思えなかったが、他に方法が考えられず、京子も私の提案に賛同した。

著作権所有者:久保田満里子

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私のソウルメイト(31)

 食事の後、子供たちを寝かしつけてお久が囲炉裏の傍に戻ってきたところで、庄屋の職を私に譲って引退している父親が「話し合いの結果はどうなったんじゃ?」と口を切りました。
「結論は出んかったが、このままでは村中皆飢え死にしてしもう。直訴する以外にねえと言う話になったんじゃが、そうなると、俺が直訴をかってでんといけんことになる」
父は直訴をするということが、私の死を意味することを知っていました。「そうか」とだけ言うと、また物思いに沈んでいきました。お久は「誰か他の人に頼むわけにはいかんのですけ?」と、不安を隠しきれない様子で言いました。「そんなこと、できるわけないじゃろ」私はつい声を荒げてお久を叱り付けました。その晩は、私は床の中で、死に対する恐怖と、自分が直訴をしなければ村中の者が飢え死にするという二つの恐怖にさいなまされていました。でも、結論は決まっていました。直訴以外に考えられないということでした。私は翌日家中の者を集め、自分の決心を伝えました。
「皆も知ってのとおり、この村はイナゴの害で作物は収穫できず、年貢を納めることは全くできない状態になった。年貢の免除を願うには直訴しかない。わしは、直訴をすることを決心した。心残りなのは、長男の吾助がまだ12歳で家督を継ぐには幼すぎることだ。皆で吾助を助け、仲良く家を盛り立てていってくれ」
 皆私が言うことを予想をしていたようですが、私の口からはっきり伝えると、啜り泣きが聞こえました。お久は嗚咽を他の者に聞かせないために、手で口を押さえて、席を立ち、足早に座敷を出てしまいました。子供たちは何が起こっているかはわからないものの母親が泣いている様子を見て「おっかあ」とお久の後を追っていきました。家の手伝いをしている下女と下男も、泣きながら座敷を出て行き、後は父親と私だけが取り残されました。父親は「わしはもうおいぼれて役にたたんから、本来ならわしが直訴をすればいいんじゃが、庄屋のお前がやるしかないじゃろうのう。わしはもう先が長くねえからいいが、お久や子供たちが不憫じゃのう」と言いました。
そこで、時間がきたようです。マクナマラ先生の声が聞こえてきました。
「いまから、1,2,3と言いますから、3が聞こえたら、あなたの目が覚めます。さあ、いきますよ。いちい、にいい、さん」
私はいつものようにゆっくり目を開けた。夢からさめたような気分だった。
しかし、死に対する恐怖は、余韻として残っていた。
私は今度のセッションで、ダイアナが出てこなかったのが気がかりだった。
「先生、今度は娘のダイアナが出てこなかったんですが、どうしてでしょうか?」
「毎回、皆同じ人が自分の人生に関わっているわけではないのですよ。この度は、あなたは男として生まれた人生を見たわけですが、結婚相手も今回は違っていたわけでしょ?」
「はい、今回見た人生では、私の気になっていた人とは夫婦でした」
「夫婦の関係の人とも毎回人生を共にするわけではないのですよ。その人生で学ぶための環境作りが一番優先されるのですよ」
「はあ、そうですか」
その帰り道、私は少し満足していた。ロビンとはやはり深いつながりがあったのだと分かっただけでも嬉しかったのだ。アーロンとロビン、二人とも今まで私の人生に深くかかわってきた人なのだ。
私はクリニックから、そのまま京子のアパートに向かった。
ピンポーンとベルを鳴らすと、ワイングラス片手に京子がドアを開けてくれた。
一人だと思っていた京子の部屋には先客がいた。若いダンディーな感じのする男だった。
京子はその男を「同じアパートの住民のケビンさん。きのうアパートのプールで知り合ったの」と紹介してくれた。
「初めまして」
長い睫をしたちょっとトム・クルーズに似たするどい人を見透かすような目をしたハンサムな男は握手をしようと手を差し伸べた。
私は「京子の友達のもとこです」と言いながら、その男と握手をした。
「私たち、ワインを飲んでいるんだけど、もとこさんもワインでいい?」と京子がきくので、「そうね、じゃあ私もワインをいただこうかしら」と二人のパーティーに仲間入りした。
「ケビンさんは、何していらっしゃるの?」と私が聞くと、
「銀行で投資のアドバイスをしています。もとこさんは?」と言う。
「私は、翻訳の仕事をしています。今週二日はBTで働いていますが」
「へえ、僕は英語しか話せないんだけど、英語に比べて日本語って難しいってきくけど、どうですか?」と話を続ける。なかなか如才ない男らしい。
「発音なんかは英語ほどいろんな音がないので、やさしいし、文法だって、英語ほど例外がないので簡単ですよ。ただ敬語など、相手によって話し方の丁寧度を変えなければいけないのと、漢字を覚えるのが、英語話者にとっては難しいでしょうね」と、どこかで読んだ本の受け売りをした。
「そうですか」
京子がワイングラスを私に渡して、「今日の退行催眠はどうだった?」と聞いてきた。
ケビンは「えっ?退行催眠って何ですか?」と聞く。
今日は少し酔っているのか、京子の舌は良く回る。
「この人ね、自分の過去世がどうだったか知るために、退行催眠を受けているの」と茶化すようにケビンに説明した。
「過去世?何だか面白そうだなあ」とケビンは本当に好奇心を持ったようで目を輝かせて聞いてきた。
私は、今日初めて会ったばかりの男にぺらぺら自分のことをしゃべる気にはならず、「いえ、ちょっと好奇心から受けてみただけです」と答えた。それを京子がさえぎって
「この人ね、好きな人ができて、その人と過去世ではどんな関係だったか興味をもって、調べているの」といい始めた。私は段々京子の饒舌が不愉快になってきた。
「京子さん、ちょっと人のことをぺらぺらしゃべるのはやめてよ。それより自分のことを話したらどうなの」と、私は苛立って言った。
京子と私が険悪なムードになりそうなのを察知してケビンは
「まあ、まあ。そんなに怒らないでくださいよ。ちょっと面白いなと思っただけだから」と二人をとりなそうとした。
「私、今日は失礼するわ」と言うと、私は半分も飲んでいないワイングラスを置いて立ち上がった。
「あら、怒ったの?怒らなくっていいじゃない。もう少しいなさいよ。今日はどんなことが分かったか、聞きたいし」という京子の言葉を後にして私は、京子のアパートを出て行った。
最近の京子はどうかしている。マリファナを吸ったり、若い男を連れ込んだり。結局彼女は退屈してるんだ。だから何かの刺激を求めているんだ。よく言う『中年の危機』っていうやつだ、と私は結論付けた。

著作権所有者:久保田満里子

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私のソウルメイト(30)

その晩は、野菜のピザを料理の本を見て作ったら、ダイアナだけでなくアーロンにも好評で、普通おいしいともなんとも言わないアーロンも「おいしい」と言って食べてくれた。
 ダイアナはウエートレスのバイトを見つけたと言って、張り切っていた。
「日本料理の店で、マスターも他のウエートレスも日本人だから、日本語の勉強にもなるし」
「それは一石二鳥でよかったわね。いつから始めるの?」
「今週の土曜日から。毎週金曜日と土曜日の夜に働くことにしたわ」
「いくらもらえるの?」
「一時間13ドルだって。それに食事つきだそうだから」
「それはよかったね。じゃあ、今週の土曜日から、週末は夕食作らなくてもいいのね」
「そう」
 ところが、その土曜日の夜、アーロンは早めに床に着き、私が一人でテレビを見ていると、十一時過ぎにダイアナはプンプンしながらアルバイトから帰ってきた。
「どうしたのよ」と聞く私に、
「食事はくれたんだけど、今は見習いだから給料は出さないって言うのよ。一ヶ月もただ働きさせるつもりだったのよ。だからマスターと喧嘩になって、やめちゃったわ」
「ただ働きはひどいわね」
「そうよ。もうむしゃくしゃして今夜眠れそうもないわ」と言うと、受話器をとって、エミリーに電話した。ダイアナがエミリーと話し始めると1時間以上はかかるのを知っていた私は、ダイアナを居間に残して寝室に引き上げた。
 私がベッドルームに行くと、アーロンはいびきをかいて寝ていた。
 その週の月曜日も水曜日も、ロビンに会えたらいいなと思いながら、私は会社に出かけたが、会えなかった。そして、また待ちに待った金曜日が来た。京子とはずっと会っていなかったが、退行催眠のセッションの後、報告がてらに会いに行くつもりだった。
 3度目にもなると、クリニックに行っても緊張しなかった。そのせいか、催眠の状態に入っていくのが段々早くなっていくように思われた。
「さあ、貴方の本を手に取って、ページをめくってください」と言うマクナマラ先生の言葉で、今度は少し前のほうのページを開いた。
「さあ、あなたの足元を見てください。あなたはどんな履物を履いていますか?」
「わらじです。どうやらここは日本のようです」
「いつの時代か分かりますか?」
頭の中に1732と言う数字が浮かんできた。
「江戸時代で、1732年です」
「あなたは何をしていますか」
「20人ばかりの男ばかりの百姓が掘っ立て小屋のようなところに集まって、深刻そうな話をしています。私はそのリーダー格のようです」
「ということは、あなたは男なのですか?」
「そうです。他の人から庄屋さまと呼ばれています。名前は、ええと、作衛門と言います。この小屋に集まっている人たちは皆痩せこけています。この年はイナゴが異常発生して稲を食べられ、米の収穫が極端に減り、自分たちが食べる米にも事欠く始末で、お上に年貢が払えない状態なのです。それで庄屋が直訴をするかどうかの相談のようです。ああ、その話し合いの場にいる百姓の一人は京子さんです。盛んに色々な意見を出しているところは、今の京子さんとちっとも変わっていません。勿論ここでは男で、みすぼらしい百姓の服装をしていますが。その頃は徳川吉宗の享保の改革で、大名たちは1万石に対して100石を幕府に差し出す上米の制がしかれ、年貢の取立てが前にも増して厳しくなっていたのです。私たち百姓が取れる手段といえば直訴だけなのです。しかし直訴をしても願いが聞き入れられる保証もなく、直訴をしたものは死罪と決まっていたのです。この日は結論も出ず、散会になり、足取りも重く私はうちに帰りました。帰ると妻が迎えに出ましたが、この人も、どこかで見たことのあるような人です。ああ、ロビンです。私はロビンと結婚していたのです。それから夕飯になり、家族全員が囲炉裏の周りに集まりました。集まった家族を見ると、隠居をした父親もいます。この人もどこかで見たことがあるようです。ああ、分かりました。アーロンです。母親はすでに亡くなっています。そして15歳の男の子を頭に、12歳、9歳、7歳、3歳と5人子供がいます。本当はロビン、いえ、このときはお久と呼ぶ妻との間には8人子供が生まれたのですが、3人は1歳にも満たないうちに、病気で亡くしてしまいました。晩御飯に出されたものは、粟のおかゆと菜っ葉の汁です。貧しいご飯とはいえ、晩御飯が食べられるだけでも他の水呑み百姓と言われる人たちに比べてマシでした。囲炉裏の火で照り出された家族のどの顔も暗い表情でした。7歳のお初と3歳になる敏坊と呼ばれる下の子達は、何が起きているのか理解しているはずもありませんが、大人の深刻そうな表情に何かを感じ取っていたのでしょう。皆黙々と食べ、聞こえるのは囲炉裏の木が燃えるパチパチと言う音と、おかゆをすする音だけです。

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