Logo for takoshacho

第五回 ニュージーランドで出会った日本人女性

住んでいるオーストラリアから来て回った、一ヶ月のニュージーランドの旅も終わりに近づいていた。クライストチャーチの町を歩いていると、調度一ヶ月前にオークランドの築100年という味のあるバックパッカーホテルで出会った南部さんという女性に偶然に再会した。1986年1月のことだった。

南部さんは、北海道からの一人旅の方で私の母と同じ年の当時60歳。このホテルで受付に行ってチェックインをしようとしたときに南部さんに出会ったのだ。

「ああ、いいところに来たわあんた、ちょっと通訳してくれない?英語がほどんどわかんなくてね。」それまでに世界10カ国くらいの国を旅行しておられると後で知った。「あのね、英語なんかできなくても大丈夫なのよ。世界中どこに行っても必ず日本人がいてくれてね助けてくれるのよ。」神経が可也太いお方のようだった。海外旅行をしたことのない母のことをふと思った。その晩、この南部さんと夕食を共にすることになった。フィンランドからきていた若い男性も誘われていて一緒に行った。

「タコさんね、人の幸せにどんなに『食』が関わっているのか知ってる?これが大切なのよね。まだ独身なのねタコさん。将来結婚したらね、夫婦の生活の中で大事なことよ『食』は。人はね、子どものときに好きだった物を食べるのが本当に幸せなの。妻たる者、それをいち早く確認してこれを作ること。これが大切ね。はい、通訳して。」ちょっとしつこい中華料理を食べながら、拙い英語で通訳もどきを試みた。漢方薬やハーブの効用も何度も言われていた。まだ、健康とは自分のためにある、みたいな頃のことだったので随分聞き流していたが、今自分がよく話すことは健康にいい食事のことが多くなってきていて、年を重ねていくと行き着くところは似通ってくるものだなと思えてくる。この晩は、フィンランド人との通訳がままならず、ゆっくりと食べることもできず可也疲れてしまった。

一ヵ月後に、こんどは南部さんとクライストチャーチの中華料理を味わうことになった。今は大分変わっているのだろうが、この頃のニュージーランドの食文化は、移民の街メルボルンから出向いた私には本当に物足りなく、行く所も限られていた。その時南部さんはもう1人の日本人女性を連れて来られた。山本さんというその女性は、ニュージーランドに移住をしたくて単身で来られているという。どこでも、いろいろな人と知り合い友達になる還暦の南部さんのエネルギーはすごいものがあった。物怖じなどまったく無縁の方だった。

「タコさん、あんた何とかならないこの人。頑張っているんだけどこちらで永住権は取れないのかしらね。」私は、自分のオーストラリアの永住権もままならないのに、こうして他の人の永住の相談にのっている。なんとも不思議な夕食になった。しかし、この山本さんもすごいと思った。日本で何があったかは深くは聞かなかったが、全てを投げ打ってニュージーランド移住に賭けている。身なりはあくまで倹約ムードで質素だったが、底抜けに明るい性格の方だった。しかし、回答の出ない話が延々と続く夜になりある意味では消化不良での解散にはなってしまった。今回は通訳がなかったの助かったが。

その後、お2人にお会いすることはなかった。1度、北海道の南部さんにお手紙を差し上げたが毛筆で達筆のお返事をいただいた。次は中国へ旅行に出かけられるということだった。

南部さんにしても山本さんにしても、私にはエネルギー全開で生きておられるように見うけられた。年とか自分の置かれている状況とかを超えて、まだ見ぬ先に希望を持ってやっておられる。果たして、オーストラリアの永住権は将来取れるのか不安が行ったり来たりしている私だったが、お2人から明るくやっていく元気をいっぱい頂いた。

旅を終えて無事メルボルンに戻り、当時サウスヤラにあった日本食レストランで、毎日毎日皿洗いをする日々を再開させた。

今も、海外に移住を求めて元気のいい日本の女性たちが大勢来られている。

タコ社長のブログ     http://plaza.rakuten.co.jp/takoshacho/

オーストラリア留学   http://www.mtsc.com.au/
(タコ社長の本業)

コメント

関連記事

最新記事

カレンダー

<  2024-05  >
      01 02 03 04
05 06 07 08 09 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31  

プロフィール

東京は東村山からオーストラリアに移住して24年目を迎えている。その間、人種を超えてさまざまな方々と出会ってきた。そんな方々との出会いをもとにして、定住者、旅行者、中長期滞在者、学生、ワーホリなどの方々との一期一会を綴ってみることにした。また、番外編としてオーストラリア以前の一期一会も記していきたい。

記事一覧

マイカテゴリー