Logo for novels

オポチュニティーショップ(最終回)

 一人店に残された郁子は、一体あの骨は誰の骨なのかと、想像してみた。殺された人の骨とは考えにくい。だってわざわざ殺人犯が、自分が殺した人物の骨を、売り物にするためにオポチュニティーショップに持ってくるはずはないと思うからだ。反対に、骨が見つかってはまずいはずだ。それにあの骨は白骨化していた。と言うことは、骨の主はずいぶん前に死んだと言うことになる。それに、骨が売り物になると言う発想を持つこと自体、奇妙だ。郁子の想像力はそこで止まってしまった。
 フィオーナとバーバラは一時間ばかりして帰って来た。
「どうだった?」と好奇心いっぱいで聞く郁子に、
「実際に、人の顔を思い出して表現するって難しいわねえ。何か特徴があればいいんだけれど、どこにでもいるような男だったから」とバーバラがため息をつく。
フィオーナも、「私もあんまり自信ないわ。私は青い目の男だったと思ったけど、バーバラは茶色い目だったって言うし」と行く前の元気がなくなっている。
「刑事さん達、あの骨はどんな人物の骨か分かったら、私達にも知らせてくれるのかしら」と郁子が言うと、「そうだと思うわよ」とバーバラが自信なさげに答えた。その後、どこで聞きつけたのか、ニュースレポーターが現れ、
「人骨が寄付されたって、本当ですか?」と聞きに来て、郁子たち三人をインタビューして帰っていった。
 その晩テレビニュースでこの事件は報道された。警察が持って帰った人骨はちゃんと人の形になるように、頭蓋骨の下に首の骨、その下は肋骨で、腕と指の骨が肋骨から左右に広げられていて、肋骨の下は腰骨、腰骨の下には足の骨と並べられたのが、披露された。警察はまだ鑑識の結果は出ていないと発表。その後郁子たち三人が発見者として出てきた。とはいえ、一言ずつ言って終わりで、郁子がテレビに映ったのは十秒くらいの物である。すぐに次のニュースに移っていった。それでも郁子は自分の顔をテレビで見るなんてはじめてのことだったので、興奮した。
 この事件は、鑑識の結果が出るまでは解決しないと思われたのに、オポチュニティーショップにこの人骨を持って行ったと言う人物が、テレビ報道された翌朝名乗りを上げて、急展開で真相が解明した。
 その男、茶色の目をしたグレッグ・アンダーソンは次のように語った。
「あれは、医学生のためのサンプルとして大学が買ったものですが、いらなくなったので、オポチュニティーショップに持って行ったのです。ええ、あれは本物の人骨です。どこのだれかは知りません。どういういきさつで亡くなったかも全く分かりませんが、僕たちはいつもインドから骨のサンプルを輸入しています」
 インドの輸出先の会社がどのようにしてこの人骨を手に入れたのか不明のままだったが、鑑識の結果インド人の男性と言うことだけは分かった。ともかく犯罪とは無縁だったので、郁子たちはほっとした。それにしても、このグレッグなる人物、人骨を買いたいと思う人がいると思っていたのだろうかと、郁子には不思議だった。
 警察から寄付された骨を返すと連絡があった時、バーバラは慌てて、「いいえ、いりません。寄付したグレッグさんに返してください」と言って電話を切った。郁子は、あの人骨をもう見なくていいと思うとほっとした。人骨をショーウィンドーに飾っている店なんて、想像しただけで悪趣味としか思えない。そう思ったのは郁子だけでなかったようで、バーバラもフィオーナもほっとした顔をしていた。

ちょさく


 

コメント

関連記事

最新記事

交通事故

目撃者の証言 時間ですか?確か、午後2時半ごろだったと思います。.....

断捨離(最終回)

そこに入っていたのは、百ドル札だったのである。それも一枚だけでは.....

断捨離(2)

美佐子は家の片付けをすませると、家具などの処理に困ってしまった。.....

カレンダー

<  2026-02  >
01 02 03 04 05 06 07
08 09 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28

プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

記事一覧

マイカテゴリー