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断捨離(2)

美佐子は家の片付けをすませると、家具などの処理に困ってしまった。叔母に相談すると、今日本では美佐子のように、親の家の処分に困っている人が多いため、処分をしてくれる業者がいるということなので、業者に頼んだ。結局、処分費は百万円もかかってしまった。
処分を済ませて、家を売ったが、駅に近い2階建ての家とは言え、築40年にもなる地方都市の家は、400万円でしか売れなかった。だから、葬式代や家具の処分を委託した業者の支払いを済ませると、手元にはいくらも残らなかった。余りにも少なくて、相続税は払わなくて済んだのが、せめてもの慰めだった。
母の49日の法事も済ませて家も売って、メルボルンに戻ってきた美佐子の口から最初に出た言葉が「くたびれた」だったわけである。
 美佐子はメルボルンに戻って一週間くらい、ぼんやり過ごした。母がいなくなった今、もう日本に帰ることはないだろうと思うとわびしい気持ちになる。最後に母の見せたかすかな笑顔が思い出され、きっと自分が会いに帰るまで待っていたのだろうと思うと、親不孝な自分に罪悪感がわき、頬を濡らした。
少し元気を取り戻した美佐子は、自分の身の回りの整理をすることを思い立った。母の家の整理をするのに、数か月もかかったことに対する反省である。自分も70歳に近い年になって、いつ来るともしれない死の準備をすることの必要性を感じたのだ。後に残る一人息子に、自分が味わった大変さを経験させたくないという思いもあった。
 美佐子も自分の身の回りを見て、母親の物持ちに文句を言えないと思った。おびただしい数の日本の置物。洋服ダンスも「やせたら着られるかもしれない」と捨てないでいた衣類の山。家じゅう物があふれていた。近藤マリのいわゆるコンマリの断捨離法がブームになっているのも美佐子の背中を押した。
「よし、どんどん捨てていこう」
そう決心した日から、毎日のように家の片づけを始めた。まず服から始めた。ほしい服だけ残して、捨てると決めた服には、コンマリが勧めるように「今までありがとう」と感謝の言葉をかけて、どんどんごみ袋に入れたら、いらない服は3袋にもなった。それから本、DVDもじゃんじゃん思い切りよく捨てた。それに、高校で日本語を教えていた美佐子は、まだ役に立つかもしれないと思ってとっておいた書類も山のようにあった。学校を退職して10年もたったが、その間一度もみることのなかった書類である。
その書類の山をシュレッダーにかけて、細切れにされた紙くずを捨てようとしたとき、緑色の紙切れがたくさんあるのに気が付いた。それは大きなA4サイズの封筒をシュレッダーにかけた時のことだった。書類はすべて白いはずなのにと不思議に思って、その緑色の紙だけを取り出して並べてみて、美佐子は「あっ!」と驚きの声を上げた。


著作権所有者:久保田満里子
 

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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