Logo for novels

交通事故

目撃者の証言
時間ですか?確か、午後2時半ごろだったと思います。近くのカフェにコーヒーを飲みに行こうと思って歩いていたら、ドーンと大きな音がしました。音のした見ると、まだ信号は赤なのに、青いマツダ323が停止もしないで交差点の道路に入って右折しようとして、右から来た白いトヨタのエコーと衝突したのが、見えました。それで、慌てて近寄って見ると、トヨタの車のバンパーがへっこんで、マツダの車の運転席のドアがへこんじゃっていました。あれは、確かにマツダの運転手の信号無視が原因の事故ですよ。幸い車がへこんだだけで、人身事故にはならなくてすみましたけれどね。
う~ん、車のスピードですか?そこまでは、分からないなあ。ここは、60キロの制限時速ですからね。どちらの車も、あんまりスピードは出ていなかったと思いますよ。
僕は、この近所に住んでいます。

トヨタの運転手の証言
信号が青だったので、そのままあの交差点を直進しようとしたら、突然左から車が出てきました。慌ててブレーキを踏みましたが間に合わなくて、衝突してしまいました。助手席に乗っていた妹のサリーも証人になってくれます。妹は、証人にはならない?でも、この近所に住む人が証人になってくれるはずです。

マツダの運転手の証言
僕が、信号無視した?とんでもない、いいがかりですよ。信号無視したのは、相手の車ですよ。僕のほうの信号は、確かに青でした。僕は、ともかく誰か怪我しなかったかと心配で、すぐに車を停めて様子を見ようとしたのに、どんどん車を転がしていって、信号から50メートルくらい先の所で、やっと車をとめたんですよ。僕は、自分の車を向かい側の端に、交通の邪魔にならないように停めて、トヨタの車に乗っていた人を見に行きましたよ。そしたら、20代くらいのオーストラリア人の女性が二人車から出てきて、僕が信号無視したと、くってかかるので、びっくりしましたよ。絶対あの子達が信号無視したんですよ。二人で車の中でぺちゃくちゃ話に夢中になっていたんじゃないんですか?
目撃者がいる?その人、信用できるんですか?あの助手席に乗っていた女の子、僕が車を覗き込むと、一生懸命メールを打っていましたよ。あの目撃者、もしかしたら、あの子の知り合いじゃありませんか?だって、車が衝突したときは周りに誰もいなかったのに、僕があの子達と話していると、突然現れたんですよ。おかしいじゃありませんか。僕はうそはつきませんよ。
保険?入っていません。だって今まで無事故だったもの。僕は安全運転するというので仲間の間では定評のある人間なんです。

警官の調査
警部、衝突事故の当事者たちの証言が食い違って困っているんですが、どうしたら、いいでしょうか。ええ、事故の目撃者は、マツダの車の運転手が信号無視したと証言しているのですが…。確かに目撃者の証言を重視すべきだと思いますが、マツダの運転手は、目撃者は信用ならないと主張するんですよ。トヨタの車の運転手が、携帯で呼び出して、目撃者にでっち上げたのではないかと。それで、目撃者とトヨタの運転手は面識がないか調査したところ、同じ大学の学生だと判明しました。でも、ただ面識があるということだけでは、目撃者の証言の信憑性を疑うわけには行きませんし。こういう場合、どうすればいいんでしょうね。警部にいいお考えがあれば、教えてください。{警部が何か言う}ああ、それはいい方法ですね。それでは、念のためにもう一度調べて見ます。
(1時間後)
警部、警部のおっしゃったように調べて見たら、やはり目撃者はトヨタの助手席に乗っていた女性に、偽証を依頼されたようです。トヨタの助手席の女性の持っていた携帯の通信記録を電話局で調べたところ、ちょうど2時半ごろ、目撃者に電話しています。すぐに車を停めなかったのは、たまたま近所に住んでいた目撃者に電話したものと思われます。この証拠を元に、もう一度、トヨタの車の運転手を尋問して見ます。
(30分後)
警部、トヨタの運転手が目撃者に偽証を依頼したことを認めました。これで、一件落着です。


著作権所有者:久保田満里子
 

コメント

関連記事

最新記事

カレンダー

<  2026-10  >
日月火水木金土
        01 02 03
04 05 06 07 08 09 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31

プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

記事一覧

マイカテゴリー