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小説版バイリンガル子育て 第9話 『12816時間後の決意』

 2007年11月18日、新太郎が生まれてから534日経ったこの日、僕は遂にダディと呼ばれた。実際は「ダ...ド...」というたどたどしい感じだったけど、とても嬉しかった。もっとも「ママ」と言ったのは1ヶ月近くも前なのだが、一緒にいる時間が違うしそれは仕方がないだろう。

 この数日前の夜、そろそろ新太郎を寝かせようと思っていたら、ちゃぶ台の上のミニカーを見つけて走ってきて、手前で派手に転んでちゃぶ台の角に口をぶつけて、大泣きしてひどく流血した。ここまで血が出たことも、大泣きした事も無かったので、僕も彼女も驚いて、慌てて病院に連れて行ったら、幸い上唇を浅く切っているだけだったので、自然治癒するだろうと医者に言われた。この頃の新太郎はとてもすばしっこくなり、色々な表情を見せるようになって楽しいのだが、その分目が離せなくなった。周りの物全てを再確認して、ちゃぶ台の角などにはウレタンを当てて、ぶつかってもケガをしないように気を付けた。

 そして新太郎は1歳6ヶ月になり、絵本で覚えた「いない、いない、バー」が口癖になった。アンパンマンも大好きで、テレビでやっていると夢中で見ては「アンパン!アンパン!」と指を指している。好きな物を食べると「おいしい」と言うようになった。英語では、わかった時に「オーケー」と言ったり、ミニカーなどで遊ぶ時に「ゴー、ゴー」と言うようになった。だんだんと言葉をしゃべり始めてきたのだが、今のところ日本語も英語も両方出てきているので、順調に言っているのだろうか?僕には兄弟がいないし、周りに子供もいなかったので、子供の成長をみた事が無く、全くわからない。ただマイナス要素が全く見えないので、上手く言っていると信じるしか無いだろう。日本で暮らしている以上、日本がメインになるのは間違いないので、今後新太郎が日本語で話しかけて来ても、英語で話し続けるようにしないといけない。

 ちょうどこの頃、僕は処女作である「イタリア人は日本のアイドルが好きっ」を出版した。これはこれまで僕が中古CDショップを経営してきた中で、英語も活かそうと英語のホームページも作ってから始まった外国のお客さんとの交流や、なぜ彼らが日本のアイドルや歌手を好きなのかをインタビューしたモノをまとめた本だ。各章の間のコラムには、僕の留学時代の思い出や、ホストファミリーとの絆についても書いたし、ところどころに家族や友達への感謝の気持ちも書けたので、僕のこれまでの生き方を記録してある本という意味でも良い1冊になった。

 子供が生まれるまでは太く短く生きればいいやと思っていたのだが、子供が生まれるとこの子の将来をずっと見届けたいという気持ちが芽生えた。だがその一方で、本を1冊出した事で、もし僕が今死んでも、最低限この本は残るので、新太郎もこれを読めば僕の考え方が少しは伝わると思うと、死への恐怖というものも少し少なくなった。もちろんいつ死んでもいいという訳では無い。まだやりたい事が山ほどある。よく子供ができると守りに入るという人は多いけど、親になってから12816時間経って初めてダディと呼ばれたこの日、僕はこれまでよりも更に自分らしく生きようと決めた。それが僕なりの「親の背中を見せる」という事なのだ。(つづく)



※読者の方からの質問や応援メッセージ大歓迎です。コメントお待ちしております。

僕の会社です→メモリアルCDショップ音吉プレミアム
書籍化された僕のブログ→イタリア人は日本のアイドルが好きっ
英語で日本のサブカルチャーについて書いているブログ→ROAD TO OTAKU

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プロフィール

高橋正彦:1977年、静岡県浜松市生まれ。中学卒業後、単身メルボルンに渡りブライトングラマースクールに入学。同校では、3年がかりで学校側に打診をしサッカー部を創立、初代キャプテンを務める。1998年中古CDショップ「音吉プレミアム」を立ち上げ、世界中の人達との交流を始める。2007年9月、単行本『イタリア人は日本のアイドルが好きっ』を出版。2009年5月には世界中のオタクと交流するOTAKU SPECIALISTとして、NHKから英語でインタビューを受け、その映像が世界80カ国で放送された。

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