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第十九回 酔った女性と話すときは、、、、、

「あなたほどかっこいい日本の男は初めてよ。」
ニュージーランドの南島の更に南、フィヨルドで有名なクイーンズタウンのパブで、カナダから旅行にきていたセラという大柄な女性からそう言われた。今までどんな日本人に会ってきたのかと訊き返したくもなったが、正直のところは嬉しくてこの言葉、額にいれて東村山の実家のお祖父さんの写真の横にでも飾っておきたいと思えるほどだったのだが、、、、。

1985年の年越しは、普段は2千人の町が大晦日には3万人になるといわれているこの美しい町で過ごすことにした。バッパーに荷物を降ろすと、そのまま町にでてまずパブに入った。狭いカウンターでビールを注文すると、栗毛の髪を肩まで垂らしてビールを飲んでいる女性と目が合った。中は外からの光が遮られ、アンバー色の灯りが薄く広がっている。

「どこから来たの?」
話かけてきたのは彼女からだった。もう、だいぶビールが回っているようで、ろれつも回っていないし、からだが前後に揺れる。背が180センチはあろうかと思えるほどの大きくプレーボーイのピンナップガールでも務まるほどの容姿だった。ショートパンツに、申し訳程度に着ている薄手のTシャツは大きく上下に揺れる。

夕方から飲み始めてしばらく一緒にいたが、その内セラは同じカナダ人と思われる人たちと一緒にどこかに行ってしまった。

「ごめんなさいね。昨夜は酔ってからんだりして。」
「私ね、カナダのカルグリーで彼氏と終わって、もうカナダには居たくなくて旅に出たの。」
翌朝、町を歩いていたら出くわした。本当に小さな町で同じ人と何度も出会う。しらふのセラが神妙にそう言い出した。よく私を覚えていてくれたもんだ。そして、そんなことまで話してくれて驚いた。どうやら彼女は、失恋の痛手を背負った感傷旅行に来ていたようだった。それで、浴びるほど酒を飲んでいたのだろうか。

「昨日のことはほとんど覚えていないの。気持ち悪くなって年を越す前に宿に帰ったし。
私、何か変なこと言わなかった?」
「可也酔っていたけど、変なことなんって言ってないよ。大丈夫だよ。ところでセラ、今までどんな日本の男と知り合ってきたの?」
好奇心が抑えられなく聞いてしまった。
「タコ、あなたが初めて話した日本人の男性よ。」
どうやら、酔っていながらきつい冗談を発したようだった。これで、東村山の額の話はご破算になった。まだこういうことに免疫のない頃で、物事を額面通りに受け取ってしまって自分でも呆れてしまった。

「今、世界旅行に出ているの。オーストラリア、日本にも行くわ。そのときは連絡するね、タコ。メルボルンよね。これに住所書いて。」
屈託のない笑顔だった。世界中のパブを同じように酔って、同じような事を言って飲みまわるのだろう。とんだ当て馬にされたもんだ。そして、このセラが、3カ月してメルボルン本当にやってきたのだ。

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プロフィール

東京は東村山からオーストラリアに移住して24年目を迎えている。その間、人種を超えてさまざまな方々と出会ってきた。そんな方々との出会いをもとにして、定住者、旅行者、中長期滞在者、学生、ワーホリなどの方々との一期一会を綴ってみることにした。また、番外編としてオーストラリア以前の一期一会も記していきたい。

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