第十三回 移住をもとめていた同士金髪ニッキー
更新日: 2010-07-01
♪ And the waitress is practicing politicsAs the businessmen slowly get stoned
Yes, they're sharing a drink they call loneliness
But it's better than drinkin' alone ♪
ビリー・ジェエルの「ピアノマン」を黒人の専属歌手がピアノの弾き語りで歌っている。ビリーの歌の中ではこの曲が一番好きだ。
♪ 孤独という飲み物を分かち合っている
でも1人で飲んでいるよりはずっといいさ ♪
移住を求めてシドニーのキングスクロスの安宿に投宿していたときに、ステーキハウスの中にあるバーで飲んでいた。1985年の6月のことだった。誰とも話しをしない日もあった。きっといつか永住権を取るという意気込みとは別に、得体の知れない恐怖感にも襲われる。
因みに、このキングスクロス、日本の新宿歌舞伎町を3倍くらい怪しくしたような所だった。
「どこから来たの?私ニッキー。」
弾き語りを聞いていたら、隣の金髪女性が話しかけてきた。アメリカ人だった。やはりこの国に永住を希望しているとのことだった。金髪には9歳の時から異常反応を起こす体質だった。
「タコといいます。今月来たばかりだけど、これからバスでオーストラリア中を回ってこの国を見てみたんです。」
ニッキーは若作りだけど年は私より3つほど上だとわかった。いろいろとやりながら、シドニーに流れ着いた人の1人だった。
「きっと永住権が取れるといいわね。私ここに時々来るの。来たら、いろいろな人と話もできるわ。タコもまた来たら?」
「ピアノマン」の歌をそのまま地で行くように人々が集まってくる。先の見えない孤独を暖める小さな空間だった。みんな孤独で寂しいんだなと思った。何か始るようで、何も始まらない気だるい時を共有しながら、その場は酒の力で空元気。
私は、それから間もなくアズキ色の大きな バックパックを買って1人で旅に出かけた。この国が本当に自分が思っているような国なのか、自分は本当にこの国でやっていけるのか、と思いながらバスの一カ月の旅に出た。ニッキーには、次のアデレートの町から電話したのが最後になった。
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