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Vintage 4: 旅の途中で飲むワイン


                                                                                                      Lucky Bay, Western Australia 

「今そっちは何月だい?」
日本の祖母が、私に尋ねた言葉が懐かしい。

先週の数日間、気温40度目前であったメルボルン。日本と同じ12月と言っても、到底信じてもらえないだろう。
オーブンを開けた時のような熱風も時折。近年、こんな日が年に何度かある。

サンタクロースも、暑そうな衣装を脱いでクールビス。気取らない白いランニングシャツ姿のサンタには、親しみが増す。

飾られたモミの大木は、海岸沿いにも、ワイナリーの広場にも、心地よい日陰を作る。
スイカが美味しい季節のクリスマス。スイカやイチゴの赤と緑は、ここでは十分にクリスマスカラー。


こんなクリスマス休暇は、海辺で開放感に溢れて過ごしたい。青空のビーチ際で、ワインとフードと自然を思い切り楽しもう。
人生の旅路には、リフレッシュも必要だ。


皆さんは、どんな旅路の途中ですか?

私の人生の旅はと言えば、真っ暗な夜に途方に暮れたこともあった分、見上げたら星が輝いていることにも気付き、美しいものにも出会えてこれた有難いもの。
冒頭の写真はエスペランス(Esperance)のラッキーベイ、十年近く前に撮った写真。ここは「天国」のように美しい。
フランス語のエスペホーンス(Espérance:希望)から名付けられているこの土地。"希望"を求めている方は、この場所にぜひ行ってみたほうがよい。
(西オーストラリアを旅するコツは、またいずれ。。。)


さて、海辺で食事ならば、新鮮なシーフードにスーベニオン・ブラン(Sauvignon Blanc)の組み合わせは如何だろうか?
晴れ渡った空の下、ワインを片手にシーフードBBQもお勧め。

オイスターは旬のピークを終えたが、ロブスター(Lobster)やMoreton Bayが有名なバグ(Bug)も絶品。オーストラリアでは手軽で新鮮。
準備には簡単な方法もある。スーパーや魚屋で茹でた物を買ってきて、レモンを絞って頂く。これは最高に、ニュージーランドのスーベニオン・ブランに合う。

    

ニュージーランドワイン業界の急成長は力強い。2008年以降、2005年の二倍を上回る年間2億リットルのワインを生産するまでに至っている。現在ではその半分以上が各国に輸出されており、中でも主力のスーベニオン・ブランは、世界の消費量の多くがニュージーランド産と言われるまでに急成長した。それほど世界から認められ、注目を集めている。

ニュージーランド産のスーベニオン・ブランの特徴は、とても芳香強く、程よい酸味に支えられたフレッシュなワインである点。主に、トロピカルフルーツの特徴を持ち、地域によって、パッションフルーツ、草原、豆、ミネラル、シトラスなどを感じることも多い。
特にマルボロ(Marlborough)は、生産量の9割以上がこのスーベニオン・ブランである代表地区。同じマルボロの中でも、畑の位置によって環境や地質はさらに多様で、収穫時期、特徴ある環境、醸造方法などで個性を産み出す銘柄もあることを、マルボロのワインが一色に扱われがちな風潮も仕方がないが、情報として特記しておく。ともあれ、フランス産のものとは個性が違うのは全体を通して共通。特別に熟成を意図して作られたもの以外、長年寝かせて楽しむ葡萄の種ではない。


                        Trigg Beach, Western Australia

海辺のBBQで格別に楽しかったのは、西オーストラリアのトリグビーチ(Trigg Beach)だろうか。ビーチ沿いのBBQ施設は公園を伴い、家族連れや大人数にも最適。電気が熱源のBBQ機器が備え付けられており、無料で使える。数は限られているが、オージーらしくShareの心。慌てず仲良く使う。見知らぬ人と、鉄板を半分ずつ分かち合うことも多々ある。空きができれば、必ず声を掛けてくれるのだ。前の人が掃除していないとか、順番がどうのとか、楽しい空の下でそんなことは言い出したらダメ。それがオーストラリア。

シーフード+海を眺めるレストランなら、同じ場所にあるトリグ・カフェ(Trigg Island Cafe)は景色長閑でお勧め。鮮度が命のシーフード。良い素材に出会うには、忙しい店であることが最低条件。
アデレードの海沿いなら、グレネルグ(Glenelg)に行こう。
サンシャインコーストなら、スティルウォーター(Still Water Japanese Restaurant)。
シドニーなら、ロックプール(Rockpool)が質的にハイレベル。
ケアンズのカーニーズ(Kanis Restaurant)もどうだろう。12年前にオーナーをよく知っていたが、今も健在と言うことは質が保たれている筈。

そして、メルボルンでは。。。


                                                                 St. Kilda Jetty, Victoria

メルボルンで最も美しい夕日に出合える場所のひとつ、セント・キルダ(St. Kilda)。
ここセント・キルダの一等地にあるレストラン、ドノバンス(Donovans)は、ビーチ際の最高に素敵なアップランクレストラン。オーナーご夫妻、ジャイルとケビン(Gail and Kevin Donovan)もまた、私を両親のように助けてくださる大切な人。長年に渡り、メルボルンのリーダー的レストラン経営者。質の高い繁盛店を成功させてきたジャイルとケビンは、メルボルン飲食業界の正しく大御所。この業界での発言力は重い。

私がレストランやワインを評価する時に最も重きを置くのは、オーナーの誠実さ。金儲けより先に、プライドと正しいことを重視し、向上心が絶えない店は、本物になる。ジャイルとケビンとの付き合いで、ドノバンスの真心を知っている。

最高のシーフードとスーベニオン・ブランをここで味わったなら、メルボルンで忘れてはならない経験のひとつをクリア。
ワインリストも素晴らしく、どれも飲んで頂きたいワインばかりが揃っているが、現在のリストの中から敢えて選ぶなら、クラウディーベイのテ・ココ(Cloudy Bay 'Te Koko' Sauvignon Blanc 2006)。

週末のディナーの為には数ヶ月前からの予約が必要だが、私にとって、親友が訪ねてきた際はここを選ぶという特別な場所。シーフードに加え、リゾット(Risotto)も素晴らしかった。居心地の良い店内。インテリアやサービススタッフのユニフォームは、ジャイルが季節ごとにアレンジしており、食後にソファーで寛ぐのもまた楽しい。大人数のパーティーなら、ファンクションルームを早めに予約することをお勧め。楽しい会になる事、間違いない。

フレンドリーで親切な熟練スタッフは長期間このお店で働くことが多く、やがて各地の有名レストランやホテルへと巣立ってゆくこともある。オープン当初から一気に名を上げた、カトラー&コー(Cutler&Co.)の責任者もここの出身だ。あらゆる有名店で、この店で育てられた人々に偶然会う度、「え?あなたも?」と驚くばかり。ジャイルとケビンにその出会いの多さを話すと、いつも卒業生の有能で働き者であった点を褒める。

この業界においては、様々に多くの店で働いてスキルをあげたいのは誰もが同じ。熟練の人物ほど、親身に教えた弟子たちが、いつまでも自分の元にいてくれるわけではないのを知っている。育てた彼らを、快く送り出す親心があるドノバンス。そのお店のスタッフの人柄を見れば、親方の良さが伝わってくるものだ。ホリデー中は、ケビンのポルシェを、マネージャーが自由に使っている。お店を長年支えてくれるスタッフへの愛情にも出し惜しみがない。

    

イタリアを旅した際の写真集を出版しているジャイルとケビン。最近、南アフリカでの大自然の旅の経験を情熱的に話してくださったが、この経験も本にすることをお勧めしている。経営に関して、隠し事もなく私を育ててくださるお二人。完成度の高いドノバンスのスタッフマニュアルを躊躇いもなく贈ってくださったり、ドノバンスのバックルームでワイン管理システムの全ての仕組みを紹介してくださったのも、このお二人。


                                                                            St. Kilda Beach, Victoria

夕日が沈んだ、まだ赤い海の向こう。潮の香りが強くなる。

夕日でも見に行くか。。。と、そもそも今日、そう気分転換できたのは、ある著名な方が、私達のことを記事の中で書いてくださっているのを見つけたから。

芸能界とかその辺りにはとても疎いが、いろいろあって大変な業界であるだろう事は想像がつく。そんな業界を生きてきた彼女からは、大人びた経験の豊かさを感じる。どんな環境の中をも、逞しく、楽しく生きようとするる彼女の人生の旅は、人々に力を与える。彼女を見習おう。立ち止まっている場合ではない、前に進むのが一番。さもなければ、このコラムは愚痴ばかりになっていたかもしれない。

理解されなくとも正しいと思うことを頑張ろうとすれば、孤立することも多い。ガリレオのよう。それを承知の上なら、愛情を持って世話したスタッフに貶されるのにも耐えなければ。何事もなく平和な環境が整ってくる職場。それは、今までの努力が形に変わったのと同時に、過去の紆余曲折と犠牲にしてきたものが忘れ去られる瞬間でもある。波が流した、まっさらなビーチ。綺麗に慣らされた平和で心地良い砂浜で、子供達が無邪気にはしゃぐ。過去を知る必要はない。少し寂しかったのである。

彼女の記事と夕日のお陰で思い出した。私にも、厳しく、優しく、そして大きく助言をくださる多くの先輩達がいてくださることを。私にも、味方でいてくださる方がいる。ジャイルとケビンを、このコラムで紹介するに至った。

皆さんの街の今日の夕焼けは、どんな景色ですか?

人生の長い旅。時には休憩もしっかり取って、実り多き道を、これからも元気一杯歩いてください。夕日が、あなたの実らせた沢山の稲穂を、金色に輝かせてくれる日まで。

2009年12月24日



Cloudy Bay Sauvignon Blanc

フレッシュ感溢れる、グウァバ、マンゴなどの果実味。ライム・ミネラルな酸味は、記事中のシーフードにぴったり。マルボロの中でも、特にクオリティーの高いスーベニオン・ブラン。上位ランクの'Te Koko' は、数年寝かせた上でリリースされる特別なタイプのSauvignon Blanc。
落ち着きと、要素がよく溶け合って仕上がった味わい深さを持つ。この有名なワイナリーの創業者が、私の親友の父親であることを、この記事を書いている最中に偶然知った。不思議な縁には、いつも驚かされる。メルボルンパワーでしょうか?
 
Cloudy Bay
T +64 3 520 9141
E info@cloudybay.co.nz
Web site: http://www.cloudybay.co.nz/
http://www.cloudybay.co.nz/Microsites/TeKoko

このコラムで紹介したワインを、実際に試してみようと思ってくださる方もいてくださるかも知れません。お近くのリカーショップで見つかり安いよう、もう数本、マルボロのお勧めをご紹介しておきます。

 Villa Maria Sauvignon Blanc
http://www.villamaria.co.nz/

Dog Point Sauvignon Blanc
http://www.dogpoint.co.nz/



Donovans,
40 Jacka Boulevard, St. Kilda 3182 Victoria, Phone: 03-9534-8221
eat@donovanshouse.com.au
http://www.donovanshouse.com.au/

Trigg Island Cafe, 360 West Coast Drive, Trigg Perth WA, Ph (08) 9447 0077
http://www.triggislandcafe.com.au/

Rockpool, 107 George StreetThe Rocks 2000 NSW, Phone: +61-2-9252-1888
http://www.rockpool.com/

Still Water Japanese Restaurant, 36-38 Duporth Avenue, Maroochydore 4558 QLD
http://www.stillwaterjapanese.com.au/

Kani's Restaurant, 59 The Esplanade, Cairns QLD, Phone: 07 4051 1550
http://www.kanis.com.au/

Cutler & Co. 55-57 Gertrude Street, Fitzroy 3065 Victoria, Phone: +61-3-9419-4888
http://www.cutlerandco.com.au/


コラム一覧
Vintage Cellar: 全てのコラム
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Vintage 2: Yarra Yeringと楽しむ思い出のディナー
Vintage 3: Mandalaで学ぶ、ワインメーカーの情熱
Vintage 4: 旅の途中で飲むワイン


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                                                          伊賀 雅彦    Masahiko Iga                                         ソムリエオーストラリア協会初の日本人プロフェッショナル会員、ワインソサエティーワインジャッジ、きき酒師                                                                          素晴らしい人々が生きているワイン&フード業界。その楽しさを、人々の優しい素顔を、そして食とワインと共に歩くオーストラリアを、実際の経験を基に現場からご紹介します。 私にとっては、実際に見たこと、聞いたこと、経験したこと、体験したことが最も大切です。知ったかの薀蓄や、本で読んだばかりの上っ面の知識を披露する場所には致しません。

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