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オシドリ夫婦(最終回)

ソフィーの変貌ぶりを聞いて、僕はゾクッとした。
「それから、どうしたんだ?」僕はニールに話の続きを促した。
「それから僕とロッドで何とかソフィーをおさえつけて病院に連れて行って、入院させたんだ。でも、病院で1週間もすると元のソフィーに戻ったので、家に帰ってきたんだ。家に帰って一週間もしないうちに、今度は真夜中にロッドの悲鳴で起こされたんだ。ロッドの寝室にかけつけて電気をつけたら、ソフィーとロッドがベッドの上でもめあっているのが目に入った。その時ソフィーの手に台所から持ってきたらしい包丁が握られているのを見て、僕はあわててソフィーの手をねじり上げて包丁を取ったのだが、ソフィーは『この宇宙人たちめ。死ね!』と叫び、今度は僕に襲い掛かってきたんだ。髪を振り乱して叫ぶソフィーを見て、思わず平手打ちにしたよ。その後、救急車を呼んで、精神病院にまた入院させたんだ。その病院からの帰り道、ずっと沈黙を保っていたロッドが、家に着くやいなや、目に涙をためて言ったんだ。『パパ。このままでは僕達ママに殺されてしまうよ。パパ、ママと別れてよ』。お母さん子だった息子が、そんなことを言い出すなんて、思っても見なかったよ。息子も僕も疲れ果ててしまったんだ。ロッドも断腸の思いで僕に離婚してくれと頼んだのが分かるので、二人で抱き合って、泣いたよ。僕もこれからいつまで続くか分からないソフィーの病気との闘いに、離婚のことも頭にちらつくこともあったけれど、ロッドのその一言で離婚に踏み切ったんだよ」
「そんなことが、あったのか…」
「僕はソフィーの病気のことで色々な病院を駆けずり回って仕事に手がつかなくなっていたから、離婚したときには会社から解雇を言い渡されたよ。だから、離婚した後、僕達はまた新しい生活を始めようといってメルボルンに戻ってきて、今二人でアパートを借りて暮らしているんだ。僕達夫婦が離婚をして、ロッドは僕以上に傷ついているからね。大学進学どころじゃないんだよ」
「それで、ソフィーは、どうなったんだ」
「まだ病院に入院しているよ」
「そうか。皆大変だったんだね」
ニールは時計を見ると、
「あ、今日は午後から仕事の面接にいかなくちゃいけないんだ。失礼するよ」と、そそくさと立ち去った。
僕はニールの後姿を見ながら、喧嘩の絶えない僕達夫婦のことを考えた。喧嘩の原因は主に加奈の浪費癖にあるのだが、ニールの話を聞いて、加奈の浪費癖が許せるような気がした。そして、あんなに仲の良かった家族が離散してしまった悲劇に胸が痛んだ。

注:実際に知人に起こった話を脚色しました。

ちょさk

 

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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