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Vintage 8: トップソムリエ、東北で日本酒を学ぶ


「第14回世界最優秀ソムリエコンクール」のために日本を訪れた、私達6人のオーストラリア代表団。(前回のコラムをご参照ください。)
各メンバーは非営利団体であるソムリエオーストラリア協会の活動に力を入れつつ、当然のことながら、誰もがそれぞれの職場でも責任ある立場についているので、日本訪問直前は、お互いに連絡を取り合うのも困難なほど仕事に追われていました。日本に向かったのも、別々の便の飛行機。このメンバーが一同に日本に集うなんてある意味夢のようで、やっと東京のホテルで全員が再会したときは、抱き合って感動したものでした。

こうして日本に渡ったオーストラリアのトップソムリエ達に、日本の郷土料理や国酒「日本酒」を心ゆくまで楽しんでもらい、本物の日本の文化を紹介したい。それが私の情熱でした。そして「がんばろう日本」の気持ちも込めて、大会後にメンバーを東北へと誘ったのでした。彼らが日本の文化に深い理解を持ってくれれば、その下にもまた人が育ちます。それぞれが多忙で大会の疲れも大きい中、片道3時間以上の旅に全員が快く参加してくれました。

今回は、できる限り長文はやめて、シンプルに旅の様子を写真でご紹介します。

 


新幹線で「黒龍」を試飲する、ベン(ソムリエオーストラリア協会会長)とダン。
列車の中でお酒が楽しめるのは、日本ならではの旅の風情ですね。こちらオーストラリアでは、公共の場での飲酒や喫煙が厳しく制限されていますので、皆「ホンとなのか!?」と非日常的な経験を楽しんでいました。

 


世界大会7位のフランクと、20位のマーク。大会への大きなプレッシャーの後、安堵の表情でお弁当を楽しんでいます。
世界に挑んだ勇敢な二人も、家に帰れば優しいお父さん。フランクがお土産に買った小さな日本の袢纏は、かわいい息子さんにぴったりで、本当にキュートでした。マークがメルボルンの空港に帰ったときには、ご家族が温かくお迎えで、お父さんの帰りを楽しみにしていた子供達との姿に幸せが溢れていました。

 


山形は雪景色。心和やかになる列車の旅。
こんな多忙なメンバーを遠出に誘って良かったものか、内心少し悩んではいましたが、リラックスして楽しんでいる皆を見てやっと安心してきました。例えばフランクは、山形で一泊後すぐ成田に戻ってオーストラリアへ帰国、とんぼ返りでシドニーの職場へ。しかし、何度も本気でお礼を言ってくれましたよ。

 


雪を初めて見たメンバー。芭蕉の山寺を眺めた時は、子供のようにはしゃいで雪合戦まで始まりました。

 


そして訪れたのは、「出羽桜酒造」さん。蔵元の仲野益美社長は、業界でもとても慕われている人物です。
蔵には出羽桜資料館が併設されており、素晴らしいコレクションに驚かされました。

 


手作りの日本酒。旨い。「出羽桜」が、世界鑑評会入賞の常連であるのも頷けます。

 


麹室や醸造室など、各部屋に移動するたびに毎回違う上履きに履き替えます。菌の働きが大切な蔵での、細部までの気配りと想像しますが、あまり履物を脱ぐ文化の無い皆は、少しあたふた。
ベン会長がどれだけ愉快な人物かなかなか私の文章力ではお伝えできませんが、例えばこの時の一言。
「Listen、フランク・モローが上履きを履き間違えているが、これは一体何が起こるの?」

 


次に訪れたのは、栃木の「四季桜」さん。隅々まで清潔な蔵で、美味しいお酒が醸されていました。
酒サムライの入江啓祐さん、そしてインターナショナル・ワイン・チャレンジ(IWC)日本酒審査部門の最高責任者、大橋健一さんのお二人が、私達の短い訪問のためだけに遠方から駆けつけてくださいました。まさしく侍です。本当に有難うございました。

 


酒サムライから、内容の濃いレクチャーを受けるマークの真剣な姿。その後、宇都宮で餃子を40個以上も平らげたマークを、餃子サムライに任命します。


宇都宮駅で、世界大会優勝のパオロ・バッソと偶然同じ新幹線。世界は狭い。
温厚で優しい世界チャンピオン。できる人ほど、何も威張ったりはしませんね。

 

最後の写真は、出羽桜さんの酒蔵の壁。

私達の国、日本は本当に美しいですね。何より、日本を観光する友人に、犯罪や盗難に気をつけるよう口をうるさくする必要が少ないことが、他の国との大きな違いに思います。

メンバーは、心底日本を満喫できたようです。嬉しくなりました。

 

コラム一覧
Vintage Cellar: 全てのコラム
Vintage 1: Leeuwin Estate で過ごす、歴史的野外コンサート
Vintage 2: Yarra Yeringと楽しむ思い出のディナー
Vintage 3: Mandalaで学ぶ、ワインメーカーの情熱
Vintage 4: 旅の途中で飲むワイン
No Vintage: 空白のビンテージ
Vintage 5: オーストラリアが香るワイン、Granite Hills
Vintage 6: 山奥の小さな酒蔵「獺祭」
Vintage 7: 「第14回世界最優秀ソムリエコンクール」

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Vintage 7: 「第14回世界最優秀ソムリエコンクール」

 

2013年3月。歴史に大きく残る重要なイベントが日本で行われたことを、皆さんはご存知でしたでしょうか?

「第14回世界最優秀ソムリエコンクール」

3年に一度、国際ソムリエ協会(A.S.I)の主催で行われるこの大会は、「世界一のソムリエ」が選出される世界最高峰のワインイベント。1995年第8回に田崎真也さんが世界一に輝かれてから、実に18年振りの日本での開催であり、盛大で意味深い催しでした。

大会の正式なリポートや結果は、日本ソムリエ協会の機関紙「Sommelier」を始め、素晴らしい記事が沢山ありますので、是非そちらをご覧ください。2013年7月6日の19時30分から21時まで、NHK-BSプレミアムで特別番組も放映される予定ということです。

一方、私は「業界の素顔」というこのコラムのタイトルのもと、オーストラリア代表団6名のうちの一人として参加したこのイベントで、実際に何を見てきたのかをカジュアルに綴ってみます。

 

現在、国際ソムリエ協会を会長として取り仕切るのは田崎真也さん。私がフランスを旅していたときも、様々な雑誌で会長としてのご活躍をお見かけしました。日本人が世界の最前線でご活躍されていることは、本当に素晴らしいことですね。田崎さんのご成功に深い敬意。

同じ業界にいると、田崎さんがただ優秀なソムリエで有名人であるだけではないことに気づかされます。技術や知識が優秀なソムリエは、次々と現れています。しかし、文化への貢献、業界のリード、後に続く人々への道作り。これらの偉業は、誰にでもできるものではありません。

この第14回世界最優秀ソムリエコンクールの大成功も、田崎さんが導いたものと容易に理解できます。そして日本ソムリエ協会の超豪華メンバーが、影となって世界の来賓を迎えてくださっていました。例えば、各ディナーパーティーは、中本聡文さん(資生堂レストランロオジェ・シェフソムリエ)や阿部誠さん(第11回世界最優秀ソムリエコンクール日本代表)らトップソムリエが担当されていたのですから、最高のクオリティーに間違いがありません。誰もが満面の笑顔で楽しんでいました。
他国に誇れる、歴史上最高の世界大会が行われたことは、日本人ならではの仕事と感じます。

ソムリエオーストラリア協会も、今後の世界大会やアジア大会の開催地に立候補しましたが、それを叶えるにはどれほどの下準備や業界の取り纏めが必要か、考えるだけでも気が遠くなります。そして、日本が行なったほどの繊細かつゴージャスなおもてなしは、到底真似できるものではありません。

「数年前から、桜満開の季節に合わせられるよう願っていた。」と田崎さんが仰られました。世界中の業界のリーダーが、まさしく最高の桜を満喫できた数日間でした。

 

今大会では、過去13回の世界大会の優勝者のうち12名が東京に集結。世界50カ国以上から、各国の最優秀選手と代表団が日本に招かれました。日本ソムリエ協会の岡昌治会長の挨拶の中でも語られましたが、事実上、世界中のトップソムリエが東京に集まった貴重な4日間でありました。

最終日の大会決勝は東京国際フォーラムで行われ、NHKの生放送、多くの報道陣、そして4000人の観客が見守る中、スイスのパオロ・バッソ(Paolo Basso)が優勝を果たしました。舞台上でのプレッシャーは、おそらくワールドカップでPKを蹴る選手と同じでしょう。そんなプレッシャーの中、味の繊細さを見極められるのか、見守るほうも汗を握りました。

ところで、ベン会長も審査員の一人で舞台上にいましたが、自己紹介で「President of Sommeliers Australia. G’day! 」と茶目っ気を見せたのは、彼らしい肝っ玉です。(グダイ!はオーストラリア訛りの挨拶です。)

 

 世界1位  パオロ・バッソ(Paolo Basso) スイス 
 世界2位  ヴェロニク・リヴェスト(Veronique Rivest) カナダ
 世界3位  アリスティード・スピーズ(Aristide Spies) ベルギー
 世界7位  フランク・モロー(Franck Moreau) オーストラリア
 世界14位 森覚(もり・さとる) 日本
 世界20位 マーク・プロドロー(Mark Protheroe) オーストラリア
 

オーストラリアチームは普段からとても仲が良く、このメンバーでいると笑いが絶えません。YesとNoがはっきりしていて気持ちが良いのがオーストラリアらしさ。左から、ベン・エドワード(Ben Edwards)ソムリエオーストラリア協会会長、私、日本代表の森覚選手、フランク・モロー選手(Franck Moreau)、マーク・プロドロー選手(Mark Protheroe)、ダン・シムス(Dan Sims)、そしてジョアン・ダフ(Joanne Duff)も同行。

日本代表の森覚さんは優勝候補と言われるのに十分の実力の持ち主ですが、世界レベルの大会は小さなミスが明暗を分ける厳しいものでした。しかし、どの選手も健闘したことに間違いはありません。世界20位以内に、日本代表選手とふたりのオーストラリア代表が入賞したことは素晴らしいことです。

大会中のある夜、各国の代表達と宿泊先のホテルのバーで軽く飲む機会がありました。同じバーで岡会長の姿を見つけました。岡会長は笑顔が素敵で、いつでも明るさとユーモアを振り撒き、緊張が重い場や空気が張り詰めそうな時ほど、みんなを和ませてくださる優しいお人柄。いつも周りを思いやっていらっしゃる。日本の準決勝進出が叶わなかったこの夜も、きっと人々を次回の挑戦のために笑顔で勇気付けておられたことでしょう。大変寂しそうな背中を夜のバーでお見かけし、一番落ち込んでいたのは、実は岡会長であったことを噛み締めました。若手を愛する優しいお背中。お話し中、良い言葉が見つかりませんでしたが、お伝えしたかった気持ちは、私はオーストラリアチームの一員であると同時に、私も日本の活躍を心から願っているという想いでした。

嬉しかったのは、「自分のことだけで一杯になってしまって当然なくらいの重いプレッシャーの中でも、森さんは他選手をいつでも気遣い、開催国の代表として立派に来賓を迎えてくれた。」と各国選手が口々に語っていたことでした。他の国の誰もが、森さんが開催国日本の代表選手としてどれだけのプレッシャーを背負っているかを感じていました。NHKの密着取材まで付いているのですから、大変です。

笑い話ですが、時には代表達の中に自分のことだけで精一杯になってしまう人もいます。もちろんそれは仕方の無いことですね。例えば、ある代表との面会のあと、ダンが「マーク、いつか偉くなったときにあんなつまらない奴になったら、頬をひっぱたいてやるからな。」と言ったのに笑えました。

 

森さんを真ん中に、何気なく撮っていただいた写真ですが、そう言えばイタリア・日本・オーストラリアのコンビだねと森さんが一言。左はイタリアで活躍中の日本人ソムリエ、林基就さん。

森さんの勤めていらっしゃる、トゥールダルジャンをお訪ねしたときのことを思い出します。
私が一人きりでテーブルを予約しているのを見つけて、一人の食事は寂しいでしょうからと、わざわざ休日にお店に来て一緒に食事をしてくださった。こんなサプライズ。本当に、最高峰のホスピタリティーですね。
高校の卒業式に、彼女が花束で驚かせてくれた時を思い出してしまいました。(笑)

 

田崎真也さんプロデュースのモエ・エ・シャンドン・ディナー。本当に素晴らしい。

 

決勝後のガラディナー。森さんも谷宣英さん(第13回世界最優秀ソムリエコンクール日本代表)も、来賓をもてなすための挨拶でずっとお忙しそうでした。あのような素晴らしいお料理を、一口も口にされる時間が無かったのではないでしょうか?最高のプロ意識です。

 

世界中からトップが集まっていますので、世界との友好が広がる最高の機会であることは言うまでもありません。

 

礼儀正しくフレンドリーな、韓国人チームと同席でした。

 

さて、これほどの大イベントが成功を収めたあとは、誰もが達成感や開放感で一杯。
私達オーストラリアチームは、まず帝国ホテルのラウンジに向かいました。

 

Suntory Timeの写真を撮ろうと言い出すと、どこからともなく店員のかたが「響」のボトルを持ってきてくださる気の利きよう。日本のサービスは凄い。(写真はベン会長)

 

世界3位のアリスティードとダンが、同じ学校出身であったことが判明。世界は狭い。
このあと私は、ベン会長とふたりで銀座へ。

 

ソムリエに国境なし。偶然にスウェーデンのチームと一緒になって、銀座の夜を楽しむ。何しろ、300人以上もの関係者が海外から訪れているので、ホテルや銀座や東京中、とにかくいろんな場所で知った顔に次々と出会う。

この夜、ベン会長が財布を無くしたというので、いたるところを探した。そこで、代わりに他の国のソムリエ協会会長が落とした財布を見つけてしまったという、なんとも不思議な運命。ベン会長の財布は、実は部屋に置き忘れてあった。(笑)

 

チーム・オーストラリア。

ある夜はマークとフランクとも、帝国ホテルの私の部屋で遅くまで語り合ったなぁ。
幸せなことも、辛いことも、人にはそれぞれいろいろある。そんな時は、友と涙を流して語り合う。大切なひと時。

ソムリエの世界大会は、ただ世界一を決めるだけのシンプルなイベントではなく、世界中の仲間との絆をさらに強くするための、大切なイベント。沢山のドラマが流れている。

私がこのコラムを書く理由は、活躍する英雄達の、温かい、優しい、愉快な、愛すべき素顔の一面を、皆さんにお伝えしたいため。

どうか、楽しんでいただけたことを祈ります。

がんばろう日本。
がんばろうオーストラリア。

 

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Vintage 6: 山奥の小さな酒蔵「獺祭」

 

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Vintage 6: 山奥の小さな酒蔵「獺祭」




山波を優しく染める満開の桜の色に、山つつじのアクセント。感激。ついにやって来た、13年ぶりの「日本の春」。
車窓から眺める長閑な風景。レンゲ畑の赤紫が心に懐かしく、通り過ぎゆく菜の花の黄色はぽかぽかと暖かい。田んぼ仕事のお爺さん、草むしりのお婆さんが遠くに見える。大地と共に生きる、静かで温かい時間の流れ。これこそ日本の風情。祖国の春とのやっとの再会に、ため息がこぼれた。



海超え、山々を越えて辿り着いたここは、山口県岩国市。日本で最も人気のお酒「獺祭」を醸す旭酒造へ、メルボルンより遙々修行の旅にやって来たのだった。

「獺祭」の酒造りに加えさせていただけるなんて、どれだけの人が夢見る幸運であろうか。この10日間の日本滞在には、とても気合を入れている。営業日にお店を抜けることは稀な私が、休暇を取ってまで旅をするのはここ数年で初めて。
まず大切だったのは、オーストラリアからの緊急連絡に備えた準備。いつでも連絡が取れるよう、到着した関西空港で携帯電話を借りた。番号は事前に知らされており、主要な人物には既に連絡済み。我ながら準備は万端である。その後、大阪で一泊、翌日には新幹線の始発で新岩国へ向かう。新岩国駅へは旭酒造次期四代目が自ら迎えに来てくださり、酒造のある山奥へと向かった。

旭酒造に着くと、春の陽気の心地良い香りが私を包んでくれる。昔ながらの寂のある建物の近くを、清流が音をたてて流れている。土手に生える沢山の筑紫を見つけ、子供のように嬉しくなった。近くでウグイスが鳴いている。空には鷹が優雅に羽を広げ、山々に淡く混じる深緑やパステルカラーの木々。耳を澄まし、心を澄ませば、遠くからも大自然の言葉が聞こえてくる。日本の田舎って、なんて素敵なのだろう。
そんな感動いっぱいに浸った頃、ふと気付くと、準備万端の携帯電話に圏外マーク。日本の田舎って、なんて素敵なのだろう。



さて、オーストラリアで幅広い銘柄の日本酒が味わえるようになったのは、まだここ最近である。
寿司と刺身の意味の違いが解らない人がほとんどだった、13年前の西オーストラリア州。大根や白菜が手に入るようになったのも、ずっと後だった。日本から輸入したマヨネーズはとても高価で、日本人はみんな宝物のように慎重に使っていた。常温(おそらく赤道通過時はそれ以上)の船便で3ヶ月以上かけて運ばれていた日本の食品達は、もはや賞味期限もあまり残っておらず、例えば白味噌なんかは、こちらに着くと合わせ味噌のような色になっていた。勿論日本酒も、冷蔵コンテナや航空便を利用しコストがカバーできるほどの需要が無い時代であった。

ところが近年までの間に、日本食への関心は急速に高まり、解ってくださるお客さんが増え、消費も増え、特に日本酒についてはこれからの発展をひしひしと感じるようになった。
「この機会に、本物の日本の心を伝えたい。」その強い思いが、今回の旅の理由。きき酒師の勉強はしてきたが、知識ばかりで解ったようなことを言いたくはない。そこで、私が感銘を受けたお酒「獺祭」の酒蔵に、修行の機会を頼み込んだのだった。修行を許してくださる酒蔵は多くは無い。就職した若者だって、酒造りを教わるのは10年後って言う酒蔵もある。旭酒造のご好意に、心からお礼を申し上げたい。

「獺祭」とインターネットでサーチしていただければ、どれだけ人気を博している銘柄かを簡単にお分かり頂ける。映画に登場したり、スポーツ選手や有名人が話題に取り上げ、雑誌などのメディアでは蔵元の桜井氏をよくお見かけするので、今回初めてお会いする気がしなかった。しかし、大切なのは有名人が美味しいと言った言葉ではない。中身のある人気なのかどうかを確かめるべく、特に「獺祭 磨き二割三分」は日本から何度も取り寄せ、その品質を味わった。

なぜ私がソムリエのさらに上を目指しているかと言えば、自分が美味しいと言ったものに責任を持ちたいという気持ちからでもある。今回の修行では、なぜ「一番」が「一番」でいられるかを身をもって体感してきた。

私の尊敬する花菱の親方は、よく言っている。
「器用さとそこそこの努力で80%の技能を身に付けてしまう人もいる。しかし、日本の文化はその先が本当の勝負。そこから先は、僅か1%伸びることだってそれまでの道程より遥かに長い。」
親方は、日本の首相や大臣を初め、各国の政府要人に料理を供してきた元公邸料理人である。
上をゆく人々の何が違うのか、何をやっているのか、自分にも相応の時期が来なければ見えないことも多い。

まさしくこの「獺祭」の桜井氏こそ、上に何があるのかを知ってきた人物。「日本一」を醸すのには、訳がある。知的な言葉の節々と、優しさの滲む貫禄から、桜井氏にもこれまで人知れない険しい道程があったことを容易に推察できる。
「簡単に今があるわけじゃないの。。。」
奥様が、4代目にポツリと語られたその言葉が、それを静かに裏付ける。

本物が生まれる理由は、誠意溢れる酒造り。「獺祭」の酒造りの流れは、大まかに次のようである。

<1.精米>
酒米を削る作業。雑味の元となる、ミネラルやタンパク質を多く含む外側の部分を磨き落とし、良質の吟醸香を生む酒を生み出す準備。
「獺祭」の有名な酒のひとつ「磨き2割3分」は、なんと米を23%の大きさになるまで磨き、より純粋な「心白」と呼ばれる部分を取り出す。最新鋭の設備で磨くとはいうものの、摩擦熱で米がダメージを受けないよう、慎重な何日もの作業を要する。その後、水分を失っている磨き後の米は1ヶ月以上寝かせられ、元の水分量を自然に取り戻す。
ところで、磨き落とされた77%もの米粉がどうなるかといえば、全てに無駄が無い。栄養分豊富なこの米粉は、良質の国産米菓子などに最適なのである。



<2.洗米・浸水>
この作業には驚いた。年間762トン(磨き前)もの酒米が、全て20kgずつの手洗いなのである。しかも、使われる水は常時4度。手が凍ってしまいそうだった。
季節はもちろん、その日、その時間ごとの天候、温度、湿度、米の品質、磨き度、水分量などの状態、さらには用途(麹米、酒母造り、掛米用)の違いで、絶妙に扱いを変えていく。浸水時間の違いが、米の水分量を大きく変え、蒸し上がりに影響するのである。



<3.蒸し>
外硬内軟の美しい蒸し上がりを求める。100度の蒸気で40分、仕上げは105度の高圧乾燥蒸気。この温度差は、蒸気に含まれる湿気に違いを起こし、米の表面に艶やかな硬さを与える。蒸し米の出来は、麹菌の根の張りや、もろみの中での溶け具合などに影響。例えば、早く溶け過ぎてしまう蒸し米は長期醗酵に耐えられず、酵母は単にアルコールばかりを生み出し、良質の旨みや香りが生まれてこない。一度は機械化されたという蒸しの工程だが、やはり現在は大がまでの手作業に戻されている。



<4.製麹>
酒造りの中で最も重要な工程とも言われるとおり、失敗の許されない緊張感が張り詰める。時には高温多湿環境の麹室にて、麹の世話は24時間、目が離せない。責任者はまとまった睡眠など取らず、その世話を続ける。
体力勝負の男達は実に気さくで、私は一番ここに入り浸ってしまった。陽気の中に隠れるとことん厳しい真剣さが、男のロマンなのである。



<5.酒母・もろみ造り>
まずは、酵母を培養する工程。良質に完成された麹米が、力価の強い酵素で力を発揮。
三段仕込と言われる手法で、お酒を醸造してゆく。人手による厳しい温度管理などにより、お酒の味・バランスを純粋に醗酵の力で完成させる技術には惚れ惚れしてしまう。上槽後の加水・アルコール度の調整や、炭素濾過などは行なわれていない。簡単に言えば、醸造後に味付けされたお酒ではなく、醸し出されたお酒そのものが消費者に届けられている。この上なく纏まった味を持つのは、各成分が自然な結びつきを持っているためであろう。



<6.絞り>
「鑑評会出品酒」とは?
例えば数千リットルものもろみを絞る際、初めに採れる「雫酒」や「あらばしり」と言われる部分と、「中汲み・中取り」、粕を絞り切る最後の「せめ」の部分では全く酒質が異なる。品評会には、こうした中から一番質の良い部分が出品される。私は、なんだかこれを不公平に思っていたが、「獺祭」がこれを解決してくださった。遠心分離機という最新技術の導入により、「鑑評会出品酒」のクオリティーが一般の消費者に提供されているのである。



<7.瓶詰め>
「獺祭」は瓶詰め後に一度のみ瞬間殺菌されるため、香味成分を失なわない。その後、5度で1ヶ月寝かされ、酒質が落ち着いてから出荷。
旭酒造の姿勢で最も皆さんに伝えたいことは、適正価格で提供するための惜しみない努力。希少価値で市場価格が高騰してしまう事の無い様、供給体制を追いつかせることに全力を注いでいらっしゃる。「獺祭」の爆発的に増え続ける需要に応じることは、簡単に成せる投資努力ではないと私は感じる。今期762トン使用した原材料の酒米。来期は、なんと1242トン必要だそうだ。




全員が家族のようなこの「旭酒造」。何より声を大にしたいのは、皆さんと過ごさせていただいた数日が、本当に楽しかったということ。
知識や技を習い、体を使って働き、合間を縫って復習。夜は、家族での食事に加えて頂き、幸せな時間。パーフェクトである。そして、一日の終わりはなんといっても大自然の中をジョギング。ワクワクしながら着替えて表に出ると、、、、辺りは真っ暗で何処が川かも分からない。そう、ここは電灯もない山奥。こんなところで川にはまっては恥ずかしくてオーストラリアに帰れないので、諦めて宿に帰り風呂に入る。声が出るほど風呂が嬉しかった。オーストラリアは水不足で、湯船につかる習慣があまり無い。一風呂浴びたあとの、深夜の麹室も思い出深い。

私のような20代を海外で育った者は、日本にいる方々はあまり気に入ってはくれないと思っていた。礼儀がなっていないとか、思わぬ失礼があったりとかで、正直、毎日怒鳴られ、罵声を浴びる修行を覚悟していた。しかし、「旭酒造」の誰もが「格別」に親切で、時間を割いて私に精一杯のことを教えてくださり、また現在に至ってもお力添えを頂いている。

「これほど親切で温かい人々に出会えたことは、感謝しつくせません。とても充実した毎日でした。」

職場には、いつも洗い立てのシャツやタオルが沢山用意され、至る所に働く人々への思いやりを感じる。
消費者とチームを想う酒造り。こういった、真心こもった物創りが、本物を生み出しているのだと私は思う。

帰り際、奥様がくださった優しいプレゼント、「獺祭 槽場汲み(ふなばくみ)」。
無濾過生原酒であり、山口県に足を運ばなければ手に入らない逸品。

オーストラリアへの帰国前、年老いた祖父母を訪ね、このお酒を一緒に味わった。簡単に日本に帰ることのできない私にとっては、大変貴重なひと時。私の引いた刺身を食べ、笑顔をくれる祖父。言葉が随分減ってしまった祖父だが、「このお酒も、料理も、美味しい。」とだけ、綺麗な目で微笑んだ。

この「美味しい」っていうのは、旨みがあるとか、出来が良いとかなんかよりずっと嬉しい「美味しい」であった。私が大切に持ち帰ったお酒だから美味しくて、私が帰って来て作った料理だから美味しい。そんなことを思ってくれる人は、いないと思っていた。また、祖母が方言交じりに語ってくれる昔話は、唄のように綺麗にリズムが良く、戦争の時代からの逞しい人生が目の前に浮かんだ。

できの悪い孫は、一向に身を立てることができず、今まで祖父母に合わせる顔が無かった。何もしてあげられない悔しさで生きてきたが、できることって、実はあったのかもしれない。

こうして、「獺祭」の真心は、私にもうひとつ大きく大切なものをくださり、私の「獺祭」創りへの参加は幕を閉じた。

後日、約束通り、日本の心をオーストラリアに持ち帰った成果はこちらにご紹介頂いている。( http://www.gogomelbourne.com.au/entertain/melfun/2186.html )
また、航空会社の機内誌や、オーストラリアンソムリエの中心的Webマガジン "The Wine Guide" ( http://www.thewineguide.com.au/article.asp?blogID=1086 )の2010年6月17日の項でも取り上げてくださった。

最後に、私事ではありますが、祖父母へ。
手柄や自分の名を残す為などではなく、ただ真面目一本で社会貢献へ尽くして来られた祖父の人生を尊敬致します。また、それを影になり支えてくださった祖母の偉大さは、筆舌に尽くせません。この度、天皇陛下より祖父へと賜りました瑞宝章を、この場をお借りし心からお祝い申し上げ、御二人のご回復とご健康をお祈りしますと共に、まだまだ精力ある御活動を応援致したく存じます。                                                                                     祖父母の人生を、大切に想う孫より

 

(後日記: その後、祖父は91歳を目前にこの世を去りました。余命のことを気付いておりましたのが、上記のメッセージを残させていただいた理由です。最も誇りの祖父でした。)



 

旭酒造株式会社  http://asahishuzo.ne.jp/ (蔵元日記と獺祭NY日記は、特にお勧めの読み物。)
写真左は4代目桜井氏。私と同い歳にして、非常にご成功されている。これからの、更なるご活躍にも期待。

〒742-0422
山口県岩国市周東町獺越2167-4
TEL(0827)86-0120
FAX(0827)86-0071

メルボルンで「獺祭」の飲める店
EN IZAKAYA : 03-9525-8886 , 277 CARLISLE ST, BALACLAVA VIC 3183
HANABISHI JAPANESE RESTAURANT : 03-9670-1167 , 187 KING ST, MELBOURNE VIC 3000
IZAKAYA DEN : 03-9654-2977 , BASEMENT 114 RUSSEL ST, MELBOURNE VIC 3000
ISHIYA JAPANESE STONE GRILL : 03-9650-9510 , 152 LITTLE BOURKE ST, MELBOURNE VIC 3000
KENZAN JAPANESE RESTAURANT : 03-9654-8933 , COLLINS PLACE 45 COLLINS ST, MELBOURNE VIC 3000
MIYAKO RESTAURANT : 03-9699-9201 , SHOP,MR1 SOUTHGATE ARTS&LEISURE PRECINCT, SOUTH BANK VIC 3006
ORIENT EXPRESS AT CROWN : 03-9645-9959 , 8 WHITEMAN ST,SOUTH MELBOURNE VIC 3006
SUSHI BAR AKA TOMBO : 03-9510-0577 , 205 GREVILLE ST, PRAHRAN VIC 3181
SAKURA HOUSE : 03-9801-0368 , SHOP 2222, 425 BURWOOD HIGH WAY, WANTIRNA SOUTH VIC 3152
SAKURA KAITEN SUSHI : 03-9663-0898 , SHOP1, GROUND FLOOR, 59-61 LITTLE COLLINS ST,MELBOURNE VIC 3000
TEMPURA HAJIME : 03-9696-0051 , 60 PARK ST,SOUTH MELBOURNE VIC 3205
TAI PAN RESTAURANT : 03-9841-9969 , 237 BLACKBURN RD, DONCASTER EAST VIC 3109
TAXI DINING ROOM : 03-9654-8808 , FEDERATION SQUARE , MELBOURNE VIC 3000
TSUBO : 03-9752-2885 , 4 MAUDE ST, MYRTELFORD VIC 3737
TAO'S RESTAURANT : 03-9852-0777 , 201 BULEEN RD, BULEEN VIC 3105
TAKUMI JAPANESE RESTAURANT : 03-9650-7020 , SHOP 2,BOURKE ST,MELBOURNE VIC 3000
VERGE : 03-9639-9511 , 1 FLINDERS LANE,MELBOURNE VIC 3000


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Vintage 5: オーストラリアが香るワイン、Granite Hills



思いっっきり晴れ渡った空が、とにかくどでかい。

丘の向こうも、またその向こうの丘も。櫨染(はじぞめ)にそよぐ草原の丘も、もっと向こうの深緑の丘も。見えるところも見えないところも、全てを隙間なくいっぱいに満たした紺碧の大空。あちこちに、巨大な花崗岩の塊が意味ありげに転がる風景が、まるで古代遺跡。心地よい雲が、背景に浮かぶ。シンプルで輪郭のはっきりとしたその光景は、ルネ・マグリット(René Magritte)が描いた空想の世界のよう。

丘を駆け抜ける風っていうのは、本当に気持ちが良い。さっそうと坂を上り、谷を越えて、跳ねたり転んだり、急に向きを変えたり。。。そんな無邪気な風を追いかけるように、どこまでも続く一本道を走り抜ける一台の車がある。マセドン(Macedon)が目的地なのに、とっくに通り過ぎてヒースコート(Heathcote)に辿り着こうとしている私のレンタカーである。

今回の目的地は、マセドン地方に位置するグラニット・ヒルズ・ワイナリー(Granite Hills Winery)。もともと午前中の到着を予定していたが、道間違いのお陰で大幅に遅刻。マグリットがどうのとか、とぼけたことを言っている場合ではない。

  

結局、グラニット・ヒルズの門をくぐったのは、2時を回った頃だっただろうか。トラクターに乗ったルーの父親が親切に、「ルーはあっちの建物だ!」と声を掛けてくれる。

温かく迎えてくれたのは、グラニット・ヒルズのワインメーカー、ルー・ナイト(Llew Knight)と素敵な奥さんアンドレア・ナイト(Andrea Knight)。ビクトリア州のルー・ナイトと言ったら、この業界で知らない人はいない。しかし、実に温厚で優しく物静か。私のチャリティーの為の水泳を応援してくださる、温かいご夫婦でもある。

国際的な品評会も含め400以上の賞を手にしてきたグラニット・ヒルズであるが、小さな家族経営ワイナリーであることを考えると、この賞の数は驚異的である。実は彼に手ほどきや影響を受けた他のワイナリーの巨匠も少なくはなく、その巨匠達が得た名声やトロフィーを合わせたら、400の受賞歴なんて、彼が成し遂げた偉業のほんの一部でしかない。

業界への貢献は列挙しきれない。彼の1980年から2005年までのビンテージ試飲会には、錚々たる顔ぶれが集まり、ルーのプレミアムワインをヴィンテージごとに飲み比べることができるという、夢のように貴重な機会に誰もが興奮した。それに、私のような若かったソムリエの応援にも、どれだけ時間を割いてくださったことか。今年は、彼のワイン作りに参加することも出来る。こうしたルーの奉仕に、業界が大きく育てられている。



グラニット・ヒルズはビクトリア州の中心に位置し、海抜550メートルの大変冷涼な土地として知られている。花崗岩由来の粗い砂壌土(Coarse sandy loam soils, granite origin)である地質は、痩せていて水捌けが大変良く、葡萄の木はゆっくりと着実に成長。それぞれの葡萄本来の特徴がしっかりと育つ。12ヘクタールもの葡萄畑の隅々まで丹念に目を行き渡らせ、最良の育ち方を世話することができるのも、これらの環境が秘密。余分な水分や栄養で、葡萄が次から次へ蔓や葉を伸ばしたなら、日当たりや風通しなど様々な問題がコントロールしきれず、果実の品質に影響を与えてしまうだろう。

さらに注意してみると、グラニット・ヒルズの畑は、北向き、西向き、東向きの、主に三つの傾斜からなる。傾斜角は5度から15度で、日照の恩恵を十分に受けることができる。
北側は、風を遮り日中一番暖かくなる畑(念のため、ここは南半球です)。主に赤ワインとなる葡萄を育てる。西側の午後の日差しはカベルネを適度に熟れさせ、一番冷涼で朝日の影響を受ける東側は、リーズリングに最適な土地となる。夜間の低い気温も、質の良い葡萄を生み出す重要なポイント。傾斜と卓越風は、湿度を下げ病気を防ぎ、霜の被害などを発生させない好条件を作り出し、最高品質の葡萄はこうして生まれる。


ご多分に漏れず、ワインも素材が命。全て手作業の剪定によって、一本の樹に12の枝を残し、各2房の葡萄のみをつけさせる。但し収穫量を抑えることで、単純に品質の向上を結論としてしまっている訳ではない。
「いろいろと議論はあるが、それにはバランスがあるんだよ。」
40年も葡萄と付き合ってきたルーは、もっと深い部分を知っている。あらゆる自然の要素と、葡萄の持つ個性を絶妙に組み合わせ、ワインと言う芸術を創り出す。人間は、機械にはできない不思議な力を身に付ける事ができるのである。

ふとルーが口にした言葉が、心に残る。
「慌てる必要は何もない。」

樹齢40年近い葡萄達は、根を地中深くへしっかりと伸ばし続けてきた。苛酷な環境にも揺るがない安定した樹へと成長したのは、あっという間の話ではない。その果実は、複雑性のある深い味わいを持つようになった。

南緯37度に加え、高い標高。果実の実る期間は大変長く、涼しい年の収穫期は6月にまでも続く。大自然の力が葡萄をゆっくりと育て、それぞれの長所がしっかりと熟す上、その果実に適度な自然の酸味がしっかりと保持されるのは、最も重要な特徴である。
バランスの良い酸味は、自然からゆっくりと生まれる。

時間がかかっても、果実は全て人の手で選りすぐりながら収穫。ポンプなども使わず、重力に任せた方法で優しく実を扱い、そして上質の樽に眠らせる。ゆっくりゆっくりと眠らせる。

オークチップや添加物を使用した、効率よく売るためのワイン醸造が溢れる昨今。それとは対照的な、ルーのワイン創りは、自然がくれたままの速度で進行するのである。

出荷を慌てることもない。ルーは、できることを全て施したワインしか市場に送り出さない。今年リリースされたシラーズが、2004年のビンテージなのもこういった理由から。私たちに届くワインは、今楽しむのも良いし、勿論あと十年セラーして楽しむための準備も全てボトルの中に納められている。



2010年の新しいニュースとして、ルーの醸したセミヨン・スーベニオン・ブランが初めてリリースされることが興味深い。ルーの手がける、別ブランド、「NARDOO」の名のもとでのリリースである。
まだ醸造タンクの中にあるこのワインを、試飲させてもらった。
「うまい。」。。。。柔らかい香りに、旨味。

「現在はセミヨンという葡萄への注目度が薄いが、この品種はとても可能性を秘めている。」
ルーとは長い付き合いだが、この言葉にはとても信頼が置ける。彼からはずっと「先見の明」を感じてきた。

オーストラリアで栽培されていたシラーズが低い評価しか受けなかった数十年前。シラーズはプライドを持ってその品種名がボトルに表示されることは無く、へメタージュやドライ・レッド等と呼ばれるか、売れずに抜かれてしまうような時代だった。そんな中、1980年頃にルーが醸した新しいCool Climateスタイルのぺパリーなシラーズは、現在のオーストラリアのメイン・ストリームに絶大な影響を与えた。

スクリューキャップの将来性を、早くから確信していたのもルーである。コルクが品薄であった時代、最高ランクのコルクはヨーロッパで消費され、オーストラリアで手に入れられる限り最高のコルクでも、ルーの求めるクオリティーには至らないことが多かった。
様々な研究の基、スクリューキャップの有効性は確証され、5%以上のボトルが問題となるとも言われるコルクと、使い分けが行われるようになった。

    

ルーが、試飲の為に並べてくれた彼のワイン達。それぞれが葡萄品種本来の姿と熟成を持って、素晴らしく香り立っている。
シンプルに愛情を持って、ブドウ栽培からワイン醸造までを手がけるルー。

数時間ルーと話し込んだ頃、あれほど晴れていた空に、映画のようにあっという間に雲が流れ込んだ。
テイスティングのワイングラスの中に、雨の近づいた香りが紛れ込む。

やがて屋根を打つ音、時折、空を破る音。
「上で、何かが怒っているな。」
呟くルー。日本で言う夕立であろうか。見晴らしの良いこの土地からは、雲の中を飛び交う雷光がはっきりと目に映る。

ワイナリーが、雨と大地の香りに満たされる。なんだか癒されるこの香り。突然の雨が、普段見落としている自然の芳香を、私達の鼻の高さまで濃厚に呼び起こしてくれる。ワインの香りが人を癒すのも、自然から立ち上るこの香りが、グラスの中に呼び起こされるからこそだろう。ひっそり濡れる小さなワイナリーで、そんなことを思った瞬間だった。


帰り際、念を押されたことがある。
「森の中で車を停めて、大きく深呼吸することを忘れるな!」

帰り道、言われたとおり森の中で深く息を吸い込む。雨が持ち上げた土と木々の香りの中で、ルーのワイン達を思い出した。

コンクリートに囲まれ、狭い空を見上げる都会暮らしもあるが、そんな現代暮らしの私達を、グラニット・ヒルズのワインが心地良く楽しませてくれる理由が解った。

2010年1月31日


Go豪メルボルン、リニューアルおめでとうございます。リニューアルを祝った「豪華55名様プレゼント企画」へ、ルーから驚くべきプレゼントを頂きました。グラニット・ヒルズのワインは現在のところ日本に輸出されておりませんので、お土産にも最適です。

2004 Granite Hills Shiraz
2009年のVISYグレート・オーストラリアン・シラーズ・チャレンジ(The VISY 2009 Great Australian Shiraz Challenge)にて、422種の出品ワインの中でベスト8に選ばれたワイン。2009年Royal Melbourne Wine Showでも、ゴールドメダルを獲得しています。


2009 Nardoo Semillon Sauvignon Blanc
記事中に登場する白ワイン。まだ「「どこにも」」売っていません。ルー自らがGo豪メルボルンの為にボトル詰めし、わざわざ私のいる料理店まで届けてくださったのです。まだ、卸売業者でも扱っておりません。ワイナリーでも販売していません。ユニクロにもマツモトキヨシにも売っていません。。。。でも秋葉原だったら何でも揃うそうなので、見つかるのかもしれません。


この豪華プレゼントへの応募方法は、Go豪メルボルンサイト内で発表されています。





Granite Hills
www.granitehills.com.au
Address:   1481 Burke and Wills Track, Baynton, Victoria, Australia, 3444
Phone:      +61 3 5423 7273
Fax:          +61 3 5423 7288
Cellar Door Sales:9.00am - 6.00pm Monday to Saturday;12.00pm - 6.00pm Sunday
ぜひ、この記事を読んだことをお伝えください!


コラム一覧
Vintage Cellar: 全てのコラム
Vintage 1: Leeuwin Estate で過ごす、歴史的野外コンサート
Vintage 2: Yarra Yeringと楽しむ思い出のディナー
Vintage 3: Mandalaで学ぶ、ワインメーカーの情熱
Vintage 4: 旅の途中で飲むワイン
No Vintage: 空白のビンテージ
Vintage 5: オーストラリアが香るワイン、Granite Hills



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No Vintage: 空白のビンテージ



ビクトリア州の大規模なブッシュファイヤ(山火事)から一年が経つ。
173名の犠牲者への追悼式が、メルボルンのセント・ポールス大聖堂(St Paul's Cathedral)にて行われた。

遺族の方を始め、ケビン・ラッド首相ほか政府要人と、2000人余りの人々が参列した。(Prime Minister Kevin Rudd, Victorian Premier John Brumby, Governor-General Quentin Bryce, Federal Opposition Leader Tony Abbott)

特別だったのは、宗教や宗派という垣根を超えた式典となったこと。キリスト教の大聖堂に、仏教、イスラム教、ヒンズー教などなど、多くの主だった宗教の代表者が公式に迎えられた。カソリック、プロテスタントの隔たりもなく、Multi-Faith Church Serviceと呼ばれた。人生の喜びや悲しみ、助け合いに向き合う際、世界がひとつになることがこの上ない。こういった意味深い式典が持たれた事を嬉しく思い、メルボルンらしい文化の発展する方向を誇りに思う。


山火事のあった数週間、空から大量の煙が消えることはなかった。煙の影響で、高く昇った太陽がいつまでも、不思議な赤色に輝いていたのが印象に残っている。

3000以上の建物や、動物達、自然の木々が焼失。いくつもの町が、完全に破壊された。

葡萄畑も大きな影響を受けた。焼失を免れたワイナリーも、煙の匂い(Smork taint)がついてしまった葡萄の果実をどうすることもできない。また、ショックを受けた葡萄の樹は、次の年へのエネルギーを蓄える時期であるはずの冬にも、芽を出し続け成長を止めようとしなかった。これらの新芽は取り除いてやり、実をつけさせる前に数年間樹を休ませ、しっかり体力を戻してやることが必要と言う。

多くのワイナリーで、ビンテージが空白となったこの年。同時に、寝かされていたバック・ビンテージを全て失ったワイナリーもある。彼らの言葉は重いものだったが、「これが人生。仕方がない。」と、今では悲しみを隠した笑顔を見せてくれる。

オーストラリアの人々は、こうした苦難を乗り越えてきた。
2009年2月7日は、BLACK SATURDAYと呼ばれる。

ABC News: Black Saturday memorial(記事)
http://www.abc.net.au/news/stories/2010/02/07/2812439.htm
ABC News: Black Saturday bushfires(映像)
http://www.abc.net.au/news/video/2010/02/07/2812464.htm



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Vintage 4: 旅の途中で飲むワイン


                                                                                                      Lucky Bay, Western Australia 

「今そっちは何月だい?」
日本の祖母が、私に尋ねた言葉が懐かしい。

先週の数日間、気温40度目前であったメルボルン。日本と同じ12月と言っても、到底信じてもらえないだろう。
オーブンを開けた時のような熱風も時折。近年、こんな日が年に何度かある。

サンタクロースも、暑そうな衣装を脱いでクールビス。気取らない白いランニングシャツ姿のサンタには、親しみが増す。

飾られたモミの大木は、海岸沿いにも、ワイナリーの広場にも、心地よい日陰を作る。
スイカが美味しい季節のクリスマス。スイカやイチゴの赤と緑は、ここでは十分にクリスマスカラー。


こんなクリスマス休暇は、海辺で開放感に溢れて過ごしたい。青空のビーチ際で、ワインとフードと自然を思い切り楽しもう。
人生の旅路には、リフレッシュも必要だ。


皆さんは、どんな旅路の途中ですか?

私の人生の旅はと言えば、真っ暗な夜に途方に暮れたこともあった分、見上げたら星が輝いていることにも気付き、美しいものにも出会えてこれた有難いもの。
冒頭の写真はエスペランス(Esperance)のラッキーベイ、十年近く前に撮った写真。ここは「天国」のように美しい。
フランス語のエスペホーンス(Espérance:希望)から名付けられているこの土地。"希望"を求めている方は、この場所にぜひ行ってみたほうがよい。
(西オーストラリアを旅するコツは、またいずれ。。。)


さて、海辺で食事ならば、新鮮なシーフードにスーベニオン・ブラン(Sauvignon Blanc)の組み合わせは如何だろうか?
晴れ渡った空の下、ワインを片手にシーフードBBQもお勧め。

オイスターは旬のピークを終えたが、ロブスター(Lobster)やMoreton Bayが有名なバグ(Bug)も絶品。オーストラリアでは手軽で新鮮。
準備には簡単な方法もある。スーパーや魚屋で茹でた物を買ってきて、レモンを絞って頂く。これは最高に、ニュージーランドのスーベニオン・ブランに合う。

    

ニュージーランドワイン業界の急成長は力強い。2008年以降、2005年の二倍を上回る年間2億リットルのワインを生産するまでに至っている。現在ではその半分以上が各国に輸出されており、中でも主力のスーベニオン・ブランは、世界の消費量の多くがニュージーランド産と言われるまでに急成長した。それほど世界から認められ、注目を集めている。

ニュージーランド産のスーベニオン・ブランの特徴は、とても芳香強く、程よい酸味に支えられたフレッシュなワインである点。主に、トロピカルフルーツの特徴を持ち、地域によって、パッションフルーツ、草原、豆、ミネラル、シトラスなどを感じることも多い。
特にマルボロ(Marlborough)は、生産量の9割以上がこのスーベニオン・ブランである代表地区。同じマルボロの中でも、畑の位置によって環境や地質はさらに多様で、収穫時期、特徴ある環境、醸造方法などで個性を産み出す銘柄もあることを、マルボロのワインが一色に扱われがちな風潮も仕方がないが、情報として特記しておく。ともあれ、フランス産のものとは個性が違うのは全体を通して共通。特別に熟成を意図して作られたもの以外、長年寝かせて楽しむ葡萄の種ではない。


                        Trigg Beach, Western Australia

海辺のBBQで格別に楽しかったのは、西オーストラリアのトリグビーチ(Trigg Beach)だろうか。ビーチ沿いのBBQ施設は公園を伴い、家族連れや大人数にも最適。電気が熱源のBBQ機器が備え付けられており、無料で使える。数は限られているが、オージーらしくShareの心。慌てず仲良く使う。見知らぬ人と、鉄板を半分ずつ分かち合うことも多々ある。空きができれば、必ず声を掛けてくれるのだ。前の人が掃除していないとか、順番がどうのとか、楽しい空の下でそんなことは言い出したらダメ。それがオーストラリア。

シーフード+海を眺めるレストランなら、同じ場所にあるトリグ・カフェ(Trigg Island Cafe)は景色長閑でお勧め。鮮度が命のシーフード。良い素材に出会うには、忙しい店であることが最低条件。
アデレードの海沿いなら、グレネルグ(Glenelg)に行こう。
サンシャインコーストなら、スティルウォーター(Still Water Japanese Restaurant)。
シドニーなら、ロックプール(Rockpool)が質的にハイレベル。
ケアンズのカーニーズ(Kanis Restaurant)もどうだろう。12年前にオーナーをよく知っていたが、今も健在と言うことは質が保たれている筈。

そして、メルボルンでは。。。


                                                                 St. Kilda Jetty, Victoria

メルボルンで最も美しい夕日に出合える場所のひとつ、セント・キルダ(St. Kilda)。
ここセント・キルダの一等地にあるレストラン、ドノバンス(Donovans)は、ビーチ際の最高に素敵なアップランクレストラン。オーナーご夫妻、ジャイルとケビン(Gail and Kevin Donovan)もまた、私を両親のように助けてくださる大切な人。長年に渡り、メルボルンのリーダー的レストラン経営者。質の高い繁盛店を成功させてきたジャイルとケビンは、メルボルン飲食業界の正しく大御所。この業界での発言力は重い。

私がレストランやワインを評価する時に最も重きを置くのは、オーナーの誠実さ。金儲けより先に、プライドと正しいことを重視し、向上心が絶えない店は、本物になる。ジャイルとケビンとの付き合いで、ドノバンスの真心を知っている。

最高のシーフードとスーベニオン・ブランをここで味わったなら、メルボルンで忘れてはならない経験のひとつをクリア。
ワインリストも素晴らしく、どれも飲んで頂きたいワインばかりが揃っているが、現在のリストの中から敢えて選ぶなら、クラウディーベイのテ・ココ(Cloudy Bay 'Te Koko' Sauvignon Blanc 2006)。

週末のディナーの為には数ヶ月前からの予約が必要だが、私にとって、親友が訪ねてきた際はここを選ぶという特別な場所。シーフードに加え、リゾット(Risotto)も素晴らしかった。居心地の良い店内。インテリアやサービススタッフのユニフォームは、ジャイルが季節ごとにアレンジしており、食後にソファーで寛ぐのもまた楽しい。大人数のパーティーなら、ファンクションルームを早めに予約することをお勧め。楽しい会になる事、間違いない。

フレンドリーで親切な熟練スタッフは長期間このお店で働くことが多く、やがて各地の有名レストランやホテルへと巣立ってゆくこともある。オープン当初から一気に名を上げた、カトラー&コー(Cutler&Co.)の責任者もここの出身だ。あらゆる有名店で、この店で育てられた人々に偶然会う度、「え?あなたも?」と驚くばかり。ジャイルとケビンにその出会いの多さを話すと、いつも卒業生の有能で働き者であった点を褒める。

この業界においては、様々に多くの店で働いてスキルをあげたいのは誰もが同じ。熟練の人物ほど、親身に教えた弟子たちが、いつまでも自分の元にいてくれるわけではないのを知っている。育てた彼らを、快く送り出す親心があるドノバンス。そのお店のスタッフの人柄を見れば、親方の良さが伝わってくるものだ。ホリデー中は、ケビンのポルシェを、マネージャーが自由に使っている。お店を長年支えてくれるスタッフへの愛情にも出し惜しみがない。

    

イタリアを旅した際の写真集を出版しているジャイルとケビン。最近、南アフリカでの大自然の旅の経験を情熱的に話してくださったが、この経験も本にすることをお勧めしている。経営に関して、隠し事もなく私を育ててくださるお二人。完成度の高いドノバンスのスタッフマニュアルを躊躇いもなく贈ってくださったり、ドノバンスのバックルームでワイン管理システムの全ての仕組みを紹介してくださったのも、このお二人。


                                                                            St. Kilda Beach, Victoria

夕日が沈んだ、まだ赤い海の向こう。潮の香りが強くなる。

夕日でも見に行くか。。。と、そもそも今日、そう気分転換できたのは、ある著名な方が、私達のことを記事の中で書いてくださっているのを見つけたから。

芸能界とかその辺りにはとても疎いが、いろいろあって大変な業界であるだろう事は想像がつく。そんな業界を生きてきた彼女からは、大人びた経験の豊かさを感じる。どんな環境の中をも、逞しく、楽しく生きようとするる彼女の人生の旅は、人々に力を与える。彼女を見習おう。立ち止まっている場合ではない、前に進むのが一番。さもなければ、このコラムは愚痴ばかりになっていたかもしれない。

理解されなくとも正しいと思うことを頑張ろうとすれば、孤立することも多い。ガリレオのよう。それを承知の上なら、愛情を持って世話したスタッフに貶されるのにも耐えなければ。何事もなく平和な環境が整ってくる職場。それは、今までの努力が形に変わったのと同時に、過去の紆余曲折と犠牲にしてきたものが忘れ去られる瞬間でもある。波が流した、まっさらなビーチ。綺麗に慣らされた平和で心地良い砂浜で、子供達が無邪気にはしゃぐ。過去を知る必要はない。少し寂しかったのである。

彼女の記事と夕日のお陰で思い出した。私にも、厳しく、優しく、そして大きく助言をくださる多くの先輩達がいてくださることを。私にも、味方でいてくださる方がいる。ジャイルとケビンを、このコラムで紹介するに至った。

皆さんの街の今日の夕焼けは、どんな景色ですか?

人生の長い旅。時には休憩もしっかり取って、実り多き道を、これからも元気一杯歩いてください。夕日が、あなたの実らせた沢山の稲穂を、金色に輝かせてくれる日まで。

2009年12月24日



Cloudy Bay Sauvignon Blanc

フレッシュ感溢れる、グウァバ、マンゴなどの果実味。ライム・ミネラルな酸味は、記事中のシーフードにぴったり。マルボロの中でも、特にクオリティーの高いスーベニオン・ブラン。上位ランクの'Te Koko' は、数年寝かせた上でリリースされる特別なタイプのSauvignon Blanc。
落ち着きと、要素がよく溶け合って仕上がった味わい深さを持つ。この有名なワイナリーの創業者が、私の親友の父親であることを、この記事を書いている最中に偶然知った。不思議な縁には、いつも驚かされる。メルボルンパワーでしょうか?
 
Cloudy Bay
T +64 3 520 9141
E info@cloudybay.co.nz
Web site: http://www.cloudybay.co.nz/
http://www.cloudybay.co.nz/Microsites/TeKoko

このコラムで紹介したワインを、実際に試してみようと思ってくださる方もいてくださるかも知れません。お近くのリカーショップで見つかり安いよう、もう数本、マルボロのお勧めをご紹介しておきます。

 Villa Maria Sauvignon Blanc
http://www.villamaria.co.nz/

Dog Point Sauvignon Blanc
http://www.dogpoint.co.nz/



Donovans,
40 Jacka Boulevard, St. Kilda 3182 Victoria, Phone: 03-9534-8221
eat@donovanshouse.com.au
http://www.donovanshouse.com.au/

Trigg Island Cafe, 360 West Coast Drive, Trigg Perth WA, Ph (08) 9447 0077
http://www.triggislandcafe.com.au/

Rockpool, 107 George StreetThe Rocks 2000 NSW, Phone: +61-2-9252-1888
http://www.rockpool.com/

Still Water Japanese Restaurant, 36-38 Duporth Avenue, Maroochydore 4558 QLD
http://www.stillwaterjapanese.com.au/

Kani's Restaurant, 59 The Esplanade, Cairns QLD, Phone: 07 4051 1550
http://www.kanis.com.au/

Cutler & Co. 55-57 Gertrude Street, Fitzroy 3065 Victoria, Phone: +61-3-9419-4888
http://www.cutlerandco.com.au/


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Vintage 3: Mandalaで学ぶ、ワインメーカーの情熱



メルボルン市街で迎える朝。
慌しく走り始めたトラムが、カランカランと忙しくベルを鳴らすのが目覚まし代わり。高層ビルが次々に空調のモーターを始動させて、一日のスタートに向けてエンジンをかける。朝食の出来上がる電子レンジの音。もう一日は始まった。走り出せ。時計がカチカチと音を立てて時を刻む。

仕事に追われるこんな毎日は、世界中どこの都市でも同じなように思う。でもこんな都会暮らしも、悪くはない。何故なら、メルボルンにはメリハリのある休日もあるから。

メルボルン市内から車で僅か約1時間。ヤラバレーの長閑な自然は、心身を都会のストレスから解放してくれる。爽快な空気、鳥の囀り。遮る物の無い大きな空の下で、動物たちの鳴き声はのんびりと。やはり人間は、偶には自然に帰らなければだめだ。


今回のYarra Valleyで訪れたのは、「Mandala」と言うワイナリー。以前、このマンダラのオーナーのチャールス(Charles Smedley)が紹介してくれたワインを気に入って、私達のワインリストに加えた。
私達の扱っているワインは数百種。オーナーが貯蔵中のワインは、半分に抑えた今でも3千本を超える。販売価格で、約ハーフミリオン・ドル。手を掛けられる時間が限られている中、このワインリストを「生きた」状態に保つことは、好きでないとやっていられない仕事と思う。コンピューター管理で相当工夫はしているが、性質や飲み頃、お客様に伝える情報などは、こつこつと勉強するしかない。
そう言う訳で、久しぶりの連休を機に、マンダラのワインについてより理解を深めるため、ひとりヤラバレーへと足を運んだのだった。

「え?ひとりでヤラバレーへ?」
心配はご無用、朝から大好きな曲をたくさんmp3にしてCDに焼き、しっかり片道1時間の運転を楽しむ準備はできている。



快晴の中、運転はすこぶる快調。CDドライブが「このCDは読み込めません。」と点滅するのを1時間ほど楽しんだ後、ヤラバレーの大自然が開けてきた。
チャールスと連絡を取りながら、約束通り彼のセラードアーで3時に落ち合う。今日もパッション溢れる彼。ここに足を運んだことを、決して後悔させない。

この建物は何か心地良い。モダンなデザインは、時に冷たくて無機質なものになりがちだが、マンダラのセラードアーと奥に連なるレストランは違う。清潔感あるデザインと、ビンヤードと隔たりのない開放感を併せ持った場所。
ふと感じたそんな印象は、実は多くの配慮から生まれていることをチャールスの説明から気付く。ビンヤードをより身近に感じるよう、伝票入れにはワインの棟番号を表示するタグが使われていたり、メニューにはビンヤードの写真を季節ごとに印刷する。建築資材の多くには、リサイクルのものが利用されており、テラスは干草貯蔵庫の面影を残す。

 

私が気に入ったワインと言うのは、「Mandala "Prophet" Pinot Noir」。マンダラはこの他にも違うランクのPinot Noirをプロデュースしているが、この「プロフェット(Prophet)」は何かが違う。それは、その選ばれた素材であった。彼らのビンヤードの中でもYarra Junctionと言う場所で採れた、上質なPinot Noirだけを使用。

チャールスはPinot NoirをただPinot Noirとは呼ばない。プロフェットに使うのは3タイプのPinot Noir、70%が114と115で、残りの30%はMV6。114と115はディジョン・クローン(Dijon clones)と呼ばれ、ブルゴーニュで研究された苗。同じPinot Noirでも味や香りや性質は勿論、病気への耐性や外観も全く違う。例として写真が、MV6。枝が真っ直ぐ天に向けて伸びるので、支柱に誘引する必要が無いそうだ。
ちなみに、CarbernetはSA125、ShirazはPT23、Chardonnayはブルゴーニュのクローン95と96である。私の良く知っている型番C-3POとR2-D2は、どうやらここでは使われていないようだ。

copyright_masahikoiga 

畑に入る前に、履物をよく消毒する。これは、最近、フィロキセラ(Phylloxera)がビクトリア州で発見された為の厳戒態勢。
フィロキセラとは葡萄の根に住み付き、種類によっては5年から8年をかけて葡萄の木を枯らせてしまう害虫。ヨーロッパで、19世紀後半に葡萄畑が壊滅状態となった歴史がある。1920年代のビクトリア州ワイン産業の壊滅もフィロキセラが原因と聞いていたが、その通説をYarra YeringもYering Stationも否定していた。真相はエコノミーの問題であったそうだ。

残念ながら今回は、検疫の厳しいオーストラリアにもフィロキセラが紛れ込んだ。自根で植えられた葡萄の多いオーストラリアでは、フィロキセラが見つかった畑は直ぐに焼き払って被害が広がるのを食い止めるしかないようだ。これは、Curly Flatのワインメーカーに学んだ。

アメリカの葡萄株にはこの害虫に耐性があるものがあり、新しく植える葡萄はこれらの根に接木した苗を選ぶことが安全なのだが、この苗は何しろ高い。単純に計算してみたところ、初期投資に100エーカーあたり大凡40万ドルが余計に掛かる。


オーストラリアでは、他の大陸で問題になっている害虫や病気が、発生していないケースが多々ある。他の国では薬品が必要となることがある作物や家畜も、この国では安全に育てられていることがある。これは幸せなことだ。ぜひこの国の素晴らしい利点を失わないようにしたい。


説明をさらに受けながら、ビンヤードの坂を上る。良い眺めだ。ビンヤードを歩くのは楽しい。

まるで家族や友人を紹介してくれるかのように、次々に葡萄の木を紹介してくれるチャールス。ここでは同じCarbernetをとっても、年齢や育て方がいろいろとある。良い枝だけを伸ばさせ、実のクオリティーを上げるために収穫量を減らすのが基本姿勢。質に拘る考え方の証明だ。


 
写真左がSauvignon Blanc、右がChardonnayの葉。その右は、VSP(Vertical Shoot Positioning)で育てられるCarbernet。

土壌はグレイ粘土ローム。灌漑が必要な土地。かと言って、水を与えすぎれば葡萄の味がぼやけてしまう。
特にShirazは、乾いた状態のストレスのもと、小さいが凝縮された良い実をつけるそうだ。人間も、苦労が多ければこそ、中身が豊かになるように。


チャールスにも、大きな苦労の思い出がある。

彼の空を仰ぐ上向きな笑顔と、美しいワインボトル、ビンヤード、レストランからは想像が難しいが、2009年初めの大規模なブッシュファイヤー(山火事)では、葡萄畑の一部や敷地内のチャペルが焼失し、家族と共に命辛々逃げるのがやっとだったそうだ。

日本にもニュースで伝わっていたそうだが、この山火事の惨事は想像を絶した。猛暑の後の強風と、ユーカリなどの発するガスの影響で、炎は車のスピードでも逃げられない速さで広がったそうだ。山火事と言うより爆発だったと、当店を訪れた消防士が語っていた。つい以前まで平和に暮らしていた多くの家族が亡くなられた。

その悲しみの深さから、セントポール大聖堂の神父さん達の表情にも疲れと落胆の色が消えず、私は事の深刻さを悟った。多くのビクトリア人に加えて世界中の人たちが、救援物資、医療関係、寄付、ボランティアなど様々な形を通じて被災者の方々を応援した。私も、少し無理をして私にとっては大きな額を贈ったのを、気持ちとさせて頂いた。

そして、「Mandala」にも友情が届いた。
煙を被った葡萄からは真っ当なワインは造れず、2009年の醸造はゼロ。一年の苦労が実る収穫を、目前に控えた折の災難。ワイナリーの人々は、頭を抱えたことだろう。
そんな彼らに、マーガレットリバー(Margaret River)で有名なワイナリー、ボイジャーエステート(Voyager Estate)が2009年のSauvignon Blanc Semillonを送り届けたのだった。そう「Mandala」が2009年にリリースしたSauvignon Blanc Semillonは、マンダラのワイン醸造方法が遥か西のボイジャーエステートで実行された特別なワインなのである。


 
真ん中の写真がこのワイン。普段のマンダラのロゴと異なるのには、こういったストーリーが隠れていたのである。しっかりと腕を取り合ったこのロゴは、友情と助け合い、限りない固い絆を意味している。

その他のロゴには、家族の姿や愛犬、趣味、仕事、ワイン、生き物などが描かれていて、円形が分かち合う生活とそのバランスを持ったサイクルを表している。そしてもうひとつ、これらのロゴの奥に見える大きなものがある。それは、「感謝」。


細かい味の評価より、大切なものがこのボトルにある。
心が込められたワイン。それは最高に旨い。

2009 年11月2日



Mandala "Prophet" Pinot Noir 2008

10月30日、ロイヤルメルボルンワイン品評会(The 2009 Royal Melbourne Wine Show awards)のSingle Vineyard Pinot Noir部門の上位層には、ビクトリア州ワインの名前が連なりました。その中で、Giant Stepsと共にヤラバレー最高点をマークしたのが、このプロフェットです。応援していたワインが高い評価を受けるのは、嬉しいことです。
ソフトでシルキー。落ち着いて中身のあるワイン。


Mandala Sauvignon Blanc Semillon 2009

ボイジャーエステートからの友情を、実際に味わってみませんか?お土産にこのワインを買ってきましたよ。読者プレゼント!
応募方法はGo豪メルボルン編集部にお任せしましたので、どうぞこのサイトの「お知らせのページ」で情報を見つけ、どしどしご応募ください。


Mandala Wines
ABN: 97093587298
Melba Highway Dixons Creek Yarra Valley Victoria 3775
T +61 3 5965 2016 F +61 3 5965 2589
E info@mandalawines.com.au
Web site: www.mandalawines.com.au


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全てのコラム
Vintage 1: Leeuwin Estate で過ごす、歴史的野外コンサート
Vintage 2: Yarra Yeringと楽しむ思い出のディナー
Vintage 3: Mandalaで学ぶ、ワインメーカーの情熱


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Vintage 2: Yarra Yeringと楽しむ思い出のディナー



少し温かくなってきたなと思っていた矢先、先週末からの真冬のような寒さ。これがメルボルンならではの気まぐれ気候。一日のうちでも、天候は目まぐるしく変わる。

一方、私のメインの職場である日本料理店では、暫く振りに体制が変わったのを機に、ムードメーカーの皆さんがお店全体の向上心を引き出してくれており、その才能と気遣いには頭が下がる。熟練シェフは、皆を励ます為か、時折美しい歌声も披露してくれるので、皆、ジャイアンのコンサートと同じくらい楽しみにしていて嬉しそう。

こうして良い人々に支えられ、親方達の心のこもった料理と、和気藹々なスタッフとで毎日が温かい当店。しかし勿論、晴天のような出来事ばかりではなく、時には困った出来事にも出会う。


多くの方がEmailでの予約や問い合わせを好む時代、毎日結構な数の返信が必要になる。そんな次々に押し寄せるEmailの中に、クレジットカード詐欺のメールが紛れている事が珍しくないのである。

最近のクレジットカード詐欺の例では、大人数の食事代のデポジットと共にレンタカー代もチャージして、そこから現金を担当者に支払って欲しいと言うものがあった。第三者への代金をチャージした時点で、私たちがクレジットカードマーチャントとしての規約を違反したことになり、損害額は一切保障されない。騙されれば、1万ドル近くの損害。海外の電話番号もしっかり偽造されていて、当店のネイティブスタッフが全く疑わないほどのフレンドリーな問い合わせ電話も掛けてきた。
巧妙な詐欺も多い。慎重にならなければ。


今回、イタリアからの問い合わせを受け取った。彼の名は”ルパ”(仮)。友人が新婚旅行で当店を訪れるので、彼らの食事代金を全てルパ指定のクレジットカードから引き落として欲しいと言うものだった。
問い合わせに使われたEmailの送信元はフリーメール。その上、本人は当店に来たことがない様子。半信半疑で戸惑う中、ルパはイタリアから何度も問い合わせの電話を掛けてきた。残念なことに、その様子は以前あったクレジットカード詐欺未遂にそっくり。アクセントのある英語が怪しさを増す。
とにかく、ルパの一生懸命な姿は、逆に疑わざるを得なかった。金額ではない。店に問題を背負わせたくないという責任。人に騙されれば、誰もが気分落ち込む。
銀行やクレジットカード会社に連絡を取り、イタリアの電話番号が本物か裏付けし、、、信じて良しと判断するまでには時間がかかった。


ルパの友人が当店を訪れたのは、陽気が久々にメルボルンを訪れたのと同じある日。ラブリーなイタリア人新婚カップルを目にして、やっとそれまでの不安が吹き飛んだ。
ルパに言われたように最善を尽くし、当店のシグネチャー料理を組み合わせたコースを紹介し、持て成した。コースメニュー最後のデザートを前に、カップルは涙を浮かべ、「人生で最高の日本料理」と感激してくれた。

ルパの努力は特筆に値する。
時差計算違いで、イタリアの午前3時に掛けてしまった電話にも腹を立てず。
要請した面倒な書類も、全て用意し。
素直に信じてもらえない取引にも、痺れを切らさず。。。。

良い友達を持ったねとカップルに言うと、二人は楽しそうに、ここに来るまでの経緯を語った。

イタリア語で”Caccia al tesoro (Treasure Hunt)"と言うゲームで、まずは、開封してはいけない4通の手紙をルパから受け取ったそうだ。同時に、一通目の手紙を飛行機に乗る前に開けろというのが、ルパからの指示。

1通目にはこう書いてある。 「明日メルボルンにて、ある人物に会ってもらう。彼は宝の鍵を握る人物。次の手紙を飛行機で開けろ。」
2通目、「飛行機を降りたら、直ぐにSouthern Cross駅へ向かえ。空港からの所要時間は30分。その場所で、次の手紙を開けろ。」
3通目、「ある人物と落ち合え。彼は私の友人だ。待ち合わせのレストランを地図に示す。時間は8時。彼は待つのが嫌い。絶対に遅れるな。次の手紙を、レストランで開けろ。」
4通目、「私の友人が現れるはずだ。彼が、あなたふたりを最高に持て成す。この取引は支払い済み。」

こうして、彼らは私に出会った。


カップルが、Yarra Yeringの2003年サンジオベーゼ(Sangiovese)を心地よく飲み終えテーブルを立つ頃、ちょうど店の電話が鳴った。ルパが全てうまく行ったか心配になって、またイタリアから掛けてきたのだった。電話を保留にし、席を立ち上がったカップルに私は言った。

「5つ目のメッセージを預かっていますよ。」

その後のカップルとルパとの会話は、イタリア語が解らなくたって友情と感激に溢れていることが容易に理解できた。


ルパの正体はイタリアのあるミュージシャンであることを知った。
彼の音楽をYoutubeで聴かせてもらったが、温かい音楽である。

彼から、お礼の手紙も戴いた。
"I'll never finish to thank you for the wonderfull courtesy and professional cooperation. My friends had a unforgettable evening in Melbourne."


先日迄、雹まで降って凍えたメルボルン。
でも、大丈夫。こうして、お客さんが心を温めてくれる。

2009 年9月30日





Yarra Yering Sangiovese 2003
サンジオベーゼは、イタリアを代表するワイン、キアンティ(Chianti)を構成する主な葡萄品種。イタリアからのカップルがこのワインを選んだのは、日本人が海外に来てもやはり日本食で落ち着くのと同じ思いでしょうか。祖国への親しみを感じます。
トマトソースに合うスパイシーなキアンティもある一方、Yarra Yeringのサンジオベーゼはクリーミーに纏まっていて、飽きのこない心地良さ。食事を通して一本のワインを選びたい方にも、特にお勧めです。深みあるおいしいワインだなと感激しました。

Yarra Yeringで長年ワインを醸してきた故Dr Bailey Carrodusの奇才はあまりにも有名で、人生をワイン作りに捧げた巨匠の一人です。2008年9月に永眠されましたが、親友であるワイン業界第一人者James Hallidayが、Baileyの眠りについた表情を「安らかな笑顔だった」と語っています。

私にとってこのYarra Yeringは、どのワインも絶品という点でYarra Valleyで一番のワイナリー。Bailyの遺品達が熟成を経て、彼が旅立った今もリリースされていきます。
「Yarra Valley No.1 だね。」現在のYarra Yeringワインメーカー、ポール(Paul Bridgeman)にそう呟くと、彼も大きくうなづきました。

勿論その分値段は高いのかもしれませんが、とにかく素晴らしく出来上がったワインたち。
ポールには多くの話を聞かせてもらっているので、次の機会に掲載できたらと思います。


Yarra Yering
4 Briarty Road, Gruyere, VIC, 3770 Australia
Phone: +61(3) 5964 9267
Web site: www.yarrayering.com

Opening Hours:
10am - 5pm Saturday
12pm - 5pm Sunday
(但し、その年にリリースしたワインが売切れるまでの間のみ。)


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Vintage 1: Leeuwin Estate で過ごす、歴史的野外コンサート



Leeuwin Estateのコンサートの事を始めて知ったのは、苦労が多い20歳そこそこの頃だった。
海外で、何も無いところからスタートした貧しい生活。長時間労働で時間はないけれど、勿論お金も無い。外国人労働者には国民保険も無いから、昔は病気がちだった娘の事でも、苦労がいっぱいだった。言葉の不自由ではいつも悔しい思いをして、子供を守らなければならない僕が、子供のように何もできない時は情けなくて涙を飲んだ。

それでも、夢いっぱいで生きていた。西オーストラリア州パースの町はいつも素敵だった。やりたいことが多かったから、睡眠時間を削っていろんな事に挑戦した。

私が料理人として働いていたのは、Perthでは有名店。この世界の常識、プレッシャーの強い厳しい職場であった。正しいと思うことは実行にできず、修行中にありがちな「職場が理不尽に思えて仕方がない時期」がやってきた。

勿論、やりたいことが実現できなかったのは人や職場のせいではなくて、自分の力の無さだったと解っている。けれど、「このままでいいのだろうか?」と、その頃は誰もと同じように悩んだ。

その頃、戦後のパースで最初の日本人移住者と言われる方と知り合うことができ、相談に行った。「もっと色々な事を身に付けたい。僕はこのままでいいのだろうか?」

その時彼女が貸してくれた本が、日本で出版中のオーストラリアワインについての本だった。ワインの文化の中で育っていない自分に、ワインの良さなんてなかなか解らない。猛勉強するしかないって思っていたわた私に、それは面白すぎる本だった。

その中でも感銘を受けたのが、Leeuwinの歴史的コンサートの話だった。
流行り廃りではなく、本物のArt を見抜き、毎年様々な音楽家を招いた野外コンサートを"Leeuwin Estate"にて開催してきたDenis Horgan。昨年で25回目を迎えた偉大なるコンサートの主催者。

本物だと感じた。



何の前触れもなく、突然彼を自分の目の前にしたのは、その頃から10年近くも後のメルボルンでのこと。親身に付き合っているワイン業者が、彼と私を引き合わせてくれた。

ワイン創りに必要なのは、良い技術と良い素材、そして良いArtと語ってくれた彼。彼のワイナリーにある研究施設は最先鋭の技術を磨いていて、葡萄たちも吟味されているはず。その上でさらに必要なのは、ワインメイカーの芸術的創造力。彼がそれを深く悟っているからこそ、LeeuwinのArt Seriesは、いつまでも高く評価され続けることができるのだろう。

”Food+Wine+Art”….Leeuwin Estateはその調和を実現している。

「成功したらLeeuwinのコンサートに毎年行く。」という、古くからの私の夢。
それには深い意味があって、いつか成長して、芸術を深く理解できる心や、深く楽しめるゆとり、マーガレットリバーに赴く十分な時間を手にする余裕、参加するに値する身分、その費用をまかなう力など、様々な面を総合して手にしたい目標だった。

あの頃の、いつも汚れた格好でお店に篭りっきりで仕事をして、ぎりぎりの睡眠でまた仕事に戻る毎日。労働に身も心も支配された頃。いつかこの何百ドルもするコンサートへ行けるようになってやるって夢見た。そんな話をしたら、Denisは面白いと言ってくれた。



始めてそのコンサートに参加できたのが、まさにDenis Horgan自身からの招待だったなんて、あの頃の私は想像もしなかった。





いよいよコンサートへ。
色々な種類の入場チケットがあるようだけれど、もっとも一般な席は芝生の上にピクニックのように場所をとる。
グルメハンパーと言って、ワインや食事が入っている小洒落たバスケットを手に入れ、7時半にコンサートが始まるまでの間を楽しむ。大勢の人と素晴らしいワインと食事。広大な自然の真ん中の木漏れ日の中で、オーストラリアらしい午後のゆったりとした時間が流れる。

私達は立食パーティーに招待された。
ワインや食べ物が絶え間なくサービスされていたけれど、それどころではない。Denisに御礼を言わなきゃいけない緊張でいっぱいだった。タキシードとドレスで身を包んだセレブリティーのなかに、Denisを見かけた。ちょうどそのタキシードの中でも一番のエレガントに挨拶をしていた。若輩の私とは、位が違いすぎる。結局僕は怖気づいて話しかける事もできず、御礼も言えなかった。心からの御礼を伝えたのは、メルボルンに帰ってからのことだった。



誰もが幸せいっぱいにリラックスした頃を見計らったかのように、音楽はそっと始まり、誰もがぐっと引き込まれた。
堅苦しさの無い、自然に溶け込んだ楽しいコンサート。人間らしい心で奏で、歌い、ユーモアのあるエンターテイメント。

オーケストラと歌声に酔い、グラスに注がれたワインに酔い、野外コンサートはそのまま宵へ。森がライトアップされ、星空の下に幻想的な舞台が浮かび上がる。時にはただ音楽に聞き入り、時には会場が一緒になって歌い、また時には息の合ったリズムで手拍子を合わせる。

舞台では主演のソプラノ歌手”イボン・ケニー”が「オーストラリアで最高の野外コンサート。」と言った。そのとおりと思う。
テナー歌手”デイビッド・ホブソン”もこの場をとても楽しんでいた。そこに居る誰もがそうだった。そして、WASOを指揮する”ガイ・ノーブル”が「Denis Horgan」を讃えた。



芸術家の素晴らしかった音楽に全員が総立ちで拍手喝采の中、私はもう一人、舞台にはいない偉大な芸術家に拍手を送った。この大勢の人達が集い心を動かしたこの場所。音楽と言う芸術と、さらにFood&Wineと言う芸術と、多くの心が一体となれたこの場所を作ったDenis。この歴史こそが最も偉大な本物のARTだと僕は思う。

Denis Horganに大きな拍手と感謝を送りたい。






ルーウィンコンサートの豪華歴代アーティスト

1985 ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
1986 シュターツカペレ・ベルリン(ベルリン国立歌劇場管弦楽団)
1987 デンマーク王立管弦楽団
1988 レイ・チャールズ & ウェスタンオーストラリア交響楽団(WASO)
1989 ディオンヌ・ワーウィック & WASO
1990 デイム・キリ・テ・カナワ、ジェームズ・ゴールウェイ & WASO
1991 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
1992 ダイアナ・ロス
1993 トム・ジョーンズ
1994 ジュリア・ミゲネス、ペラン・アレン & WASO
1995 ジョージ・ベンソン
1996 デイム・キリ・テ・カナワ & WASO
1997 シャーリー・バッシー & アデレード交響楽団
1998 フリオ・イグレシアス
1999 ブリン・ターフェル、イヴォンヌ・ケニー & WASO
2000 マイケル・クロフォード & WASO
2001 ロバータ・フラック
2002 ジョン・ファーナム
2003 k.d.ラング、ジェイムス・テイラー
2004 レスリー・ギャレット、アンソニー・ワーロウ & WASO
2005 スティング、ジャック・ジョンソン
2006 アミーチ・フォーエバー、ジェーン・ラター
2007 シンプリー・レッド
2008 イヴォンヌ・ケニー、デイヴィッド・ホブソン & WASO
2009 クリス・アイザック




さて、今回ご紹介したいワインは"Leeuwin Estate Art Series Chardonnay"。
オーストラリア最高の白ワインと言われるのを、大袈裟には思いません。2006年のボトルは、思い出も伴って個人的に特に感動のワインです。スートーンフルーツが、、、などと始めずにシンプルに説明してみます。「深みある樽の香ばしい薫りと味が、それだけで浮いてしまうことなく、主人公の葡萄Chardonnayのふっくらした存在感に旨く溶け込んでいる。素材の素晴らしさと、芸術的仕上がりに感動しながら飲める、威厳のあるワイン。」

第25回Leeuwinコンサート”クリス・アイザック”の回にこの2006年をいただきました。クリス・アイザックと話した時に驚いたのは、彼が結構日本語を話せたことです。そして、実際に目の前にした大スターからは、人間味ある温かい一人の男を感じました。このChardonnayもそうです。大スター的プレミアムワイン、けれど実際飲んでみると心地の良い親しみやすいワイン。

Leeuwin Estate Winery
Stevens Rd, Margaret River, WA 6285 Australia
Telephone (61 8) 9759 0000, Facsimile (61 8) 9759 0001
Email winery@leeuwinestate.com.au
Web site: http://www.leeuwinestate.com.au



コラム一覧
Vintage Cellar: 全てのコラム
Vintage 1: Leeuwin Estate で過ごす、歴史的野外コンサート
Vintage 2: Yarra Yeringと楽しむ思い出のディナー
Vintage 3: Mandalaで学ぶ、ワインメーカーの情熱
Vintage 4: 旅の途中で飲むワイン
No Vintage: 空白のビンテージ
Vintage 5: オーストラリアが香るワイン、Granite Hills
Vintage 6: 山奥の小さな酒蔵「獺祭」



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