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Vintage 7: 「第14回世界最優秀ソムリエコンクール」

 

2013年3月。歴史に大きく残る重要なイベントが日本で行われたことを、皆さんはご存知でしたでしょうか?

「第14回世界最優秀ソムリエコンクール」

3年に一度、国際ソムリエ協会(A.S.I)の主催で行われるこの大会は、「世界一のソムリエ」が選出される世界最高峰のワインイベント。1995年第8回に田崎真也さんが世界一に輝かれてから、実に18年振りの日本での開催であり、盛大で意味深い催しでした。

大会の正式なリポートや結果は、日本ソムリエ協会の機関紙「Sommelier」を始め、素晴らしい記事が沢山ありますので、是非そちらをご覧ください。2013年7月6日の19時30分から21時まで、NHK-BSプレミアムで特別番組も放映される予定ということです。

一方、私は「業界の素顔」というこのコラムのタイトルのもと、オーストラリア代表団6名のうちの一人として参加したこのイベントで、実際に何を見てきたのかをカジュアルに綴ってみます。

 

現在、国際ソムリエ協会を会長として取り仕切るのは田崎真也さん。私がフランスを旅していたときも、様々な雑誌で会長としてのご活躍をお見かけしました。日本人が世界の最前線でご活躍されていることは、本当に素晴らしいことですね。田崎さんのご成功に深い敬意。

同じ業界にいると、田崎さんがただ優秀なソムリエで有名人であるだけではないことに気づかされます。技術や知識が優秀なソムリエは、次々と現れています。しかし、文化への貢献、業界のリード、後に続く人々への道作り。これらの偉業は、誰にでもできるものではありません。

この第14回世界最優秀ソムリエコンクールの大成功も、田崎さんが導いたものと容易に理解できます。そして日本ソムリエ協会の超豪華メンバーが、影となって世界の来賓を迎えてくださっていました。例えば、各ディナーパーティーは、中本聡文さん(資生堂レストランロオジェ・シェフソムリエ)や阿部誠さん(第11回世界最優秀ソムリエコンクール日本代表)らトップソムリエが担当されていたのですから、最高のクオリティーに間違いがありません。誰もが満面の笑顔で楽しんでいました。
他国に誇れる、歴史上最高の世界大会が行われたことは、日本人ならではの仕事と感じます。

ソムリエオーストラリア協会も、今後の世界大会やアジア大会の開催地に立候補しましたが、それを叶えるにはどれほどの下準備や業界の取り纏めが必要か、考えるだけでも気が遠くなります。そして、日本が行なったほどの繊細かつゴージャスなおもてなしは、到底真似できるものではありません。

「数年前から、桜満開の季節に合わせられるよう願っていた。」と田崎さんが仰られました。世界中の業界のリーダーが、まさしく最高の桜を満喫できた数日間でした。

 

今大会では、過去13回の世界大会の優勝者のうち12名が東京に集結。世界50カ国以上から、各国の最優秀選手と代表団が日本に招かれました。日本ソムリエ協会の岡昌治会長の挨拶の中でも語られましたが、事実上、世界中のトップソムリエが東京に集まった貴重な4日間でありました。

最終日の大会決勝は東京国際フォーラムで行われ、NHKの生放送、多くの報道陣、そして4000人の観客が見守る中、スイスのパオロ・バッソ(Paolo Basso)が優勝を果たしました。舞台上でのプレッシャーは、おそらくワールドカップでPKを蹴る選手と同じでしょう。そんなプレッシャーの中、味の繊細さを見極められるのか、見守るほうも汗を握りました。

ところで、ベン会長も審査員の一人で舞台上にいましたが、自己紹介で「President of Sommeliers Australia. G’day! 」と茶目っ気を見せたのは、彼らしい肝っ玉です。(グダイ!はオーストラリア訛りの挨拶です。)

 

 世界1位  パオロ・バッソ(Paolo Basso) スイス 
 世界2位  ヴェロニク・リヴェスト(Veronique Rivest) カナダ
 世界3位  アリスティード・スピーズ(Aristide Spies) ベルギー
 世界7位  フランク・モロー(Franck Moreau) オーストラリア
 世界14位 森覚(もり・さとる) 日本
 世界20位 マーク・プロドロー(Mark Protheroe) オーストラリア
 

オーストラリアチームは普段からとても仲が良く、このメンバーでいると笑いが絶えません。YesとNoがはっきりしていて気持ちが良いのがオーストラリアらしさ。左から、ベン・エドワード(Ben Edwards)ソムリエオーストラリア協会会長、私、日本代表の森覚選手、フランク・モロー選手(Franck Moreau)、マーク・プロドロー選手(Mark Protheroe)、ダン・シムス(Dan Sims)、そしてジョアン・ダフ(Joanne Duff)も同行。

日本代表の森覚さんは優勝候補と言われるのに十分の実力の持ち主ですが、世界レベルの大会は小さなミスが明暗を分ける厳しいものでした。しかし、どの選手も健闘したことに間違いはありません。世界20位以内に、日本代表選手とふたりのオーストラリア代表が入賞したことは素晴らしいことです。

大会中のある夜、各国の代表達と宿泊先のホテルのバーで軽く飲む機会がありました。同じバーで岡会長の姿を見つけました。岡会長は笑顔が素敵で、いつでも明るさとユーモアを振り撒き、緊張が重い場や空気が張り詰めそうな時ほど、みんなを和ませてくださる優しいお人柄。いつも周りを思いやっていらっしゃる。日本の準決勝進出が叶わなかったこの夜も、きっと人々を次回の挑戦のために笑顔で勇気付けておられたことでしょう。大変寂しそうな背中を夜のバーでお見かけし、一番落ち込んでいたのは、実は岡会長であったことを噛み締めました。若手を愛する優しいお背中。お話し中、良い言葉が見つかりませんでしたが、お伝えしたかった気持ちは、私はオーストラリアチームの一員であると同時に、私も日本の活躍を心から願っているという想いでした。

嬉しかったのは、「自分のことだけで一杯になってしまって当然なくらいの重いプレッシャーの中でも、森さんは他選手をいつでも気遣い、開催国の代表として立派に来賓を迎えてくれた。」と各国選手が口々に語っていたことでした。他の国の誰もが、森さんが開催国日本の代表選手としてどれだけのプレッシャーを背負っているかを感じていました。NHKの密着取材まで付いているのですから、大変です。

笑い話ですが、時には代表達の中に自分のことだけで精一杯になってしまう人もいます。もちろんそれは仕方の無いことですね。例えば、ある代表との面会のあと、ダンが「マーク、いつか偉くなったときにあんなつまらない奴になったら、頬をひっぱたいてやるからな。」と言ったのに笑えました。

 

森さんを真ん中に、何気なく撮っていただいた写真ですが、そう言えばイタリア・日本・オーストラリアのコンビだねと森さんが一言。左はイタリアで活躍中の日本人ソムリエ、林基就さん。

森さんの勤めていらっしゃる、トゥールダルジャンをお訪ねしたときのことを思い出します。
私が一人きりでテーブルを予約しているのを見つけて、一人の食事は寂しいでしょうからと、わざわざ休日にお店に来て一緒に食事をしてくださった。こんなサプライズ。本当に、最高峰のホスピタリティーですね。
高校の卒業式に、彼女が花束で驚かせてくれた時を思い出してしまいました。(笑)

 

田崎真也さんプロデュースのモエ・エ・シャンドン・ディナー。本当に素晴らしい。

 

決勝後のガラディナー。森さんも谷宣英さん(第13回世界最優秀ソムリエコンクール日本代表)も、来賓をもてなすための挨拶でずっとお忙しそうでした。あのような素晴らしいお料理を、一口も口にされる時間が無かったのではないでしょうか?最高のプロ意識です。

 

世界中からトップが集まっていますので、世界との友好が広がる最高の機会であることは言うまでもありません。

 

礼儀正しくフレンドリーな、韓国人チームと同席でした。

 

さて、これほどの大イベントが成功を収めたあとは、誰もが達成感や開放感で一杯。
私達オーストラリアチームは、まず帝国ホテルのラウンジに向かいました。

 

Suntory Timeの写真を撮ろうと言い出すと、どこからともなく店員のかたが「響」のボトルを持ってきてくださる気の利きよう。日本のサービスは凄い。(写真はベン会長)

 

世界3位のアリスティードとダンが、同じ学校出身であったことが判明。世界は狭い。
このあと私は、ベン会長とふたりで銀座へ。

 

ソムリエに国境なし。偶然にスウェーデンのチームと一緒になって、銀座の夜を楽しむ。何しろ、300人以上もの関係者が海外から訪れているので、ホテルや銀座や東京中、とにかくいろんな場所で知った顔に次々と出会う。

この夜、ベン会長が財布を無くしたというので、いたるところを探した。そこで、代わりに他の国のソムリエ協会会長が落とした財布を見つけてしまったという、なんとも不思議な運命。ベン会長の財布は、実は部屋に置き忘れてあった。(笑)

 

チーム・オーストラリア。

ある夜はマークとフランクとも、帝国ホテルの私の部屋で遅くまで語り合ったなぁ。
幸せなことも、辛いことも、人にはそれぞれいろいろある。そんな時は、友と涙を流して語り合う。大切なひと時。

ソムリエの世界大会は、ただ世界一を決めるだけのシンプルなイベントではなく、世界中の仲間との絆をさらに強くするための、大切なイベント。沢山のドラマが流れている。

私がこのコラムを書く理由は、活躍する英雄達の、温かい、優しい、愉快な、愛すべき素顔の一面を、皆さんにお伝えしたいため。

どうか、楽しんでいただけたことを祈ります。

がんばろう日本。
がんばろうオーストラリア。

 

コラム一覧


Vintage Cellar: 全てのコラム
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Vintage 2: Yarra Yeringと楽しむ思い出のディナー
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No Vintage: 空白のビンテージ
Vintage 5: オーストラリアが香るワイン、Granite Hills
Vintage 6: 山奥の小さな酒蔵「獺祭」

 

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