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東日本大震災からの復興へ向けて

日本政府の3つのポリシーオプション

東日本大震災からの復興へ向けての日本政府の3つのポリシーオプション

 

2011年4月11日掲載

 

山下 ノブ(ラトローブ大学)
N.Yamashita@latrobe.edu.au
2011年4月6日

 

東日本巨大地震、津波によって失われた、たくさんの方々の尊い命、築きあげられてきた家庭の幸せは、何らかの形で代替できるものではない。しかし、この戦後最悪の震災から一歩を踏み出し、日本は少しでも早く復興に向けて前進する必要がある。経済的影響は95年の阪神大震災を上回ることが確実視される中で、日本政府は復興に向けての政策を打ち出していくことが急務である。

 

しかし、オーストラリアのメディアでは、GDPのおよそ200%とされる日本政府の借金の額を指摘し、復興への資金繰りが困難との見方の報道を目にする。
日本の報道でも、復興国債発行による長期的な財政再建の困難を指摘し、政府が掲げる子供手当て等の今年度の予算を凍結し、復興資金として使用すると同時に、復興税の導入も検討するべきだと主張している。
被災地の復興へ向けた、このような議論が始まった中で、日本政府の多額の財政赤字、円高、物価といった基本的なオープンマクロ経済の枠組みの中で、復興資金の日本政府のポリシーオプションを解説してみたい。

 

日本政府が発表した、復興資金は20-25兆円(注:福島原発の放射線の経済的影響を除いた場合の計算)、およそGDPの5-6%とされる。今年度予算の再編成だけでは足りない額である。
この復興資金を捻出する為に、以下の3つのポリシーオプション(または、3つの中でのコンビネーション)が考えられる。

 

(1)復興税の設立

(2)復興国債の民間に対する発行

(3)日本銀行による復興国債の買取。

 

それぞれの政策オプションの利点、弱点を簡単に経済分析してみよう。


(1)復興税の導入は、政府は財政を圧迫させることなく、復興の資金を調達可能できる。
また、復興税導入による企業、家計への明確な影響は復興税の種類(所得税、法人税)また、税率などにより違う効果が期待されるが、基本的には民間から政府への所得再分配として捉えることができる。
すなわち、民間の資金によって復興を捻出するのが目的である。
このため、民間部門の消費、または、貯蓄の低下を余儀なくされる。国全体では、この消費・貯蓄の低下は海外経常余剰(貯蓄―投資、簡単に言うと日本全体の海外での資産)の低下を導き、同時に、海外から資産を日本へ呼び戻す際に、ある程度の資金流入も予想される。この資金流入は円高を導き、輸出産業に悪影響を及ぼし、国富も低下させてしまう。最後には、消費の低下と円高により景気上昇の効果もなくなり、物価も下がったままである。
まとめると、復興税の経済効果は、政府の財政赤字を悪化させる心配は無いが、民間の消費の低下、円高を招き、物価上昇への圧力も望めず、結果として復興資金の為の民間からの所得再分配以上の経済効果はあまり期待できない。

 

(2)復興国債を発行すると容易に想像できるように、更なる国の民間への借金額を増やすことになる。これは究極的には、以前から懸念されている国債市場の不安感が上昇することが予想される。また、赤字国債の更なる発行により利子率が上昇しその結果、海外からの資金流入を招き円高になり、全体の経済効果は負となる可能性がある。

 

(3)日銀による国債の買取(monetization of fiscal deficit)では、次の経済効果が期待される。国債発行により、政府の財政赤字は上昇する。しかし、日銀の復興国債買取の際に行う金融緩和によって、円の貨幣価値は下がる(円安方向)。
同時に、完全雇用を前提とする通常の経済の下では、この中央銀行の国債買取は物価上昇(インフレ)を招くことが予想される。
これとは別に、これからの大規模な住宅、道路、インフラの復興の過程では簡単に輸入で賄うことができない非貿易財、サービス(例えば日本家大工)の需要が高まり、物価上昇の拍車をかけることとなる。インフレは基本的には悪とされるものであるが、これは日本経済の長年のデフレからの脱却の機会を生み出すことにもなる。

 

以上の3つの日本政府のオプションを見てみると、マクロ経済の視点からでは、3番目の日銀の国債買取が、短・中期的には一番の最善策のように思える。
政府の財政赤字は上昇するが、インフレへの圧力を生み出すと同時に、(2)のオプションとは異なり、円高の可能性もない。(1)の復興税は、一見政府の財政赤字を悪化させない点では優れているものの、マクロ経済への悪影響は否定できない。

3番目の策のダウンサイドとしては、日銀の貨幣供給によるインフレ上昇を招くことであるが、長年のデフレを経験してきた日本経済にとっては、この物価上昇も許容範囲内であろうと考えられる。今後この許容範囲を超える場合は、日銀の金融引き締めの策を用いて処方していけば良い。

勿論、政策を施行するためには、マクロ経済への影響に関連しての、政策の連動性、政治的なタイミングを加味して、判断を下さなくてはならない。しかし、政府は国債市場の不安定、インフレの悪影響を今心配するよりも、復興に向けての政策を一刻も早く固め、この戦後最悪の事態を日本経済再生の糸口として結び付けてもらいたい。日本全体の景気上昇により、被災された多くの方々にも大きな活力、希望を与えることになる。世界も同じような気持ちで、日本の起死回生を願っている。
 

 

 

山下 ノブ(ラトローブ大学)
N.Yamashita@latrobe.edu.au

【プロフィール】
山下ノブ(経済学博士)
ラトローブ大学 経済・ファイナンス学部所属(2008年4月より現職)
他、一橋大学経済研究所COE特別研究員、福岡大学大学院商学研究科非常勤講師
2008年6月オーストラリア国立大学 経済学博士課程修了。

趣味 日本代表サッカー、76年会飲み会参加

コメント

以前のコメント

tetsu   (2011-04-14)
3つの政策それぞれから、そのままの効果をあげて頂いたのは分かるのですが、 原発問題からの輸出量の低下や、海外観光客の激減、 国産農、海産物不足から予想されるそれらの海外依存。 円高などありえるのでしょうか??? 机上の論理よりも、現実が知りたいです。

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