小説版バイリンガル子育て 第6話 『答えはお風呂場にあったのだ』
更新日: 2010-03-13
絵本の読み聞かせを始めて半月余りが過ぎた。毎日やる事が決まっていると、それをこなすだけである種の達成感があるので、精神的には少し楽になった。それでも新太郎はまだ生後4ヶ月。時折笑ったりもするが、ハッキリとした気持ちのキャッチボールはまだできない。絵本をめくりながら、新太郎もきっと楽しんでいると信じて、一緒に自分も楽しむ努力をしている。それはまるで、学校の校庭にある大きな壁当て用のコンクリートの壁に向かって、ひたすらボールを蹴って、跳ね返ったボールを味方からのパスをイメージしたり、敵のシュートをイメージしたりして練習をするような孤独との戦いだ。ただの壁だと思ってしまうと途端に練習の効果が落ちてしまう。「俺の気持ちよ、届いてくれ!」そう祈りながらひたすらページをめくっていた。しばらくすると、本を読み聞かせている間の新太郎の様子が少し変わってきた。わずかではあるが目でページを追っているような気がした。そこで僕は小さなゴムボールを手に持って、それを新太郎の目の前でゆっくり動かしてみた。やはり目で追っている。今度はそれを上下に動かして、新太郎のお腹の上でバウンドさせた。「ウキャ」新太郎が笑った。僕はボールが跳ねる瞬間に"bouncing(バウンシング/跳ねている)"と言いながら何度も、ボールを上下に動かした。お腹の上、おでこ、顔のすぐ横の床、胸、大の字に寝て広げている手のひら、とにかく感覚がありそうな所や、目が動きそうな所をバウンドさせてみた。新太郎はとても楽しそうにしている。こうしてゴムボール遊びも日課に加わった。
まだ動くことができずに寝ているだけの新太郎にとって、何か動いているものを見る事はとても楽しそうだった。そして体の上にボールをバウンドさせたりする事によって、自分の体の感覚も持ち始めてきているみたいだ。ボールを目で追って、それが体に触れて、そこで耳に"bouncing"という音が入る。まだ母乳以外飲んでいない今の状態では味覚、嗅覚は発達していないので、『視覚+触覚+聴覚』の三点セットが一番学習に効果がありそうだ。僕はそれを踏まえた最高に良いアイデアを思いついた。そう、答えはお風呂場にあったのだ。
僕は毎日、新太郎を風呂に入れている。まだ首がやっと座ってきたばかりなので、僕が床に足を伸ばして座って、膝の上に新太郎を乗せて洗っている。そこで、新太郎の体を洗う時に、体の部位の名前を言っていけば覚えるのでは無いかと思ったのだ。"neck(ネック/首)""back(バック/背中)""left arm(レフトアーム/左腕)""right arm(ライトアーム/右腕)"と全ての部位の名称を洗いながら言っていく。一度では足りないので"Neck,Neck,Neck,Neck,Neck"と洗いながら言い続けた。そして次の部位に移る時には、"Next,Let me wash your back.(ネクスト、レッミーウォッシュアバック/次は背中を洗おうね)"などとつなぎの言葉を挟んだ。これも日々の日課に付け加えた。
そして、あっという間に月日は経って、新太郎は生後8ヶ月になった。絵本の読み聞かせ、ボールやおもちゃを使った遊び、お風呂、それに挨拶。最初は大変だったが、やり始めると慣れてくるので、今では歯磨きの回数がちょっと増えた程度の負担になっていた。新太郎は座れるようになり、ハイハイも覚えた。アーとかウーとかは時々言うけど、まだ意思を伝えたりはできない。この4ヶ月間、色々としてきたけど、それなりに成果が出てきた。お風呂でシャンプーを流す時に、膝の上に寝かせて、片側からシャワーで流す。そのあとに、"Turn your face to other way(ターンユアフェイストゥアザーウェイ/顔を逆に向けて)"と言うと、確実に向ける。おへそが大好きで、"Where is your belly button?(ホェアイズユアベリーボタン/キミのおへそはどこかな?)"と言って探そうとするとケラケラ笑う。言葉が少しずつ通じるようになってきているのを実感した。
しかし、一つ問題も出てきた。自由に体を動かせるようになったので、絵本を読まなくなった。読んでいると、絵本を手に持ってめくって遊んで破いてしまうのだ。今は手で何かをする事が一番面白いのだろうと思い、読書をするのはしばらく止める事にした。子供の成長は日進月歩。親もそれに合わせて柔軟に対応しなければいけない。それでも4ヶ月前のひたすら壁当てをするような状態と比べれば、反応があるので遥かに楽しい。最初の山を越えた気がした。(つづく)

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