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小説版バイリンガル子育て 第13話 『時を越え沖縄で再会した僕ら』

 2008年6月30日午前11時30分、僕らは沖縄の那覇空港にいた。中学の同級生が結婚して奥さんと沖縄に移住したので遊びに来たのだ。その友達とは、当時は挨拶する程度の仲だったけど、2005年に同窓会で卒業以来の再会をしてから、何度か他の同級生と飲みに行って、現在の彼の考え方とか、生き方に共感して少しずつ仲良くなった。沖縄に行く前に送別会をした時に、「皆いつでも遊びに来てよ」と言うので、社交辞令じゃないのに賭けて、彼女と息子を連れて本当に遊びに行ってみたのだ。

 思えばこれが、新太郎が生まれてから初めての家族旅行だった。慣れない子育てに二人で奮闘している間にあっという間に二年が過ぎた。少しだけしゃべれるようになった新太郎は、この沖縄でどんな思い出を作るのだろうか。

 空港で友達と会って、まずはA&Wという沖縄ではメジャーなハンバーガーを食べた。アメリカ人が好きそうなこってり味でボリューム満点だった。しかもコーラはお代わり自由。 食後は、着付けの免許を持つ彼女の希望で、沖縄かすりという着物を作っている工場を見学して、その後、早速沖縄の海に行った。新太郎を海に入れるのは初めてだったので、最初が肝心だと海に落としてやったら溺れて大泣きして、"Scary!(怖いよぉ!)"と叫びながら砂浜に逃げ帰って行った。 僕は"Scary"なんて言えるのかと息子に感心しながら、「人間は生命力に溢れているから、海に落とせば自然に泳げるようになる。俺はそうだった」と焼酎をあおりながら言っていた親父の言葉を信じた自分を恥じた。



 泳いだ後は、ホテルに戻って着替えて、再出発。車を走らせること10分。突然友達が畑のような所に車を入れた。そう、彼の「マイファーム」だ。年間5500円で借りられて、水は使い放題。トマト、アロエ、パパイヤ、ゴーヤ、とうもろこし、オクラ、紅イモなど、たくさんの野菜や果物がなっていた。毎日の食卓には、この畑で作られた食材が必ず何点かは並ぶそうだ。「今回は中身がスカスカだったから、来年はこうしよう」などと相談して美味しい食材を作るのも楽しいし、多少苦いのができたときもそれを個性として受け入れて、楽しく食べられるという話を聞いて、素敵な生活をしているな、と改めて思った。新太郎は、はじめて実際になっているトマトやパパイヤを見たり、水をあげるのを手伝わせてもらって目を輝かせていた。その輝きがテレビでミッキーマウスを見ている時のそれとは違っていて、ミッキーが悪いとも思わないけど、やっぱり子どもは自然に触れさせてあげたいなと思った。

 畑を出た後は、世界遺産に認定されている座喜味城跡(ざきみじょうあと)に行った。 ここは1420年頃に護佐丸(ごさまる)という武将が築城したとされている城の跡で、入口の石碑以外に特に何の説明も無いのだけど、ものすごいパワーを感じる場所だった。お城があるわけじゃなく、石垣に囲まれているだけの空間なのだが、ここが何だったかとか、そういうことを知らなくても説得力があるもの凄い場所で、言葉では上手く説明できないのだが、あえて言うならば、築城から600年後の現在までの時間の渦の中にいるような気分になってしまうというのが一番近い。ここに来るまで車の中ではしゃいでいた新太郎だったが、車を止めた途端にパタリと眠ってしまった。僕は新太郎を抱きかかえて城跡に入っていった。先に来ていた一組の外国人観光客とすれ違い、木でできた細くて急な階段を登り、一番高いところで友達が記念撮影をしようとカメラを構えた瞬間だった。ふっと何かがよぎった。自分なんだけど自分ではない感覚。すぐに隣にいた彼女を見た。

「今、昔ここに来た気がしなかった?」
「した。沖縄に来るの初めてなのに、ずっと昔にきたような気がした」
「俺たち昔も一緒にいた時があったのかなあ」
「ここに来てすぐに新太郎がパタって寝ちゃったから、きっと新太郎が過去と現在を繋いでるんだ」
「じゃあその時も三人一緒だったんだね」

 普通に聞いたら笑っちゃうくらい恥ずかしい会話だけど、その時は素直にそう思った。「また会えたんだね」そう言って僕らは笑った。



 それから数日後、沖縄から戻った僕らには日常が待っていた。朝起きて、新太郎と少し遊んで仕事に出かける毎日。あの沖縄の座喜味城跡での感覚はなんだったんだろうか?あれから彼女とはその話はしていない。新太郎が、沖縄で買った小さなシーサーの人形を両手にひとつずつ握り締め、それを交互に差し出して"Girl""Boy"と言った。口を開いているのがオス、閉じているのがメスである。なんで知っているんだ新太郎。やっぱりお前もあの場所にいたのか。

「また会えたんだね」 (つづく)



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プロフィール

高橋正彦:1977年、静岡県浜松市生まれ。中学卒業後、単身メルボルンに渡りブライトングラマースクールに入学。同校では、3年がかりで学校側に打診をしサッカー部を創立、初代キャプテンを務める。1998年中古CDショップ「音吉プレミアム」を立ち上げ、世界中の人達との交流を始める。2007年9月、単行本『イタリア人は日本のアイドルが好きっ』を出版。2009年5月には世界中のオタクと交流するOTAKU SPECIALISTとして、NHKから英語でインタビューを受け、その映像が世界80カ国で放送された。

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