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小説版バイリンガル子育て 第7話 『僕がバイリンガル育児をしている理由』

 2007年6月2日、新太郎が1歳になった。初めて親になって、初めて赤ちゃんをお風呂に入れて、初めてオムツを変えて、初めてだらけの1年が過ぎた。今までほとんどケンカをしなかった僕ら夫婦は、初めての子育てに四苦八苦して、その分ケンカが増えた。それでもやっぱり新太郎が生まれてきてくれてよかった。それは彼女も同じ気持ちだと思う。これからもいっぱいケンカをして、いっぱい悩んで、いっぱい笑いながら家族を続けていけばいいと思う。

 新太郎の誕生日の前日、オーストラリアから荷物が届いた。僕がオーストラリアに留学してた時のホストマザーのロスからの誕生日プレゼントだった。カンガルーのマークとSHINTAROのロゴをあしらえた手作りのブランケット。手紙に書かれていた"From Aussie Granny"の文字に、目頭が熱くなった。高校を卒業して日本に帰ってきてから、一度もメルボルンには戻っていないけど、ロスとは手紙でやり取りをしていた。ロスの家に下宿した3年間で、僕達は実の親子のように愛し合うようになった。いつか孫の顔を見せに行かないといけないなと思う。その時に新太郎が英語を話すことができたら、どんなに楽しいだろうか。僕は、それを糧にバイリンガル育児を続ける決意を新たにした。



 1歳になった新太郎は、まだ歩くことはできないが、つかまり立ちができるようになった。そして僕の英語での問いかけにもハッキリと反応するようになった。僕が仕事に出かける時には手を振ってくれるし、"Do you want me to carry you?(抱っこして欲しい?)"と聞けば、安心した表情を見せる。日々親子の絆が深まっていくのを実感していた。

 そしてこの頃、立て続けに海外から友達がやってきた。7月にはアメリカからギャリーさんが来て、一緒に水族館と犬の動物園に行った。8月にはイタリア人のレオとピアパウロの兄弟が、友達のカルロを連れて観光にやってきた。一緒に茶道体験に行って、僕の家でお互いの国の料理を作って対決した。皆元々は僕の店のお客さんだった。それが今では、毎回日本に遊びに来る度に遊びに行く友達になった。





 僕は、新太郎に英検を取ったり、TOEICなどの英語テストで高得点を取ったりするのを期待していない。もちろん、将来新太郎が必要ならば、そういったテストも受ければ良いと思っている。でも一番は、僕が経験してきた、世界中の友達と交流をして感じている喜びを、日本語しか話せなかったら出逢えなかった人達とわかりあえる事の幸福感を味わって欲しい。世界には色々な人種がいて、色々な境遇で暮らしている。だけど、僕達は地球という星に生まれた同じ人間なのだ。僕はそれがわかるのに20年以上かかった。たくさんの人を自分の心の小ささで傷付けてきてしまった。新太郎にはもっと大きな心で、世界を受け入れる「地球人」になって欲しい。だから僕はバイリンガル育児をしている。(つづく)


※読者の方からの質問や応援メッセージ大歓迎です。コメントお待ちしております。

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プロフィール

高橋正彦:1977年、静岡県浜松市生まれ。中学卒業後、単身メルボルンに渡りブライトングラマースクールに入学。同校では、3年がかりで学校側に打診をしサッカー部を創立、初代キャプテンを務める。1998年中古CDショップ「音吉プレミアム」を立ち上げ、世界中の人達との交流を始める。2007年9月、単行本『イタリア人は日本のアイドルが好きっ』を出版。2009年5月には世界中のオタクと交流するOTAKU SPECIALISTとして、NHKから英語でインタビューを受け、その映像が世界80カ国で放送された。

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