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小説版バイリンガル子育て 第15話 『チキンボーイとイルカたち』

 9月になっても残暑が厳しく、まだまだ夏日が続いている。こうも暑いと何をするにも、なかなかやる気が起きないが新太郎はいたって元気である。今もテレビを見ながらビールを飲んでいる僕の前をミニバイクで何度も通り過ぎてアピールしている。そしてニヤニヤしながら近寄ってきて"Please push me.(押してくれる)" と言った。僕がバイクを押してあげると"Hooray!(やったー)"と叫んで流れに身を任せ、バイクが止まるとまた戻ってきて"Again please.(もう一度お願いします)"と催促をする。ゆっくり座ってビールを飲みたいところだが、新太郎の頼みとあっては断れない。もうかれこれ10回は押しただろうか、新太郎がまた戻ってきた。僕がまた押す準備をして、新太郎の背中に手を置くと、新太郎が"Look!"と言ってテレビを指差した。"Horse riding!(乗馬だ!)"。

 テレビでは、新太郎と同じくらいの小さな男の子がお父さんと一緒に乗馬をしていた。"I want to do.(僕もやりたい)"と新太郎が言った。場所は神奈川県の三崎という所で、東京から1時間半くらいで行けるようだ。三崎港であがるマグロが絶品らしい。テレビでは、おじさんがマグロ尽くしの料理とお酒を楽しんでいる。"I want to eat.(俺も食べたい)"と僕は言った。親子で物の見事に旅番組に感化されて、僕たちは三崎へ一泊二日の旅行をすることになった。

 9月17日、三崎旅行当日、天気は晴れ。早起きをして、電車に揺られ三崎口という駅まで行って、そこからバスで『ソレイユの丘』というテーマパークに行った。ここで乗馬ができるのだ。新太郎は旅行することが決まってから、毎日「Horse riding!! パッカパッカ」と乗馬の練習をしていたくらい楽しみにしていた。無論馬役は僕である。僕の背中をバシバシたたき"Go! Go!"と手綱を取っていた新太郎だったが、本物の馬を見て予想以上に大きかったのでビビッてしまい、"Scary.(怖いよ~)"と半べそをかいてしまった。乗馬のために、毎日背中をバシバシ叩かれ、わざわざここまで来たのだ。やらないで帰れる筈がない。僕は無理やり新太郎を抱えて馬にまたがった。そしてオーバーオールにネルシャツという、いかにもカウガールな出で立ちのお姉さんに引っ張られ、馬は渋々パドックを歩き出した。新太郎は僕の懐で硬直していたが、2周目になると安全なことがわかってきたらしく、ママに手を振る余裕も出てきた。馬から降りたあとで、もう一回乗ろうと誘ったら"No!"とハッキリ答えた。やっぱりまだ怖いのか。

 乗馬のあとは、幼児用の浅い池で遊んだり、のんびりと午後を過ごして、夕食は僕がお目当てにしていたマグロ料理専門店に行った。刺身はもちろん美味しかったが、マグロの串焼きが気に入って何度もおかわりをした。新太郎も2歳児のくせにマグロが好きらしく、僕と同じくらいの量を食べ、なかなかいい額のお会計になった。



 翌日、横須賀のホテルに泊まった僕らは、『油壷マリンパーク』という水族館に行った。ここのイルカショーを見るのを新太郎はとても楽しみにしていた。ところが、チキンボーイの新太郎に悲劇が訪れる。イルカショーが始まると会場は暗くなり、ハロウィンを意識した演出に新太郎がビビッてしまったのだ。新太郎は泣いてママにしがみつき、そのまま泣き疲れて眠ってしまった。僕はあんなに大好きだったイルカの事を、新太郎が嫌いにならないか心配だった。

 しばらくして新太郎が起きたので、プールに戻ったイルカ達を見に行くことにした。このプールは階段を上ると水面に顔を出したイルカが見えるようになっている。僕らが行くと、イルカが2頭プールの真ん中で水面に顔を出して休んでいた。僕はイルカに話しかけた。

"My son came here to see you guys but he was scared of the show and couldn't watch.I don't want him to dislike dolphins so please make him happy.(息子が君らに逢いたくって来たんだけど、ショーが怖くて泣いて見れなかったから、このままじゃイルカが嫌いになっちゃうから、息子を喜ばしてあげてくれよ)"

 すると、寝転がっていたイルカ達が「キキキキキーッ」と鳴きながらコチラに近寄って来てくれた。新太郎は、"Dolphin coming!!(イルカが来たよ!)"と喜んで、イルカに逢ったら言おうと練習していた自己紹介の言葉"Dolphin nice to meet you. I am Shintaro."と一生懸命に言っていた。ありがとう、イルカ達。

 きれいごとかも知れないが、僕は子どもに、動物や草木、命あるものすべてを友達だと思って欲しいと願っている。世の中には、いくら歩み寄ろうと思っても平行線のままの関係もあるし、それを目の当たりにして傷つくこともあるけれど、相手と分かり合える、そう信じて行動できる人になって欲しい。

 そんな思いを知ってか知らずか、新太郎は道路の脇で見つけた小石に向かって"Hello Mr.Stone.(石さん、こんにちは)"と挨拶をしていた。(つづく)



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プロフィール

高橋正彦:1977年、静岡県浜松市生まれ。中学卒業後、単身メルボルンに渡りブライトングラマースクールに入学。同校では、3年がかりで学校側に打診をしサッカー部を創立、初代キャプテンを務める。1998年中古CDショップ「音吉プレミアム」を立ち上げ、世界中の人達との交流を始める。2007年9月、単行本『イタリア人は日本のアイドルが好きっ』を出版。2009年5月には世界中のオタクと交流するOTAKU SPECIALISTとして、NHKから英語でインタビューを受け、その映像が世界80カ国で放送された。

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