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小説版バイリンガル子育て 第16話 『小さな国際交流』

"Daddy, did you buy Shintaro's banana juice?(パパ、新太郎のバナナジュース買ってくれた?)"

 これで7単語。今の新太郎が話せる最長の言葉だ。仕事から帰る時に電話をしたらバナナジュースをせがまれて、家に着いた途端にこう言われた。僕は新太郎と目を合わせたまま、後ろに回していた右手を前に持っていった。右手にはバナナジュースが握られている。"Yes!"新太郎がガッツポーズをして喜んだ。

 僕は中学3年の一学期まで英語の成績が1だった。5段階で1が一番悪く、学年で一人か二人くらいしか付けられないのだが、僕の成績表にはいつも1が付いていた。僕は学年一英語の成績が悪かった。そこからオーストラリアに留学する決意をして付け焼刃で勉強して、卒業前には3を取ることができた。留学したての頃は7単語繋げるなんてできなかった。多分そのレベルになるまでに半年はかかったと思う。それを若干2歳4ヵ月で話すなんて、新太郎は本当にバイリンガルになれるんじゃないか。ちょうどこの時期は、自分の英語子育てのやり方に自信が持てるようになってきた頃だった。そして新太郎の英語力を試す絶好の機会が訪れた。

 スウェーデンとアメリカから立て続けに友達がやって来たのだ。まずはライナスがスウェーデンから日本語を勉強するために3ヶ月間の短期留学にやってきた。元々は僕の店のお客さんだ。僕の家に夕食に招待したら、お土産にケーキを持ってきてくれて、"It's only small thing...(ちょっとした物ですが...)"と渡してくれた。スウェーデンではお土産を渡す時にはそう言うらしい。日本人が「ほんの気持ちだけですが...」というのに似ている。スーパーで食材を買う時もしきりにお金を出そうとしてたし、スウェーデン人って日本人と少し似ているのかなと思った。

 新太郎がしゃべりだしてから初めてのネイティブスピーカーとの対面だったのでどうなるかと思ったが、僕がライナスと英語で話しているのを見て、自ら英語で話しかけていたので、新太郎の中で英語と日本語の違いはハッキリしているのだろう。しかも普段よりも流暢に話している気がする。これにはライナスもびっくりしていた。ライナスにたっぷり遊んでもらった新太郎は大喜びで、ライナスが帰る時、家の前まで出て送ったら、"Linus good-bye, Linus see you soon."とライナスが見えなくなるまで手を振っていた。



 それからわずか2日後、今度はアメリカからギャリーさんがやってきた。彼も元々はお客さんで、去年初めて会って池袋の水族館に行った。新太郎は1歳だったのだが、水族館の写真を見せていたので、"Gary-san"と呼んで彼を驚かせていた。ギャリーさんは前回はほとんど日本語が話せなかったが、今回はある程度の会話ならできるようになっていた。本を読んで独学で勉強しただけでここまで話せるようになるんだと驚いた。新太郎はギャリーさんが日本語で話せば日本語で、英語なら英語で切り替えて話をしていた。ギャリーさんがプレゼントを持ってきてくれていて、「実は渡すものがあって...」と言いながらカバンから出した瞬間に目ざとく見つけて、"Thank you!"と大きな声で言って受け取っていた。息子よ、お礼を言うのは大切なことだが、イントロクイズの回答者のようなスピードでプレゼントに飛びつくのはやめてくれ。



 ギャリーさんと会った翌日から、僕らは広島の彼女の実家へ移動した。彼女のお父さんは兼業農家なので、イモ堀りをしたり、トラクターに乗ったりして、新太郎は楽しそうだった。僕は2日間滞在して、独りで東京に帰ってきた。十一月に二人目の子どもが生まれる予定で、東京では世話をしてくれる人がいないため、広島で産むことになったのだ。年末まで二ヵ月半もの間、僕は一人暮らしになる。東京に戻る時、新幹線の駅でさよならを言って歩きだしたら、新太郎がずっと"Daddy!!"と叫び続けてたので、僕は我慢できずに一旦戻ってしまった。

 せっかく英語が話せるようになってきたのに、二ヵ月半の間、日本語だけの生活になって、新太郎の英語はどうなるのだろうか?二人目の子は五体満足で元気に生まれて来てくれるだろうか?これまで数年間一緒に暮らしていた彼女と長く離れるのも初めてだ。色々なことを考えた。一人暮らし最初の夜は、朝6時過ぎまで寝付けなかった。 (つづく)



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プロフィール

高橋正彦:1977年、静岡県浜松市生まれ。中学卒業後、単身メルボルンに渡りブライトングラマースクールに入学。同校では、3年がかりで学校側に打診をしサッカー部を創立、初代キャプテンを務める。1998年中古CDショップ「音吉プレミアム」を立ち上げ、世界中の人達との交流を始める。2007年9月、単行本『イタリア人は日本のアイドルが好きっ』を出版。2009年5月には世界中のオタクと交流するOTAKU SPECIALISTとして、NHKから英語でインタビューを受け、その映像が世界80カ国で放送された。

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