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食物思考~Thought for Food~(9) ビートルート編

 先日、「自炊してますか?」と尋ねられ、即座に、「ええ、料理するの、好きなんですよ!」と答えた私でしたが、はて?なにやら胸の奥で、妙な息苦しさを覚えるのでした。実際、私は外食をしたり、テイクアウェイフードを買ったりということがほとんどなく、自炊生活をしております。しかし、そんなに料理好きを公言できるほど、料理をしているかしら。オーストラリアに来てからのマイ献立に多いのは、ゆでた卵か、冷やした豆腐か、炊いた白飯。なんだ、これは。料理と呼べる料理を作っておらぬぞ。過去に料理のレパートリーを増やそうと躍起になっていた時期もあったのに、なんという様でしょう。

 料理する作業は、クリエイティブ、かつアクティブな気持ちを持っていなければできないことです。そして、自らの知恵と技を使って生み出した料理を食することで、おのれの存在を認め、おのれに満足感をもたらし、生きる活力とするのです。料理に対するパッションがないのは、生活全てにおいて覇気が薄れている表れではないでしょうか。危険信号点滅、と感じた私の心に浮かんだのは彼の姿でした。

 彼との出会いはウン年前、飛行機に乗るのも日本から出るのも初めてだった私が、なんとかかんとかたどり着いたニュージーランドのマクドナルド。どこにでもあるこのファーストフード店ですが、初海外の私は、「アメリカンサイズ」見たさにそこを訪れたのでした。むろん、私の立っている場所が米国でないとわからないほどおバカさんではなかったですが、ガイジンさん用なんだから、日本とは比べ物にならないほどのビッグMサイズ、Lサイズのポテト、ドリンクを見られると思っていたのです。けれどニュージーランド人は、少食なのかアメリカ人ほど胃袋が大きくないのか、日本人サイズとなんら変わりはございませんでした。そうして、失望した私がハンバーガーにかぶりついたとき、アイツがカウンターパンチを食らわしてきたのです。

 バンズの間からしたたり落ちた、鮮やかな赤紫の液体。その色は日本人の脳をお持ちの方なら誰しも本能的に、食べ物にあらず、と判断を下すであろう毒々しいカラー。恐るおそるバンズを持ち上げて正体の確認を試みると、そこにいたのは、液体よりももっと強烈な、濃い赤紫のカブのような物体。それがビートルートというベジタブルでした。私が注文したのは、ニュージーランド限定・キウイバーガーなるものでした。オーストラリアのスーパーマーケットにて、ドーナッツを彩るアイシングシュガーが超・ブルーカラーなのを見た時も頭の中でサイレンが鳴り響きますけど、それと比べても、あの時のインパクトはすごかったです。アメリカンサイズのポテトが出てこなかったことなど、瞬時にどこぞへ吹っ飛びました。



 ビートルートによって、これが外国なのか!とでっかい感銘を受けた私が、「ビートルートのように何事にも染まらない自分自身のカラーを持ち続けて生きるのだ!」と思ったのかどうかは定かではございませんが、ともかく、そのころは未知なるモノがいっぱいで、毎日を興奮状態で過ごしておりました。そしてやはり、料理をたくさん覚えたのもその時期でありました。英語のつたない私が、ガイジンさんとコミュニケーションを取るのに最も適したツールは「料理」でした。美味しいものを作れば人が寄ってくるし、また、反対に彼らからクッキングを学び、それによって料理だけでなく、言葉や文化などについて自分の知識が増えていくのが本当に楽しかったのです。

 あの頃の情熱を思い出さなければ、とビートルートをマーケットに買出しに行ってまいった私。さて、生ビートルートをどう調理して食するのかと言いますと、ゆでて、皮をむいて、そして召し上がれ。・・・あら、これではゆでた卵と全く差異がないのでは。オーストラリアで料理へのパッションが再燃する日はまだ遠いらしいです。

コメント

以前のコメント

Bee   (2009-06-18T23:47:19)
これを食べる時は、顔を突き出して猫背になって食さないと、汁が服についてしみになる。 嫌いではないが、進んで買ったことはまだない。 とうもろこしの風味がしませんか?
Chookie   (2009-04-24T20:46:03)
ヨシミさん>> 美味しいですよね。見た目とはちがって、やわらかな甘さがたまりませんね。生クリームとマヨネーズであえるのもいけますよ〜。
ヨシミ   (2009-04-24T18:04:55)
存在は知っていましたが、オーストラリアに来て初めて食べました。マヨネーズをつけて食べるだけで、お酒が飲めそうな気がしています。美味しいですよねー?

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プロフィール

私は、一日に一度は市場に行かなければ落ち着かないマーケットホリック。これは、そんな私と食物たちとの四方山話です。

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