【対談3】日本発世界スタンダード(後編)
アサヒビール山口氏とスタッフソリューション楠本氏 対談第2弾!
Staff Solutions Australia × GO豪メルボルン特別企画 「対談」
今回の対談ではAsahi Breweries山口氏とStaff Solutions Australia楠本氏に「日本発世界スタンダード」をテーマに語っていただきました。
前・後編の2回(2011年9月15日前編)に渡ってお送りする「対談」。
今週のテーマは「日本企業変革の必要性」
■対談者紹介
楠本 岳 (Kusumoto Takeshi)
Staff Solutions Australia Pty Ltd
Melbourne Branch Manager
<Profile>
学生時代にバックパッカー、ワーキング・ホリデーなどを通じ世界を肌で体感。日本帰国後は英会話のジオスにて営業とマネジメントに携わる。支店運営の立て直しと海外への事業展開をミッションに日本と海外を飛び回り、楠本再生工場と言われる。2007年に日本から現職へ転職。現在はスタッフ・ソリューション・オーストラリアの人材コンサルタントとメルボルン支店長を務める。
山口 巧 (Yamaguchi Takumi)
Asahi Breweries LTD
<Profile>
99年にアサヒビール入社、国内で営業職を8年勤めた後、国際部へ移動。タイに駐在員として10ヶ月滞在し、現在は本社から出張ベースで香港、マレーシア、オーストラリア、ニュージーランドの酒類事業、営業・マーケティングを担当。
-海外進出に伴う企業内のインフラ整備の必要性
楠本) 今の日本市場は飽和状態ですので、ほとんどの業界で海外展開を進めていかなければならない時期にあると思います。例えば、幾つかの住宅メーカーさんが豪州にて事業を積極的に展開されています。数ある海外事業の一環となるのですが、豪州展開の理由の一つとして、安定した収益と成長を望めるという点があります。
豪州は資源以外の分野では、爆発的な利益を生み出すことはあまりありませんし、人件費などのコストはアジア諸国と比較すると格段に高いですが、安定収益を見据え、他国へ参入する前の試金石的な要素を踏まえての参入が多いのでしょう。
そこで必要になって来るのは企業の海外進出に柔軟に対応できる人材です。
今、日本では海外留学した人材や海外からの留学生を新卒で採用する企業が増えてきています。実際にユニクロさんやローソンさんでは日本への留学生を積極的に採用するという方針を打ち出していますし、日本国内での人材の国際競争も激しくなっています。
厳しい面もありますが、一方では、日本に居ながらにして国際競争に揉まれる事が出来るというプラスの面もありますね。
また、実際にこちらに居て実感するのが、企業の海外進出に伴い、国際的な感覚をお持ちの方も多くなってきている気がします。過去に多くの駐在経験があったり、山口さんの様にお生まれが海外だったりと。
ですが、日本生まれの日本育ちという、コテコテの日本人がポンッと出てくる事はまだまだ少ない気がしますので、今後はそういった社員を如何に海外に送り出すのかがテーマかもしれません。
山口) 国際部門を担当する機会を得た人は、その後も海外中心となるようですね。
楠本) そうですね。今のところ、海外駐在を経験した人が、また他の地域での駐在をこなしていくという、いわゆる「海外畑」のケースが多い気がします。
ただ、このままだと後任が育ち難いので、展開が難しいでしょうね。日本生まれで英語はあくまで第二言語という人たちを如何に育てるかというのが、人材育成のテーマという気がします。
そういう意味では、今の日本の大学生はとても可能性を秘めていますね。在学中にTOEIC 900点を取得されている方も多いですし。
山口) 海外志望の方はその位取得されている方も多いようですね。実際にコミュニケーションを取る場面になると、それ位のスコアがないと難しいという面もあるのかもしれません。それだけ語学堪能な人材が増えているのですから、企業も海外へ送り出せるポストを増やしていかなければならないでしょうね。でないと受け皿が無くなってしまいますから。
楠本) 会社内の人事面のインフラ整備が必要になってきますね。何処にどういった人材を配置して、その人材をどのように社内で育てていくのか、それに対応できる組織や制度を創りあげることが、今後5年、10年の企業のテーマでしょう。海外から日本へ戻った際にポストが無ければ、他の外資企業に人材を取られてしまうケースも発生してしまいます。
山口) 駐在員帰国後の担当職務/役割が大事ですよね。海外での経験が活かせる様な職場であればいいのですが、全く畑違いになってしまうと帰国後の転職や現地企業への転職などに発展してしまうケースも多いのではないでしょうか。企業として、受け皿を増やしていかないと厳しいと思います。
-アジアでの人材育成
山口) 偉そうないい方で恐縮ですが、香港やシンガポールを中心とするアジアでは優秀な方が多く驚かされました。アジアは本当に人材が豊富ですね。
楠本) オーストラリアに来ているアジア系人材の方には、中国語、英語、プラス日本語、更に韓国語も喋ることが出来るという人が少なくありません。
実務経験や能力に加えて、高い言語力も持っているんですね。ものすごく優秀です。
こういう人材のなかには日系企業で働きたいという方も多いのですが、実際にスタッフのほぼ全員が中国系バックグラウンドという企業もあるぐらいです。
現在、永住権の取得が難しくなっているので、オーストラリアへ留学中の日本人学生の次なる目的地として、シンガポールや香港があります。
企業数が多い事もありますが、日本人の現地採用が積極的に受け入れられており、シンガポールや香港で海外経験を積んで日本へ帰国される方の中には優秀な方が数多くいます。
山口) そういった方達は、日本での就職は中途採用ということになるのでしょうか?
楠本) 基本的には中途採用という形ですね。
ここにもう1つ日本の特徴があるのですが、日本の場合は新卒での就職活動時が最も選択肢が多いんです。その後に関しては、たとえ色々な経験を積んだ人材でも、その人たちを受け入れる土壌が、まだ企業内にも日本そのものにも整っていないのかなと思います。
ワーキングホリデーを例に挙げると、10人のうち8人は遊んで過ごしたとしても、残りの2人はムチャクチャ頑張るんです。本当にものすごい頑張るんですよ。その2人を受け入れる体制が日本にも企業にも出来れば、ワーキングホリデーの印象自体も大きく変わるでしょうね。
-国内志向と言われる世代
山口) オーストラリアにこられている留学生の数は少なくなっているのでしょうか?その分少数精鋭というイメージですが。
楠本) 留学生の数自体は、実はそれ程の変化はありません。それに私達の世代と比べると格段に増えていますね。
山口) よく海外志向だと言われる世代は、実際にはその方達より少し上の世代を指している様に思います。今の新入社員の世代はまた少し違うような印象を受けます。
楠本) 世間では国内志向と言われていますね。海外志向の人と国内志向の人と2極化が進み、その真ん中が希薄になってきている感じです。海外留学の経験がある人は抵抗が無いからか、どちらかと言えば、海外志向が強いんです。一方で一度も海外に出ていない人は圧倒的に国内志向が強いようです。その辺りの影響もあるでしょうね。
-日本人の強み
楠本) 日本人はお隣の中国、韓国、台湾と比べ、ハングリー精神や積極性という部分では大分遅れを取っているかもしれませんが、スマートさでは負けていないと思います。
山口) 特にスピードと、正確性が優れている部分でしょうか。
楠本) こちらで企業に人材を紹介する際に、日本人を経理や総務、秘書と言ったバックオフィスへ配置することを強く薦めています。ローカルの企業にも、日本人もしくはアジア系の人材を要のポジションに置いてもらえると、組織が締まって、より効率的になると思うんですけどね。
山口) オージーの方達は、よく休暇を取られますか?
楠本) こちらは年間20日間の有給休暇と10日間の病欠休暇があるので、年間30日、1ヶ月分はしっかりと休みます。聞いた話では、有給以上の休みを取って、給料が引かれてもいいじゃないかと言う方もいるみたいです。。。日本人ではまず有り得ない発想ですね。(笑)
山口) そうですね(笑)。
羨ましい限りです。良し悪しではなく、その環境で仕事が回るのであれば充分ですし、逆に我々が吸収したい部分もありますね。
楠本) 日本では1人抜けたとしても組織として回っていきますが、こちらの企業は少しネックがありまして、引継ぎがきちんと出来ていないんですね。1人が抜けるとそのまま業務に支障が出てしまいます。その辺りが改善されるのであれば、オーストラリアのシステムは非常に良いと言えるのかもしれません。
日本人はどちらかと言うと組織で闘っているという意識が強く、責任感もとても強いので、世界中の何処に行っても役割を果たせると思います。「途中で投げ出さない」これは日本人の強みではないでしょうか。
-GO豪メルボルンからお2人へ質問
仕事へのこだわりを教えて下さい。
山口) 常に自社製品について語る様にしています。何故スーパードライでなければならないのかという部分は重要です。我々の製品は所謂コモディティーですので、代替品はいくらでもあります。結果、製品そのものではなく値引きや条件だとかの話に終始してしまうこともしばしばです。でもだからこそやはりメーカーとして商品を語る必要があると感じております。
仕事の進め方の面では、常にスピードや期限(なにをいつまでに)を意識しています。走りながら考えるというか、これが無いとあっという間に時間だけ過ぎてしまい結局何も残さないということになりかねません。在職の間に出来ることは何でもやろうと考えております。
楠本) 日系企業が主なお客様なので、私が日本人の視点で人材を選考することが大きな武器だと思います。この軸がブレてしまうと人材を見る感覚も変わってしまうので、日本人の視点だけは失くさない様に心掛けています。
また、自分の担っている仕事の意味を時々考えるのですが、日本人でもオーストラリア人の候補者でも良いんですが、SSAを経由してどこかのポジションに人材が決まる、その1つ1つの積み重ねが、後に続く日本人の就職先を増やすことが出来ると思っています。それが、こちらに留学に来て、その後に「就職をしたい」となった時の選択肢を1つでも増やす事に繋がるのかなと。微々たるところで、日本の国際化に貢献してるつもりです。(笑)
あとは山口さんが仰るように、ローカルの競合相手と仕事がバッティングした際、絶対に負けちゃいけないのがスピードです。そこに正確性を加え、この2つが日本人の武器だと思います。アウェイの環境で結果を残す為には、オージーと同じやり方をしていたのでは勝負にならないですから。
リフレッシュの方法は?
山口) 年に一度は出来れば海外に家族旅行に出るようにしています。日々の仕事の中では移動が多いので、主に読書です。実は読書は苦手だったのですが、4,5年前からジャンルを問わず良く読むようになりました。
楠本) こちらに来てから始めたサーフィンです。日本では一度もやったことなかったんですけど、レンタルもせずにいきなりTorquayでウェットスーツとボードを言われるままに買って、逃げられないように自分を追い込んで始めたんです。それからは、毎週末、海でリフレッシュしています。
最高ですよ、サーフィンは。
Staff Solutions Australia × GO豪メルボルン特別企画 「対談」
完
激務の合間を縫い、本企画に時間を割いて下さったAsahi Breweries LTD の山口氏、Staff Solutions Australiaの楠本氏にまずはお礼を申し上げます。
世代毎の海外進出への解釈の違いや、企業と被雇用者、双方向からの考察はとても興味深く、またお二人の実経験から齎される臨場感に富んだお話しから現代の日本の流れ、その本流に触れさせて頂いた様な心持ちです。
日本人としての立ち位置、これから取り組むべき課題などが浮き彫りになったこの「対談」が、読者一人ひとりの課題へ向かい前進する糧となる様願ってやみません。
聞き手:長谷川 潤、武内 奈苗(Tryber:GO豪メルボルン)
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