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食物思考~Thought for Food~(6) イカ編

 ある時、巻き寿司にかぶりついたはいいけれど、嚥下を拒まれたモノが逆流してきたことがあります。私の喉元の関所を通過できなかった食物、それは生イカです。というわけで、私の嫌いな食物について、あらかじめ食わず嫌いではないということを強調してみました。

 そもそもイカというやつは、漢字で書くと「烏賊」なんて、字面からしていけ好かないのです。「カラス」もあまり好印象ではございませんが、「ゾク」ときたら、盗賊だとか賊殺だとか、ほんっとロクな使い途がありゃしません。それに、あの容姿でインクを撒き散らすのでございましょう?モンスターフィッシュと呼ばれたところで、同情の念も湧きませぬ。



 悲しいことに、私にはこの気持ちを分かち合える友がいません。それどころか、人々は「あのコリコリっとした歯触りがたまらないのよ。」とさえおっしゃるのです。ガイジンさんの知人も皆、口をそろえて「イカ、デリシャスヨ。」って。モンスターフィッシュなどと言ったのは日本人じゃないのに、なぜだ。話す相手が悪いのか、さもなくばイカ好きな人と縁があるのかも、私。

 そうして、理解してくれる人がいないために、イカに対する私の憎しみは、とうとうあらぬ方向へと進んで行くのです。私は、毎日の食卓のために市場に出かけてイカを見るのならば、すぐに目を逸らしてしまいますが、実は、私の食物でなければ嬉々としてイカを求める場合があります。と言っても、家族や友人にイカをごちそうする場合という意味ではないのです。人間の食物ではなく、魚の食物であれば生イカもとても美味しそうだなあ、と。どでかいスナッパー(鯛の一種)を釣り上げるには、ピチピチ新鮮なイカ!アングラーとしての私は、エサを探し求める時、魚の気分でイカを見ています。あまつさえ、ヨダレが垂れてくるほどに。それはまるで、自分が生き延びるため、欲を満たすために、憎む相手を生贄として捧げるようなものではありませんか。ああ、恐ろしい。負の感情を溜め込むのはいけませんよ。

 ところで、イカを干したものを「スルメ」と呼びますね。これは私の憎しみの対象外となります。イカ嫌いをのたまったあげく、どうかと思う発言ですが、私はスルメが大好きです。たまに、お刺身は食べれなくても焼き魚は大丈夫、という人と遭遇しますが、同じようなものでございます。呼称が違う以上、きっと異なる食物なの、と理解していただければこれ幸いなり。私はタコも嫌いなので、軟体動物がだめなのかしら。女性の3大好物、「いも・たこ・なんきん」のうちひとつを一蹴してしまうこの発言も、どうかと思われそうですが。ちなみに私の母はこのうち、いもとなんきんが嫌いでありますので、それに比べりゃましだろうと言わせてください。

 生のイカを飲み込むことさえできない、という私の状態を一種のアレルギーではないかと疑う人もいます。けれども、スルメは放っておいたら止まらないくらいパクパクと食べてしまえるのです。この矛盾を思うに、嫌よ嫌よも好きのうち、心のどこかではイカを欲してやまない私がいて、ただ単に素直になれずにいる・・・なんてそんなわけはないか。

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私は、一日に一度は市場に行かなければ落ち着かないマーケットホリック。これは、そんな私と食物たちとの四方山話です。

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