最後のビール工場
メルボルンのビールのルーツを探る。
2010年8月8日掲載
CUB モルトハウス Malthouse Theatre
建築:1892年
建築家:John Becket
住所:113 Sturt Street, Southbank
CUBモルトハウスは、現在は、近代的な劇場、モルトハウスシアターとして使われている。
1800年代後半の英国から技術導入された当時としては最も近代的な醸造技術を持ったビール工場であった。
メルボルンで現存するのは、同じカールトンユナイテッドのVictoria Breweryなどいくつかあるが、設備なども残しているのはここだけ。
モルトハウス・シアターには、現在は、3つの劇場が入居している。
メルリン(Merlyn)劇場 500席
ベケット(Beckett)劇場 200席
タワー劇場 100席
メルボルンでも最も近代的かつ前衛的な劇場のひとつとして知られている。
CUB モルトハウスは、1892年にキャッスルメイン・ビール会社(Castlemaine Brewing Company)によってメルボルンに投資されたビール工場。
当時のサウスメルボルンは、沼地で人もほとんど住まない地域であった。
その地を買収して建築が進められたが、本格的なレンガ作りのビール工場であったため、基礎工事が当時としては本格的に行われた。
総工費12000ポンド(現在の価値に換算して約120億円)の巨費を投入して建設された。
キャッスルメインは、1851年に金が発見されたビクトリア州の有力なゴールドラッシュの街。
1870年代に金鉱山が枯渇した後、その資金力を活かして、ビール会社が作られた。
キャッスルメイン・ビール会社は、その後、カールトン、ビクトリア・ビール、フォスター、シャムロック、McCrackenなどと合併して、CUB(Carlton & United) Breweriesを形成している。
基礎工事は、深さ1.7m 幅3mの溝が、敷地全体に掘られた。
電気や重機が無い時代であり、全て人力によってなされた。
溝の上に27,500平米の材木が張りめぐらされ、浮遊基礎とされた。
材木は、半分に分割されており、それぞれが組み合わせれる構造となっている。
レンガ構造は、それぞれのサイドに5層構造となって積み上げられた。
ビール醸造用の窯は、建物の両サイドに設けられた。
オリジナルの窯の大きさは、54feet x 26feetであった。
それぞれの窯には、更に3つの特殊なバレル炉が付随する本格的なものであった。
このふたつのキルンは、石炭コークスを燃料とするものであったが、戦争中は、木材が燃料として使われた。
ビール工場で使われる動力は、電力が無い時代であり、4頭の馬であった。
ビール窯からモルトや穀類を持ち上げたり、移動するのに使用された。
工場は、3階に分かれていた。
一番上は、ビール窯でキルンフロアと呼ばれていた。
他のふたつは、グローイングフロア(Growing floor)と呼ばれていた。
初期のビール生産能力は、2,500トンであったが、1934年には、3500トンに増加。
工場は、1975年に閉鎖されたが、そのころには、新型の空気式モルティング方式を採用していた。
1986年にモルトハウスは、カールトン・ユナイテッドから劇場用としてモナッシュ大学にに寄付された。
ベケット(Beckett)劇場 200席
手前側にも観客席があり、かなり複雑な構造になっている。
モルトハウス劇場は、プリンセス橋を越え、メルボルン芸術大学の先の通りを左側に降りて行った先の場所にある。
建築後、120年を経てまったく違う用途に使われているが、オリジナルの堅牢さは今も活かされている。
モルトハウス・シアター
Phone: +61 3 9685 5111
撮影データ Canon EOS 5D MarkⅡ絞り優先AE 評価測光 絞りF4.5 1/1000秒 ISO感度 100 露出補正 AWB JPG レンズ EF 24-70mm f/2.8L USM
撮影:板屋雅博