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Batari 和太鼓奏者 丹羽 基之さん インタビュー

和太鼓、そして人生の神髄をたっぷりと

2008年9月12日掲載

 

【プロフィール】
丹羽 基之 Motoyuki Niwa
神奈川県横浜市出身。太鼓歴37年。15年前に来豪。日本にいたころから和太鼓奏者としての活動を始め、現在はサンシャイン・コースト(Sunshine Coast)を拠点に活躍。オーストラリア以外にもイタリア、スペイン、アイルランドなどで公演を行う。Batariの演奏では太鼓以外に銅鑼や鐘も担当。笛奏者と2人でステージをこなす。All Australian WADAIKO Festivalでもパフォーマンスを披露。


インタビュアー:長谷川 潤、大喜多 良美

 

 

--今回のAll Australian WADAIKO Festivalはどういったイベントですか?

オーストラリアで初めて開催される和太鼓フェスティバルで、竜胆太鼓の坂本さんの尽力で実現の運びとなりました。オーストラリアには和太鼓の集団が15ほどありますが、今回初めて13グループが一堂に会し、ワークショップなどを通して互いの親睦を深め合うものです。個々のグループの性格の違いも様々で、みんなの太鼓に対する熱気や想いが伝わってきて、参加してとても良かったと感じています。

 

--今回のフェスティバルの手ごたえはいかかですか?

今回は50人の和太鼓奏者が集まっています。これだけ太鼓が揃うと音は凄いですね。様々な太鼓ワークショップも3日間開催され、みんなと太鼓三昧のひと時を過ごすことができたので非常に楽しいです。Batariはすべてが即興演奏ですので、他のグループのように振付やフォーメーションを練習して仕上げていって演奏するというよりは、太鼓2つあるいは1つに笛とのからみで、どちらかというと即興ジャズのような形で演奏しています。いろんな形があって面白いですね。
オーストラリアと日本の間には、過去に歴史的・政治的な事情が色々とありましたが、しかしそのようなことには関係ないところで日本の文化・芸術を深く愛し、その本質に触れたいと考えている人たちはたくさんいるのです。そういった人たちのためにも、行政レベルではない、このような形で交流が広がっていくことは非常に喜ばしいと思います。今回のイベントにも若者や子供たちがたくさん出演していますが、今後、彼らがどのようにして太鼓の面白さを受け継いで、さらに未来に向かって橋渡ししていけるのかが課題ですね。私自身、オーストラリアの太鼓活動の200年後が楽しみです。
私が太鼓を持ってきたのは太鼓に「旅」をさせたいと考えたからです。日本の太鼓のスタイルや遣り方を伝えるのでなく、太鼓が海を渡って異なる風土・環境のなかでいろんな人たちに出会い、その中から新しい音が生み出されていく。オーストラリアの太鼓チームは全く異なった自然環境で育ってきているから、日本の太鼓の様式を真似するのでなければ、全く違う太鼓の音が生まれるはずです。そのオリジナルなものをいつか日本に持って帰って、太鼓からこんな音も出るのだ、こういう楽しみ方もあるのだ、ということを知ってもらうのが夢ですね。

 

--和太鼓との出会いのきっかけは何ですか?

伊勢佐木町は伊勢山皇太神宮の氏子で、毎年の祭礼には子供が引く山車の大太鼓が各町内から50基くらい集合するんです。その時は高校生でしたが、私はそれまで誰かが太鼓を叩いている姿を観たことが一度も無いんです。太鼓は触ってはいけなかった。つまり楽器ではなかったんです。それで各町内を順に廻り、太鼓を叩かしてもらえるかどうか頼みこんで叩きだしたのが始まりです。やがて横浜各地の神社や寺などから祭礼や大晦日に太鼓奉納を公式に依頼されるようになりました。

 

--オーストラリアでの活動はどのようなことをされていますか?

オーストラリアでは文化・芸術コンサルタントをしています。日本の伝統文化を紹介する意味で、都市部・遠隔地の学校、コミュニティ・フェスティバル、コミュニティ・プロジェクトなどでのドラムアンサンブルの立ち上げ、太鼓ワークショップと模範演奏を行なっています。またクイーンズランド各地の美術館、地方自治体や企業イベント、コンフェレンスなどにも儀式という形で太鼓演奏します。自主企画でアボリジニのディジュリドゥ奏者やダンサーなどと作品を製作することもあります。オーストラリアには、様々な国からやってきた楽器演奏者やダンサーがいますから、そういった人たちとの長期のコラボレーションも行なっています。

 

--和太鼓とアボリジニのディジュリドゥ(※)との共通点は何ですか?

それは振動と音の響きですね。耳から聞こえる音と、からだで感じる振動の両方です。日本人の感覚には和太鼓の音を聞くことで心を清めるということがありますが、アボリジニもディジュリドゥを使って様々な儀式を行ないます。そのなかには、横になった人の周りを複数のディジュリドゥが取囲んで延々と演奏をするものがあります。私は未だ経験してはいませんが物凄い感覚でしょう。太鼓は神社や寺では特別な儀式にしか打たれませんし、ディジュリドゥはアボリジニにとっては特別に神聖なものなので、そういうことからも関連する要素がいくつかあると思います。

 

--演奏活動を通して、オーストラリア人の反応はどう感じられていますか?

彼らの反応はかなりダイレクトですね。太鼓の音を聞いて踊り出す人もいます。全く違った日本の文化や要素に触れてエンジョイしているようです。お寿司を食べるような感覚で楽しんでいるのではないでしょうか? そういう意味でも、オーストラリアで日本文化を様々な形で触れられる機会が増えているのではないでしょうか。特に自分の家族や友達が太鼓をやっていたらなおさら親密感が生まれるでしょう。

 

--現在日本でも公演はされていますか?

まだ日本には演奏に行っていません。毎年7、8月はヨーロッパに出ていて、イタリアで公演することが多いですね。今年はスペインでもやりました。やっぱり向こうの方々も太鼓が好きみたいですよ。ヨガや武道を勉強している人などを対象に太鼓のワークショップをするのですが、たとえば「丹田」とか「腹」とかいうような概念がありますが、彼らが自分で学んでいることを、太鼓を通して再確認できるようなものとして紹介しています。頭で知っていることと体現できることは違いますからね。本当に判っているかどうかは、やはりそれは叩かせてみると判ります。

 

 

--丹羽さんにとって和太鼓の魅力とは何ですか?

西洋人にとっては、パフォーミング・アーツとしてのスペクタクルな振付や激しい動きなどが目に留まりやすいのかもしれませんが、私自身は「音」そのものに注目しています。「音圧」ですね。太鼓の音には祈りがある。撥先からは轟の鳴るような音から、非常に静かな音まで随意に現すことができます。たとえば、歌舞伎では聞こえないはずの雪の音を太鼓で表現します。私の場合は音楽をその場の感興に応じて作って、観ている人がその音から自分の心のなかに風景を思い浮かべてもらうことを望んでいます。

 

--今回のフェスティバルには日本人以外の奏者もたくさんいらっしゃいますね?

和太鼓を好きな方はいっぱいいます。彼らの中には「自分が日本に生まれていればよかったのに」と思う人もたくさんいるのではないでしょうか。私のオージーの生徒たちも、日本へ行って太鼓や各地の祭りを肌で体験したいという者が多くあります。

 

--丹羽さんにとって人生においての「和太鼓」とは何ですか?

芸術というのは「生きるための技術」だと思うのです。一概にアート、アーティストといっても、それはスペシャリストでも何ではなくて普通の人だと思うんですね。太鼓は死ぬまで一生続けられるものなので、これから先の将来、太鼓とどのように付きあっていくか。ヨガのように毎日できるものとして、自分の身体と心のバランスを取る訓練のための道具として続けていきたいです。それはメディテーションのようなものです。

 

--体力維持のために何かされていますか?

人によっては山歩きや、マラソンをされている方もいらっしゃるようです。私の場合は牧場に住んでいますので、毎日やることが際限なくあって、とにかく動かないといけない。普段の生活そのものが体力維持に役立っています。

 

--演奏前に必ずされることはありますか?

気持ちの調整は2分あれば大丈夫です。こういうのは訓練ですからね。太鼓を叩くのに緊張することはほとんどないです。演奏は即興ですので、私は何も考えずにその場の感じで音楽を作っていきます。私の場合は、決まった曲を練習したとしても演奏する場の雰囲気、つまりその場の会場や観客によって内容はかなり変化します。つまり全く同じように演奏するのは不可能ですから、私はあえてそういうことはせずに毎回異なった試みをするようにしてます。リハーサルもほとんどしませんから、本番一回きりの面白さに賭けています。同じものは二度と演奏したくないです。

 

--若い方へのメッセージをお願いします。

どんどんいろんなことに挑戦して、失敗してください。そこで初めて何がいけなかったのか、自分に何が足りないのかが判ります。そういったことを通して学ばないと物事は本当には分かりません。今は物事をすべて情報で得ようとすることが多いですね。知識としては良いと思いますが、それは知恵とは違います。知恵は経験からしか生まれませんから。とにかくいろんなことをやってみて、挫けて、もがいて、泥沼の中から這い上がって、そこで何か本当の自分のものを見つけてください。


Batari Homepage
URL: http://www.mufarm.net/Taiko

※ディジュリドゥ(Didjeridu)
ユーカリの木から作られる管楽器で、世界最古の楽器の一つとも言われている。昔からオーストラリア先住民族アボリジニが儀式(精霊と交信するための祭儀)で使用していた。一般にディジュリドゥは男性の楽器とされ、部族によっては女性が触れないこともある。

WADAIKO Festival コンサートでの丹羽氏の演奏

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