interview
日本人ソサエティ

松永一義総領事インタビュー

ITを駆使し、人情の機微と実務に長じる親しみやすい行動派

2017年6月5日掲載

 

赴任されて2週間弱の5月21日、大多数の人にとってお披露目となった Japan Festival 2017 での挨拶。

優しげな風貌とノリの良さとで観客を魅きつけた新総領事は、ITを専門とし、人の機微と実務に通じる親しみやすい行動派だった。

 

松永 一義(まつなが かずよし)総領事

【学  歴】
1985 慶應義塾大学理工学部卒業(管理工学専攻)
1992 マサチューセッツ工科大学大学院修士課程卒業

【職  歴】
1986 外務省入省
2007 領事局外国人課長
2009 在タイ日本国大使館参事官
2012 在タンザニア日本国大使館公使
2015 大臣官房情報通信課長
2016 大臣官房サイバーセキュリティ・情報化参事官(危機管理担当)兼領事局参事官
2017 現職

 

― 外交官になろうとした経緯をお話いただけませんか?

(タブレットを取り出して) 紙芝居を作っておきました。

海外に興味を持ったのは5歳の時です。初めて異国の方を見ました。
      ・ 肌の色が違う。
      ・ 日本語が通じない。
      ・ 遠くから来たことがわかる。
「こんな世界があるんだ」と感じて、いつか海外へ行ってみたいと思いました。

そして高校2年の時、ハワイのプナホウ高校に夏季交換留学しました。丁度オバマ前大統領がその高校を卒業した年でsしたので、どこかでお会いしていたかも知れませんね。 40日の滞在でしたが、初めての海外ということもあり、英語で苦労しました。

留学から帰国した後、タイプライターの上に布を被せて、ビートルズの曲を聞きながらブラインドタッチで歌詞を打つ練習をしました。

その35年後、タンザニアで勤務していた時、職業訓練校のコンピュータ授業を視察する機会がありました。あちらではパソコンが高価で古いタイプライターを代用していました。そこで、この布を被せてのブラインドタッチを披露したのですが、大好評でしたね。

大学は、理系の分野にも関心があったため 慶応大学の理工学部に入りました。就職では、親が公務員だったことも影響し公務員試験を受けました。様々な省庁の面接を受ける中で、
      ・ 海外に行ける
      ・ IT関連の仕事ができる
これらを通じて社会貢献ができると考えて、外務省に入省しました。

 

― 理系のバックグランドは、外務省での役職でどのように役立ってきたでしょうか? 

外務省は実は多様な人材を採用しています。
私のようなITの専門家、海洋や漁業の交渉をする漁業の専門家、大使館や総領事館を建設する建築家とか、医者とか。 とはいいながらも、そのような専門家は外務省の中ではマイノリティーです。

多文化で多様性を重視しマイノリティーの存在も大切にするということで外務省とビクトリア州とは似ていますね。
ビクトリア州が様々なマイノリティーによる多文化のイベントを支援しているように、外務省においてもマイノリティーのIT専門家の提案を尊重してくれたお陰で、これまで外務省内のLANの整備、経理業務の合理化、コンピュータ2000年問題対策、ビザの申請・受付業務のアウトソーシングなどに取り組むことが出来ました。

私が直近まで担当していたサイバーセキュリティも専門性が問われる分野です。外務省は省内のシステムをサイバー攻撃から守る以外に、サイバー空間の安全を確保するために各国と連携しながら国際的な議論を主導する役割も期待されています。

これから日本は、2020年のオリンピック・パラリンピックに向けて、国・自治体・幅広い民間関係者が一体となって、サイバーセキュリティ対策を更に強化しなければなりません。

ですが、サイバー攻撃を恐れる余りSecurity Firstとなってはいけません。
現在日本が直面している様々な社会的課題の解決のため、ITによるイノベーションは不可欠です。スマホで利用可能な革新的サービスが次々に提供され、スマホなしの生活は考えられないでしょう。
インターネット時代の今はInnovation Firstです。

セキュリティはあくまでもイノベーションをサポートするものであって、イノベーションをストップさせてはいけないのです。


―メルボルンへは初めていらっしゃったのですか?

オーストラリア自体が初めてです。

小学生の時に世界の短波放送をラジオで聞くBCL(Broadcast Listener)がブームとなりました。ラジオ・オーストラリアの冒頭に流れるワライカワセミの鳴き声を聞いたのがオーストラリアとの出会いです。 中学生の時にはオリビア・ニュートン・ジョンを良く聞いていました。 初めてのオーストラリアン・フットボールの観戦の際に会場だったMCGで彼女のジョリーンが演奏されていたのを聞いて、メルボルンに来たんだなと、実感しました。 

 

―メルボルンの印象は?

世界で一番住みやすい都市ということを、来て10日で実感しました。

Clean, Convenient,  Comfortable の3Cと言えばいいのでしょうか。

      ・ 街並みがヨーロッパの雰囲気できれい (Clean)
      ・ 多様な施設が近接していて、しかもトラムで結ばれていて便利 (Convenient)
      ・ 人々がフレンドリーで親切 (Comfortable)

 

―今までの赴任先で特に印象深かった事はおありですか?

タイでは、ITを活用して在留邦人の皆様からの要望に迅速に対応し、きめ細かな情報提供サービスを実現しました。

2011年の洪水の時、洪水関連情報を分かり易く迅速に提供するために、
 ・ 「〇〇通りの浸水状況は何センチ」という情報をTwitterで提供しました。
 ・ また、〇〇通りの場所が地図上で確認できるようGoogle Mapと連携する仕組みも取り入れました。
 ・ 更に邦人の皆様から「洪水の状況を数値ではなく視覚で分かるようにして欲しい」との要望を受けて、浸水状況の写真を地図上に展開するサービスも行いました。
 ・ しかし、大使館限りで毎日撮影できる写真の枚数には限界があるので、邦人の皆様にも写真撮影の協力をお願いしました。
 ・ 大使館での編集の事務負担も軽減するため、電子メールで皆様から送られた写真を自動的に地図上に展開できるように工夫しました。
その結果、毎日200枚もの写真が集まり、地図上で洪水の最新情報をビジュアルに提供することが可能となりました。

この情報提供サービスは無料のソーシャルメディアを活用したからこそ実現できたものでした。予算はゼロ、しかもたった2日間で出来ました。
予算要求をしてシステムを構築するという従来のお役所の仕事の発想では、この洪水対応は出来ませんでした。
このサービスを始めるにあたっては、不適切な写真を投稿されたり、大きな画像ファイルを大量に送り付けられサービスを停止させられるようなセキュリティ上のリスクも想定されました。
しかし、もしこれらのリスクを恐れる余りSecurity Firstであったら、このサービスは提供できなかったでしょう。
リスクを想定しつつInnovation Firstの重要性を認識できた事例でした。

タンザニアでは、大使館として公開情報の中から日本にとって有益と思われるビジネス情報を翻訳し、本省に報告するという作業を毎日行っていました。しかし、日本の企業にとってビジネスチャンスが多数転がっているにも拘わらず、多くの企業がタンザニアの情報に接する機会が少ないと考え、本省へ報告するのみに留まらず、Facebookでもタンザニアのビジネスに関する情報を投稿しました。
情報は一部で共有するのではなく、幅広く共有することで更なる価値が創出されるとの発想です。

 

―メルボルン総領事館の役職して、今後取り組んでいきたい事は?

在留邦人の皆様が安全で安心して活動できるように支援することが最も重要な使命と考えています。
その中でも組織の支えのない留学生・ワーキングホリデーの若い方たちへのアウトリーチが課題と考えています。若い方の多くは電子メールでなくソーシャルメディアで情報のやりとりやニュースの入手を行っていると聞きます。総領事館としても積極的に最新のソーシャルメディアを利用して、情報提供をしていきたいと考えています。

ソーシャルメディアの活用に加え、提供する情報の内容もより分かり易いように見直していきます。外務省は、3月よりゴルゴ13の漫画を使っての安全対策の提供を開始しており、より多くの方に周知したいと考えています。

また、親日家を増やし、日本の優れた名産品、特に地方の伝統工芸品や食文化をアピールし、ビジネスにも繋げてゆきたいです。
そのためには人物交流を促進することが有効ですが、飛行機の移動に10時間以上を要し経費もかかります。しかし、幸いオーストラリアと日本は時差がほとんどありませんので、インターネットを活用したテレビ電話で人と人とを結び付けるきっかけ作りをしたいと考えています。
例えば、公邸でオーストラリアの方に日本酒を飲んでもらいながら、テレビ電話を通じてその日本酒の酒蔵の職人の方と意見交換をしてもらう。職人の方に日本酒造りにかける思いや丹精込めた製造方法を語ってもらい、また、オーストラリアの方にこの日本酒がどのような料理に合うか感想を言ってもらう。
このような作り手と消費者との対話をテレビ電話を通じて行い、次の物理的な人事交流につなげ、最終的には地方のビジネスのグローバル化に結び付けられれば面白いと考えています。

 

―個人的な興味としてメルボルン滞在中に楽しみたいことは何ですか?

写真撮影が趣味でして、タンザニアでは3年で30,000枚ほど撮影しました。

シドニーと言えばオペラハウスとすぐに思い浮かびますが、メルボルンと言うと、世界一住みやすい都市とは知っていても、象徴的な風景がすぐに思い浮かばない日本人の方が多いのではないでしょうか。メルボルンの魅力をビジュアルで紹介したいと思っています。

また、こちらではスポーツが社交のためにも、また、家族を繋げる絆としても重要な位置を占めていることを実感しています。
テニスが趣味ですがゴルフもやりたいですし、クリケットもルールを覚えて、スポーツを通じてこちらの人との交流の幅を広げたいですね。

 

―今後の日豪関係は、どういったことを大切にすべきでしょうか?

両国の関係は、経済だけでなく、文化、安全保障など様々な分野に広がっている他、食文化では高級料理店で出される和牛から一般家庭にも広く浸透している寿司やお酒まで縦にも深化しています。
しかし、まだまだ関係を強化できる可能性があると考えています。
その際に、日本とオーストラリアが様々な点で対極にあることを理解することが大切です。例えば、季節、面積、人口、人口の増加率、歴史の長さ、民族の多様性など対極の関係にあります。この対極にある関係を前向きに捉えることで、更に学ぶべき点やビジネスチャンスとなる分野も多くあると考えます。

特に民族の多様性については、人口減少が続く中でグローバル化に直面している日本にとって重要な課題です。外国人居住者が増大する自治体における行政サービスの在り方、多民族の従業員で構成される職場のマネージメント、多民族の視聴者を対象とした観光広報戦略作りなどオーストラリアから学ぶべきことは多いと思います。

 

―メルボルンに暮らす日本人の方へのメッセージをお願いします。

とりわけ留学生・ワーキングホリデーの若い人達に。

若い時に海外を訪問したり、海外で生活をするという経験は、皆さん自身にとっても日本という国にとっても財産だということを認識して頂きたいと思います。資源の乏しい日本は、外国との良好な関係を抜きにして成長していくことは出来ません。

皆さん一人一人が、多くのオーストラリア人と知り合い、仲良くなり、日本とオーストラリアの懸け橋として活躍して頂く。この草の根レベルの良好な関係の積み重ねが国と国との関係を発展させる鍵となります。

総領事館では、皆様が安全に安心して活躍できるように支援していきます。

 

  

松永総領事、ありがとうございました!

文:矢部勝義
 

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