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TOYOTA AUSTRALIA 安田社長 インタビュー

読み応え満載、渾身の60分

 

【プロフィール】
安田 政秀 Masahide Yasuda
トヨタ自動車オーストラリア(株)代表取締役社長、President, Chief Executive Officer
フランス(パリ)駐在3年半後、2007年7月からトヨタ自動車オーストラリア(株)社長就任。

【入社後の赴任先】
1972年入社。生産管理部門で数年間、勤務の後、海外事業関係に転属。
ベルギー(ブリュッセル)では購買関係にて滞在。その後1985年より販売部門に進む。
アメリカ(ロサンゼルス)駐在、フランス(パリ)駐在を経てオーストラリア(メルボルン)へ赴任。

インタビュアー:長谷川 潤
 

--オーストラリアの印象

フランス人が最初はとっつきにくく、その後人情味が出てくるのに対し、オーストラリア人は初対面からフレンドリーでとても親しみやすいと感じました。


--オーストラリアと他国のマーケティングの仕組みの違い

マーケットは各国で違いますが、オーストラリアのマーケットは様々なものが大きいため、大きいものに憧れる傾向にあると感じました。もちろん環境にやさしいものにシフトしてきていますが、アメリカに比べると数年遅れているようです。またヨーロッパはコンパクトな車とディーゼル車が市場の大半を占めています。


--心がけていることやモットー

「職場では明るく、楽しく、元気よく」と言うことを部長に就任して以降、今日まで率先しています。これを実行していれば、難しい仕事でもいずれ結果がついてくるような気がします。また、どこへ行ってもなるべく笑顔で気さくに付き合うことを心がけ、実践しています。その結果、日本でも、アメリカでもフランスでも、次の仕事に向けて拠点を去るときには、それが評価されていたように思います。フランスでは特に印象が良かったですね。反対にオーストラリア人は根っから明るく元気な気質があるので、このモットーではあまり評価されないかもしれませんね(笑)。


--人生での大きな勝負・プロジェクトなど

神戸出身、愛知県育ちなのですが、名古屋で中学卒業直後、1965年から1972年まで一人でアメリカ留学に行きました。当時は15歳で、海外の現地の高校に入るのは稀でした。両親に頼み、海外で勉強できたことが人生の分かれ目だったと思います。7年間のアメリカ留学から帰国し、日本に帰ってトヨタ自動車に入社しましたが、正直田舎の大企業という印象で、今のようなマルチコーポレーションになるとは思っていませんでした。


--入社のきっかけ

留学先がデトロイトの近く(自動車産業が盛んな土地柄)だったので、海外で日本の車を、そして自動車大国のアメリカで日本車を是非走らせたいという強い思いがありました。また日本では当時、海外の高校や大学の卒業者を採用する会社が少なかったのですが、トヨタではそういった人材を探していたのでタイミングが良かったこともあります。まだまだ留学帰国者を採用する風習が稀だったので、海外の大学を出て日本の企業採用は難しかった時代でした。


--入社以降の苦労

7年間の留学期間はほとんど日本語に接する機会が無く、会社に入社したころの日本語はかなり怪しいものでした。最初はやはりこれで勤まるのかと落ち込んだときもありましたね。


--オーストラリアの市場の特徴・違い

自分のオーストラリアの印象と実際に感じたイメージの規模が違いました。以前は60万台から70万台ぐらいの販売台数であり、それが上限だと思っていましたが、昨年(2007年度)は初めて100万台突破しました。経済の成長よりも車の販売台数が伸びており、オーストラリアのマーケットがこれだけ急激に拡大したことに驚きました。
GMやフォードが大きなシェアを占めていると思っていましたが、トヨタがこの5年間はナンバー1の座についており、嬉しい驚きでした。(実際1-3月の売り上げがGMとフォードの台数を足したよりも上。)トヨタの販売力の強さ、成長に目を見張りました。そして、マーケットのトレンドとして大きな車から小さな車にシフトしている傾向にあり、オーストラリアも環境問題の意識が高まっています。
もうひとつ大きなマーケットの変化としては海外からのよい車が増えてきていることがあげられます。10年ほど前まではオーストラリアの国産車は高関税により守られていたことが大きいと思います。


--オーストラリアでの工場について

トヨタにとり海外で2番目に古い生産拠点がオーストラリアです。オーストラリアで学んだノウハウがその後のアメリカやヨーロッパへの進出に大変役に立っております。そういう歴史的な意味でもオーストラリアは大切な製造拠点です。恩があるとでもいいましょうか。
豪ドル高、人件費の高騰に加え、効率は日本に比べ低いという現実の中では、製造業にとって難しい環境になってきていますが、トヨタでは売れるところで車を作り、またいったん進出したら多少苦しくても簡単には撤退しないという企業理念があります。これがトヨタのカルチャーになっています。製造業が苦しい立場にある時代ですが、工場を閉鎖してしまえば、そこで働いている人々、家族に責任のある立場として、大変なことになります。そうならないためにも、マネージメントが創意工夫をしながらコストを下げる努力などしています。また政府から様々な基盤整理(税制など)のサポートもオーストラリアでは必要です。現時点でオーストラリア政府や、ヴィクトリア政府の協力を仰いでいるところです。


--トヨタ5年連続トップの強さの秘訣

徐々に伸びているので、いきなり伸びたわけではありません。車の品質を高めることに努力をし、万が一故障した場合も部品の供給など、購入後のサポートを充実させることを長年積み上げてきた結果、トヨタ車への信頼性が高まってきたと思います。
いまトヨタは信頼性だけでなく、感性への訴えかけ、若者に関してのデザイン性の向上を目指し、アメリカ、ヨーロッパを問わず多国籍のデザイナーが競争する環境を作っており、その結果グローバルに受け入れられるデザインが徐々に多くなってきていると思います。
車を購入する際は、大金を出して買うわけですから、誰でも簡単な決断ではないでしょう。トヨタの車も決して安くはないのですが、我々が常に意識していることは残価(中古車として売る場合の減価償却)が他社の車に対して高く維持することです。それを踏まえ、実際に計算すると高くない買い物だということがお客様に理解されていると思います。インターネットでもグローバルなニュースが飛び交うため、トヨタが世界的に伸びている事実を皆さんに理解してもらっていることも影響しています。


--将来的にトヨタ車はどう進化してゆくのか?

ガソリン価格と高騰と環境がキーワードで、それに対応できる車を日本で研究開発しています。トヨタはひとつの技術に資源、人材を集中させるのではなく、水素ガス、電気、ディーゼル、ハイブリッドなど様々な可能性を多方面から追求しており、その中で経済的にも技術的にも現実的なものをお客様に提供していく努力をしています。例えば、一番環境に良いのは電気自動車で排気ガスがゼロに近いものなのですが、カローラを電気自動車にすると一台あたり数千万円になってしまうため、まだお客様に対して売れる時期に達していません。バランスを見ながら時期にあった、いろいろな可能性を追求している中で、現在一番現実的な製品ではハイブリッド車です。経済的にも環境にも、また燃費にしても良いでしょう。ハイブリッド技術は電気自動車、ディーゼル、水素いずれにも応用できる技術ですから、将来に向けて現在開発に力を注いでいます。自動車のみでなく、製造過程でも工場をクリーンにし、節電、節水(リサイクルなど)に心がけ、環境に優しい会社を目指しています。


--マーケットとしても注目の国は?

伸びる国なら、資源国の中国、インド、ブラジル、ロシア。日本、オーストラリアは成熟した市場なので台数の伸びは期待できないかもしれません。アメリカは人口が増えているので伸びる可能性もありそうです。中国では特に各社こぞってシェアを占める競争をしています。インドは超低価格車(20~30万程度の価格)の製造で話題になっていますが、トヨタの技術で破格の車を製造しようとした場合、安全性、環境を考慮すると、いまの段階においては実現は難しいでしょう。


--これからの夢

30年以上会社に勤めてきた経験を生かし、オーストラリアで良い仕事をしたいと思います。最近の製造業におけるビジネス環境は大変難しくなってきています。その中できちんと工場を稼動させ、よい製品を作り地域経済や社会に貢献していきたい。最近策定した社内目標、プレジデントコールと呼んでいますが(ポスターにあるように)、それは、不具合・不良をゼロに、デスクのミスもゼロに、職場や職場を離れた場所での怪我をゼロにしようということを掲げています。言いかえれば品質と安全をゼロという数字で表現しているんです。1(ナンバーワン)にも理由があり、カスタマー・フォーカス・オーガニゼーション(顧客重視組織)にしたいし、従業員にも喜んで働いてもらえる体制にしたいという思いがこめられています。また、地域社会や外から見た場合も含め、ナンバーワン・レピュテーションを目指しています。最後の300は2012年までに30万台売り上げるという目標です。このポスターを作り、全従業員にも徹底し、毎朝コンピューターを立ち上げると画面にこの目標が出てきます。全員が毎日このポスターを見ることにより、数字という非常にシンプルなメッセージで2012年までに全員がこれに向かって各部でどういう貢献ができるかということを念頭に、ともに発展していってほしいと願っています。

 

--オーストラリアで様々なことを勉強している人々へのメッセージ

日本から来ている人も、志を持ってオーストラリアへ来ていると思いますが、来た際に上手くやれた人とやれない人(挫折した人など)がいると思います。壁にぶつかるときがいずれくるかもしれませんが、それが訪れたときには、最初に来たときの目的や理由を思い出してください。単に英語の上達を目標にしている人もあれば、何らかのエリアで勉強し将来に役立てたい人もいるでしょう。つまずいたときに初心を思い出し、もう一踏ん張りしてほしいと思います。長い目で見ると、その一踏ん張り(更なる努力)=エクストラ・エフォートによって、人生が変わってくるからです。スポーツの世界にもあるように「ここでやめたらそこまで」ですが、エクストラエ・エフォートをすれば何倍にもなって返ってくるでしょう。


--トヨタに入社したい人々へ

どんどん遠慮せずに、申し込んでください。同じ意見を持った社員が多いと、トヨタの社風を誤解しているようなことも聞いたことがあります。社内には様々な個性の強い人がたくさんいます。従って会議でも大変激しく議論がされます。しかし一旦決定したことに対する仕事の取り組みのスピードはものすごく早いです。ですから、最後の部分だけ見ていれば、トヨタは同じようなことをやり、同じようなことを言っているように見えるかもしれませんが、それに辿り着くまでの過程で、長時間、沢山の意見を戦い合わせ、議論をしているので、中身を見れば大変個性が強い人が多いんです。トヨタの人事にもそういった個性の強い人を必要としています。個性をアピールできる人がいれば、どんどん挑戦してほしいですね。


--(最後に・・・)社長のこだわり、アイテム

日本に置いてきた愛犬の写真を、PDAのスクリーン待ち受け画面にしています。ミニチュア・シュナイザーで元村山首相に似ていることから、じっちゃん(おじいちゃん)という名前をつけています。


--スポーツ

日本では野球や留学中はアメリカン・ラグビーもやっていました。AFL(オーストラリアン・ルールズ・フットボール)は分かりやすく、面白いと思います。シンプルで、オーストラリアらしいですね。ゴルフも週一回は健康管理を兼ねてプレイしています。

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