インタビューinterview

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在メルボルン日本国総領事 側嶋秀展氏 インタビュー

メルボルンの日本人コミュニティへ向けて、「発信」

2011年11月28日掲載

 

 

側嶋 秀展(そばしま ひでのぶ)総領事

 

【プロフィール】
昭和31年生  福岡県出身

1981年に東京大学法学部卒業後、外務省へ入省。

2002年外務省国際社会協力部地球環課長、2003年在ジュネーブ国際機関日本政府代表部公使、2007年に在フィリピン日本国大使館公使、翌年には在マニラ日本国総領事館総領事を兼任。外務副報道官を経て、2011年10月、在メルボルン日本国総領事に着任。

 

 

 

側嶋総領事: 冒頭にまず申し上げておきたいのですが、東日本大震災に際し、メルボルン及びビクトリア州在住の邦人の方々から多大なご支援を頂いた事に、日本政府を代表してお礼を申し上げます。


―メルボルンへは初めていらっしゃったのですか?

10月5日に赴任致しました。初めての訪問です。


―メルボルンの印象は?

美しい都市だなという印象でした。聳え立つ高層ビルもの合間には緑も豊かにあり、本当に綺麗な都市です。それに、オーストラリア、ビクトリアの人々は大変フレンドリーですね。またメルボルンでは邦人の方が多く活躍されていると知り、大変心強く思いました。


―合計で何カ国に赴任されたのですか?

研修も含めますと、今回が5カ国目となります。イギリス、ケニア、スイスのジュネーブ、フィリピン、そしてオーストラリアです。


―直近の海外勤務地であるフィリピン勤務時の感想をお聞かせ下さい。

次席公使とマニラ総領事を兼任しておりましたが、2009年に領事団長を務めた際には他国領事の方々との友好も深まりました。その事により、フィリピンを直撃した台風による洪水災害の際には領事団が音頭を取ってフィリピン赤十字への寄付金を募るなど、連携の取れた支援を行う事が出来ました。

 


―今までの赴任先で特に印象深かった事はおありですか?

ジュネーブで二回目の勤務についていた際のイラク出張です。2004年の1月から2006年の7月まで陸上自衛隊が復興支援活動を展開していた時期に、サマーワの外務省連絡事務所にて所長を務め、2005年の12月から2006年の7月まで1ヶ月毎に約1ヶ月間ずつ、計120日間勤務をしました。当時自衛隊は600人、外務省事務所員は5人居たのですが、そこで最後の外務省所長を務めたのです。
印象深い事は、サマーワからの撤収まで、自衛隊そして外務省の職員から一人も犠牲者が出なかった事、そしてイラク側にも一人の犠牲者を出さずに二年半の任務を終えられたという事です。この結果は運が良かった面も確かにありますが、単なる偶然では無く、努力に幸運も重なって達成できたものでした。
自衛隊は「手振り作戦」、「挨拶作戦」と称し、街なかを移動する際は住民の方へ「スラーマレコーン」と言いながら手を振り、挨拶をして回ったのです。イラクへ駐屯しているアメリカ、イギリスなどの軍隊の制服が灰色なのに対し、緑色の制服を纏った自衛隊員たちの笑顔が砂漠の国であるイラク住民の方達に届き、挨拶を欠かさないという受け入れられる為の努力をした事が、この人たちは我々の仲間であると現地の方に受け入れた要因の一つであるでしょう。
また、あまり知られていない事ですが、復興支援活動の際の自衛隊と外務省の連携(自衛隊は学校・病院等の補修・技術指導を、外務省は発電所や浄水施設等の建築・機材の供与をODA(政府開発援助)を通じて実施)、により更に上がった成果が住民の方達に評価され、日本人を守ろうという気持ちに繋がったのではないでしょうか。


―現在のイラクの情勢はどうなのでしょうか?

依然として治安の問題が継続しており、大分犠牲者も出ているようです。アメリカ兵が撤退し、イラク人自身が国造りに励んでいる努力が、いずれ軌道に乗るであろうと確信しておりますが、その努力が報われる日が一日も早く訪れるように願っております。

 

 

―今後、メルボルンで取り組んでいきたい事は?

こちらに来る直前は外務副報道官をしておりました。メディアの方とのお付き合い、特に担当していた外国プレスに対しての定例記者会見を通じ、「発信」が大事なことを実感しています。その経験を基に、総領事の立場から色々な発信をしていきたいと思っております。今後はホームページに様々な行事の案内や領事館活動の情報、日本人の皆様に参考になる情報を今まで以上に分かりやすく示して、「発信」を重視した勤務をしてゆきたいと思います。
また、ある有名刊行誌の評価で今年メルボルンが「世界で一番住み易い都市」に選ばれましたが、私自身でそのことを実感したいと思っています。例えばメルボルンは物価も高いですし、正直現時点では本当に「世界一」なのか実感が出来ていないので、もっともっと色々な行事に出てメルボルンという街を体験し、トラムの様な交通機関を自由に駆使出来る様になれば「世界一」を実感出来るかもしれないと思っており、そのようになる事を楽しみにしています。


―外務副報道官時代に「発信」の大事さに気付いたエピソードについてお聞かせ下さい。

尖閣諸島にて中国漁船が海上保安庁の船舶に衝突した事件の際、9月25日(土)に外務報道官談話を発表し、直ちにホームページ上にも掲載したのですが、翌日の多くの新聞紙ではこの談話の全文が掲載されたのです。外務報道官、或いは外務大臣の談話も要旨が報道されるのが常ですので、全文が報道されるというのは副報道官を勤務した一年八ヶ月の中で初めての事でした。
談話は、中国漁船の船長が釈放された直後も中国側がその立場を発表したという状況の中で出されたもので、最初に尖閣諸島についての日本の立場を述べ、次に衝突事件に対する日本の立場を、そして日中関係を日本政府としてどう考えているかについて述べているのですが、その三点すべてを示した事が説得力のある発信だとメディアの方達に解釈され、一言一句違うことなく全文が報じられたのだと思います。
この事から、メディアを通じた発信はタイムリーに、且つ意味のある形でる事が大事だと実感致しました。

 


―総領事は昨今の日豪関係についてどういった印象をお持ちですか?

日豪関係は全般的に良好であり、これを引き続き維持発展させるべきと思っております。
両国は自由、民主主義、人権尊重といった「共通の価値観」を持つパートナーであり、その上で経済やその他の関係が進展しているのです。
去年、外務副報道官として当時の外務大臣に同行して二度オーストラリアを訪れました。岡田大臣と前原大臣はそれぞれの訪問時に、ラッド首相、ギラード首相に表敬し、外務大臣同士の会合を行った際も両国が「戦略的パートナー」としての関係を進めていくことに合意しており、野田政権となった現在もその方向を確認しています。
貿易の面では、現在中国がオーストラリアにとって最大の輸出国ですが、2008年までの最大輸出先は日本であり、また日本との貿易で一番の黒字を稼いでいるという経済関係があります。
そして100以上の姉妹都市関係が日豪間で締結されており、オーストラリアにとって日本が最大の姉妹都市提携相手国数です。国際交流基金の調査によると、オーストラリアで1番学ばれている外国語は日本語だというデータも出ています。こうした良好な関係の基盤が、様々な形であるのだと感じます。

 


―側嶋総領事は以前、外務省国際社会協力部の地球環境課長としてご勤務されたそうですが、日本とオーストラリア、環境問題への取り組み方の違いについてお聞かせ下さい。

両国はそれぞれ地球環境保護の為に色々な事を考え、努力していているという共通性の多さを強調したいのですが、敢えて違いを申し上げるとすれば、京都議定書において日本は温暖化ガスを6%削減するとしていますが、オーストラリアは8%増に留めると約束しています。広大な土地と比較的少ない人口、ガスの吸収源である森林の数やこれから更に発展する経済の状況など、今置かれた環境条件には、日本との違いが挙げられると思います。
温暖化ガスについて日本の政策を申し上げますと、2009年に鳩山総理が国連総会で1990年と比較し2020年までに25%温室効果ガスを削減することを目標にすると表明しました。只これは主要各国が同様の義務を受け入れるという事を前提にしています。と言うのは、アメリカや中国など大量に温暖化ガスを排出している国が参加しない制度の下で努力しても全体として成果が上がらないからです。京都議定書の単純延長だけでは不十分で、それだけでよいという意見には反対しているのです。
そして鳩山総理は同時に途上国支援も表明されていますが、これは温暖化対策に関し途上国も国際的な義務を果たせるよう支援するために、概ね150億ドル規模の支援を2012年末までに実施するというもので、既に50億ドル以上の事業が実施されております。
自国の温暖化ガス削減の努力と同時に、アメリカ・中国と言った重要なプレイヤーが参加した制度を作るべきだという主張、そして国際社会において途上国が義務を果たせる様支援するのが、日本の環境問題に対する取り組みの基本的な姿勢です。

 

―メルボルン滞在中に挑戦したい事は?

継続的に運動がしたいですね。休日には30分程歩くようにしているのですが、今後適当なスポーツに取り組んでみたいです。
そして先程お話しした通り、世界一の住みやすさを実感したいので積極的に街に出かけて行きたいと思います。


―メルボルンに暮らす日本人の方へのメッセージをお願いします。

今後「発信」に、私自身今まで以上に努力してゆきたいと思います。ご意見があればどんどんお伝え下さい。
メルボルンが住み易い都市だと実感されている方も、そうでない方もおられると思いますが、領事館のサービスについて可能な改善を行う事により、在留邦人の方が更に住み易いと感じられるよう努力してゆきます。ご意見をお寄せ頂ければ幸いです。

 

  

側嶋総領事、ありがとうございました!

インタビュアー:長谷川 潤、高阪 竜馬、武内 奈苗
 

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