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食物思考~Thought for Food~(13) コリアンダー編

 どうやら私、「気配りしてます。」的なオーラが出ているらしく、人によく、「気を遣いまくりですね。」と言われます。気を遣うこと自体が悪いとは思いませぬが、見透かされては格好がよろしくない。さり気なく、自然体のまま人に好印象を与えられたら素敵です。で、実際には私、そんなに気を遣っていることなんてないのですがね。けっこう、欲望のおもむくままに生きている向きがございますし。

 例えば、私には大好きな香水がありまして、その香水を身にまとっている殿方とすれ違うと、ついクルッと方向転換してついて行ったりすることがあります。大丈夫、家までは行きませんったら。それから、これはイエローカードも出ないでしょうが、街を歩いていてレストランから好きなにおいが漂ってきても、しばしそこで足を止めていたりします。

 特にベトナム料理店などからのコリアンダーのにおいは、私を強く惹きつけます。そう言うと、おそらくそれを聞いた半数の人が顔をしかめるのではないかしら。コリアンダーと言えばベトナム料理やタイ料理には欠かせない、むしろ主役級の食材。しかしその独特の香りによって、好き嫌いがくっきりはっきり分かれてしまう食材でもあるので。

 コリアンダーの和名はカメムシソウ。カメムシはつっついたりすると悪臭を放つ虫。その臭いに例えられたわけですね。私は学生時代、深夜のゲームセンターでアルバイトをしておりまして、窓拭きをしていると、明りに集まってくるたくさんのカメムシたちに遭遇したものです。そして同僚たちが「うわっ、カメムシだ!」と騒ぐのも気にせず、カメムシたちをつまんで外へ放り投げていた私でした。うむ、きっとコリアンダー好きはカメムシも気にならないのですね。もしくは、カメムシも食べちゃえるのかも。



 私は、束で買ったコリアンダーの葉をちぎっては、モシャモシャとウサギのごとく食べるのが好きです。口の中に広がるかつおだしのような微妙な味に、なんだかとっても落ち着きます。コリアンダーには切ない思い出があるのにも関わらず。

 その昔、コリアンダーを育ててみようと鉢をひとつ買ったことがあります。これがなかなか繊細なやつでして、寒くても暑くてもすぐ調子が悪くなってしまう。ある日、葉っぱに一匹のカマキリのベイビーを発見。なんとなくコリアンダーの顔色が明るく見えたため、その後、家の中に入ってきたベイビーや草むらで迷子になっているベイビーを捕獲し、次々とコリアンダーの城へ移住させてみました。するとどうでしょう、コリアンダーは青々とした葉を鉢いっぱいに広げて、とてもヘルシーな状態をキープできるようになったのです。

 それは、私が自給自足生活というか隠居生活というか、ともかくスローな生活をしていたころの、なかなか会えぬ想い人を待つ時間が長かったころのお話。コリアンダーの城にベイビーカマキリが一匹増える度、あの人に会えるまでの時間に一歩近づくような気がしておりました。カマキリは英語で、その祈っているかの容姿からPraying mantisと言います。私は恋しい人が来る日を待ちわびて、その祈りに想いを託していたのかもしれません。

 やがてその後、ベイビーたちは旅立ちの時を迎え、一匹また一匹と城を去ってゆくのでした。そうして、ついに廃墟と化した城はまるで生きる糧を失ったかのように枯れ始め、私の想いと時を同じくして朽ち果ててしまったのです。



 失恋の胸の傷みは思い出へと変わり、それは今では私を支える力であり癒しであります。でなければ今、私がコリアンダーを食することはできないでしょうね。

 今日も街へ出掛けると、あっちへふらふら、こっちへふらふら。私の行く先は食欲にまかせ、食物まかせ。

 

コメント

以前のコメント

Chookie   (2009-06-19T15:19:21)
味覚王さん>>鼻もげなくてよかったです。私も、昔は食べられなくて、けれど今は虜な食物たくさんあります。香草をいっぱいお腹へ入れると、胃腸が一掃されて、「私(のお腹)は誰よりもキレイ」って気分いいですよね。
味覚王   (2009-06-18T23:38:01)
今、夜中の11時過ぎに、これを読みながら夜食の Pho(ヴェトナム風麺スープ)にコリアンダーはじめミント、バジルその他の香草をてんこ盛りにして腹の中へ掻きこんでおります。 私もコリアンダーはメルボルンで初体験しました。 はじめは鼻がもげそうでしたが、いまでは虜です。 味覚というのは、成長また発展していく物ですね。 もっと、道の味へ挑戦したい!

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私は、一日に一度は市場に行かなければ落ち着かないマーケットホリック。これは、そんな私と食物たちとの四方山話です。

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