デハラユキノリさん「サトシ君は日本のおじさんの象徴です」
個展1日まで★フィギュア作家とちょっとピンクなインタビュー★前編
2012年3月28日掲載
メルボルン市内のショッピング・コンプレックス「QV」内にあるギャラリー「No Vacancy」で、先週木曜日より日本のフィギュア・イラストレーター、デハラ・ユキノリさんの個展「SATOSHI ~The Last Salaryman~」が開催されている。
デハラさんは今回の個展のメイン・キャラクター「サトシ君」ほか数多くのフィギュア作品を精力的に作成、展覧会で発表しつつ、近年では「きのこの山」やナイキ、NECなどの広告も手がける、知る人ぞ知る売れっ子アーティストだ。
今回GO豪メルボルンではメルボルン滞在中のデハラさんに独占インタビューをさせていただけることに。
作風に劣らず超ユニークなイラストレーターとの「ちょっとピンク」なロング・インタビュー、まずは前編レッツゴー!
デハラさんと「サトシ君」。No Vacancy ギャラリーで。
【デハラユキノリさん・プロフィール】
1974年高知県カツオ生まれビール育ち。東京を拠点にフィギュアイラストレーターとして活動。
年間制作フィギュア300体。年間消費ビール300リットル。
ナイキ、NEC、タワーレコード、アシックスヨーロッパなどの広告を手がける一方、作家として年間4〜6回のペースで東京をはじめ台湾・香港・NY・LA・パリなどで個展を開く。
著書にフィギュア写真集「サトシ君のリストライフ」「ジバコレ」絵本に「お野菜戦争」「サトシくんとめんたくん」がある。テレビ東京にて『ケーキーズ』が放送されDVD化。(アスミック・エース)
2008年『きのこの山』キャラクター「きの山さん」をデザイン。2009年「たけ里ブラザーズ」デザイン。2010年いきものがかりベストアルバム『いきものばかり』ジャケット担当。金子ナンペイ氏とのユニット、メンペ(東京メンズペインター協会)としても活動中。
(以上www.dehara.comより転載)
◆メルボルン「人がすごい楽しそう」
ーメルボルンの印象はどうですか?
いいです。いいです。あの、人に殺されそうにないっていうのと、人がみんな楽しそうにしてるのが。
(宣伝用の)カードを置いてもらってるカフェに挨拶にいったら、平日に真っ昼間からみんなすごい楽しそうにしてて。東京だとオフィスからお昼ご飯食べに来てる人とか、そんな楽しそうな人はいないので。いきなり印象よかったです。
ー今回、メルボルンで個展をすることになった経緯を教えていただけますか?
2年前くらいに大阪で展示してる時に、僕のキャラクターをぶらさげた人が買いにきてくれて。メルボルンにちょこちょこ行っている、すごいいいところだ、という世間話から「展覧会とかやったらいいのに~」っていう話になって。
そういう口約束はよくあるんだけど「じゃいいとこ探しといて」とか 言っといたら、ほんとに探してきてくれた、という。
ー先週木曜日のオープニングから何日か経ちますが、反響はどうでしょう?
今回のやつは「サトシ君」ていう、日本のサラリーマンのおじさんがメインのキャラクターでやってるんですけど、その友達って言う設定の、モーリンていうツノが2本生えた生き物がいて、そっちが反応よかったですね。
そいつはいつも「I Love Pussy」って書いた服を着てて。
ま、嫌いな人いないんだな、ってことでしょうね(笑)そういうのは万国共通なんだなっていう。
ー「サトシ君」はアーティストとしてスタートされたころからのキャラクターだそうですね。
そうですね、「サトシ君」は古いですね。東京行って2回目くらいの展覧会からです。
ハゲ頭で眼鏡でヒゲで、ってモチーフになりやすいので、おじさん自体は昔から絵をいっぱい描いてましたね。ただその都度違う人だったんですよ。微妙に髪の量が違ったり、目の色が変わったり。これ1回、おじさんの代表として統一しよう、と。で「サトシ君」ていう名前を付けたら自分も愛着が沸いてきて、 じゃ奥さんはこういう人で、娘はこういう人で、モーリンていうプッシーが大好きな子と遊んでるっていう感じかな、ってどんどんストーリーが広がってきた最初の作品です。
写真:サトシ君の友達「モーリン」
ーもともとおじさんが好きだったんですね。
そうですね、実際のおじさんは好きじゃないですけどね別に(笑) めんどくさいし(笑) おじさんおじさんって一括りに言うけど、何百万人いるんだ、っていう感じですからね。年齢も幅広いし。
ー「サトシ君」にモデルがいたわけじゃなくて、おじさんの総合体なんですね。
そうですね。おじさんの象徴というか、おじさんの要素を集めて日本人ぽいサラリーマンにしたら、サトシ君になった、という。
ーただ思うんですけど、今こういうおじさんっていないですよね(笑)
いないいない(笑) ここにヒゲはやしてるサラリーマンなんていないですしね、まず日本だと。
48歳って言う設定にしたんですけど、最初に作ったのが25,6の時だったんで、おじさんの年齢ってよく分かってなくて。
そしたら東京で見にきてくれるデザイナーの人とかって、それこそ48くらいのおじさんなんだけど、かっこいいんですよ。
で「デハラくん、これ48歳ってこんなんじゃないよ」って(笑)だって俺、48歳やもん、みたいな。
ーあはは。まあでもそういうお仕事をしている人は若いですよね。
サラリーマンだったら48歳で…でも「サトシ君」みたいなのは…やっぱりいないか(笑)
うん、いないですね(笑)
◆デハラ少年、デハラ青年
ー話は変わりますが、デハラさんの子どものころのことを聞きたいなと。どんな子どもでした?
高知県で虫を採ってました。虫はいろいろ、その時いるやつを全部採ってました。バッタと蝉が圧倒的に多かったです。
あとちょうちょ、かまきり、そこらへん。虫も採りつつ粘土遊びもしてました。
ーそのころに作ったので、まだ手元にあるものとかあります?
いや、それはないですね。そのころ遊んでたのは固まらない、あぶら粘土だったんで。それを与えておけば延々と遊んでましたね。
いいものと悪いもの作って闘わせて、だんだん腕とか足がもげていくんですよ。
で最後もう頭と片手しかなくなって、こっちが勝ったとか。戦わせて遊んでまた潰して、っていうのをずっとやってました。
ー学校ではどんな子どもでした? 目立つ子ども? おとなしい子ども?
おとなしいっていうかんじではなかったですね。学校で…そうだなあ、中学・高校になると何しろ勉強ができない上、授業中って時間長いので、その時はずっと絵描いてましたね。ノートとか教科書とかに。
ー大阪芸大に入られたんですよね。そのころも絵を描いてました? それともフィギュア?
絵ですね。でもグラフィック・デザインのコースだったので、絵を描く所じゃないんだっていうのに後から気づいて(笑)
映画のパンフレットとかポスターとか印刷物を集めるのは好きだから、はずれてはなかったんですけど絵描くのとは根本的に違うんで。
それで、大学生の時に個展をやりはじめました。
ー結構早いですよね、大学の時から個展って。
そうですね。絵を売ってみたいっていう気持ちがすごくあったので。で、やったら売れるんですよ、やっぱり。
値段がそんなに高くないっていうのもあったし、知り合いとか最初買ってくれるし。
1度の個展で15万円売れたとして、それを年に10回やれば食べていけないこともないんじゃないか、って思いましたね。
割と最初から趣味でやるよりは、早く仕事に繋げたいなっていう意識はありましたね。
ーでも大学卒業して就職されたんですよね。
美大って、ちゃんとしてない人の集まりなんですよ。
「楽しそうやん、おもしろい友達いっぱいできたでしょ」とか言われるんですけど、その大学の人たち、もう本当に嫌(笑)
挨拶とかちゃんとできない人とかって、いっしょに飲んでも楽しくないじゃないですか。自由ぶって単なる失礼なやつっていう。絵も描いてないのに俺は表現がしたいとか言ってるやつとか、一番腹が立ちましたね。そういう人たちは就職しない人が多かったんで、僕は1回は就職しないとって思いました。自分で意外に真面目な人間なんだって、大学行って気がつきましたね。
ーそして、お勤めされてた広告代理店を辞めて独立された。最初、食べていくの大変じゃなかったですか?
それは最初から分かっていることというか。
イラストレーターになりたいっていう目的があったので、やることははっきりしているんですよ。
絵を描きためて出版社とか広告の会社に持っていく、とかしかやることはないので。それで運がよかったら売れるし、って考えてましたね。
それで食っていけたらいいな、ぐらいのもんでした。
就職先は京都だったんですけど、ずっとそこにいて、何もやらずに東京に行かないのも、あとでもやもやしそうなので。
今思ったら大変なような気もするけど、そこまで深刻に考えてなかったですね。
◆こねてるうちに楽しくなってくる
ー才能があった、ってことですよね。それでここまで成功したってことは。
(笑)ま、成功ってほどでもないですけど(笑) 分かりやすい成功じゃないですし。あの人何してるのかよく分かんないけど、なんかよく見るね、っていう。僕はそれはそれでいいことだなと。夢があるというか。あんなんで食べていけるんだっていうのは。
でも運も大きいですしね。運が良くないとなかなか、と思います。ほかの人を見てても。
今回の展覧会でシドニーからわざわざ駆けつけたファンもいたそう
ー理想的ですよね。好きなことだけを楽しくやっていて、嫌なことはしてないっていうのがすごく伝わってくるんですよ。
嫌なもの作るんだったら、普通の事務の仕事とかするかなあ。でも粘土とか絵の具を使えるだけでも嬉しいかもしれないですけど。
粘土って、お金いくらあげますからこういうの作ってください、っていう、やらされてる感がすごい強い仕事だとしても、こうやって(こねる手)してるうちに、なんか楽しくなってくるんですよ。
こんなのストレスじゃないわって思える。粘土で何か作ってお金もらえるって、なんだこれって(笑) 嫌がってるなんてありえないよって。修正とか入って面倒臭くって嫌だなって思った時に、はっと思い出すと、やっぱりすごい楽しい仕事だと思いますね。
ー今のお仕事の比重としては、広告がらみのフィギュア作成が多いんですか?
今はフィギュアが多いです。去年は絵も結構。絵本を出したり絵の展覧会をしたので。広告やったら一番お金になりやすくて人目には付きます。仕事はいろんなのになってきてます。文庫本の装丁とかもあるし。仕事は来れば何でもやりますね。
ー広告のお仕事以外の展覧会用の作品はどんなものが? やっぱり「サトシ君」中心?
広告の仕事はお金をもらうので、向こうの言うことが大前提。
なんで、できるだけ合わせるようにして、血まみれのやつとか、いやらしいやつとか、広告で使えなさそうなのを思いついたら、個展用にしてます。
展覧会と仕事と両方やってると「あ、あのナイキの広告やってた人こういう変なのも作るんだ」って興味沸くし、普段展覧会に来てる人からすると「あの変なの作ってる人、こんな大きい仕事もやってるんだ」って、相乗効果で両方良くなってきましたね。どっちか片方だけじゃちょっと辛いかな。
もともと作りたいもののほうが先にあって。でも仕事にしたいから、お金にならないことはするつもりはないです。「サトシ君」は個展から始まったおじさんだけど、本の表紙とか、NECのキャラクターとして使わせてくださいとか、今は結構稼ぎ頭ですね。
写真:稼ぎ頭のサトシ君
もっとピンクな後編に続く…
聞き手・文:田部井紀子 写真:髙阪竜馬
■Figure Exhibition by DEHARA YUKINORI
SATOSHI ~The Last Salaryman~
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No Vacancy Gallery
no-vacancy.com.au/
QV, 34-40 Jane Bell Lane, Melbourne 3000
(Access from Russell Street)
日程:3月22日~4月1日
火~土:11am-5pm、日:12pm-5pm
■デハラユキノリさんウェブサイト
www.dehara.com