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CPA、公認会計士 曽我 勝一氏 インタビュー

公認会計士を目指す人、必読!メルボルンの魅力も語ります。

2009年11月7日掲載

      

【プロフィール】
曽我 勝一 Shoichi Soga
CPA(Japan), CFE, Senior Analyst. 大阪生まれ。公認会計士、公認不正検査士。現在はデロイトトウシュトーマツ メルボルン事務所にて日本からの駐在員として活躍中。

 

--メルボルンに来てどれくらい経ちますか?

ちょうど15ヶ月くらいになります。去年の6月1日からこちらに来て働いています。

 

--メルボルンでの生活はいかがでしょうか?

 メルボルンに来てから色々な方々と知り合いになれたことが財産になっています。こちらで私に空手を教えてくださっているソプラノ歌手の峰岸 夏子先生ですとか、あとMTSCの石原社長、メルボルン稲門会(早稲田大学OB会)、この3つの繋がりからは非常に刺激を受けております。メルボルン稲門会では幹事長をさせていただいています。

 

--メルボルンで一番驚いたことは何でしょうか?

 日本に比べて、欧米人の中でも人が非常にオープン、親切で優しいですね。こちらでは知らない人でもニコっと笑顔で返してくれるのが新鮮でもあり驚きでもありました。本当はこういうことが新鮮だなどと言っていないで、当たり前にしていきたいですね。

 

--メルボルンのどういったところが魅力的ですか?

 私自身あまり出歩かないほうなのですが、個人的に好きなのはカフェですね。メルボルンには美味しい食事を提供してくれる良いカフェが充実していると思います。仕事にゆとりがあるときや、休日家族とカフェでゆったりすることが多いですね。サウスヤラ、特にチャペルストリートがお気に入りです。非常におしゃれな人々や流行の先端をいくお店が多いと思います。

 

--メルボルン以外で働いたことのある海外はありますか?

 2週間とか3週間の短期出張で、上海、台湾そしてタイに行ったことがあります。ただ、長期間海外に住み、働くというのはメルボルンが初めてです。

 

--やはりアジアとメルボルンでは違いがありますか?

 比較的治安が良いというのが大きな違いですね。上記の国々も良いとは思いますがやはり夜になると男一人でも出歩くのはちょっと怖いところがありました。その点メルボルンは日本ほどではないですが、比較的治安もいいとおもいます。また食べ物がおいしいです。またメルボルンの食事というのは日本人の口に合いやすい気がします。一番こちらに来て好きになったのがギリシャ料理です。日本の洋食屋さんの味と非常に似ており食べやすいです。

 

--ではお仕事に関してお伺いいたします。なぜこの業種に興味を持ってこの業界で働こうと思ったのですか?

 もともと日本で会計士として働きはじめました。会計というのは何にでもついてまわります。とにかく会社の業績を知ることから、今後会社がどのように行動していくべきかと考える上で基礎資料となりますし、そういった意味で会計に関係する仕事がしたいなという気持ちがありました。もう一つ、私が学生で大学を卒業する頃は終身雇用が当たり前で一つの会社に長く勤めることに価値があるとされていたのですが、私はその時に直感で何か手に職をつけなくてはいけないのではないかと考えました。それで、先ほども申し上げましたように会計に関係する資格として公認会計士という道を選びました。

 

--会計士の資格は日本で取られたのですか?

 そうです。日本で取りました。

 

--難関ですよね。

 一日10時間くらいは勉強しましたね(笑)

 

--大学を卒業してからどれくらいで取られたのですか?

 大学を卒業してちょうど1年目でしたね。

 

--すごいですね!

 ラッキーでしたね。その当時はなかなか合格率も低かったものですから。結局私と一緒に勉強を始めた人の中には合格するのに5年6年とかかったり、あるいは合格できずに断念してしまった友人もいましたから、それを思えば運が良かったですね。今は試験制度が変わって科目合格制度もあるのですが、私が受験した当時は全科目7科目を一度に合格しなければいけませんでした。

 

--日本で公認会計士になるのと、こちらで公認会計士になるのでは難易度が違うのでしょうか?

 環境が違うので一概には申し上げられませんが、日本の場合、私が合格した当時は会計事務所で採用されるには原則として会計士試験に合格していることが条件でした。それに対してこちらでは、会計事務所に入所したあとに、働きながら勉強し公認会計士の資格を取得することになります。ですので、家で受験勉強に専念するという日本の環境に対して働きながら勉強するという環境になります。しかし、日本と比較すると合格率は高く,門戸の狭い日本のやり方に比べ、こちらは水準を満たしていれば会計士なれるような仕組みになっています。なお、豪州では大きく分けてChartered Accountant(CA:オーストラリア勅許会計士)制度とCPA (オーストラリア公認会計士)制度がありますが、会社法に基づいた法定監査などはCAのみとなります。従ってこちらのBig4の監査部門の従業員も殆どCAですから、将来Big4に入って監査に従事することを考えてらっしゃる方はCAのほうがいいですね。なお、日本人が豪州にて公認会計士を取得する場合、よく問題になるのが英語力です。

 

--現在日本では資格ブームで公認会計士も俄かに注目を集めている資格の一つです。他にも米国公認会計士の人気が高まっていると聞きますが、会計士になりたいと思ったときにどのように資格を選択するのが良いのでしょうか?

 最終的に自分がどこで働きたいかということを考えるのが大切です。例えば、海外で働きたいと思われるのであれば米国公認会計士を選択されたほうがいいですね。米国公認会計士協会(AICPA)とオーストラリア勅許会計士協会、イギリスとカナダの勅許会計士協会では資格の相互認証制度というのがありますので、米国公認会計士のライセンスをお持ちの方であれば、オーストラリア勅許会計士協会が指定する大学でオーストラリアの税法と会社法を受講して「可」以上取ればオーストラリア勅許会計士になることが可能です。ところが日本はそういった相互認証制度に参加していませんので、日本の公認会計士資格を持つ人が仮にオーストラリア勅許会計士資格を取ろうとする場合にはゼロからスタートすることになります。ただ、これは個人的な考えですが、日本で働くことを考えているならば日本の公認会計士を取得するほうが良いと思います。

 

--ということは、オーストラリアで会計士資格を取得すれば、アメリカ、イギリスとカナダでも同じように会計士として働く道があるということですね。

 そうですね。会社法と税法が各国によって違いますので、そこの部分を補足勉強し、ブリッジ試験に受かれば英語圏であればどこでも通用することになります。また、現在、国際会計基準の普及が世界各国で進んでおり、日本でも2015年に導入される予定でおります。そうなってくると国際会計基準を導入している国で会計士の資格を取って置くメリットは高くなっていくのではないかと思います。

 

--曽我さんは日本で公認会計士となって今現在はオーストラリアで働いていらっしゃいますが、何か苦労はありますか?

 日本に居た時から米国会計基準の監査ですとか、今少し話題になっている国際会計基準の監査に従事していましたので、仕事で使う専門英語に関しては以前から免疫がありました。一つこちらに来て困ったのは、こちらの人のジョークが分からなかったことです(笑)。オーストラリア英語にも対しても最初は少し戸惑いがありましたし、仕事中にもジョークが頻繁に飛び交っていて、「これ本気で言っているのかな・・・(焦)?」と初めは分からなくて、周りは笑っているのに自分だけが困った顔をしているということが多々ありました。

 

--デロイトに関してお話を伺います。他の監査法人に比べてデロイトの強みは何でしょうか?

 オーストラリアに限定させていただくと、やはりコンサルティングサービスですね。会計事務所と聞くと皆さん、監査とか税務申告とか証明業務やコンプライアンスの作業を想像される方が多くいらっしゃいますが、会計事務所も今ではかなりイノベートしており、多岐にわたるコンサルティングサービスやアドバイサリーサービスをさせていただいております。特にM&A関連のサービスですとか、会社の価値を算定するサービス、あとは私が従事している不正調査関連のサービスですね。最近は、外部監査人は被監査企業に、その公平、独立不偏な立場を脅かすようなコンサルティングサービスを提供して報酬を受け取ってはいけないという監査人の独立性ということが非常に注目されている時代です。これは、監査が外部監査人と被監査企業との間で馴れ合いにならないようにするために、監査のクライアントには禁止業務に該当するコンサルティングをしてはいけないと定められているものです。そういった事情背景により、他の監査法人の監査のお客様に対して弊社からコンサルティングのサービスを提供しているということが強みですね。

 

--監査人の独立性というのは全世界で共通のルールなのでしょうか?

 このことが注目を浴びるきっかけとなったのはアメリカのエンロン事件です。現在は消滅してしまったアーサー・アンダーセンがエンロン社の監査を担当しながら同時に同社に対してコンサルティングサービスも提供していました。そのコンサルティングサービスの報酬が監査報酬よりも大きかったために監査で不適切な会計処理が発覚しても外部監査人であるアーサーアンダーセンはエンロン社に対して強く言えなくなったということが、結果的にあのような大規模な事件を起こしてしまいました。この事件以来、監査人の独立性というのが世界的に注目されるようになりましたね。

 

--それでは同じ会社内でもコンサルティングチームと監査チームでは全然接点が無いのでしょうか?

 基本的には接点は無いです。ただコンサルティングのサービスでもその独立性に抵触しないで提供できるサービスもございますので、そういった案件がある場合は一緒にチームを組んで働くこともあります。

 

--会計の仕事や監査の仕事は全てチームを組んで行っているのですか?

 基本的にどのプロジェクトもチームを組んで進めます。ですがそのチームは、日本のように特定の上司が上にいて、そのまた上に特定の上司がいるというようなチームではありません。デロイトでは案件ごとに適切な能力を持つ人が集められてチームを作ります。

 

   --日本のデロイトでもそういったシステムが取られているのですか?   

 そうです。非常に面白いやり方ですよね。これに対して、他の会計事務所だと完全に組織が固定されているようなところもあります。それぞれに良い面悪い面があるとは思いますけれども、私個人としてはプロジェクトチーム制が気に入っています。

 

--プロジェクトチーム制が採用されている御社では、個人の能力をどのように管理されているのですか?

 業種別且つサービス別にどういった自分に強みがあるかを登録できるデーターベースがあります。その中から各プロジェクトに合った人を選んでチームを組みます。

 

--デロイトさんはIT技術を駆使した会社だという印象があるのですがその点についてもお聞かせ下さい。

 やはりIT関係に関しては進んでいると思います。例えば私が今従事しているフォレンジック部門ではIT技術を使って、お客様の不正調査の際、その不正を行った疑いの掛かっている方のパソコンを押収し、データのバックアップを取った上でその方が削除したデータを復元することを行っています。コンピューターのデータというのは痕跡が残りにくい分削除しやすいのですが、我々のフォレンジック部門のコンピューター技術使えば、削除されたデータも復元することが出来ます。

 

--なんだか警察みたいですね。そもそもフォレンジックという単語自体警察用語ですものね。

 そうですね。日本でもフォレンジックと呼んでいますが、皆様にフォレンジックとは何かということを知っていただくのが我々のフォレンジックに従事する者の務めですね。フォレンジックと一言で言われても、一般の人にはなかなかピンと来ないと思います。

 

--デロイトに入社されてすぐフォレンジック部門に入ったのですか?

 最初は米国会計基準の監査、国際会計基準の監査の部門に7年ほどいました。あとM&A関連のサービスで2年、そして今のフォレンジック部門に2年ほどいます。それぞれ求められる能力は異なりますが、やはりベースとなる柱に会計がありますのでどの部門にも比較的は入っていきやすいですね。

 

--デロイトで働いていて一番記憶に残っている出来事はありますか?

 監査は毎年同じお客様のところへお伺いし一定の手続きを行い・・・という感じなので、それほど驚きはないですが、これに対してですとか不正調査ですと、毎回驚きの連続です。例えば、ある会社で粉飾決算の疑いがあるということで、その決算を行った疑いの掛けられている方が使っていらっしゃったパソコンのデータを復元して調べていたら、その方が会社のお金の横領までしていたことを証明する電子メールが出てきました。

 

--ドラマみたいですね!

 本当にそうですね。

 

--こういう仕事をしていると家族にも話せない極秘情報を沢山抱えていらっしゃると思うのですが、ストレスにはなりませんか?

 確かにお客様の情報を漏らすということは会計士としての職業倫理にも抵触いたしますし、あとインサイダー取引を引き起こしかねないので一切喋ることは出来ないのですが、それがストレスになるかと言えば特に感じたことは無いですね。ただ、夜遅くまで仕事をして帰ってきたときに妻から何で遅くなったのか理由を尋ねられても、「仕事です。」としか言えず詳しい理由までは話せないので、信じて貰えないときはストレスになるときもあります(笑)。ストレスといえば、私はどちらかと言うと真面目で堅いほうなので自分1人で何でも抱え込む傾向にあるのですが、それがよくストレスとなって表れる時がありますね。

 

--ストレス解消として何か特別にしていることはありますか?

 私の気分転換の方法はまずよく寝ることですね。どうしても睡眠不足だと思考がマイナスの方向へ行きやすいですから。あとは音楽を聴いたり、読書、DVD鑑賞などですね。メルボルンに居ると音楽も色々な種類のものに触れることが出来ますよね。DVDも非常に安く売っていますし。

 

--デロイトは世界的な組織ですよね、世界中との交流はどうなっているのですか?

 デロイトは世界140カ国に事務所をおく国際会計事務所ですのでやはり、このネットワークを通してのクロスボーダーでのお仕事は、やりがいのあるものになります。われわれのお客様自身もが全世界でグローバルに活動されていますので、各世界に駐在員を置くということでお客様のニーズに答えるようにしています。若いスタッフに経験を積ませるという意味で研修制度として海外のメンバーファームへ短期間派遣するプログラムもあります。基本的に我々がサービスを提供する際に拠り所となるマニュアルは全世界共通ですので、その点ではどの事務所へ行っても入っていきやすいと思います。昔から海外の事務所への駐在/研修制度や事務所間異動など国際色豊かな交流が行われております。私も、デロイトの東京事務所から研修でメルボルン事務所に送られてきております。

 

--若い人で会計士を目指している方へむけてアドバイスをお願いします。

 基本的にやるべきことをやった人が受かる試験だと思います。勉強することは辛いと思いますが、将来明らかに自分にとってプラスになることですので、勉強に出来る限り集中して頑張ってほしいと思います。ある意味に愚直になる、ということですかね(笑)

 

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